神経性過食症(神経性大食症)の症状・診断・治療

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神経性過食症(神経性大食症)とは?

神経性過食症について、精神科医が症状、診断、治療について、詳しく解説していきます。

「過食症」「大食症」の名前の通り過食症の1つですが、食べ物への依存が中心のむちゃ食い障害とは病態が異なります。

ベースになっているのは「やせること」への過度のとらわれで、体型や体重によって自己評価が激しく左右されるのが特徴です。

多くの場合、初めはやせるために食制限を行います。

けれど本能的な食欲との板挟みとなって過食の衝動がおこって思わず食べてしまい、その分のカロリーを何とか消費しようと嘔吐、下剤乱用、無茶な運動や発汗、絶食などに走るようになり、じきに過食嘔吐や下剤乱用が日常化していきます。

最終的には「やせる」という目的からはずれ、過食嘔吐そのものに脳や精神が強く依存してしまい、そこから抜け出せなくなっていきます。

嘔吐、下剤乱用、過剰な運動、絶食などの不適切なカロリー抵抗は「代償行為」と呼ばれ、この過食症に特徴的な症状です。

女性は多くの人がダイエット願望を持ち、ダイエットに励み挫折しということをくり返している人は少なくありませんが、通常は食べ過ぎたときに身を削るような手段をしてまでやせようとはしません

発症は思春期~20代前半の若い女性が多いですが、そのまま続いて30代、40代、50代と過食嘔吐を抱えたまま暮らしている人もいます。最近は男性の患者さんもめずらしくないようです。

この過食症には拒食症に近い心理状態があり、過食+嘔吐などのカロリー代償行為という症状も共通しています。

拒食症とこのタイプの過食症をくり返す人の率も高く線引きは曖昧です。

医学上の区別は、

  • BMIが17以下→拒食症(神経性やせ症)
  • BMIが18以上→過食症(神経性大食症)

となりますが、そこの線引き以上に大切なのは、やせへの執着がどの程度強いか、深刻な心理背景や合併症がないかなどで、病態が非常に幅広いのが特徴です。

診断基準上はこの病気となっても、拒食症の要素が強いときは拒食症としての対応が求められます。

このため神経性過食症の治療では、摂食障害の心理的アプローチを専門的に行える医療機関での治療が必要になります。

当院では残念ながら、摂食障害に関する専門的な治療は行うことができません。

神経性過食症の症状

  • やせたいと強く願っているのに衝動的な過食が止められない
  • 普段はダイエットをしているが、過食が始まると食べる量や内容がコントロールできない
  • 過食で太るのが怖く、嘔吐や下剤乱用、過剰な運動などをしてしまう
  • 過食と絶食をくり返している
  • 過食嘔吐や下剤乱用が日常化している
  • いつも体型や食べるもののことを考えている
  • 体型や食べるもののことで他事に集中できない
  • 太ることに異常な恐怖がある
  • やせていない自分には価値がないと思ってしまう

などになります。

この過食症では、過食衝動とともに、過食で摂ったカロリーに抵抗する代償行為が特徴的な症状です。代償行為は、

  • 自分の意志で嘔吐する
  • 下剤・利尿剤・浣腸などを乱用する
  • やせると言われている薬やサプリを乱用する
  • 徹底した運動をする
  • 脱水症状をおこすくらいサウナに入る

などがあります。

ただし、なかには肥満を強く恐れながら、体質的に吐けない、下剤が使えない、過剰な運動をする体力がないなどの理由で代償行為が行えない人がいます。

この場合、過食のみが症状になるので診断基準上はむちゃ食い障害になりますが、肥満恐怖を抱えながら過食し排出ができず、太っていく恐怖で激しいうつ状態になったり、自殺願望を持ったりすることがあるので注意が必要です。

こちらの過食症では、過食・過食嘔吐への依存も大きな問題ですが、「やせることに強くこだわり過ぎる」「体型や体重によって自己評価が激しく左右される」という肥満恐怖も大きな問題で、そちらに目を向けなければ解決が難しくなってしまいます。

神経性過食症の診断基準

以下のA~Eに該当すること

  • A.普段の食事とは区別される過食行為が見られ、その内容は衝動的で食べるスピード・量・内容・時間帯などをコントロールできない。
  • B.過食によって太るのを避けるため、不適切なカロリー消費行動(代償行為)に走る
    例:自ら嘔吐する
    下剤・浣腸・利尿剤・やせサプリなどを乱用する
    過剰な運動をする
    長時間のサウナなど無理な発汗行為をする
    絶食をする
  • C.過食行為と代償行為は、ともに3カ月以上の期間に平均して週1回以上みられる
  • D.体型・体重によって自己評価や価値基準が大きく左右される
  • E.神経性やせ症(拒食症)の基準は満たしていない期間である

重症度

この病気では、診断基準上で重症度が区分されています。

  • 軽度:代償行為が週に1~3回
  • 中等度:代償行為が週に4~7回
  • 重度:代償行為が週に8~13回
  • 最重度:代償行為が週に14回以上

この回数は、過食嘔吐などのワンサイクルを1回としています。

例えば朝と夜に過食嘔吐をしたら、同日内でも2回とカウントします。

最重度になると、過食嘔吐を1日5~6回、時間帯の区別なくずっとくり返す、細かに30回近く嘔吐するなど、1日のほとんどが過食や代償行為で支配されていることもあります。

