夜驚症(睡眠時驚愕症)の症状・診断・治療

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夜驚症(睡眠時驚愕症)とは?

夜驚症の症状診断治療について、精神科医が詳しく解説していきます。

睡眠中、突然おびえたように叫び声や悲鳴、泣き声を上げ、目を見開いたり、起き上がったり、パニックをおこしてしまう。

そんな症状が続いて生活に支障がおよぶ状態を「夜驚症(やきょうしょう)」「睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう)」といいます。

深いノンレム睡眠から中途半端に覚醒してしまうことが原因で、2歳~6歳ごろの小児を中心にみられますが、ほとんどの場合は一過性です。

通常は、小学校高学年~思春期までに症状は消えていきます。ごくまれに成人で発症することがあります。

睡眠時のパニックは小児ではめずらしい現象ではなく、それ自体が病的というわけではなく、いわゆる「夜泣き」も含まれます。

ですが本人やご家族に何らかの支障がある、症状がひどくなっていくなどの場合には1つの病気として対応します。

自宅で見守るときには、パニックによってケガをしないよう寝室環境に配慮したり、心身にストレスをためず睡眠リズムを整えるなどのことが大切です。

夜驚症の症状

症状は夜間の睡眠中に(まれに昼寝のときにも)おこります。

睡眠中突然に、

  • おびえたような叫び声・悲鳴・泣き声をあげる
  • 目を見開く
  • 急に起き上がる
  • 体を激しく動かしパニックをおこす
  • ベッドから逃げ出そうとする

などの行動がおこります。実際に部屋の外まで飛び出してしまうことはほとんどありませんが、逃げだすようにドアへ向かって走り出すことがしばしばあります。

そして、

  • 恐怖にひきつった表情
  • 多量の汗
  • 呼吸が速くなる

など、強い自律神経の興奮もみられます。何かに激しく驚いたり、強くおびえたりしたときと同じ状態になっていますが、目覚めているわけではありません。最中に声をかけても覚醒はせず、パニックは一時的で30秒~5分程度、長くても10分程度で落ち着き、何事もなかったように再び眠りにつきます。

周囲から見ていると「よっぽど怖い夢でも見たのだろうか」と思うのですが、悪夢にうなされて…というわけではありません。ほとんどの場合患者さんに夢の記憶はなく、目覚めた後にはパニックのことも覚えていないことが多いです。

パニック時に誰かがなだめようとしても無効で、パニックをおこしている間、患者さんは自分がどこにいるかがわかっておらず、家族の顔も認識することができません。

夜驚症の診断・検査

一般的な外来の診察では、ご家族からの症状の聞き取りで夜驚症を診断します。診断の基準は、

  • 睡眠中に恐怖感をともなうパニックがおこる
  • 瞳孔の散大、頻脈、発汗、呼吸が速くなるなどの状態もみられる
  • 症状は睡眠の前半1/3に多くみられる
  • 症状は1~10分程度で治まる
  • パニック時に声をかけても覚醒しない
  • 夢の内容を聞いてもほとんどおぼえていない
  • 覚醒後、本人はパニックのことをおぼえていない
  • 症状が他の病気や薬物の影響によるものではない
  • 症状によって生活になんらかの支障がある

の点をみます。

この内容は国際的な診断基準にもとづくもので、夜驚症の診断では主にアメリカ精神医学会が発刊するDSM-5という基準を使います。WHO(世界保健機関)が出しているICO-10にも同様の診断基準があります。

他の病気が疑われるときや判断が難しいときは、大きな病院での検査が勧められることもあります。

詳細な検査はビデオ撮影をしながらの終夜ポリソムノグラフィ検査で、1泊入院し、睡眠中の脳波や筋肉の状態をはかる機械を取り付けて眠り、ビデオ撮影もして睡眠中の様子を確認します。

夜驚症の有病率

小児期を中心におこり、年齢が高くなるにつれて頻度は低下します。

睡眠時のパニック自体の症状は生後18カ月で36.9%、生後30カ月で19.7%、成人では2.2%との報告がありますが、症状によって特別な苦痛や被害がなければ病気としては診断されません。

夜驚症(睡眠時驚愕症)全体の有病率は不明ですが、小児で約15%というデータがあります。比較的男の子に多くみられます。

夜驚症の原因

直接的な原因は、

  • ノンレム睡眠からの覚醒障害

です。

ノンレム睡眠は、体は起きて脳が眠っている深い睡眠です。夜驚症の症状はこのノンレム睡眠時、中途半端に覚醒してしまうことでおこります。同じようにノンレム睡眠の異常である夢遊病(睡眠時遊行症)との関連が深いと考えられています。

そのような状態がおこる原因についてはっきりとしたことはわかっていませんが、

  • 睡眠覚醒の機能が未熟
  • 遺伝
  • 心身のストレス
  • 睡眠リズムの乱れ
  • 恐怖体験
  • 薬の影響
  • 発熱

などがあげられています。

睡眠-覚醒の機能が未熟

成長中の小児の場合、まだ脳の睡眠機能が不完全で、眠っている状態から上手に覚醒することができず、おこると考えられています。この場合は成長とともに落ち着く一過性のものです。

遺伝

発達途中の小児すべてに夜驚症の症状がおこるわけではありません。それが生じるかどうかは遺伝的な要素も強いといわれていますが、ほとんどの場合は成長とともに落ち着きます。

