過眠症こころみ医学

【精神科医が解説】ナルコレプシーの症状・診断・治療

  • 更新日:2019年09月07日 13:16
  • 作成日:2019年09月09日 22:00

ナルコレプシーとは?

ナルコレプシーは、日本人には比較的多くみられる過眠症です。世界での有病率は約2,000人に1人とされていますが、日本人では約600人に1人と報告されています。

この過眠症では日中に強い眠気が生じ、重要な会議中や会話中、車の運転中など普通では考えられないような状況でも急に眠りに落ちてしまいます。

シーンを選ばず発作のようにストンと眠りに落ちてしまうため、社会的な信用を失ったり、重大な事故につながってしまったりするリスクも高いため、治療が強く勧められる過眠症の代表です。

睡眠発作のほか、笑ったり興奮したりすると全身の力が抜けたり、金縛りや幻覚が生じたりと様々な症状が現れることもあります。脳の睡眠・覚醒コントロール機能に異常がある中枢性過眠症の代表的な病気で、お薬による治療が必要となります。

ナルコレプシーの症状

ナルコレプシーには主に5つの症状があります。

  1. 日中の強い眠気と急な居眠り(睡眠発作)
  2. 情動脱力発作
  3. 睡眠マヒ(金縛り)
  4. 入眠時の幻覚
  5. 熟眠障害

①の睡眠発作以外の症状はすべての患者さんにみられるわけではありませんが、②の情動脱力発作(大笑いしたり、興奮したりした後に体の力が抜けてしまう)はナルコレプシーに特徴的で、①と②が確認されればナルコレプシーと診断ができます。

また、この病気では覚醒-睡眠の境目があいまいになり、夜間の睡眠は浅いレム睡眠が増えます。そのため、金縛り、入眠時の幻覚、悪夢、寝言などが増え、夜間に熟眠できなくなります。

日中の強い眠気と急な居眠り(睡眠発作)

ナルコプレシーでは日中に強い眠気が生じるだけではなく、実際に居眠りをしてしまいます。この眠気と居眠りは、

  • 睡眠不足によるものではない
  • 眠気は耐えがたいほど強い
  • 通常では考えられないシーンでも眠りに落ちてしまう
  • 2030分で目覚めるが、またすぐに眠気がおこる

という特徴があります。

睡眠不足によって強い眠気が生じるのは普通ですが、ナルコレプシーの方は夜の睡眠時間は十分であるにもかかわらず、日中に耐えがたいほどの眠気がおそいます。

そして実際に眠り込んでしまいますが、健常な人がうたた寝するような感覚ではありません。その症状は「睡眠発作」と呼ばれるほど急速で、普通ならあり得ないような状況でも急に眠り込んでしまうのです。

デスクワーク中や授業中などはもちろんのこと、大切な会議中であったり、食事中や会話中など「そんな状況で寝るなんてありえない」と周囲が驚くような状況でも居眠りをすることがあります。

その寝入りは突然で、まさに発作のようにストンと眠りに落ちてしまいます。そこに意志の力は働かないため、車の運転中や危険作業中におこると非常に危険です。治療をして眠気がコントロールできるまでは、運転を控えなくてはいけません。

ナルコレプレシーの眠気は、2030分の仮眠をとれば一応スッキリと目覚めます。しかし、またすぐに眠くなってしまい、再度居眠りをするというサイクルをくり返してしまうのです。この状態では日常生活に大きな支障がおよぶのはもちろん、状況によっては大事故や命の危険にすら及びます。

情動脱力発作

この発作は、ナルコレプシーに独特の症状です。情動とは感情のことですが、笑ったり、喜んだり、泣いたり、怒ったりと強い感情が生じたときに身体の力が急に抜けてしまいます。

この症状は個人差が大きく、わずかな情動で脱力がおこる方もいれば、ほとんど確認できないこともあります。

脱力する部位はアゴや舌など局所的にとどまることもありますが、特徴的になると両膝がガクっと折れてしまったり、背中などの姿勢筋が脱力して転倒や転落につながってしまうこともあります。

脱力の時間は数秒から長くても2分程度ですぐに回復し、意識を失うことはありません。

睡眠マヒ(金縛り)

金縛りを経験したことのある方は多いと思いますが、ナルコレプシーの方はそれがしばしば生じます。睡眠中、目が覚めたときに身体が動かなくなってしまいます。

金縛りは、浅いレム睡眠のときに覚醒してしまう事でおこると考えられています。レム睡眠は、脳が活動し身体は完全に脱力して眠っている状態です。このときに目覚めてしまうと、意識はあるけども身体は寝ていて動かない金縛りがおこるのです。

ナルコレプシーではレム睡眠の頻度が増えるため、金縛りが生じることも多くなります。

入眠時幻覚

ナルコレプシーでは、入眠時に幻覚を生じることもしばしばあります。患者さんの約80%で見られる症状です。

脳の覚醒を維持するオレキシンの活性不足で覚醒と睡眠のバランスが崩れ、入眠時に中途半端な覚醒状態になって生じると推定されています。

その幻覚は生々しく、実態感をともなうのが特徴で、統合失調症などで生じる幻覚とは異なります。

睡眠マヒ(金縛り)と入眠時幻覚は同時におこることも多いため、金縛りにあいながら生々しい幻覚を見ることになってしまい、患者さんは大変怖い思いをすることになります。

熟眠障害

ナルコレプシーでは覚醒と睡眠のバランスが乱れるため、夜間の睡眠にも障害をきたします。

入眠時には睡眠マヒ(金縛り)や幻覚が生じ、入眠後も深い眠りが得にくく、十分な疲労回復ができません。そのため、睡眠時間は十分でも身体や脳には疲れが残り、日中の眠気をさらに加速させてしまいます。