神経性過食症の原因

この過食症は根本に「太るのが怖い」という肥満恐怖があります。それは、さほど太っていない人や、むしろ痩せている人、十分魅力的な体型の人に見られることも多いのです。

体型にかかわらず、周囲からすると羨むような美貌や能力を持ち、一流の職を持ち、幸せな家庭を持ちながらもこの病気を抱えている人が大勢います。

「やせたい」「太りたくない」と願う女性は多く、ダイエットに励む人は少なくないでしょう。

やせたいと望みダイエットに励みながら、本能的な食欲に負けて挫折した経験も多くの人が持っているはずです。

しかしながら、それらの女性がすべて摂食障害になるかといえば、そんなことはありません。

それでは、なぜ摂食障害になってしまう人とならない人がいるのでしょうか。

その原因というのはよくわかっておらず、個人によっても違うと考えられます。ただ、なりやすい傾向として、

  • 自己肯定感や自己評価が低い
  • 完璧主義
  • 社会的価値観や他人の価値観に左右されやすい
  • ストレスを感じやすい
  • 自分の感情に鈍い
  • 自分より周囲との調和や他人のことを優先する
  • 必要以上に頑張ろうとする

などの要素があると、摂食障害になりやすいと言われています。

また、脳の性質として過食や過食嘔吐に依存しやすい人としにくい人がいるとも考えられています。

同じような状況に置かれても、依存症になりやすい人となりにくい人がいるのです。

けれど、摂食障害を抱えている人は心理的に何か苦しい状態にある人が多いのはたしかです。

なぜそのような心理状態になってしまったかは、人それぞれです。

成育環境や過去の辛い経験がかかわっていたり、元来の性格の要素が強かったり、個人個人で事情は異なります。

非常に不安定な感情と身近な人への依存性を特徴とする境界性パーソナリティー障害が合併していることもあります。

神経性過食症の治療

神経性過食症の治療も確立はされていませんが、肥満恐怖の裏側にある苦しい心理状態へアプローチしていくとともに、認知行動療法やカウンセリングなど状態に合わせた心理療法を検討するなど、個々の状態に応じた対応が必要です。

お薬についても、人それぞれに対応が異なります。

お薬によって心身の状態を少しでも安定させることで、心理的なアプローチを進めやすくしていきます。

拒食の要素が強いときは拒食症としての対応も必要になり、身体状態が深刻なときは入院管理を行うときもあります。

むちゃ食い障害同様に、依存症の1種として自助グループやNPO法人、電話やネットを利用した心理療法などを行っているところもあります。

それらの併用も有効ですが、いずれにしても医療介入は必要なので、心療内科・精神科は受診することが勧められます。

その上で、主治医とも相談しながら外部機関の利用を検討しましょう。

ダイエット目的での過食嘔吐の怖さ

このタイプの摂食障害も含め、摂食障害になりやすい人は心理的に苦しい人が多いです。

それゆえ、自分自身を痛めつける過食嘔吐や、過度なやせ追求が止められなくなってしまうのです。

過去にとても辛い経験をしたり、深刻なトラウマや過酷な家庭環境、他の障害や精神の病などを抱えている人もいます。

けれど一方で、気軽なノリで過食嘔吐へ足をつっこんでしまい、抜け出せなくなってしまう人もいます。

ネット上では、「過食嘔吐は楽にやせられるダイエット法」「太りたくなければ吐けばいいんじゃん」などの表現が見られることもありますが、過食嘔吐は思っている以上に脳が強く依存します。

太りたくないからと我慢していた食べ物を食べるだけ食べ、あとは吐いてスッキリ。最初はそんな風に感じてしまうため、その快楽が脳に強くインプットされてしまうのです。

そこからが恐ろしい負のループの始まりです。

最初は自分でコントロールしているつもりだった過食や嘔吐はじきにコントロールを失い、その頻度や使うお金は加速的に増え、頭の中が食べることや吐くことで支配されるようになっていきます。

それが続けば体にも様々な悪影響が及びます。

気づけば歯や肌はボロボロになり、嘔吐の影響で顔はむくみ毛細血管が切れ、内臓は弱り、本格的な病気へと進行していきます。

過食嘔吐によって体力や集中力は落ち、仕事や家事に集中ができなくなり、大切な人との時間よりも過食嘔吐の欲求が勝つようになり、人間関係や社会的な信頼も失っていきます。

本格的な摂食障害になると、肥満恐怖も過食・嘔吐の衝動も自分でコントロールのできない非常に苦しいものです。

けれど、まだそこまで達していなくて自分の意志がきいているのなら、軽い気持ちで過食嘔吐をするのは絶対にやめてください。

その1歩が思わぬ広がりを見せ、習慣となって10年20年とわたり、青春も健康もお金も人からの信用も失い、それでもなお過食嘔吐から抜けられず苦しみながら、「あのとき過食嘔吐なんておぼえなければ…」と後悔している人が実際にたくさんいるのです。

過食嘔吐という明らかに不健康な行為と将来のリスクを抱えてまでやせようとすることに果たして意味があるのか、よく考えて踏みとどまってほしいと心から願います。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:摂食障害  投稿日:2023年3月23日

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