心療内科・精神科でのオンライン診療(初診・再診)

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こころの医療とオンライン診療の拡大

新型コロナウイルス感染症の流行をうけて、これまで慎重に検討が重ねられてきたオンライン診療ですが、臨時措置として、一気に制限がゆるめられました。

これまでは内科の慢性疾患や禁煙外来といった領域を中心に、

  • 3か月に1回の通院
  • 再診に限る

を原則にしながらオンライン診療が少しずつ認められてきておりました。今回はそういった通院の制限がなくなったばかりではなく、初診でもオンライン診療が可能となりました。

そのような中で心療内科・精神科の領域では、

  • こころのお薬は原則処方できない

という形となりました。これは従来から問題となっていましたが、お薬を用量を超えて服用する目的や転売目的で、複数の医療機関を受診して集めるような方がいるためです。本人確認が正確にできないオンライン診療では、リスクが高まるために対応できない形となりました。

当院の心療内科がオンライン診療を導入しない理由

当院でもオンライン診療の解禁を踏まえて、システムを契約して導入できる体制を整えています。内科の慢性疾患では積極的な導入を行って参りましたが、当院の心療内科では導入を見送ることとなりました。

これは院内の複数医師と相談したうえで、治療上の理由が大きいです。

確かにオンライン診療は、心療内科や精神科では相性が悪くはありません。むしろ内科の患者さんのように検査が必要でなく、オンラインでも十分に情報収集が可能です。

しかしながら、通院という枠組みを崩してしまうと調子が悪化してしまったり、どうしても楽な方向に流されてしまって治療が崩れてしまうこともあります。人は弱いもので、自分と向き合うことはなかなかできません。「労力をかけて通院していること自体」が治療となっている患者さんも少なくなく、通院することで精神療法的な関りが意味をもつようになります。

オンラインで十分な患者さんが多いのも事実なのですが、明確な線引きができない以上はトラブルになってしまって治療関係が崩れてしまう可能性もあるため、当院の心療内科ではオンライン診療や電話診療の導入は行わない方針となっています。

オンライン診療は、ともすれば心療内科や精神科領域ではお薬屋さんになり下がる可能性があり、そういった心の診療は行いたくないという想いもあります。

オンライン再診の実際

実際にオンライン診療の活用が拡大されて、クリニック界隈ではオンライン診療バブルになっています。多くの医療機関がこぞってシステム導入を行ったり、既存のサービスを組み合わせて体制構築されています。経営者同士でミーティングを行う機会もあり、オンライン診療で新聞1面で取り上げられたクリニックの院長先生のお話も伺いました。

実際の状況はというと、思ったよりも普及していないのが医療サイドの印象です。

  • 若い人はあまり気にせず直接来院されることが多い
  • 病院を怖がられる老人は電話を好む

といった傾向があり、結局のところは高齢者の再診患者さんに対して電話診療を行っているところが多いです。これは内科領域で顕著で、当院でも同様の傾向が認められます。オンラインを使いこなせる若い方は、直接来院されることが多いです。

心のお薬の多くが処方日数の規制がかかっていて、30日処方が上限となっていることが多いです。体調が安定していれば通院間隔をなるべく延ばすといった配慮をさせていただき、1か月に1回の通院までの中で受診いただいていることが多いです。

オンライン初診の可能性は?

オンライン初診は、薬の処方ができない以上は十分な診療が行えない場合が多く、心療内科や精神科でのオンライン初診は事実上、実施は困難といわざるを得ません。また、オンラインでは治療関係を築きにくいため、慢性的な治療を必要とするような患者さんには難しさを感じます。

当院でオンライン初診を導入するとしたら、感染防護の観点になります。再診以降は通院いただけることを条件として付け加えさせていただくかと思います。初診では30分程度の時間を確保し、問診を行う必要があります。診察室という密な環境で長時間お話をすることになりますので、それを避ける目的での活用になります。

心療内科・精神科領域でのオンライン診療を中心とした診療は、基本的には安定した再診の患者様で自己管理能力の高い方に限るべきかと思います。それであれば患者さんの利便性も高まり、感染予防の観点でもメリットは大きいと思います。

当院でも感染の状況によっては、オンライン診療が認められない患者さんとのトラブルが生じることがあっても、導入を検討しなければならないと考えています。

オンライン初診で休職診断書を乱発?

オンライン初診で一つだけ懸念していることがあります。それは、オンライン初診で休職診断書を乱発する医療機関があらわれるかもしれない・・・ということです。

当院も類にもれずですが、多くの医療機関が経営的に大きな影響を受けています。そのような中で、倫理の線を越えてしまう経営者がいてもおかしくはありません。

診断書については明確なルールがなく、処方なしで診断書のみ発行することは可能かと思います。休職を乱発するクリニックが出てもおかしくなく、診断書の料金は医療機関サイドで決めることができます。金さえ払えば休職してくれるクリニックなるものができてもおかしくありません。

健康保険組合も運営が厳しくなっているところも多く、傷病手当金の認定などに影響する可能性もありますので、休職の診断書目的でのそのようなクリニックの受診はおすすめしません。

当院に限らず心療内科や精神科では、患者さんの生活の安心も治療と考えていることが多いです。正直に実情を話していただければ、患者さんの目線に立って環境調整(休職や配慮のお願い)を考えていきます。

アフターコロナでのオンライン診療

現在のオンライン診療の拡大は、時限的措置とされています。あくまで臨時のことで、新型コロナウイルス感染が落ち着けば見直しがされることになっています。もちろんメリットが明らかなものについては、アフターコロナでも継続されていくかもしれません。

アフターコロナでのオンライン診療はどのようになっているのでしょうか?

  • 初診はNG
  • 3か月に1回の通院がマスト

という形になっているように予想しています。

初診に関しては、現時点でもマイナートラブルが起こっています。薬をただ処方してほしいだけの患者さんも多いですし、おそらくは見落とし事例も発生するでしょう。オンライン初診がこれ以上拡大していく可能性は少ないように思います。心療内科・精神科では、現時点でもオンライン初診は困難な状況になります。

再診については、通院の条件付けでこれまで通りの形が続く可能性があるかと考えています。

オンライン診療が対面診療より、診療報酬で評価されることはないかと思います。会って話をする方が、オンラインよりも手厚いという印象は強いですし、対面を上回る評価はされないかと思います。

ですが臨時の措置で1500円ほど単価が上がったために、医療機関としては何とか耐えられる金額となっています。医療費を抑える方向にもなりますので、バランスが少し変わるかもしれませんが、このまま続く可能性はあるかと思います。

ただ3か月に1回程度の通院の義務付けなど、条件づけはなされるかと思います。医療機関は検査や処置を行うために来る場所という意味合いが強くなり、通院時に必要な検査を行うようになるようになるのではないでしょうか。

当院でも11月以降に、電子カルテと連携した形でのオンライン診療が一部可能となります。適切な治療を行えることを前提に、オンライン診療の可能性を追求したいと考えています。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:コラム  投稿日:2020年5月23日

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