心身症の症状・診断・治療

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心身症とは?

心身症の症状や診断、治療について、精神科医が解説します。

心身症とはひとつの病気ではなく、精神的なストレスによって身体症状が出ている状態のすべてになります。ですから、症状の発生や悪化にストレスが影響している身体の病気や症状はすべて心身症に含まれます。

「心身症」という言葉が初めて使われたのは、1818年のドイツです。ドイツの医師が睡眠障害についての論文の中で初めて「心身症」というキーワードを使用したと言われています。

心と身体が相互に作用しあっているという考え方自体は、「心身症」の言葉が生み出されるずっと以前の古い時代からありました。

日本にも昔から「病は気から」ということわざがあるように、精神状態が身体の健康に大きな影響を及ぼすことは昔の人も感覚的に知っていたわけです。

ところが近代西洋医学が進化する中で、心と身体の症状を別々にして扱うことが主流となっていきました。

ですが様々な臨床経験から研究が進められる中で、再び「心と身体は切っても切れない関係」という意識が強くなり、身体の病気とはいっても心の問題を無視しては対応が難しく、病気の治療のためには心身両面からのアプローチが必要という考え方がでてきました。

そういった背景の中で、心身症を扱う専門として心療内科という科がうまれました。一般的に心療内科は、比較的やさしい心の病気を扱っていると認識されていますが、本来はストレスによって体にあらわれている病気(心身症)の治療を行っています。糖尿病や高血圧であっても、ストレスの影響が大きければ心身症になるのです。

心身症の症状

心身症は、「精神的なストレスが関わった身体の症状の総称」ですので、特別に決まった症状というのは存在していません。精神的なストレスが身体にどのような症状を引き起こすかには個人差があり、人によって幅広い症状が見られます。

精神的なストレスによって自律神経のバランスが乱れることから、よく見られる症状としては、「自律神経症状」と呼ばれる以下のようなものがあります。

自律神経失調症で認められる症状を一覧にしました。

これらの症状でとくに目立つ症状がある場合は、何らかの病名がつけられることがあります。例えばストレスで下痢が起こってしまう方は、過敏性腸症候群と診断されます。腸が過敏になっているという「機能の異常」ととらえた、内科的な病名です。

こうした自律神経症状だけでなく、ストレスによって実際に糖尿病や高血圧といった身体の病気になってしまうこともあります。

心身症の含まれる病気

心身症の種類はとても多く、一見すると精神的ストレスが関わっているとは感じられない病気も含まれます。幅広いジャンルの多くの病気の原因に精神的なストレスが関与しているのです。

自律神経失調と関連の深い病気についてまとめました。

この病気のすべてが心身症というわけではなく、その病気の発症や症状の悪化と精神的ストレスとの関連性が深いと判断された患者さんに対し、心身症という診断がつきます。

一般的に心身症の症状としてよくみられるのは、

  • 頭痛
  • 胃痛(胃潰瘍)
  • 下痢・便秘
  • 吐き気

などがあります。その症状の状態により、「緊張性頭痛」「片頭痛」「急性胃潰瘍」「慢性胃炎」「過敏性腸炎」などの病名がつけられることがあります。どのような病名がついたとしても、その根本原因が精神的ストレスにあるとしたら、それはすべて心身症といえます。

一方で同じ症状でも、単純に身体の方に問題がある場合もあります。下痢の症状を例にすると、食あたりや食べすぎなどが原因なら心身症にはあたりませんが、そのような原因が無いのにくり返し下痢をおこすような場合には、心身症の疑いがあります。

また、糖尿病や高血圧症などの体質や食生活が深く関わる身体の病気であっても、精神的なストレスによってその症状が大きく左右されてしまうことがあり、その場合には心身症としての対応も重要になります。

糖尿病などを薬や食事療法でコントロールしている場合、強いストレスがかかったとたんに薬や食事は変えていないのに、症状が急に悪化してしまうことがあります。ストレスは血糖の上昇やホルモンの分泌にも大きな影響を与えることが医学的にもわかっています。

精神的なストレスは思っている以上に深く身体の状態と結びついており、心の問題を無視したままで薬物療法などを続けても、なかなか治療効果が発揮されなかったり、一度落ち着いたはずの病気が再燃してしまったりすることがあるのです。

