抗うつ剤の離脱症状と4つの対策
- 更新日:2021年01月13日 17:24
- 作成日:2020年07月31日 01:22
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調子が悪いのは抗うつ剤の離脱症状のせい?
抗うつ剤を服用中に、調子が悪くなってしまうことがあります。シャンピリ感と呼ばれるような特徴的な症状が認められる場合もあれば、かぜのようなダルさが強まることもあります。
こういったときに、抗うつ剤の飲み忘れが原因であることが少なくありません。
また調子が安定していたために、抗うつ剤をご自身で減らしたり、服薬を止めてしまった際に、体調が悪くなってしまうことがあります。病気が悪化したと勘違いされる方が多いですが、そうとも限りません。身体に慣れていた薬が身体から急になくなることによる離脱症状、これが原因であることも少なくありません。
ここでは、抗うつ剤による離脱症状について、わかりやすく説明していきます。
※抗うつ剤について概要を知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をお読みください。
※抗うつ剤の副作用全体について知りたい方は、『抗うつ剤によくある副作用と対策とは?』をお読みください。
離脱症状とは?
薬をしばらく継続して使用していくと、身体に薬があることが当たり前になってきます。その状態で薬の量を減らしたり、服用を中止したりすると、身体にいろいろな不調が出てくることがあります。これが離脱症状です。
「めまい・頭痛・吐き気・だるさ・しびれ・耳鳴り」といった身体の症状が出ることがあります。「イライラ・不安・不眠・ソワソワ感」といった精神症状がみられることもあります。また、「シャンビリ感」といって、金属音のようなシャンシャンという耳鳴りがし、電気が流れたようにビリビリとしびれた感じがすることがあります。
こうした脳に衝撃を受けるような感覚は、SSRI(ジェイゾロフト・レクサプロ・パキシル・デプロメールなど)の離脱症状によくみられます。このようにお薬によっても離脱症状の内容に違いがあります。SSRIに特徴的な離脱症状としては、イライラ感といった攻撃性や、シャンビリ感やしびれといった感覚異常になります。
薬を1か月以上服用してから減らしていくと、このような離脱症状が認められることがあります。薬を中断して、およそ1~3日くらいしてから認められます。2週間ほどすると落ち着くことがほとんどですが、重症の場合は2~3か月続くこともあります。
よくある誤解
離脱症状が生じると、よくある2つの誤解から落ち込む方が多いです。
- 再発してしまったと落胆する
- 薬に依存してしまったと悲観的になる
薬の変化で急に元の病気が悪くなることは、そんなに多くはありません。それよりも薬の変化がある場合は、その副作用のひとつである離脱症状が原因と考えるのが自然です。特に医師の指示通り減薬していた場合であれば、体調の悪化というよりは離脱症状であることがほとんどだと思います。
依存とも違います。アルコールやタバコでみられる依存は、効きが次第に悪くなり、量がどんどん増えていきます。そして精神的にも「もっと欲しい」という気持ちが出てきます。抗うつ薬では、効きが悪くなって量が増えていくこともなければ、もっと欲しいという気持ちがおこるものでもありません。
しっかりと対策を考えて、計画的に減薬していけば、いずれ必ず薬を中止することができます。ですから、過度に心配せずに主治医にご相談ください。
なぜ抗うつ剤で離脱症状が起こるのか?