ナルコレプシーの検査・診断

実際の診察では、

  • 日中の耐えがたい眠気と急な居眠りをくり返す(睡眠発作)
  • 感情によって身体の力が抜けてしまう(情動脱力発作)

2点で診断をすることがほとんどです。この2つの症状が明らかであれば、ナルコレプシーと考えます。

ナルコレプシーの疑いはあるものの、情動脱力発作の症状が明らかでないときは、

  • 脳脊髄液検査
  • ポリソムノグラフィ
  • 睡眠潜時反復検査

など詳細な検査が検討されますが、それらは外来で簡単にできるような検査ではないため、大きな病院で1泊入院しての検査になります。

ナルコレプシーの原因

以前は「原因がまったくの不明」と言われていたナルコレプシーですが、近年はその研究が進み、原因が少しずつ解明されてきました。

主な原因としては、

  • オレキシンの働きの低下

があげられています。

オレキシンは覚醒を維持する作用がある物質です。オレキシンの働きが低下してしまう原因についてははっきりわかっていませんが、

  • 免疫の異常
  • 遺伝

などが可能性として考えられています。

ナルコレプシーの発症にはオレキシンという物質が大きく関与すると考えられています。オレキシンとは、脳の覚醒状態を維持する作用のある物質です。この働きが低下すると脳が覚醒を維持できなくなるため、すぐ眠くなってしまうということがおこります。

なぜオレキシンの働きが低下するかの詳細はわかっていませんが、何らかの原因でオレキシンを合成する産生細胞が減少したり、機能が低下したりする事でナルコレプシーが発症すると考えられています。

睡眠薬の中にはオレキシンの働きを抑える「ベルソムラ」というお薬があります。それは過眠と反対の不眠症に使うお薬ですが、オレキシンの働きを低下させれば眠りやすくなるということです。そのことからも、オレキシンの低下が眠気を誘うことがわかります。

オレキシンが低下するとただ眠くなるだけではなく、覚醒-睡眠のバランスが崩れます。すると体内時計のリズムも乱れ、夜の睡眠の質も低下するようになってしまいます。オレキシンの低下で日中の覚醒が中途半端になると、睡眠の状態も中途半端になり、浅いレム睡眠が増えて熟睡することが難しくなります。

免疫の異常

オレキシン合成細胞の減少や機能低下の原因の可能性としてあげられているのは、免疫機能の異常です。

本来は有害な異物を除去するための免疫が誤作動をおこし、自らのオレキシン細胞を攻撃してしまうのではないかという説がありますが、現在のところ仮説にとどまっています。

何らかの感染症に伴って免疫異常が生じ、しばらくしてナルコレプシーが発症することもあると考えられています。

遺伝

ナルコレプシーは確実に遺伝する病気というわけではありませんが、ある程度の遺伝性があると考えられています。

ナルコレプシーの患者さんにはDR2という白血球抗原(HLA)遺伝子が共通してみられることが多いことからも、遺伝との関連性が推測されています。

ナルコレプシーの治療

ナルコレプシーの治療では、症状によって対応するお薬を組み合わせます。

主に使われるお薬は、

  • 昼間の眠気→精神刺激薬
  • 情動脱力発作・金縛り・入眠時幻覚→抗うつ剤(三環系)

となります。

このうちでメインになるのは精神刺激薬です。精神刺激薬は、中枢神経に働くドパミンやノルアドレナリンを増やし、脳を覚醒させるお薬になります。主な種類は、

  • モディオダール(モダフィニル)
  • リタリン、コンサータ
  • ベタナミン(ベモリン)

です。

情動脱力発作・金縛り・入眠時幻覚の症状には、レム睡眠を減らす作用がある一部の抗うつ剤に症状改善の効果が期待されています。

具体的には、

  • 三環系抗うつ薬
  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

というタイプの抗うつ剤です。とくに少量の三環系抗うつ薬が効果的であることが多いですが、便秘や口渇などの副作用に注意が必要です。

モディオダール(モダフィニル)

ナルコレプシーの眠気に対するお薬として、最初に選択されることの多いお薬です。

モディオダールの特徴は、

  • 覚醒作用がおだやか
  • 依存性が低い
  • 効き目が長く続く

となります。

精神刺激薬の中では安全性が高く、使いやすいお薬です。

リタリン・コンサータ

モディオダールの効果が薄いときは、さらに覚醒作用の高いお薬が検討されます。

リタリン・コンサータは主にドパミンに働き、強い覚醒作用を持ちます。

特徴は、

  • しっかりとした効果が期待できる
  • 依存性のリスクがモディオダールより高い
  • 流通管理されており、登録医のみしか処方できない

となります。

覚せい剤と似た作用をするため、処方以上に飲んでしまうと依存・乱用のおそれがありますが、専門医の指導のもとで用法・用量をきちんと守れば有用なお薬です。

リタリンが使われることはほとんどなく、徐放製剤のコンサータが使われることが多いです。

ベタナミン(ベモリン)

ベタナミンもドパミン系に働き、強い覚醒作用を持つ精神刺激薬です。

特徴は、

  • モディオダールより効果が強い
  • リタリン・コンサータより効果が弱い
  • 肝臓に負担がかかりやすい

となります。

こころみ医学 - 内科の症状 - 【精神科医が解説】ナルコレプシーの症状・診断・治療