妊娠へのお薬の影響とは?よくある7つの疑問

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妊娠とお薬について不安な方へ

妊娠を考える女性にとって、お薬は「何だか怖い」というイメージではないでしょうか。患者さんからも、

「お薬を飲んでも赤ちゃんに影響はないの?」
「夫が薬を飲んでいるけど大丈夫?」

などの質問をよく受けます。

お薬は妊娠へどう影響するのでしょうか?ここでは、妊娠に与える薬の影響についてお伝えしながら、よくあるご質問に答えていきたいと思います。

1.妊娠前に飲んでいたお薬の影響は?

「いま薬を飲んでいると、将来妊娠したとき子どもに影響はしないですか?」という質問をよくうけます。結論から申し上げますと、そのご心配はありません。お薬は分解されると身体からなくなるので、妊娠への後遺症はありません。

お薬は身体に蓄積されると考えている方が多いようなのですが、それは誤解です。飲むのをやめてしばらくすると、肝臓や腎臓によって成分が分解・排泄され、身体からお薬が抜けていきます。お薬が抜けてしまえば作用もなくなり、身体は元の状態に戻っていきます。ですから、今飲んでいるお薬が将来的に与える影響は心配しなくても大丈夫です。

ただし、長期間の影響が完全には否定されていないお薬がいくつかあります。

  • エトレチナート(®チガソン)という角化症治療薬
  • リバビリン(®レベトール)というC型肝炎治療薬
  • レフルノミド(®アラバ)というリウマチ治療薬

ごく限られた方しか服用していないと思いますが、これらには注意が必要です。こういったお薬はかなり限られていますので、処方される際に医師や薬剤師から説明があるかと思います。

2.男性がお薬を飲んでいると妊娠へ影響するの?

男性のお薬が赤ちゃんに影響することはほぼありません。妊娠にかんして問題になるとしたら、お薬の副作用による性欲減退などがあげられます。

男性がお薬を飲むことでの妊娠への影響としては、

  1. 直接的な精子への影響
  2. 精液を通しての女性へのお薬の移行
  3. お薬による性機能障害

の3つが考えられますが、1、2にかんしては、ほぼ心配ないと考えて問題ないと思います。精液への移行で注意が必要なのは、特殊な癌治療薬(サリドマイドやレナリドミドなど)やC型肝炎の治療薬(リバビリン)など、ごく限られたお薬になります。

精神科のお薬で妊娠への問題になるとしたら、抗うつ剤のSSRIなどに出やすい性機能障害の副作用の方かもしれません。妊娠を希望する方には重要なことになりますので、悩んでいるときは主治医に相談してみましょう。

精子へのお薬の影響などを詳しく知りたい方は、「男性が飲んだお薬は妊娠に影響するのか」をお読みください。

3.妊娠中に飲んだお薬の影響は?

精神薬が与える妊娠への影響として、可能性があるのは

  • 妊娠初期の服用→赤ちゃんの奇形率をやや高めるリスク
  • 妊娠後期の服用→産後の赤ちゃんにお薬の作用が出てしまうリスク

の2つです。

これらはお薬の種類や量によって違いがありますし、個人差も大きいのですが、奇形率をやや高めたり、赤ちゃんの発育に影響するリスクが報告されている精神薬がいくつかあります。それらについては、原則として妊娠中は避けた方が安心です。

それ以外の精神薬では現時点でとくべつな悪影響の報告はなく、「おそらく大きな影響はない」と考えられています。

とはいえ「絶対安全」と言い切れるわけではないため、添付文書などではどんな精神薬でも「妊娠中は使用を控えることが望ましい」など慎重に書かれてはいますが、現時点で具体的なリスク報告のないお薬については、過度に心配されなくて大丈夫だと思います。

