うつ病の症状・診断・治療

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うつ病とは?

心の病気のなかでもかなり認知度が高くなったうつ病ですが、病名のイメージだけが1人歩きし、誤解されているケースも少なくありません。とくに最近は多様な種類のうつ病が見られるようになり、症状や傾向の幅が広がったことで、よけい混乱を招きやすくなっています。

一般的に「うつ病」というと、定型うつ病(大うつ病性障害)を指します。定型うつ病は、心の負担が積み重なったことによって落ち込みが悪循環にはまり、脳内伝達物質の働きが上手くいかなくなってしまう病気です。

近年では、「新型うつ病」といわれる新しいタイプのうつ病が世間でも取り上げられているように、その症状の原因や病態も多様化しています。一時的にひどく落ち込んでしまうことは、様々な原因で起こりえます。現在の診断基準では、その落ち込みの程度(精神エネルギーの低下)が一定レベルを超えている場合に、うつ病と診断されます。

かつては病気の原因を大事にしながら診断をつけていましたが、客観的に診断ができることが重要視されていて、うつ病についての国際的な診断基準が作られています。それに基づいて、うつ症状の程度に基づいて診断されるのです。(操作的診断といいます)

うつ症状としてよく認められるのは、

  • 持続する強い落ち込み
  • 精神活動(意欲や思考)の抑制
  • 興味や関心の消失
  • 食事や睡眠の異常
  • 強い自責感

などがあげられ、うつ病と言えば「いつもふさぎ込んで食べず眠れず、疲れや精神的苦痛に苦しみ、自分を責める」というイメージが基本になります。うつ病では、精神エネルギーが全体的に低下してしまっている病気なのです。

うつ病について簡潔に知りたい方は、以下をお読みください。

うつ病のまとめ

うつ病の初期症状

うつ病の症状をイラストにして説明しています。

うつ病は、ある日突然発症するものではなく、少しずつ心の負担が積み重なり、心身に変調がおこる病気です。本格的なうつ病へ進行する前に、何らかのサインとしての初期症状が現れているケースがほとんどです。

うつ病は、早期発見・早期治療が回復を助ける重要なポイントとなりますので、以下のような症状が続いている場合には、早めに医療機関を受診してください。

  • 落ち込みがなかなか回復しなくなる
  • 寝つきが悪くなる、途中で目が覚めてしまう、反対に起きづらくなる
  • 普段は楽しんでいたはずの趣味にも興味を失う
  • 理由なく急に涙ぐんだり、死にたいと感じたりすることがある
  • 体の病気はないのに疲労感が強まる
  • 食欲不振やストレス性の食べ過ぎなど、食事の変調が続いている
  • 仕事に集中できず失敗が多くなる

何かつらいことがあって気分が落ち込むのは誰しも起こることですが、その回復が明らかに遅くなったと感じたら注意が必要です。集中力が落ちてしまって、物事が頭に入ってこない場合も注意が必要です。

やるべきことが進まず、さらにストレスがかかるという悪循環になります。さらに睡眠に影響が及ぶと、心身の状態が悪化しやすく悪循環を招きます。そのような状態に陥っている場合は、早めに医療機関で相談してください。

病院で相談して自分の不安を吐き出すだけでも心が軽くなり、状態が緩和されることがあります。早い段階であれば症状を和らげるお薬を一時的に使えば、持ち直せることも少なくありません。

うつ病は、状態が深くなるほど治療にも時間がかかります。できることならうつ病の初期症状が現れたときに、対処できるのが望ましいでしょう。

定型うつ病にかかる人は真面目で責任感があり、無理をして頑張ってしまう人が多いと言われています。つらさを我慢しているうちにうつ病は進行し、結果的に仕事を休むほどの状態になってしまうケースが多いのです。

とくに家庭や職場で責任ある立場の人は、周囲にもなかなか相談できないことが多いと思います。1人で抱え込んでいると心の糸が張り詰め、悪循環が強くなります。

こころの病気というと何となく特別な感じを受ける人もいるかもしれませんが、ストレスが元になって発症するという意味では、うつ病も胃炎や高血圧などと何ら変わりはありません。

この病気は気の持ちようの問題ではなく、実際に脳の伝達物質に変化がおこるものといわれています。落ち込みが続きつらいと感じたときには、医療機関で相談してください。

※詳しくは、『うつ病の初期症状と症状の経過』をお読みください。

うつ病をチェックする診断基準

うつ病とは?のイラストになります。

定型うつ病で見られる症状は、国際的な診断基準によって以下のように定められています。(表現を分かりやすく変えています)

  • 悲しみ、空虚感、絶望を感じるなどの発言や様子
  • 活動意欲や興味が激しく低下している発言や様子
  • 激しい疲労感や意欲の減退
  • 食欲不振または、精神の不安定によって食べ過ぎてしまうなど食事の明らかな変調
  • 不眠や過眠などの睡眠障害
  • 外から見て明らかなほどの焦燥感や精神活動の停止
  • 自分への無価値観や病的な自責の念
  • 外から見てもわかるほどの思考力や集中力の減退
  • 自殺願望や死について過度に考えること

以上の症状が5つ以上、ほとんど一日中、毎日のようにおこるとされています。

また、

  • これらの症状によって本人や周囲が大きな苦痛や支障を感じている
  • この症状はアルコールや薬物などが原因によるものではない

という条件もあります。

ただ、これはあくまでも1つの基準です。初期の段階では、必ずすべてにあてはまるとは限りません。

※詳しくは、『うつ病の診断基準とは?』をお読みください。

うつ病の重症度

うつ病の重症度は、どのようにして判断されるのかについてお伝えしたいと思います。

うつ病の診断基準では、

  • 該当する症状が何項目あるかどうか
  • 生活への支障の程度

によって判断されます。細かく症状をとるというよりは、重症度は生活への支障の程度から印象で判断していくのが実際のところです。

  • 軽症うつ病・・・社会生活に支障がある状態
  • 中等度うつ病・・・日常生活に支障がある状態
  • 重症うつ病・・・日常生活をおくれない状態

軽症うつ病では、仕事や学校、家事などは何とか行えているもののうつ症状で苦しんでいる状態です。日常生活は何とかおくれているため、周りからは気づかれていないことも少なくありません。

