ラツーダ(ルラシドン)の効果と副作用

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ラツーダ(ルラシドン)とは?

ラツーダの効果と副作用について、精神科医が詳しく解説します。

ラツーダは、第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)になります。

2010年にアメリカで承認され、2013年には双極性障害のうつ状態にも適応が認められています。

日本でも2020年3月に適応が認められたお薬になります。

ラツーダは、ドパミンだけでなくセロトニンもブロックすることで、過剰なドパミン遮断を和らげるお薬になります。

このため、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)と呼ばれています。

ドパミンの働きを抑える働きがあるため、

  • 統合失調症

の治療薬として使われます。幻聴や妄想といった陽性症状に効果が期待でき、陰性症状(意欲減退や感情鈍麻)や認知機能の改善に効果が期待できます。

そしてラツーダの有用性が期待されるのは、

  • 双極性障害のうつ状態

に対してです。

双極性障害のうつ状態は治療選択肢が少なく、ラツーダは正式に適応が認められています。

不安や落ち込みといった情動を少しずつ改善し、賦活していく効果が期待できます。

現在日本で発売されているSDAは5剤となります。

  • リスパダール(一般名:リスペリドン):1996年発売
  • ルーラン(一般名:ペロスピロン):2001年発売
  • ロナセン(一般名:ブロナンセリン):2008年発売
  • インヴェガ(一般名:パリペリドン):2011年発売
  • ラツーダ(一般名:ルラシドン):2020年発売

ラツーダは日本では発売されたばかりですので、ジェネリック医薬品が発売されるのはかなり先になります。

一般名(成分名)ルラシドン錠として発売されるでしょう。

ラツーダの効果・効能が期待できる病気

ラツーダには、どのような効果・効能が期待できるのでしょうか。

ラツーダはドパミンとセロトニンに作用して、その働きをブロックすることで効果を期待します。

このためドパミンが過剰となって生じる幻聴や妄想の改善が期待できます。そして、ドパミンを過剰にブロックしてしまうことでの副作用が緩和されています。

それだけでなくラツーダは、穏やかに気持ちを落ちつける作用が期待できます。感情を落ち着けて、不安や衝動性を和らげる効果が期待できます。

双極性障害のうつ状態に対して効果が期待できる数少ない薬のひとつです。

このためラツーダは、

  • 統合失調症
  • 双極性障害
  • 不安や落ち込み
  • 衝動がコントロールできない状態(青少年の行動障害など)

などに効果・効能が期待できます。

ラツーダは、幻聴や妄想などの陽性症状だけでなく、陰性症状や認知機能障害の改善や、感情を安定させる効果が期待できます。

そして双極性障害のうつ状態に対して、「気分が落ち着き体が動きやすくなる」といった賦活作用を期待して使っていくお薬になります。

抗うつ剤の効果増強(augmentation)も期待でき、双極性障害と明確な診断がついていなくても、気分の波がみられる場合に使われることもあります。

副作用も全体的に少ないため、幅広く使われる可能性のあるお薬です。

パーソナリティ障害など、情動が不安定なりがちな病気でも効果が期待できます。

ラツーダの適応が正式に認められている病気

ラツーダの適応が正式に認められている病気は、

  • 統合失調症
  • 双極性障害のうつ状態

となっています。

正式な適応は以上の2つですが、

  • 副作用の少なさ
  • 賦活作用が期待できる

を期待して、様々な病気で適応外として使われる可能性があります。

ラツーダの特徴

<メリット>
  • 双極性障害のうつ状態にエビデンスがある
  • 陰性症状や認知機能の改善にも効果がある
  • うつに効果が期待できる
  • 鎮静作用が少なく賦活作用が期待できる
  • 副作用が全体的に少ない
<デメリット>
  • 食後に服用する必要がある
  • グレープフルーツジュースを避ける必要がある

それではラツーダの特徴を、

  1. 効果
  2. 副作用
  3. 剤形と薬価

に分けてみていきましょう。ラツーダ以外の抗精神病薬との比較も行っていきます。

ラツーダの効果

ラツーダは、

  • 幻聴や妄想を軽減
  • うつや不安の改善
  • 衝動性のコントロール

に効果が期待できます。

それではラツーダは、抗精神病薬の中でどういった効果の位置づけなのでしょうか。ラツーダの作用について、他の抗精神病薬と比較してみましょう。

抗精神病薬の作用の比較

ラツーダは、

  • ドパミン受容体とセロトニン受容体に選択的に作用する
  • 抗ヒスタミン作用や抗コリン作用がわずか

という特徴があります。

このため、ドパミン過剰による幻覚や妄想といった陽性症状を改善すると同時に、ドパミンをブロックしすぎてしまうことでの副作用(錐体外路症状・高プロラクチン血症)を抑えることができます。