心身のストレス

精神的な不安や疲れなど、心身に強いストレスがかかっているときは症状がおこりやすくなります。

寝不足や、入眠起床のタイミングがバラバラなどの状態になり生活リズムが乱れると、睡眠中のコントロール機能が不安定になります。

恐怖体験

日中に精神を強く興奮させることがあったり、恐怖体験をしたりすると症状がおこりやすいとも言われています。

症状がかなり重い一部のケースでは、心的外傷を受けるような実体験がかかわっている場合もあるようです。

薬の影響・発熱

鎮静剤や解熱剤、パーキンソン病治療薬などでは、夜驚症の症状を引き起こす可能性が報告されています。

また、熱がある状態のときは症状が出やすくなります。

夜驚症の自宅での対応

子どもの夜驚症は、ほとんどの場合、年齢とともに治まっていきます。ほとんどの場合それ自体が病的というわけではないため、軽度で本人やご家族に特別な支障がなければ、無理に治療をする必要はありませんが、

  • 本人やご家族が苦しんでいる
  • 症状が重い・毎夜のように続く
  • 症状が一晩に何度もおこる
  • だんだん症状が強くなっている
  • 他の病気ではないかと不安になっている

などのときは病院に相談しましょう。夜驚症の診断・治療は精神科・心療内科・睡眠外来が基本ですが、小児科で対応している所もあります。

自宅で見守るときには、

  • パニック時にケガをさせない環境を整える
  • 心身のストレスや生活リズムの安定を心がける
  • ご家族は冷静に見守る

の点を意識しましょう。

パニックがおこったときにケガをしないように、ベッド周囲にはできるだけ物を置かず、ベッドから転げることが多ければ布団に変えるなどの配慮をします。

夜驚症の症状は、

  • ストレス
  • 疲労
  • 睡眠リズムの乱れ
  • 刺激の多い環境

などがあると出やすくなると言われています。

精神的なストレスや体の疲労、睡眠リズムの乱れなどがあると症状が出やすいため、日ごろから心身の状態や生活リズムを整え、心身を安定させてあげることが大切です。眠る前に精神が興奮する内容のDVDを見たり、ゲームをすることも避けた方が望ましいです

パニック時に慌てておさえようとするとパニックを増長させる恐れがあるため、ご家族の方は落ち着き、ケガだけはしないように見守ってあげましょう。また、症状へ過度に反応せず、気長な気持ちで接していくことも大切です。症状によって精神的・肉体的に辛いと感じるときや、不安があるとき、症状がひどくなっていくように感じるときは病院へ相談してください。

夜驚症の治療

病院での治療も、基本は自宅での環境調整が中心になります。それに加え、心理状態によっては心理療法や、症状がひどいときには一時的な安定剤の使用などを合わせて行います。

精神的なストレスが強い場合や、こころの不安定さがひどいときには、カウンセリングや家族療法などの心理療法が勧められることもあります。お子さんの場合はストレスを言葉にすることが難しいことが多く、箱庭療法などを行うことがあります。

お子さんの場合、お薬を使うことは少ないですが、重症のときは少量の抗不安薬を就寝前に使うことがあります。

症状が落ち着いてきたら減量するようにし、最終的には中止します。お薬を使用するときも環境調整や心理的なアプローチなども同時に行っていくことが大切です。

夜驚症と似た症状の病気

夜驚症と似た症状をおこす病気には、

  • てんかん
  • レム睡眠行動障害
  • 夢遊病(睡眠時遊行症)
  • 悪夢障害
  • 錯乱性覚醒

などがあります。

てんかん

夜驚症との判別でもっとも注意が必要なのはてんかんで、てんかん発作のときに強い恐怖感をともなうことがあります。

前頭葉てんかんや側頭葉てんかんの複雑部分発作では、夜驚症とよく似た状態になることがあります。

てんかん発作の場合は、一晩に何度も症状があったり、昼寝のときもおこったりします。

レム睡眠行動障害

睡眠時に明確な寝言や、しっかりとした体の動きがおこります。

夜驚症とは反対に浅いレム睡眠時に症状が現れ、見ている夢の内容に合わせて体が連動してしまう障害です。

夜驚症と異なり声をかければすぐに目覚め、夢の内容も鮮明に覚えているのが特徴です。患者さんは40代以降の男性が主ですが、まれに小児でおこることもあります。

夢遊病(睡眠時遊行症)

夜驚症と同じノンレム睡眠からの覚醒障害でおこるものに夢遊病(睡眠時遊歩症)があります。

夜驚症のように恐怖をともなうことはありませんが、睡眠中に意識がないまま動きまわり、動く範囲は夜驚症より広いことが多いです。この2つは合併することもあり、関連が深いと考えられています。

悪夢障害

恐怖や不安な夢にうなされることが続きます。

夜驚症のように無意識のまま動くことはなく、起きた後は夢の内容を鮮明におぼえています。子どもに多いですが成人期や老年期まで続くこともあります。

錯乱性覚醒

覚醒途中、または覚醒後に精神的な混乱がみられる状態です。強い恐怖感は伴わず、いわゆる「寝ぼけ」で、ぼーっとして起きている状態になります。

夜驚症の患者さんにもよくみられる症状で、それによって問題がなければ特別な治療は必要ありません。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:不眠症(睡眠障害)  投稿日:2023年3月23日

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