中等症うつ病では、仕事や家事にも支障をきたして、遅刻や欠勤などの行動にも変化が認められます。朝から体が動かなくなってしまったりと、日常生活にも支障が認められます。

重症うつ病では、日常生活も送れないほどに状態が悪い状態です。自責感や無価値観が強く、死にたいという思いが強まることも少なくありません。ネガティブな妄想を抱いてしまうこともあります。

うつ病の症状からみたタイプ

うつ病の原因をイラストにして説明しています。

従来日本ではうつ病の症状そのものに加え、その背景にある原因を重視する考え方をしていました。

  • 外因性
  • 内因性
  • 心因性

この3つに分けて考えました。外因性は頭部のケガなどがきっかけとなったもので、うつ病としては少し特殊ですが、内因性と心因性はどちらもよく見られるものです。

心因性は何らかのつらい出来事がきっかけとなって、その反応としてうつ状態となったことを意味します。それに対して内因性は、その人が持っている素因に関連しておこることが多く、脳の機能的な異常が示唆されることを意味します。

心因性のうつ病は、普段はとても前向きな性格の人でもなる可能性がありますが、内因性の方には、なりやすい一定の性格傾向が見られることが多いです。

そのなかでも、昔から一番定番のうつ病としてあげられていたのが、メランコリー親和型うつ病です。一般的に「うつ病」と言うと、このタイプを指すことが多いです。そして最近では、うつ病っぽくないうつ病として、非定型うつ病があります。

メランコリー親和型うつ病

うつ病になりやすい性格傾向などをイラストで説明します。

メランコリー親和型性格とは、秩序や決まり事を重んじ、自分が属する社会や集団に忠実で調和を重視する性格です。

生真面目で温厚、責任感が強く職務や役割をしっかり果たし、けっして悪い性格ではありませんが、柔軟性に欠け精神的なもろさがあり、状況の変化があると強いストレスを受けやすい面があります。

このような性格の人は、たくさんのことを自分で抱え込み、気づかないうちに心身の負担が積み重なりやすく、何かがあれば自分を責めてしまいやすいため、いつしか心身が限界を迎えてうつ病へと発展するケースが多いと言われています。

症状の特徴は心身ともに明らかな活動低下が見られ、不眠や食欲不振がおこります。朝に一番症状がつらく、夕方にかけて多少マシになる日内変動があります。定型うつ病の中で、もっとも多く見られる代表的なうつ病のタイプです。

非定型うつ病

うつ病の診断基準には一応あてはまるものの、従来のメランコリー親和型などのうつ病とは異なった特徴が合わせて見られるうつ病は、非定型うつ病として診断されます。

近年マスコミでよく取り上げられている「新型うつ病」「現代型うつ病」はこの非定型うつ病として扱われるものが多くなっています。

これらのうつ病は精神の未熟さが根本にあって発症することが多く、自分が苦手な仕事などの場面に限定して抑うつが強くなり、趣味や遊びにおいては元気に振舞えるのが特徴で、周囲からは「本当にうつ病?」と誤解を受けてしまいがちです。

メランコリー親和型を代表にした定型うつ病と非定型うつ病では、治療方針も大きく異なるため、非定型うつ病は別項目に分けています。ここでは、定型うつ病についての症状や治療法などをご紹介しています。

当院でのうつ病の治療

現在のうつ病の治療の中心は、抗うつ剤による薬物療法です。当院でも薬物療法を中心とした治療を行っています。

抗うつ剤には様々な種類がありますが、どのタイプが合うかは患者さんによって異なり、向いていると思われる薬を医師が選択し、効果や副作用の様子を見ながら量や種類を調整していくことになります。

日本では漢方薬によるうつ病治療も行われていますが、漢方薬のみで改善が期待できるのはごく軽度の人に限られ、ある程度はっきりとした症状があれば抗うつ剤の使用が向いています。ただ、漢方を併用することで抗うつ剤の効果を高めたり、副作用を軽減したりできる場合があります。

またうつ病はお薬だけでなく、精神療法を併用して行っていくことも重要です。とくに最近はうつ病に対し、認知行動療法という精神療法の効果が評価されています。

その他にもいくつかの精神療法や物理療法などがありますが、それらにはほとんど保険が適応されないために費用面の問題もあり、また状態によっては向いていないケースもあるため、治療の基本としては抗うつ剤と、医師が診療の範囲でできる心理的なアプローチを軸に、患者さんそれぞれに合った方法が選択されていくことになります。

しっかりと時間をとって精神療法を行いたい方は、当院でも産業カウンセラーによる生活カウンセリングを実施しています。(詳しくはこちら

どのような方法で治療していくにしても、少し動きが取りやすくなったら生活習慣を整えていく努力も治療には欠かせません。もちろん、症状がとてもつらいときには無理せず休むことが大切ですが、状態に合わせて少しずつ朝の光を浴びたり、食事時間を一定にしたり、可能な範囲で体を動かしたりする積み重ねも回復を助けてくれます。

うつ病の治療は、効果が実感できるまで時間がかかることも多いですが、処方通りに抗うつ剤を服用しながら継続していくことが大切です。

うつ病での薬の役割

現在のうつ病治療は、薬物療法が中心となっています。

薬を使わない治療を希望される患者さんも少なくないですが、それでもやはり薬物療法を中心とした治療をおすすめしています。

とはいっても、うつ病であれば必ず抗うつ剤を使うというわけではありません。どのようなお薬を使っていくかは、

  • 「内因性・心因性」という原因
  • 「軽症・中等度・重症」という重症度

によっても異なります。

脳の機能的な異常が示唆される内因性うつ病では、抗うつ剤をしっかりと使われることが多いです。何らかの出来事の反応による心因性うつ病では、症状を緩和する抗不安薬などが使われることが多いです。