心身症をチェックするポイント

同じ病気や症状であっても心身症のケースとそうではないケースがありますが、心身症にはどのような特徴があるのでしょうか。心身症になりやすい人の特徴やその症状の特徴から、心身症かどうかをチェックするためのポイントをご紹介します。

  • 症状に波がある

心身症の症状はストレスに左右されるため、症状に波が見られるのが特徴です。例えば、休みの日と出勤の日では痛みの強さが明らかに違ったり、特定の人と過ごしたときや苦手な場面の前後に症状が悪化したりということがあります。

  • 治ったと思っても再発してしまう

心身症では、その原因は身体だけではなく心にもあります。このため、薬などで身体の治療をしていったんよくなったとしても、ストレスの方が解消されていないと、しばらくしてまた再発しています。

  • 身体の病気がなかなか治らず薬が増えてしまう

心身症では、その原因となっているストレスが解消できなければ、薬の力もなかなか上手く働きません。そのため、むやみに薬の量が増えてしまい、薬で症状が改善されないことでさらにストレスが増える悪循環におちいってしまうことがあります。

  • 明らかなストレスのきっかけがある

自分でも思い当たるような明らかなストレスがあるのでしたら、その後におこった身体の変化は心身症の可能性があります。

  • 最近大きな生活上の変化があった

自分ではとくに思い当たるようなストレスを感じていない場合でも、生活に大きな変化があったときには無意識の負担が心身にかかりやすいものです。悪い方向への変化はもちろんのこと、その変化がたとえ嬉しいことであっても、心身の負担となっているケースがあります。

  • 自分のストレスになかなか気づけない

ストレスは、自覚ができていればそれを発散させようと試みることができますが、自分のストレスに気づきにくい人は知らないうちにストレスが積もり、それが身体の症状となって現れてくる場合があります。

  • 周囲の人や雰囲気に合わせすぎる傾向がある

自分の感情に鈍感で周囲に合わせすぎる傾向がある方は、無意識のストレスがかかりやすくなります。「本当は嫌なのに断れない」「疲れているのに笑って引き受けてしまう」などの傾向が強いと心身症にかかるリスクが高いと言われます。さらにハイリスクなタイプとしては、その傾向自体に自分が気づけていない場合です。

  • 過去に大きなトラウマをかかえている

自分でも受け止めきれないほど重大なトラウマ(心的外傷)を過去に負った方は、心身症になることが多いと言われています。過去に大きなトラウマをかかえている方は、自分の心を守るために感情やストレスには鈍くなりますが、その分の抑圧や無理が身体への症状となって現れてくることが多いのです。

  • ストレス発散の手段をもっていない

生きていくためにストレスを避けることはできませんので、ストレスがたまらないよう発散できる手段をもっていない方は心身症にかかりやすくなります。

ストレス発散と言っても、特別な時間や場所やお金のいる趣味などはできないことも多いので、もっと身近で、日々のガス抜きがコマメにできるような即効性のストレス解消法を持っているかどうかが大切です。

  • 相談できる人がいない

「人に話す」ということは、モヤモヤしているストレスを形にして外に出すことができるので、ストレス対処法としては有効です。ストレスがあるときに1人で抱え込んでしまう方は、心身症になりやすいと言われています。

心身症を診断基準とは?

心身症は正式な病気というよりは、病気に対する概念になります。ですから病名として、正式な診断基準があるわけではありません。日本心身医学会では、心身症を以下のように定義しています。

「心身症とは、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関係し、器質的ないし機能的障害が認められる病態を指す。ただし、神経症やうつ病などの精神障害に伴う身体症状は除外する」

これを簡単にまとめると、心身症とは以下の3つの条件を満たすものということになります。

  • 心理社会的ストレスが発症や経過に密接に関係している
  • 身体の病気である
  • 神経症やうつ病などの精神障害ではない

心身症は、「心」が病気の原因や要因となっているものの、それが精神障害にはつながらずに「身体の症状」という形で現れたものです。

そのため、病名としては例えば「慢性胃炎」や「過敏性腸炎」や「高血圧症」などのように、身体の病気としての診断名がつくことになります。そして、現実に胃に穴が開いたり腸が炎症をおこしたり血圧が上昇したりという身体の症状が認められます。