実際のところ、お薬が赤ちゃんに対してどれくらいの影響があるのかは、どのお薬でも正確にはわかっていないのです。

というのは、倫理的に臨床研究ができないからです。リスクがあるお薬を妊婦さんに飲ませてみる・・・なんてことはできませんよね?ですから、どの程度胎盤から赤ちゃんへ伝わるのか?実際に飲みながら出産した人はどうだったか?など、動物実験や症例報告などのデータからリスクを推測しています。

お薬の影響を考える上で大切なのは、そのリスクと、お母さんの病状安定とのメリット・デメリットをよく考え、慎重に判断していくことです。

もちろん、避けられるリスクは避ける方が望ましいので、妊娠の可能性のある方へはできるだけ安全性の高いお薬を選び、妊活をされるときは量も減らしていくようにします。

ですが、無理や過度な不安を抱えてお母さんの病状が悪化してしまうと、妊娠へもいい影響は与えません。お薬での影響が気になるときは自己判断をせず、主治医とよく相談するようにしましょう。

4.お薬の影響が心配な時期は?

  • 奇形が心配なのは妊娠初期、発育への影響が心配なのは妊娠後期です。

何らかの影響があると推定されているお薬では、とくに妊娠初期と妊娠後期の服用に注意が必要です。それぞれで影響が違うため、同じお薬でも「妊娠初期はNG、妊娠後期はOK」のように分かれていることも多いのです。

4-1.妊娠初期のお薬の影響

お腹の赤ちゃんは妊娠の初めの方に、重要な器官を一気につくります。この時期を「器官形成期」といって、最後に生理が終わった日から4週~7週が特に重要な時期といわれています。

ですから、奇形のリスクはこの時期が一番高くなります。8週を過ぎるとだんだんリスクが小さくなり、13週以降は機能異常などがみられることはあっても、奇形の可能性はほぼ大丈夫といわれています。

4-2.妊娠後期のお薬の影響

出産直前期に鎮静作用や離脱作用の強いお薬を飲んでいた場合、産後の赤ちゃんに筋肉のゆるみや過眠が出たり、お薬が急に抜けた反動で強張りやふるえなどが現れることがあります。抗不安薬(精神安定剤)、睡眠薬、抗うつ剤などで注意が必要です。

いずれも早期対応すれば一時的で、後遺症の残るようなものではありませんが、産科の先生にお薬を飲んでいることをしっかり伝えておくことが大切です。

また、精神薬ではありませんが、妊娠後期には解熱鎮痛剤に注意が必要です。赤ちゃんの発育や機能に影響することがありますので、市販薬を飲むときは添付文書をよく読み、妊婦さんの服用についての注意をよく確認しましょう。多くの解熱鎮痛剤で妊娠後期の服用は禁止になっています。

解熱鎮痛剤の妊娠への影響について詳しくは「妊娠中にも使える鎮痛剤とは?」をお読みください。

5.お薬を飲みながらの妊娠で注意することは?

「お腹の赤ちゃんに影響しそうなお薬はできるだけ減らしたい」。多くの方がそう考えると思います。医師の立場としても妊娠への安全性は一番気になるところですので、できるだけ「妊娠は計画的に」を心がけていただきたいのです。

上で申しあげましたが、お薬の影響を一番考えなければいけないのはごく初期の4週~7週なので、予想外の妊娠では事前にお薬を整理しておくことができません。

妊娠を計画的にしていただければ、その時期に向けてリスクの少ないお薬を選び、量も少なくします。そして妊活のときは、赤ちゃんの発達に重要な葉酸(®フォリアミン)5mgを使っていきます。

けれど、万が一予想外に妊娠してしまったというときは、過度に心配せず、まずは主治医に伝えてください。

多くのお薬では大きな影響がないと考えられていますし、奇形リスクが高いとされる抗てんかん薬でも、平均で11.1%の発生率とされ、90%の方では問題がおこっていないということになります。お薬を飲まない方の出産であっても、奇形は3~5%くらい認められるといわれています。

お母さんが大きな不安を抱えてしまうと、赤ちゃんへもよい影響がありません。主治医と相談しながら後のことを考えていきましょう。

6.妊娠への注意が必要な精神薬は?