また軽症うつ病では、抗うつ剤の効果が有効という報告もあれば、無効という報告もあります。ですから安易に抗うつ剤を使わずに、症状を緩和しながら心理療法を大切にしていくこともあります。中等度以上のうつ病では、抗うつ剤をしっかりと使うことが治療の近道です。

うつ病で使われるお薬は、おもに2つの目的があります。

  • 抑うつ気分や意欲低下といった中核症状の改善
  • 不安や不眠、自律神経症状といったつらい症状の改善

抗うつ剤は、中核症状への改善を期待して使っていきます。効果は少しずつあらわれることが多く、じっくりと使っていきます。それに対して不安や不眠、自律神経症状は、抗不安薬や睡眠薬などによって改善が期待できます。

抗うつ剤の注意点

  • 飲み忘れを防ぐ工夫をしましょう
  • 抗うつ剤は効果が出るまで少し時間がかかります
  • 医師の指示を守り、自己判断での増減中止は避けてください
  • 急に薬を抜くと離脱症状という反動が起こることがあります
  • 症状が改善されても、一定期間飲み続けることが大切です
  • 飲み忘れや薬に対する不安や異変は必ず医師へ伝えましょう

抗うつ剤は初めは少量から始め、状態に合わせて適正量まで少しずつ増量していきます。ですが抗うつ剤の効果が出るまでには、2~4週間かかることが多いです。

即効性のある睡眠薬や抗不安薬と異なり、飲み続けるうちに血中濃度が安定し、ジワジワと効果が現れるのが抗うつ剤の特徴です。ですから最初は効果を感じないとしても、医師の指示通りに服用するようにしてください。

また、効果が現れてきて症状がよくなったとしても、そこで止めずに一定期間飲み続け、脳内伝達物質のバランスをしっかりと安定させていくことが治療には大切です。

飲み忘れてしまうと血中濃度が落ち、せっかく安定してきていた状態が下降してしまうことがあります。また、飲み続けていた抗うつ剤が急に抜けると脳が混乱をおこし、症状が悪化する離脱症状という反応がおこる場合もあるので注意が必要です。

抗うつ剤はうつ病の治療の大きな助けとなりますが、その作用の特徴に合わせた適正な使い方をすることがとても重要です。そのため、抗うつ剤を自己判断で増減したり中止したりはせず、飲み忘れを防ぐ工夫をし、医師の指示通りに服用するようにしましょう。

診療の際には、指示通りに薬を飲んでいる前提で治療効果を判断します。飲み忘れなどがあった場合は正直に伝え、薬に対して何か不安があるときには、必ず相談をしてください。

抗うつ剤の副作用

抗うつ剤の副作用をイラストでご説明しています。

現在の抗うつ剤は比較的副作用が少なくなっていますが、飲み始めの頃には何らかの副作用がおこることもあります。

副作用は、飲み続けているうちに体が慣れて改善されるものが多いですが、苦痛に感じるときや明らかな異変を感じるときには医師へ相談してください。

抗うつ剤を服用する場合は、ある程度の副作用があっても我慢ができるものなら効果を優先します。ですが、しばらく続けても生活に支障がおよぶような状態のときは、主治医に相談してください。

車の運転や危険作業を日常的に行っている人は、とくに眠気などの副作用に配慮する必要があります。女性の場合は、妊娠の可能性にも注意する必要があります。

抗うつ剤でおこりやすい副作用には、以下のようなものがあります。

  • 便秘や下痢
  • 吐き気や胃の痛み
  • 口の渇き
  • ふらつき
  • 眠気、不眠
  • 性機能障害
  • 体重増加

抗うつ剤には様々なタイプがあり、副作用と効果の兼ね合いを見ながらそれぞれの患者さんに一番適した薬を検討します。

副作用には個人差が大きく、また、生活環境によって耐えられる範囲も変化します。より効果的な治療のためには、ある程度の副作用は受け入れなければいけないことはありますが、それが大きく生活に影響しているときには我慢せずに主治医へ相談してください。

抗うつ剤は一定期間飲み続けるものなので、患者さん自身が納得して飲み続けられることが治療には大切です。

抗うつ剤について詳しく知りたい方へ

ここでは、抗うつ剤の全般的な注意点や副作用についておつたえしてきました。

抗うつ剤といっても様々な種類があり、その中から患者さんごとに合ったお薬を選んでいきます。

※抗うつ剤について詳しく知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をご覧ください。

お薬を使わないうつ病治療は可能なのか

クリニックを訪れる患者さんでも、「お薬を使わず治したい」と希望される方もいらっしゃいます。実際のところ、うつ病がお薬を使わず治すことはできるのでしょうか?

