乳がんホルモン治療中の婦人科検診について
ホルモン受容体陽性乳がんの方では、手術を終えた後にホルモン治療を受けることで治療効果が期待されます。
タモキシフェン(商品名:ノルバデックス)は術後5年間内服することが標準治療でしたが、近年では術後10年間内服することも勧められています。
タモキシフェンは不思議なお薬で、乳がんにおいてはエストロゲンをブロックする方向に働きますが、子宮に対してはエストロゲンと似たような作用を持ちます。
このため子宮内膜ポリープ、子宮体がんの発生率が上がると言われています。
このため乳がんのホルモン治療中の方は、同時に婦人科検診を受けていくことも大切になってきます。
本日は産婦人科医の立場から、乳がん治療中の婦人科検診の大切さについてお話しします。
タモキシフェンが婦人科臓器に及ぼす影響
子宮体がん
生理(月経)がある女性においては、子宮内膜という子宮の奥の方にある部位が分厚くなり、剥がれることで毎月の出血が起こっています。
子宮内膜にできるがんを子宮体がんと言います。
タモキシフェンによって子宮内膜は分厚くなりやすくなります。
そして子宮体がんが発生しやすくなります。
タモキシフェン5年内服による子宮体がんのリスクは2〜3倍に上がると言われています。
このリスクは年齢と関連があり、54歳以下ではリスクは上がらず、年齢が55歳以上の方で上がりやすいと結論づけられています。
タモキシフェンによって子宮体がんになりやすくはなりますが、決して頻度は高くありません。
また子宮体がんによる死亡リスクは増えません。
子宮体がんになるリスクよりも乳がんの再発を抑えるというメリットの方が上回っていますので、必要な方はしっかりとタモキシフェンによる治療を受けるようにしましょう。
子宮体がんの検査は、子宮の奥の方まで器具を入れる必要があるため痛みを伴います。
タモキシフェン内服中においても、何も症状がない場合には定期的に子宮体がん検診を受ける必要はないと考えられています。
経腟超音波検査によって子宮内膜を観察することで管理することができます(経腟超音波検査は痛みを伴いません)。
タモキシフェンを内服すると生理不順になる方が多いので、困った症状が出たときにすぐに相談できるかかりつけ婦人科を作っておくことは大切です。
子宮内膜ポリープ
子宮内膜ポリープは、閉経前では1.9倍、閉経後では2.4倍できやすくなると言われています。
無症状である場合には、ポリープが大きくなっていないかどうかを超音波検査で経過観察していきます。
明確に決まった基準はありませんが、およそ3〜6カ月毎に超音波検査を行うことが一般的です。
不正性器出血がある場合や増大傾向がある場合には悪性の可能性が高まるため、詳しい検査が必要となります。
子宮筋腫のサイズ増大
もともと子宮筋腫を持っている方がタモキシフェンを内服すると、筋腫が大きくなってしまうことがあります。
筋腫がある方は定期的にかかりつけ婦人科を受診して、筋腫のサイズを注意深くフォローしていくことをおすすめします。
卵巣嚢腫
タモキシフェンによって卵巣が腫れることがあります。
卵巣の腫れものが悪性化するという報告はなく、ほとんどの場合で自然に消退すると考えられています。
卵巣が腫れている場合においても、定期的に超音波検査を行っていきます。
サイズが大きくなる場合には、精査や治療が必要となります。
定期的な婦人科検診
すべての女性において定期的に婦人科検診を受けることが勧められています。
乳がん治療中もこの点は同じです。
子宮頸がん検査に加えて超音波検査も受けることで、子宮内膜肥厚や卵巣腫大の有無がわかります。
同じクリニックで検査を受けることで経過がわかるので、かかりつけを作ることが望ましいと思います。
すぐに婦人科を受診した方がいい症状
不正性器出血がある場合には、子宮体がんや内膜ポリープが悪性化している可能性が高まります。
生理不順になっており、生理なのか不正性器出血なのか判断がつかない場合もあるかと思います。
出血が多くないときにはおりもの(帯下)に血が混じる、茶色いおりものが出るという症状がみられます。
気になる症状があれば、すぐに婦人科を受診して相談していただきたいです。
子宮筋腫や卵巣嚢腫が急激に大きくなると、下腹部に固いものが触れたり、お腹が張った感じがしたりします。
このような場合においても早めにご相談ください。
まとめ
乳がんにかかってしまったことで、大きな不安を持っているかと思います。
タモキシフェンは乳がんの再発を抑えることができる薬剤です。
タモキシフェン内服によって、子宮体がんのリスクは高まりますが、それは頻度が高いものではありません。
過剰に恐れる必要はなく、痛い子宮体がん検査を定期的に受ける必要はありません。
一般的な婦人科検診を受けることはもちろん必要です。
不正性器出血など気になる症状があるときに早めに対応することは大切です。
かかりつけ婦人科を作っておいていつでも相談できるようにしておくことをおすすめします。
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カテゴリー:その他の婦人科疾患 投稿日:2025-05-28
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