薬を飲み始めてすぐの頃は、体内から薬の成分が消えても効果がなくなるだけです。しかし、長いあいだ薬を飲み続けると、体は薬が入ってくることを前提に体調を整えるようになります。その状態で急に減薬や断薬してしまうと、体の調子がくるってしまいます。これが不快な症状となってあらわれるのです。
ただ、どのように調子がくるってしまうかは正確にはわかっていません。
三環系抗うつ薬では、おもに抗コリン作用が関係していると考えられています。抑え込まれていたアセチルコリンが解放されるため、リバウンドによりアセチルコリンの活動が急に強まります。
SSRIでは、セロトニンが関係していると考えられています。身体がセロトニンの多い状態に慣れてセロトニンに対する反応が鈍っているところに、いきなり セロトニンが足りなくなりなくなって離脱症状がでてきます。お薬を再開しない場合は、受け皿である受容体が元に戻るまで離脱症状が続いてしまいます。
離脱症状が起こりやすい特徴
それでは、離脱症状はどのような場合におこりやすいでしょうか。まずは薬の身体の中での状態からご理解いただき、起こりやすい特徴を薬と人の両面からご説明したいと思います。
起こりやすい抗うつ剤の特徴
離脱症状は、薬の身体の中の変化が急激になればなるほど起こりやすいです。薬の離脱症状の起こりやすさは、3つのポイントがあります。
- 効き目が強い(力価が高い)
- 量が多い
- 作用時間が短い(半減期が短い)
薬が強いほど、量が多いほど、作用時間が短いほど起こりやすいです。
効き目が強い薬というのは、薬のmgをみればだいたいわかります。mgが小さいということは、少ない量でしっかりと効果があることを意味します。また、薬の量が多いと身体への影響が大きいです。
そして作用時間が短いと、薬が身体から抜けていくのが急になります。このため、身体が変化についていけずに離脱症状はおこりやすくなります。
離脱症状が起きやすいといわれるSSRIやSNRIの中には、決して作用時間が短いわけでないものもあります。このように離脱症状に関しては、わかっていない部分も多いのです。ですから、離脱症状が起こりやすい薬でもまったく問題がない方もいれば、起こりにくい薬でも強い症状が出る方もいます。
起こりやすい人
離脱症状は、薬の身体の中の変化が急激になればなるほど起こりやすいです。人による離脱症状の起こりやすさは、2つのポイントがあります。
- 長期の服用
- 薬の代謝能力
薬の服用が長期であるほど、薬の代謝がよいほど、離脱症状は起こりやすいです。
薬の服用が長期にわたると、身体が薬に慣れきってしまいます。およそ4週間をすぎると、離脱症状が起こる可能性があるといわれています。
また、体内での薬の処理には個人差があります。薬の代謝が早いほうが、身体からすぐに薬が抜けていきます。ですから、身体の中での薬の変化が急激となり離脱症状は起こりやすいと考えられます。
代表的な抗うつ剤の半減期と離脱症状
抗うつ剤の作用時間についてみていきましょう。
※抗うつ剤の半減期=血中濃度が半分になるまでにかかる時間
一般的に、三環系抗うつ薬は新しいSSRIやSNRIに比べて、離脱症状は起こりにくいといわれています。
三環系抗うつ薬での離脱症状は、抗コリン作用の強さが影響として大きいです。トリプタノールなどの抗コリン作用が強い薬は、少し慎重に薬を調整していきます。
離脱症状は、抗うつ薬の中でも特にSSRIによくみられます。このため、SSRI離脱症候群やSSRI中断症候群とも呼ばれています。その中でも最も離脱症状を起こしやすいことで知られているのが、パキシルです。パキシルは、薬を増やすと血中濃度がぐんと上がってしまいます。このため、減量の時の血中濃度の落差が大きくなってしまうのです。
その他のSSRIの中ではルボックス/デプロメールで見られることが多いです。これは、半減期が短く、身体から抜けるスピードが早いためと思われます。ですが薬の強さ(力価)がそこまで強くないために、症状の程度としてもパキシルほどではありません。ジェイゾロフトやレクサプロなどは比較的頻度は少ないです。
SNRIでは、サインバルタで離脱症状が起きやすいです。半減期が短いこともありますが、これはカプセル製剤であることが要因として大きいです。少しずつ減量することができないため、離脱症状が起こりやすいです。
抗うつ剤の離脱症状での4つの対処法
離脱症状がみられるのは、そのほとんどが急に薬を自己判断でやめてしまった場合です。