ですが、身体の病気と心の病気は簡単に区別できるものではありません。精神障害ではないと断定できないことも多く、その境界はあいまいです。ストレスが関係して身体症状がメインであれば、心身症として幅広く扱っていきます。

心身症と神経症の違い

心身症と混同されやすい病気の1つに、「神経症」というものがあります。

心身症は「精神ストレスが大きく関わる身体の病気」であるのに対し、神経症は「病的な不安を主な症状とした精神の病気」です。そのため本来は、心身症を治療するのは心療内科、神経症を治療するのは基本的に精神科となります。

現在の神経症の考え方は、哲学者として有名なフロイトによって生まれました。フロイトは病的な不安による病態に注目し、それを不安神経症と呼びました。一般的に神経症というと、この不安神経症のことを指しています。

現在の診断基準では、不安神経症は「不安障害全般」となり、そのなかにはパニック障害、社交不安障害、全般性不安障害、強迫性障害、身体表現性障害、解離性障害、心的外傷後ストレス障害などの病気が含まれます。

神経症にも胃腸障害や動悸などの身体の症状がともなうことが多いため、心身症との境目がわかりにくいのですが、心身症は主に身体の症状が目立っているのに対し、神経症では「病的な不安」「強迫的な思考」など精神症状での問題の方が中心となっているのが特徴です。

心身症の原因

過度なストレスは、自律神経系や内分泌系、免疫系と相互に作用しあって身体に影響を及ぼします。これらのシステムは全身の様々な部位の働きと密接に関与しているので、その結果、身体のあちこちに普段とは違う不調や異変が感じられるようになります。

つまり、心身症に共通する原因とは「過度なストレス」ということになります。一口にストレスと言っても様々なものがあり、イライラ、悲しい出来事、嫌な人間関係などのわかりやすいものもあれば、昇進や結婚などの嬉しいはずの生活の変化が自分では気づかないうちに負担となっていたり、自覚できていない隠された感情が無意識のストレスとなって心身症を引き起こしていたりする場合もあります。

けれど、単純にそれらのストレスがかかっただけで心身症になってしまうわけではありません。人により、ストレスの受け止め方や耐えられるストレスの量は異なるため、本人の許容範囲を超えたストレスがかかったときに心身症が発症すると考えられます。

ストレスとは、身体や心に何らかの変化をおこすものの総称です。例えば、外の風や天候なども身体に影響するのでストレスの1つです。心身症の原因として大きく関わるストレスには、心理的ストレスと社会的ストレスがありますが、これには良い出来事や嬉しい感情などのプラス要素も含まれています。

心理的ストレスとは、自分自身の心理的な要素から生じるストレスです。具体的には、健康問題や喪失体験、失敗や挫折、将来への不安などが挙げられます。

社会的ストレスとは、社会生活の中で生じるストレスです。主に人間関係が原因となり、学校・仕事・家庭での様々な摩擦がメインとなります。

ストレスが強くかかりやすいのは、生活面で大きな変化がおこったときです。それが大切な人との別れや失職などなら明らかに強いストレスがかかったと自覚することができますが、結婚や昇進や出産などの喜ばしい出来事であっても、生活環境が大きく変化すれば心身が消耗し、心身症の原因となっている場合もあります。

心身症になりやすい性格傾向

環境の変化や明らかに難しい人間関係などの要因によるストレスは、その原因がはっきりとしています。大切な人との別れ、失職、悩み事などのストレスが心身症の原因となっているケースは、現実にストレスの原因があるという意味合いで「現実心身症」と呼ばれることがあります。

一方、現実の環境や出来事にはそれほど大きなストレス要因が見当たらないのに、日常的にささいなストレスが積み重なって心身症の原因となってしまうこともあります。

それは、「ストレスをため込みやすい性格傾向」により、日常の生活の中で受けるストレス量が多い場合に見られます。外側にストレスの原因があるというよりは、本人の思考・行動パターンがストレスの原因となっているケースで、こちらのタイプは性格心身症と呼ばれることがあります。

心身症にかかりやすい性格傾向の1つとして、アレキシサイミア(失感情症)があります。アレキサイミアは、「失感情症」とも呼ばれます。

その字の通り、自分自身の感情になかなか気づけず、嫌なことや辛いことがあってもいつも淡々としていたり、温厚で明るく前向きな状態がキープされていたりするような人のことを指します。