結論からお伝えすると、「状態によってはありうる」となります。ただそれは、放置していれば自然に治るという意味ではなく、うつ病改善の環境や生活習慣を自らの努力で整えたり、精神療法によって治していくという意味で、「お薬に頼らない治療法で治す」ということです。

病院での治療でも、ごく軽症のうつ病の方に対しては、お薬を使わず精神療法や生活改善で治療を試みることはあります。ただし、そのためには、

  • それなりのエネルギーが残っていること
  • ある程度コントロールできる環境が整っていること
  • 他の精神疾患が併発していないこと
  • 根本には精神的な強さを持っていること

などの条件があります。

うつ病をお薬の力を使わず回復させるには、

  • 適度な心身の休養
  • ストレスの少ない環境
  • 栄養バランスの摂れた規則正しい食事
  • 散歩など適度な運動
  • 睡眠のリズムを規則正しくする
  • ストレス対処法を精神療法で身につける

などが大切ですが、うつ病の方はこれらを行うためのエネルギー自体が無くなっていることも多く、どうしても仕事を休めない方や、子育て中で協力者のいない方などには無理なこともあるでしょう。その場合は、まずお薬の力を借りて症状をやわらげ、ある程度エネルギーを回復させてあげることが必要です。

また、体力と同じで、精神力や性格傾向というのも様々です。元々ストレスに弱い方がお薬に頼らず無理をしてしまうと、よけい辛い精神状態に追い込まれてしまう可能性もあります。

医療機関での治療においても、規則正しい生活習慣や環境の改善、ストレスをためやすい考え方に対する精神療法などは、うつ病回復と再発防止のために重要と考えられています。

抗うつ剤を使っても良くならない患者さんも少なくないので、抗うつ剤が万能なわけではありません。しかしながら脳の機能的な異常が背景に隠れていたり、不安障害などを合併している場合は、抗うつ剤を適切に使ったほうが改善が期待できることも多いです。

「うつ病をお薬を使わず治す」という考え方は悪くないですし、それができれば理想的です。しかしながら、その考え方をうつ病全体に当てはめるのは危険です。うつ病は単なる気の持ちようではなく、脳内のバランスに変化がおきている「病気」です。環境改善や精神療法に向かう前に、そのエネルギー自体が失われて心身がかなり疲労していますから、それを改善するためにはやはりお薬の力が有効であることが多いです。

できるだけ自然の力で回復したいという考えをお持ちなら、それを伝えていただければと思います。状態によってはやはりお薬をしっかり使っていただかなくてはいけないことはありますが、それと併用し、主治医とも相談の上、お薬以外の方法も行っていくのは効果的です。実際に軽症うつ病の治療では、国によっては運動療法を推奨するガイドラインとなっています。

ただ、いずれにしても無理をしないこと、回復を焦らないことが重要です。

うつ病は漢方薬で治療できるのか

漢方薬は長い東洋医学の歴史に基づき、経験則の中で発展した治療法です。現在は西洋医学の治療にも多く用いられ、治療を助けてくれます。病院での漢方薬処方には健康保険も適応されます。

うつ病で漢方薬が使われるケースとしては、以下の3つのパターンがあげられます。

  • 軽度うつ病の治療薬として
  • 抗うつ剤の効果を助ける目的として併用
  • 抗うつ剤の副作用を軽減させるために使用

漢方薬のなかには、うつ病の症状を改善することが期待されるものもありますが、それだけで治療ができるのはごく軽度の人に限られます。軽症うつ病では、漢方薬で治療していくこともあります。

ただ、漢方薬を併用することで抗うつ剤の効果を助けたり、抗うつ剤によっておこる便秘や不眠などの副作用を軽減したりできる場合があります。

漢方薬の効果は、西洋薬以上に個人差が大きく、体質によっても向いている漢方薬が異なります。虚弱な人には飲めないタイプの漢方薬もあります。ある人には優れた効果を発揮したものが、ある人にはかえって逆効果となってしまうケースもあるので、体質や効果を見ながら選んでいくことが大切です。

うつ病の認知行動療法

現在うつ病の精神療法として、もっとも効果のエビデンスが認められているのが認知行動療法です。認知行動療法とは、患者さんそれぞれの考え方のクセの中でストレスを強めやすいものを見つけ出し、それを楽にできる考え方へ少しずつ変化させていく治療法です。

同じ出来事や人からの言葉に対しても、反応は人により異なります。うつ病になると思考が全体的にマイナス思考となりますので、少し落ちついてから認知行動療法を行っていきます。

うつ病の原因として、本来持っていた考え方のクセが大きく関わっていることが多く、その部分へアプローチしていくと大きな治療効果が得られることがあります。再発予防の観点でもとても有効です。

うつ病の認知行動療法のメリット

  • 幅広い人が取り組みやすい
  • 副作用がない
  • 薬と併用することで治療効果が高まる
  • 再発予防に効果的

認知行動療法は、その方法がある程度体系化されています。そのため、多くの人が取り組みやすく、他の精神療法に比べそれによってかえって病気を悪化させてしまうような心配も少ないです。

治療者がいないとまったく成り立たない精神分析療法などとは異なり、ある程度の治療を積むと患者さん自身が日常の中で継続していくことが可能で、根本的な自分なりのストレス対処法を身につける助けとなるので、再発予防には非常に優れた効果を発揮します。

薬だけに頼ってうつ病を治療しても、根本にあるストレスを抱え込みやすい考え方や行動パターンがそのままなら、またいつかうつ病を再発してしまう可能性があります。

うつ病の治療で大切なのは、薬によって現在のつらい状態を改善していくとともに、可能な範囲で生活環境を整えたり、自分自身のストレス対応力を育てたりすることです。そのための方法として、認知行動療法は有効な精神療法と言えるでしょう。

うつ病の認知行動療法のデメリット

メリットの多い認知行動療法ですが、デメリットもあります。

  • 健康保険制度の関係で費用が高額になりやすい
  • ある程度状態が落ち着いてないと取り組めない
  • 効果が出るまでには時間がかかるため根気が必要

現在の健康保険制度では、医師か専用の教育を受けた看護師が認知行動療法を行う場合に限り、保険適応が認められています。しかし、現実的には様々な面でそれを行うことが難しく、保険適応で認知行動療法を実施できる病院はごくわずかです。

本来、認知行動療法のプロは臨床心理士で、多くの場合は臨床心理士が担当しますが、その場合は保険適応外の自費診療となるので、費用負担が大きくなってしまいます。

とはいえ、認知行動療法は優れた治療法として知られてきているので、積極的に希望する患者さんも多くなっています。

費用的に難しい場合は、ワークブックや認知行動療法用のサイトなどを活用し、医師が決められた一般診療の枠の中で手助けをしていく方法が取られることもあります。患者さん自身が自宅で認知行動療法を行う場合は、病状に応じての注意点もありますので、主治医と相談の上行いましょう。