抗うつ薬は状態がおちついてきても、しばらくは続けていく必要があります。必ず「薬をやめたい」という気持ちを、主治医に伝えてください。その上で計画的に減薬していきましょう。
ここでは、離脱症状が現れた時の対処法をご紹介したいと思います。
※抗うつ剤の減薬および断薬について詳しく知りたい方は、『抗うつ剤の減薬・断薬の方法』をお読みください。
様子を見る
離脱症状が出てきていても、大きく日常生活に影響がなければ、様子をみていくのもひとつです。日常生活に影響が出ない程度で我慢できる場合、しばらく様子をみてください。
身体が少しずつ慣れていきます。このため、症状は少しずつ和らいでいきます。個人差はありますが、1~2週間ほどすると症状が治まることが多いです。
ただし、抗うつ剤を自己中断した場合は医師の指示を必ずうけてください。結果オーライのこともありますが、減量するタイミングでない時があります。もともとの病気が治りきらずに無理に減薬をすると、症状が悪化することがあります。
安定剤が頓服として処方されている場合は、離脱症状が強い時に服用してもよい場合があります。症状が多少軽減されることがあります。
元の量に戻す
離脱症状が起きるときは、ほとんどが自己中断によるものです。この場合は、元の量に戻してください。
医師と相談の上で減薬している場合は症状の程度によります。症状がひどく、日常生活に影響が大きい場合は、トリプタノールの量を元に戻しましょう。すると、比較的すみやかに状態は改善します。
一度落ち着いた後に、「薬をいつ減らしていくのか?」「どのように減らしていくのか?」を主治医と相談しましょう。しばらく時間をおいて、減薬をすると上手くいくこともあります。
減量ペースを落とす
薬の減らすペースを落としていくと、薬の変化が緩やかになります。離脱症状が起こってしまった場合、次に減薬していくにあたっては、この戦略が原則になります。
薬を分割したり、小さな剤形を使って、減量する量を落としていきます。
これ以上減量ができない量の場合、飲む間隔をあけていく場合もあります。毎日→休日抜く→2日に1回抜く→中止などとしていきます。
カプセルのお薬は、推奨されていませんが脱カプセルによって減量していくこともあります。カプセルを外して、顆粒を少なくして服用します。
そのまま服用する場合は、かまないように注意して服薬してください。コーティングがはがれてしまうと、吸収に変化が大きくなってしまいます。
薬の服用を分ける
薬の服用を分けることで、薬の血中濃度の波が小さくなります。半減期の短い薬の場合は、血中濃度の波が大きくなります。ですから、この方法が有効なことがあります。
同じ量でも、こまめに分けて服用することで、薬の血中濃度が安定します。ガマンできる程度で様子をみるような時には、試してみてもよいかもしれません。
まとめ
離脱症状とは、薬が身体から急になくなることで起きる症状です。薬を減らしてから1~3日ほどで認められることが多いです。めまい・頭痛・吐き気・だるさ・しびれ・耳鳴り・イライラ・不安・不眠・ソワソワ感・シャンビリ感などの症状がみられます。
再発でも依存でもないので、少しずつ薬はやめていけます。
三環系抗うつ薬では、おもにアセチルコリンの活動が急に強まることが原因と考えられています。SSRIやSNRIでは、セロトニンの低下が原因と考えられています。薬が強いほど、量が多いほど、半減期が短いほど起こりやすいです。
薬の服用が長期であるほど、薬の代謝がよいほど、離脱症状は起こりやすいです。
SSRIのパキシルが特に多く、ルボックス/デプロメールも多いです。SNRIとしては、サインバルタが多いです。三環系抗うつ薬は比較的少ないです。
医師と相談の上で減薬している場合、離脱症状の対処法としては、日常生活への影響の大きさで考えていきます。なんとかなるならば、そのまま様子を見ましょう。日常生活に支障が大きい場合は元に戻してください。
再チャレンジする場合は、減量ペースを落とすことが原則です。量を小刻みにしていくか、少しずつ服薬間隔をあけていきます。
執筆・監修
※2022年4月、田町三田院オープン!
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こちらの記事は、下記の精神科医が執筆・監修しております。

大澤亮太
- 役職:医療法人社団こころみ理事長/(株)こころみらい代表産業医
- 資格:精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医
- 学会:日本精神神経学会