外に向かってそのようなフリをすることはよくありますが、アレキシサイミアの方の場合は自分自身で自分の感情が自覚できず、本当に自分は何も感じていないと思い込んでしまっていることが多いのです。実際には感じていないわけではないのですが、それを自分で上手く認識することができません。

また、仮に感情を認識できたとしても、それを客観的にとらえて省みることが苦手です。怒りや悲しみなどの感情は、それに気づき客観的にとらえることができないと上手く処理ができず、内部で押し込められて膨らんでしまいます。

自分自身の感情への理解や付き合い方が苦手な方は、他人の感情を想像するのも苦手で、適度なコミュニケーションができない傾向があります。そのため、相手に対して過剰に適応してしまい、本当は嫌なことも無理に引き受けてしまったり、自分を押し殺して周囲へ合わせてしまったりします。

周りから見ると、真面目で仕事熱心で頑張り屋さんで、人からの頼み事にはノーと言わず引き受け、とても気づかいのある良い人という印象になります。けれど、本当は「嫌だ」「疲れているからやりたくない」「それは私がやるべき仕事ではないのに」などの感情を抱えていて、その感情を自覚できずに抑圧したまま周囲に合わせるので、非常にストレスがかかりやすくなります。

アレキシサイミアの原因としては、生まれ持った自閉傾向に加え、母子関係を中心とした養育環境が大きいということがわかってきています。遺伝的な先天的要素だけでなく、養育環境という親から学ぶ後天的要素も認められています。

心身症になりやすい年齢や性別

心身症は、年齢を問わずに認められます。

幼少期では自分の感情を表現できないことが症状の悪化につながっていることがあります。思春期では様々な課題に直面し、思春期特有の心の動きによって心身症へつながることがあります。成人期には社会的な責任の重さや生活の変化が増え、そして年をとると健康不安が心身症を悪循環させる傾向があります。

心身症には幅広い病気が含まれるので、好発年齢が特にあるわけではありません。男女問わずに認められ、全体的に見れば女性が目立つ印象ですが、男性の患者さんも多く見られます。

子供では、喘息やアトピー性皮膚炎、思春期には起立性調節障害や過敏性腸症候群、摂食障害や過換気症候群、成人以降は加齢に伴い糖尿病や高血圧症などの生活習慣病が精神的なストレスと結びつくことが多くなり、身体表現性障害(自律神経失調症)もよく見られます。

高齢者では様々な病気を抱える人が全体に増えますが、そのなかには心身症的な側面が強いものも多いのです。このように年齢や性別を問わず、幅広い方が心身症が認められます。

心と体の関係とは?(心身相関)

私たちの心や身体の状態をコントロールしているのは脳ですが、大きく自律神経系・内分泌系・免疫系の3つが関係しています。

自律神経は、活動のオンとオフのバランスを担っている神経経路です。オンの交感神経とオフの副交感神経が相互に作用しながら生体リズムを調整しています。

内分泌系は、ホルモンを司る一連の流れです。脳の視床下部や下垂体から副甲状腺・副腎・膵臓などがつながって様々なホルモンをつくり、代謝や生殖などの重要な生体活動に関与しています。

免疫系は病気に対抗するための生体の防御・回復を司り、病気のかかりやすさや治癒力を左右する重要なシステムです。

「心」と「身体」は、これら3つのシステムの中で密接に関係し合って働き、このシステム同士も深いつながりで相互作用しながら全体のバランスを保っています。そのため、心や身体のどこか一部分に変化がおきるとその部位だけの問題では済まず、全身の様々な働きに連鎖的な影響を及ぼしていくことになります。

自律神経系での心身相互作用

自律神経は、活動のオンとオフを切り替える交感神経と副交感神経がお互いにバランスをはかりながら、1日の生活リズムをスムーズに調整しています。

それは私たちの意識とは関係なく自律的な働きで、24時間休むことはありません。睡眠中も呼吸や心拍が止まらないでいられるのは自律神経のおかげです。

基本的に、活動中は交感神経が優位に働きます。交感神経が優位になると、仕事や勉強や社会生活がしやすい身体状態になります。筋肉は緊張して力が入り、心拍数は増えて脈が速くなります。呼吸は浅く回数が増えます。その分胃腸などの活動は抑えられ、空腹や便意などは感じにくくなります。