また、考え方や行動パターンのクセに気づきそれを変化させていくのは、思っている以上に大変で根気のいる作業です。認知行動療法は患者さん自身が嫌々受け身の状態で取り組んでもよい効果は期待できず、積極的に治療へ参加し、持続していくことが必要です。

うつ病のその他の心理療法

うつ病の治療の助けとして用いられる心理療法は、認知行動療法以外にもいくつかの種類があります。本格的な精神療法として行うためにはそれなりの費用や時間が必要ですが、外来のなかでも医師や患者さんがそれを意識しながら診療を進めることで治療の役に立つ場合があります。

  • 行動活性化療法

精神療法というと内面へのアプローチと思われがちですが、行動活性化療法は、先に現実の行動をおこすことで認知へ働きかける方法です。

頭の中だけであれこれ考えていると、必要以上に悪い結果を想像してしまうこともありますが、思い切って行動をしてみると、想像したほどの悪いことはおこらないことが多いものです。

もしも悪い結果になったとしても、自分で考えていたほどダメージを受けていない自分に気づいたり、そこからの対処法を考えたり、行動をすることで病的に落ち込んでしまった認知を少しずつ変えていくことが期待されます。

  • 対人関係療法

社会生活の中で、もっともストレスになりやすい対人関係の問題にアプローチし、対人スキルを上げていくことで自信をつけ、不必要なストレスを軽減させていく方法です。

問題をわかりやすくするために、その患者さんにとって一番影響の強いと思われる対人関係(親、配偶者、恋人など)に的をしぼり、そこで発生する感情に焦点をあてていきます。

  • 対人関係社会リズム療法

うつ病を始め心の病気には、生活リズムを整えていくことは欠かせません。心の病気にかかっていない健康な人であっても、無茶苦茶な生活リズムを続けていては心身のバランスを崩しやすくなってしまいます。

そして、社会で生きている人は、必ず対人関係に生活リズムが影響され、自分の本能の欲求のままに生活をおくることはできませんし、対人関係や社会的な刺激は、人間らしく生きるためには大切なことです。けれど、それの度が過ぎると自分の心身が追い付かず、うつ病などを悪化させる要因となるケースがあります。

対人関係社会リズム療法では、この2つのリズムを量的にとらえながら整えていくことを目指します。

  • マインドフルネス

マインドフルネスは、「今ここにある自分」に意識を向ける訓練を行う方法です。普段私たちの頭のなかには様々な言葉や考えが浮かび、多くの場合それに沿って感情がわき、行動をしてしまいがちです。

そこで意識を「今ここにいる自分」に向ける訓練をし、様々な刺激や感情にとらわれず、自分を冷静に保つ手段を身に着けていきます。

うつ病の物理療法

物理療法は、外から何らかの刺激を与えることで脳を活性化させる治療法です。

  • 高照度光療法

強烈な光を朝に浴びせることで、睡眠に関わるメラトニンの分泌を整え、体内時計のリズムを調整していく方法です。

  • TMS療法(経頭蓋磁気刺激法)

磁力から電流をおこし、大脳に電気の刺激を与える治療法です。

アメリカやカナダなどではうつ病の治療法として認められていますが、日本では保険適応がされません。高額な自費診療となってしまうことが多く、まずは抗うつ剤による標準的な治療を行っていただいたほうが良いかと思います。

  • 電気けいれん療法(ECT)

頭皮の上から電流を流し、脳にけいれんをおこす刺激を与える治療法です。

昔から行われている治療法ですが効果は非常に高く、どうしても治らない患者さんの最後の切り札で使われる治療法です。

イメージの怖さはあるかもしれませんが、安全性は非常に高いといわれています。

うつ病の寛解と回復の違い

現在は抗うつ剤や治療法が進化し、多くのうつ病の患者さんが治療を受けて社会復帰をしています。ただ、その治療にはある程度の時間がかかるため、持続して治療に取り組む根気が必要になります。

抗うつ剤で症状が楽になったからと自己判断で通院を中断すると、再発の可能性が高くなります。「寛解」と「回復」の違いについて、お伝えしたいと思います。

寛解とは、症状が良くなって元の生活が送れるようになった状態のことをいいます。回復は完全に良くなった状態を指しますが、寛解とは異なります。寛解状態では症状は落ちついていますが、ストレスへのもろさは残っています。

容易に調子を崩しやすい状態にあるため、維持療法としてお薬をしばらく継続する必要があります。その目安は個人差がありますが、半年~1年ほどは続けたほうが良いといわれています。そして社会生活でのストレスのなかでも安定している状態を回復といいます。

このように状態が本当に安定して「回復」してから、薬を少しずつ減らしていくことがスムーズにお薬を中止していくことができます。うつ病の再発を防ぐために、最後までしっかりと治療を受けることが大切です。

うつ病は、早い段階で対処するほど治療の予後もよくなる傾向があります。苦しい状態が続いているときには1人で抱え込まず、医療機関を受診してください。

うつ病の再燃と再発

うつ病の治療経過での寛解と回復の違いについてお伝えしましたが、寛解から回復までの流れは順調にいくとは限りません。むしろ、症状の揺り戻しがある方が通常です。

そのとき、お薬を飲みながら治療を継続していれば、軽い揺り戻しで立て直し、少しずつ回復に近づいていくことができます。しかし、お薬を止めてしまっていたり、急に生活の負担を高めたりすると、症状が軽い揺り戻しでは済まず、治療以前のように逆戻りしてしまうことがあります。その状態をうつ病の「再燃」と呼びます。