精神科のお薬の多くでは大きな悪影響は報告されておらず、「絶対に安全とは言えないけれど、お母さんの病状安定に必要なら慎重に使うこと」とされています。

ですが妊娠への影響の可能性から、できるだけ使わない方がいいとされているお薬がいくつかあります。

アメリカ食品医薬品局(FDA)の薬剤胎児危険度分類基準をもとにして、妊娠で注意した方がよい精神科のお薬をまとめてみました。

 

妊娠で注意した方がよい向精神薬に関してまとめました。

「やめた方がよい」とされているお薬は、いずれも奇形との関連性が報告されているものです。(※ベンゾジアゼピン系については、近年関連性が否定されてきています。)これらは、できるなら妊娠中は避けた方が安心ですが、お薬の変更がむずかしいときは、リスクと効果のバランスを考えていくことが大切です。

「絶対にダメ」とされている4剤の睡眠薬は、日本では「禁止」とはなっていませんが産後の赤ちゃんに影響し、鎮静・離脱症状が強く出ると考えられるため、アメリカの基準では「妊娠中は禁止」とされています。

その他のお薬も含めたガイドラインによる比較を知りたい方は、『向精神薬による妊娠への影響のリスク比較』をご覧ください。

7.流産はお薬や病気のせい?

せっかく妊娠していたのに流産してしまうことがあります。その苦悩で調子を崩される方もいらっしゃいます。「流産は自分のせいじゃないか・・・」「自分が病気にならなければ・・・」と悔やまれる方も多いです。

けれど、流産は赤ちゃん自身に遺伝的な問題があったり、受精した後に上手く成長できなかったりして、赤ちゃん自らが生きていけなくなっていったことが主な原因と考えられているのです。お薬などの影響は皆無とは言えないかもしれませんが、それほど大きくはありません。

医学的に言えば、流産の原因はほとんどが赤ちゃん側にあります。流産はあなたのせいではありません。どうかご自分を責めないであげてください。

生命の誕生というのは神秘的な部分も多く、データや医学的な理論だけで操作できるものではないですし、健康なお母さんであっても、徹底的にリスクを避けて万全の体制で臨んだ妊娠であっても、流産するときはしてしまいます。

頭ではわかっていても、心では整理がつかない方も多いと思います。でも、お母さんだって、好きで病気になったわけではないはずです。少しずつ自分を許してあげてください。

お薬と妊娠のことで悩んだら

妊娠とお薬のことで心配になったら、まずは主治医に相談しましょう。精神科のお薬は、「絶対やめた方がいい」というお薬以外は、効果とのバランスも考えて判断していかなければいけません。病状をしっかりと把握されている主治医の先生に相談することが大事です。

本当に正確な情報を知りたいと思われた方は、国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」を利用することもできます。このセンターは、厚生労働省の事業として2005年からはじまったものです。現在わかっている正確な情報を教えてくれます。主治医の先生を通したり、電話での相談でしたら、費用もかかりません。

まとめ

病気を抱え、お薬を飲みながらの妊娠は、さまざまな不安がわいてくると思います。けれど、多くの精神薬では大きな影響がないと考えられていますので、過度に心配されなくて大丈夫です。不安なときは、主治医と相談しましょう。

もちろん、リスクがあるとされるお薬はできるだけ避け、量も少なくできた方が安心ですし、妊娠初期の大切な時期にお薬を調整するためにも、妊娠の希望や可能性がある方は、ご自分からも伝えてください。

お薬の影響は、どれも「絶対」と言い切れるものがなく、妊娠のリスクは健康なお母さんであっても必ずついてまわります。それをふまえ、お薬によるリスクと病状の安定、そのバランスを考えていくことが大切です。

 

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:妊娠・授乳について  投稿日:2019年8月20日

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