一方、食事・排泄・休息・睡眠などのときには副交感神経が優位に働きます。胃腸の動きが活発になり、筋肉はゆるみ、脈や鼓動や呼吸はリラックスしたゆったりのペースに変わります。このオンとオフの神経の切り替わりバランスが上手くいっていれば、活動と休息のメリハリのついた健康な状態が保ちやすくなります。

しかし、過度なストレスがかかり続けると、交感神経ばかりが過剰に刺激されるようになります。交感神経は、野生下では「戦いや逃走のため神経」なので、不快な精神のストレスに対して強く反応し、身体を戦闘モードにして危機を脱しようとするのです。

交感神経を優位にして戦闘モードを保つためには、副交感神経の働きが抑えられます。そのため、身体の健康維持や回復のために必要な消化・排泄・休息・睡眠などの方に支障が及び、様々な病気につながっていってしまうのです。

内分泌系での心身相互作用

内分泌系での心身相互作用としては、視床下部-下垂体-副腎皮質系の働きが重要となります。

ストレスを受けると下垂体からはACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されます。ACTHは副腎皮質を刺激し、そこからコルチゾールというホルモンが多くつくりだされていきます。

コルチゾールは抗ストレスホルモンとも呼ばれ、「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。これが多く分泌されると血糖値が上がったり、炎症反応が抑えられたりなどの変化がおこります。

コルチゾールは「元気になれ!」と指示しているものの、それは「無理にでも頑張ってストレスと戦え」のような意味合いで、身体を健康にしようという働きではありません。自律神経系での交感神経過剰と同様に、身体を戦闘モードに変えてしまうのです。

血糖が上がれば身体には負担がかかりますが、活発に動きやすくなります。炎症反応が抑えられれば身体の活動エネルギーは奪われずに済みますが、その分細胞の修復や回復をすすめることができません。

つまり、「今は非常事態だから身体の健康を犠牲にしてでも戦うのが優先」と脳が判断してしまっている状態です。

精神的ストレスによってACTHが分泌され続けるとその状態が慢性化することになり、身体には負荷がかかり、様々な病気へとつながってしまう可能性があります。そして、これらの働きは、免疫系の方にも大きな影響を与えていきます。

免疫系での心身相互作用

免疫系ではストレスがかかると、一般的には免疫を抑制する傾向になります。

病原体が細胞に感染するのを防ぐ液性免疫(抗体)は強くなることもありますが、感染してしまった細胞をやっつける細胞性免疫(キラー細胞)の力は弱まることが知られています。

免疫の力が弱くなると、身体は自分の不調を回復させる自然治癒力が下がり、様々な不具合がおこりやすく、元々持っていた病気の症状は悪化しやすい傾向になってしまいます。

心身症の治療

心身症の治療では、まずは生活習慣やストレスについて見直すことが大切です。そして薬物療法によって「心⇔身」の悪循環を断ち、ストレスをうまく処理できるように精神療法を積み重ねていきます。

心身症を治療していくには、まずはこのことを患者さんが理解していく必要があります。身体の症状がみられれば、多くの方は身体のことにしか目が向きません。けれど、心身症の根本原因は「心」にあります。身体症状は、自分の心(ストレス)の影響を受けていることを理解していきましょう。

心身症でのお薬の役割

実際の治療では、身体の薬と心の薬を組み合わせて治療していくことが多くなっています。ただ、心身症そのものを薬で治せるというわけではなく、辛い症状をコントロールし、根本原因の「心」に向き合いやすくするためのサポートの役割になることが多いです。

心身症は身体の症状が目立っているものの、その根本原因は「心」のストレスですので、生活習慣の改善や精神療法などのストレスコントロールが重要です。ですが、身体の症状が辛ければ心も前向きにはなれず、落ち着いて心の問題に取り組むことができません。

心と身体は常に相互作用をしているので、身体が薬で楽になれば心も落ち着き、心が落ち着いてストレスに対処できるようになれば、身体も楽になって良い循環が生まれていきます。

心身症の治療で使う薬には、

  • 内科で使用する身体の症状を抑える薬
  • 精神科で使用する不安や不眠などを緩和させる薬

があります。どのような薬を使用するかは、患者さんの状態によって様々です。

心身症で使われるお薬とは?