寛解の状態は、うつ病を火事に例えると火は一応消えたものの、まだ火元がくすぶっているような状態です。そのため、何かのきっかけで再びうつ症状が「再燃」してしまうことがあるというわけです。

再燃の原因としては、

  • 生活の負荷を増やすのが早すぎた
  • 無理をし過ぎた
  • お薬の飲み忘れが増えた

などがあげられます。うつ病が再燃してしまった場合は生活を見直し、お薬をしっかりと飲むようにして様子を見ることになります。

「再燃」と似たような言葉に、うつ病の「再発」があります。再発とは、うつ病が回復し治療が終わったあと、期間を置いて2度目のうつ病が発症することです。

この場合の原因としては、

  • 環境に問題がある
  • 根本的にストレスを感じやすい性質が強い
  • もともと気分に病的な波がある

などが考えられます。

再発をくり返してしまう場合は、回復後も抗うつ剤の継続がすすめられることがあります。気分に波が感じられる場合は、気分安定薬を中心とした治療に切り替えていくことも少なくありません。患者さんによっては、双極性障害(躁うつ病)と診断が変わることもあります。

うつ病の再発を防ぐには、認知行動療法などのお薬以外でストレスを感じやすい性質を緩和させていく方法も有効です。

再燃と再発を経過に当てはめると、

  • 発病→治療開始→反応→寛解→(再燃)→回復→治療終了→(再発)

となります。

うつ病は、寛解の段階でお薬を止めたり無理をしたりすると、症状が「再燃」して本当の回復に至ることができない危険性があります。そして一旦回復して治療が終了できても、ストレスの強い環境が続いたり、ストレスとの付き合い方が上手くできないままでいると、再発することがあります。

うつ病は、誰でもかかる可能性のある病気です。大きなストレスや、日常的なストレスの蓄積は生きている限り避けられませんので、治療が終わった後もストレスとの付き合い方を工夫し、できるだけ生活習慣を整え、自分の心身が無理をし過ぎないことを心がけていきましょう。

【参考】うつ病の生物学的原因

どのような脳での機能異常がうつ病の原因となるのでしょうか。参考までに、うつ病の生物学的な原因についてご紹介したいと思います。

うつ病の原因は1つではなく、様々な要因が関わっていると考えられています。現在も様々な説があり、いまだ明確な原因は解明されていませんが、その研究は今も進化を続けています。代表的なものを2つほどご紹介します。

モノアミン仮説

モノアミン仮説は、1950年代ごろから提唱され、現在のうつ病治療の根本となった仮説です。

モノアミンは、気分に関係する神経伝達物質のことです。セロトニンやノルアドレナリン、ドパミンなどがあります。これらのモノアミンが減少すると、意欲や気力の低下、気分の落ち込みや不安などのうつ症状がおこると考えられているのです。

抗うつ剤の神経伝達物質と症状の関係についてグラフでまとめました。

現在の抗うつ剤は、作用の仕方はそれぞれですが、どれもモノアミンの量を調整するお薬です。

モノアミン仮説に基づいて、それまで治療法が乏しかったうつ病に多くの抗うつ剤が開発されるようになり、うつ病が単なる「気の持ちよう」ではなく、脳の変化によっておこる「病気」ということの裏付けにもなりました。

モノアミン仮説が提唱されたきっかけは、他の病気の治療で使うお薬が気分にも作用していることが注目されたことでした。

血圧を下げるために使うレセルピンというお薬は、患者さんをうつ状態にしてしまう副作用がありました。その後の研究で、レセルピンはモノアミンの1つのセロトニンを減少させる働きがあることがわかりました。

反対に、統合失調症の薬として開発されたイミプラミンには、統合失調症への効果よりも抗うつ作用の方が認められましたが、このお薬にはセロトニンやノルアドレナリンの濃度を高める作用があることが解明されたのです。イミプラミンは、現在はトフラニールの製品名で抗うつ剤として使われています。

このような流れから、「脳内のモノアミンの増減がうつ状態を左右するのでは?」というモノアミン仮説が提唱されるようになりました。

当時、モノアミン仮説は多くの医師、研究者、製薬会社に賛同を呼び、それまで治療法のわかっていなかったうつ病治療薬の開発が飛躍的に増えていきました。

そして、多くの患者さんに抗うつ剤による効果が認められたことから、モノアミン仮説は間違った仮説ではないと考えられるようになったのです。

しかしその一方、モノアミン仮説だけではすべてのうつ病を説明することはできず、いくつかの矛盾点もあります。このことから現在は、

  • 「モノアミン仮説はうつ病原因の1つではあるけれど、それだけでは不十分」

という見解がなされています。

モノアミン仮説だけでは説明のつかないことも多いからです。例をあげると、

  • モノアミンの増減と抗うつ作用の出現の時期がずれている
  • 抗うつ剤の効果が出ないうつ病もある

などがあります。

抗うつ剤を投与すると、脳内のモノアミン濃度は数日で上昇します。しかし、抗うつ作用が現れるまでには数週間かかります。モノアミンの増減だけがうつ症状に関わるとしたら、この時期のズレの説明がつきません。

これに関してはその後、「モノアミン自体の増減より、モノアミンが結合する受容体の増減がうつ病の原因になっている」というモノアミン受容体仮説によって説明されましたが、やはりそれでも不十分な部分が残ります。

また、抗うつ剤を使っても抑うつ状態が改善しない患者さんもいます。一般的には抗うつ剤の効果が出るのは、うつ病患者さん全体の60~70%と言われています。

モノアミン仮説は、うつ病治療を大きく進歩させた重要な仮説です。そこからうつ病は治療可能な病気になったわけで、モノアミン仮説はうつ病の原因として大きな部分を担っていることは間違いがないと思います。

しかし、人間の脳の機能は非常に複雑で、脳の仕組みそのものが解明されていない部分が多く残されています。単純なモノアミンの増減だけではうつ病のすべてが説明できず、様々な矛盾が生じてくるのは無理もないと言えるでしょう。

モノアミン仮説については、その正誤を議論されることもありますが、実際にモノアミンを調節する抗うつ剤が治療効果をあげている以上、完全に間違っているとは考えられません。ただ、それ以外にも様々な要因があり、モノアミン仮説が当てはまらないうつ病があることも事実と思われます。

神経可塑性仮説

この仮説はモノアミン仮説から進化した比較的新しい説で、1990年ごろから提唱され始めました。うつ病の原因がモノアミンの減少と捉えているのは同じですが、モノアミンが減少する根本の原因としてBDNFという物質に着目した説です。

BDNFとは、脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotrophic Factor)の略で、trkB受容体という部位に結合し、新しく神経を生み出したり、神経を成長させたりするために必要なタンパク質と考えられています。

BDNFが減少すると神経の発達や新生が不十分になり、神経から分泌されるモノアミンも少なくなくなってしまいます。その結果、うつの症状がおきるのではないかと考えられているのです。

この説もすべてのうつ病の原因を説明できるわけではありませんが、

  • モノアミン仮説の矛盾点が説明できる
  • 仮説として大きな矛盾点が見当たらない

ことから、うつ病の原因の核心に近づいているのではないかと考えられています。

動物を用いた実験によると、脳にストレスをかけるとBDNFが減少すると報告されています。また、動物に抗うつ剤を投与すると、脳の海馬という部位のBDNFが増加することが報告されています。

抗うつ剤だけでなく、躁うつ病の治療に使う気分安定薬や、電気けいれん療法などでも脳内BDNFは増加すると実験では示されています。

また、人間で見ても、難治性うつ病の方の血中BDNFは低いという報告もあり、ストレスがかかりやすい人は血中BDNFも低くなりやすいと言われています。(あくまで傾向というだけで、診断補助になるレベルではありません)

神経可塑性仮説は、うつ病の原因解明としてはまだ不十分かもしれませんが、うつ病とBDNFの関係を表す研究報告は多く、この先のうつ病治療の進化に大きな可能性を持っています。

もしかしたら今後は、BDNFを増やす作用やtrkB受容体を刺激する作用のお薬などの開発が進み、新たなタイプの抗うつ剤が誕生するかもしれません。

【参考】特殊なうつ病のタイプ

うつ病では、症状の違いから定型うつ病と非定型うつ病にわけていくことができます。それとは別に、その原因や時期などから分類したうつ病の概念をご紹介します。

以下の3つのうつ病について、その概要をお伝えします。

  • 冬季うつ病
  • 産後うつ病
  • 薬剤性うつ病

冬季うつ病

うつ病のなかには、季節によって症状が変化するタイプもあります。そのなかでも比較的多く見られるのが、「冬季うつ病」です。

冬季うつ病は、その名の通り秋~冬の時期症状が悪化するうつ病で、「季節性うつ病」「冬うつ」「季節性感情障害」などと呼ばれることもあります。

一般的なうつ病とは異なる部分も多く、うつ病と気づかずに過ごしている方も多いです。また双極性障害(躁うつ病)のうつ状態であることも少なくないため、注意が必要です。毎年寒くなってくると落ち込みやすくなるという方は、冬季うつ病が隠れているかもしれません。

冬季うつ病にはどのような特徴があるのでしょうか?冬季うつ病の主な特徴としては、

  • 日照時間の短い秋~冬に生じる
  • 女性に多く見られる

といったことが挙げられます。

冬季うつ病最大の特徴は、うつの症状が日照時間の短い秋~冬にかけて目立つことです。春に向かうと症状が緩和していくのが一般的です。その状態は1シーズンだけではなく、毎年似たような時期にうつ症状が見られ、周期的にくり返します。これとは反対に「夏季うつ病」というのもありますが、冬季うつ病に比べると稀です。

また、一般的なうつ病の男女比は男性:女性=1:2程度とされていますが、冬季うつ病は1:4くらいの差で女性に多く見られます。

冬季うつ病は基本的にはうつ病で、症状は一般的なうつ病と同じです。しかし、一般的な落ち込みや意欲の低下などに加え、

  • 過眠
  • 過食

の症状が高確率で出現します。

うつ病の治療の基本は、薬物療法、安静な環境、精神療法が主ですが、冬季うつ病の場合は、

光照射療法という治療が軸になります。冬季うつ病の原因は日光の照射不足と考えられていますので、高照度の光を人工的につくり、毎日一定の時間浴びることでうつ症状を改善していきます。

もちろん、一般的な薬物などの治療を併用することはありますが、冬季うつ病においては光照射療法による効果が一番認められています。

このように冬季うつ病は、日照の不足によりおこると考えられています。ただ現段階では1つの仮説で、光照射療法もどのような仕組みで効くのかの明確な答えはわかっていません。

1つの可能性としては、冬季うつ病は覚醒のスイッチを入れる日差しが不足することで、睡眠と覚醒のリズム(概日リズム)がずれてしまい、朝が起きられなくなったり、脳や体の働きが鈍くなったりするのではないかといわれています。

光照射療法には概日リズムを整える働きが期待され、その効果が冬季うつ病の改善に役立っていると考えられるのです。

また、光が不足するとセロトニンが低下するのではないか、メラトニンが低下するのではないかなどいくつかの仮説がありますが、現在のところ、明確に冬季うつ病の原因を断言できるものは無く、いくつかの要因が関わり、同じ冬季うつ病でも異なる原因が関わっている可能性も指摘されています。双極性障害が隠れていることも少なくありません。