心身症の治療では、

  • 身体症状を和らげるための薬
  • 精神症状を和らげるための薬

を患者さんの症状に合わせて使っていきます。

身体症状を和らげるための薬としては、

  • 緊張型頭痛や肩こりでの筋弛緩薬(ミオナールやテルネリン)
  • 片頭痛でのトリプタン系製剤(イミグランやアマージ)
  • 過敏性腸症候群での整腸剤(イリボーやコロネル)
  • 胃潰瘍での制酸剤(オメプラールやタケプロン)
  • 心因性嘔吐での制吐剤(プリンペランやナウゼリン)

などがあります。その他にも、身体の症状をコントロールするために様々なお薬が使われます。

精神症状を和らげるための薬は、向精神薬と呼ばれます。心身症の治療では主に3つの目的で向精神薬が使われます。

  • 精神的なストレスを和らげ、自律神経症状を改善する
  • 精神的なストレスを和らげ、身体症状との悪循環をなくす
  • 心身症の苦痛から発した2次的なうつ状態や不安障害を改善する

具体的なお薬としては、

これらのお薬が使われます。

心身症に漢方薬は有効なのか

漢方薬は特定の症状を抑えるものではなく、体質をじっくりと整えていくような薬なので、はっきりとした症状が見えない「何となく不調」のような心身症の治療において、良い効果が発揮されることがあります。

ですが、漢方薬の効果は西洋薬に比べてかなり個人差が大きく、体質によって向いている薬が異なります。また効果の実感がでてくるまでに時間がかかることも多く、2週間~1ヶ月ほどじっくりと使ってみて効果がでてくることがあります。

西洋薬は症状への作用メカニズムもはっきりしていて、効果も科学的に実証されています。それに対して漢方薬は、経験的な効果実感に基づいて発展してきた医学です。近年はその作用メカニズムの解明もすすめられていますが、いまだに明確な作用メカニズムについてはわかっていない部分が多いのです。

漢方薬については、その症状や体のバランスの乱れに合わせて適切な漢方薬を選んでいきます。医療機関で処方される漢方薬はエキス剤と呼ばれていて、粉薬になります。

心身症を改善するための生活習慣

心身症を改善するにあたっては、生活習慣の改善が大切です。

生活習慣は「習慣」ですから、変えるのはなかなか難しいです。ですが生活習慣を整えられれば、その習慣を続けていくことができます。その結果としてストレスによる心身に影響が和らぎ、心身症の再発を防ぐことにもつながります。

  • 睡眠不足や起床時間のずれ
  • 不規則な食生活
  • 運動習慣
  • カフェインの摂取
  • 飲酒
  • 喫煙

これらの中で、できることから改善をしていきましょう。

  • 睡眠不足や起床時間のずれ

睡眠時間を自分の必要量確保することはもちろん大切ですが、もうひとつ注意すべきは生活リズムです。日によって起きる時間が違うと、体内時計のリズムが乱れてしまいます。

心身症の患者さんでは、ストレスから不眠が認められることもあります。不眠を悪化させないためにも、可能な範囲で生活リズムを意識することが大切です。

  • 不規則な食生活

不規則な食生活は、心身の調子を崩します。腸は第2の脳とも呼ばれているほどで、食事による刺激が身体のリズムを作っています。

3食をできるだけ、規則正しくとるようにしましょう。最近は朝食をとらない方も多いですが、少しでもよいので食べ物を胃に入れるようにすると、それが胃腸への刺激となって体内時計のリズムにメリハリがつきます。

  • 運動習慣

適度な運動習慣は、心身の健康にとても効果的です。運動と言っても無理に特別なことをする必要はなく、できるだけ階段を使うなど、まずは身の回りでできることから体を動かしていきましょう。

運動が習慣になればセロトニン神経の働きが活発になり、精神状態が安定します。

  • カフェイン

不安が強い方で注意しなければいけないものがカフェインです。カフェインは眠気覚ましに使われるように興奮物質の1種なので、不安や緊張などをかえって刺激してしまうことがあります。

  • 飲酒

不安や苦しみを紛らわすためにアルコールに頼る方も多いかと思いますが、飲酒が習慣化してくると、少しずつ身体がアルコールに依存していくようになります。お酒が飲めない状況下ではイライラしたり、気持ちが不安定になったりします。