冬季うつ病もうつ病の1つなので、まずはうつ病の診断基準を満たす必要があります。その上で、

  • うつ病の症状と季節との関連性が認められる
  • 症状の改善も毎年同じ時期に見られる
  • 2年以上続けて、季節変動によるうつ症状の変化がくり返されている

の基準を満たすと、季節性うつ病(冬季うつ病)の可能性が考えられることになります。

マタニティーブルーと産後うつ病

出産は、人生のなかでも非常に大きな出来事です。多くの場合は、うれしい出来事かと思います。

しかしその反面、親になることへのプレッシャーが大きくのしかかってきます。とくに初めての出産なら、不安になるのが自然なことです。さらに産後はホルモンバランスも変わるので、精神が不安定になりやすいものです。

一般的にはそのような状態を、「マタニティーブルー」と表現します。それが一時的なものなら心配はありませんが、マタニティーブルーが単なる不安定で終わらず、うつ病へと移行してしまうことがあります。そのようなうつ病は、産後うつ病と呼ばれています。

「マタニティーブルー」と呼ばれる状態自体は、特別な病気というわけではなく、出産を経験した方の約半分がかかると言われています。

産後、

  • 不安
  • 落ち込み
  • イライラ
  • 涙もろくなる
  • 眠れない
  • 焦燥感
  • 集中力や意欲の低下

などの抑うつ症状が現れます。

しかし、通常は産後すぐの一時的なもので、産後3~5日がピークで10日もすれば自然と落ち着いていきます。しかしこれが続くと「産後うつ病」といううつ病の1種と考えられ、治療の必要が出てきます。具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。

一番の違いは、症状の持続性です。マタニティーブルーは10日程度で気分が持ち直すのに対し、産後うつ病では抑うつ症状が2週間以上継続し、緩和の兆しが見えてきません。

産後いつまで経ってもマタニティーブルーが改善せず、むしろひどくなっていると感じるようであれば、それは産後うつ病を発症している可能性があります。その場合、心療内科・精神科を受診することがすすめられます。

薬剤性うつ病

薬剤性うつ病は、他の病気の治療で使うお薬の副作用でうつ病が発症した状態です。副作用にうつ症状を持つお薬は意外と多いのです。一例をあげると、

  • ステロイド
  • インターフェロンα・β
  • 抗がん剤
  • 一部の降圧剤
  • 一部の胃薬
  • GnRH誘導体製剤

などがあります。

ステロイドは、副腎皮質ホルモンというホルモンを人工的に投与するためのお薬です。免疫抑制による抗炎症作用が強く、多くの自己免疫性疾患の治療で使われます。軽いステロイドでうつを引き起こすことは稀ですが、プレドニンなどの飲み薬を高用量使っている場合には副作用でうつ状態が見られることがあります。

インターフェロンは、免疫機能や炎症反応などの調整をするサイトカインの1つです。C型肝炎の治療や抗がん剤として使われています。インターフェロンαでは1~3割ほどの患者さんで薬剤性うつ病が認められるという報告もあり、発生頻度が高いことが知られています。また、主に抗がん剤として用いられるインターフェロンβにもうつ病の副作用が見られることがあります。

血圧を下げるためのお薬で、様々な作用のタイプがあります。そのうちで、

  • β遮断薬(インデラル、メインテート、アーチストなど)
  • カルシウム拮抗薬(アムロジン、アダラート、アテレックなど)
  • ACE阻害薬(タナトリル、レニベース、コバシルなど)
  • αメチルドーパ(アルドメット)
  • クロニジン(カタプレス)
  • レセルピン(アポプロン)

などのお薬の副作用でうつ病が見られることが報告されています。ただし、頻度はかなり稀で、多くの場合は問題なく使われています。

胃薬にも多くのタイプがありますが、その中でH2受容体遮断薬と呼ばれるお薬にうつ病の副作用が報告されています。

  • ガスター
  • タガメット
  • ザンダック

などのお薬がそれにあたりますが、こちらもうつ病の副作用の発生はかなり稀です。

GnRH誘導体製剤は、性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニストと呼ばれるお薬です。エストロゲンやアンドロゲンなどの性ホルモンの分泌を抑える働きがあり、女性の子宮内膜症や、男性の前立腺癌などの治療で使用されます。

  • スプレキュア
  • ゾラデックス
  • ナサニール
  • リュープリン

などがあります。

高用量のステロイドやインターフェロン、一部の抗がん剤などの強いお薬での薬剤性うつ病は比較的頻度が高いですが、降圧剤や胃薬などの身近なお薬で発生することはかなり稀です。しかし、可能性が0ではないため、うつ病の患者さんがそれらのお薬を使っていて、他にうつ病にかかるような原因が見当たらない場合、薬剤性うつ病の可能性も考える必要があるのです。

薬剤性うつ病では、

  • 薬剤の投与時期と症状発現の関連性が高い
  • 典型的なうつ病の経過ではない

などの特徴が見られます。

典型的なうつ病では、ストレス要因が発症前に認められることが多いですが、薬剤性うつ病の場合はストレスとの関連性がとくに見られず、お薬を投与された後に症状が出現します。

また、薬剤性ではない典型的なうつ病では、落ち込み、意欲や関心の喪失などが中心の症状となることが多いですが、薬剤性うつ病ではイライラや焦り、幻聴のような症状が目立ったり、うつ病の診断基準から外れた症状の出方をすることがあります。

薬剤性うつ病が疑われたら、一番の治療法は原因となったお薬の中止です。多くの場合、お薬を中止すればうつ症状は改善していきます。ただ、なかにはお薬を中止した後にもうつ症状が持続することもありますので、そのときは一時的に抗うつ剤で治療を行うことがあります。

また、原因になっているお薬の重要性が高く、中止できないというケースもあります。抗がん剤などがそれにあたります。その場合は、お薬を処方した主治医と患者さん本人と相談の上、抗うつ剤を併用しながら服用を続けるという場合もあります。

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カテゴリー:うつ病  投稿日:2023年3月23日

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