また不眠を解消するために寝酒をしてしまう方も少なくありませんが、不眠を悪化させてしまいます。寝酒は絶対にやめましょう。

  • 喫煙

タバコが身体に害であることは、広く世間で知られています。心身症に含まれる病気の中にも、タバコが原因や要因となることはたくさんあります。喫煙の影響は身体だけでなく、心の方にも及びます。

タバコの主成分として有名なニコチンは、身体が慣れていくと依存が形成されます。吸ったときには一時的なリラックス効果が得られますが、じきにそれ無しでは落ち着かなくなり、ニコチンが切れてしまうとイライラしたり不安になりやすくなったりしてしまいます。

心身症の薬を使わないリラックス法

心身症の改善のためには、呼吸法・漸進的筋弛緩法・自律訓練法など、自分自身をリラックスさせる方法も有効です。

  • 呼吸法

リラックスする呼吸法とは、吐く時間を意識した腹式呼吸法です。上手になってくると、呼吸を整えることで不安や緊張を和らげることができます。苦手な状況に直面した時に、呼吸法で乗り切れれば大きな自信になります。

  • 漸進的筋弛緩法(リラクゼーション)

漸進的筋弛緩法とは、リラクゼーションとも呼ばれている方法です。筋肉の緊張状態を自分で知り、それを意識的に和らげていく練習をします。慣れてくると、自分自身の緊張状態に気づけるようになってきます。

  • 自律訓練法

自律訓練法とは、リラックス状態を自己暗示で作れるように訓練する方法です。リラックス状態をイメージして、それを身体にしみこませていきます。上手になってくると、リラックス状態を簡単に作りだせるようになっていきます。

いずれの方法も、くり返し続けていくことが大切です。いわば筋トレのようなもので、すぐには効果が出ないけれど、継続していくことで少しずつ効果が積み重なり、自分のものとして身についていくのです。

心身症では自分自身をみつめるのも大切

生活習慣の改善や薬の効果で状態が落ち着いてきたら、根本的なストレスの受け止め方などにアプローチする精神療法が必要になることもあります。精神療法には時間がかかりますが、少しずつ積み重ねていくと根本的な改善が見込めます。

現実に環境の大きな変化などの要素がある場合は、ストレスを改善していけば心身症もおさまっていきますが、本人の受け止め方や思考パターンなどの性格要素が強くて日常のささいな出来事に強いストレスを感じてしまうケースの場合、自分自身のストレス対応力を育てていかなければ心身症の改善は難しいです。

自分自身の内部にストレス要因が強いケースには、人それぞれ様々なパターンがあります。ストレスの対処法が苦手な人もいれば、ストレスに感じやすい人もいます。過去に何らかのトラウマを抱えてそれが強く影響している人もいれば、もって生まれた性格傾向が深く関わっている場合もあります。

いずれにしても、これらは長年かけて培われてきたものなので、すぐには変えることができません。じっくりと時間をかけて、少しずつ紐解いていく必要があります。

精神療法は、臨床心理士によるカウンセリングを通して行っていくのが理想的ですが、自費診療になるため費用がネックになって続けていくのが困難になることも多く、現実的には医師が診察をくり返す中で、日常生活での出来事を通して少しずつ精神療法を進めていくことが多くなっています。

心身症は何科に受診すればよいの?

もし、自分が心身症かもしれないなと疑ったとしたら何科を受診すればいいのでしょうか。

心身症は、「心」の方に根本の原因があるとはいうものの、身体の方に何らかの症状が現れ、内科的な薬や検査で対処しながら治療を進めなければならないことも多いため、専門に治療するのは心身の両面が見られる心療内科となります。

心療内科は、内科と精神科の中間の存在で、内科的なアプローチと精神科的なアプローチの両方を行っていきます。心療内科だけを専門的に行っている医師はとても少なく、内科医もしくは精神科医が心療内科を行っていることが多いです。

このため、

  • 心の症状が目立つ:心療内科・精神科の医療機関(精神科医)
  • 体の症状が目立つ:内科・心療内科の医療機関(内科医)

を受診していただくのが良いかと思います。ストレスが病気や症状の原因として大きいと感じている方は、心療内科でご相談ください。

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カテゴリー:心身症  投稿日:2023年3月23日

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