また抗ヒスタミン作用や抗コリン作用がわずかであることから、認知機能への悪影響が少ないと考えられます。

抗うつ薬と同じセロトニン1A受容体への作用も認められ、うつや不安の改善効果も期待できます。

ラツーダは食事での影響を受けやすく、空腹時と食後での吸収を比較すると、1.7~2.4倍の差があります。

このため食後での服用が必須になります。

ラツーダの副作用

ラツーダは、全体的に副作用が少ないお薬になります。

とくに体重や代謝への影響は、他の抗精神病薬に比べるとマイルドといわれています。

ラツーダで認められる副作用としては、

  • ドパミン遮断の副作用:錐体外路症状や高プロラクチン血症
  • 鎮静による副作用:眠気やふらつき

があげられます。とはいっても、他のお薬と比較して多くはありません。

抗精神病薬で副作用を比較すると、以下のようになります。

抗精神病薬の副作用を一覧にしてまとめました。

ラツーダ承認時の副作用報告では、

  • アカシジア(8.6%)
  • 悪心嘔吐(7.0%)
  • 傾眠(3.2%)
  • 頭痛(2.9%)
  • 不眠症(2.9%)
  • 便秘(2.2%)
  • 振戦(2.1%)
  • ジストニア(1.4%)
  • パーキンソニズム(1.4%)
  • プロラクチン高値(1.1%)
  • 体重増加(1.1%)

となっています。全体的に副作用は少なめですが、アカシジアを中心とした錐体外路症状が目立ちます。

またラツーダは、グレープフルーツジュースと飲むと分解が邪魔されてしまい、血液中の濃度が高まってしまう可能性があるため注意が必要です。(CYP3A4阻害作用)

ラツーダの剤形と薬価

ラツーダのお薬としての特徴についてみていきましょう。

ラツーダは発売されたばかりですので、ジェネリックは発売されていません。

ラツーダは、

  • 錠(20mg・40mg・60mg・80mg)

の4剤形になります。

ラツーダの剤形ごとの薬価をご紹介します。

  • 20mg錠:167.5円
  • 40mg錠:310.1円
  • 60mg錠:443.3円
  • 80mg錠:457.7円
    ※2022年4月現在の薬価になります。

これに自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。薬局では、これにお薬の管理料などが加えられて請求されています。

ラツーダの用法と効果の見られ方

ラツーダ錠は、以下のような用法となっています。

【統合失調症】

  • 開始用量:40mg
  • 維持量:40mg
  • 用法:1日1回食後
  • 最高用量:80mg

【双極性障害】

  • 開始用量:20mg
  • 維持量:20~60mg
  • 用法:1日1回食後
  • 最高用量:60mg

ラツーダの用量はこのようになっています。用量を増加させるほどアカシジアをはじめとした副作用の頻度が高まることがわかっています。

このため、20mg~40mgから開始することとなっています。

またラツーダは、双極性障害のうつ状態では高用量(80~120mg)にしても有効性が実証できませんでした。このため最大用量が60mgと、低めに設定されています。

ラツーダは作用時間は比較的長いお薬のため、1日1回の服用で効果が安定します。

ラツーダは食事の影響が大きく、食後に服用することが重要になります。

【参考】ラツーダの半減期

お薬の効き方を見ていくにあたっては、

  • 半減期:血中濃度が半分になるまでの時間
  • 最高血中濃度到達時間:血中濃度がピークになるまでの時間

が重要になってきます。

ラツーダは、

  • 半減期(T1/2):22.5時間
  • 最高血中濃度到達時間(Tmax):1.5時間

となっています。このため1日1回の服用で、1日効果が安定するお薬となっています。

そしてラツーダは、食事の影響を強く受けます。食後にラツーダを服用することで、最高血中濃度が高くなり、半減期も延びます。

  • 最高血中濃度:2.39倍
  • 半減期:1.4倍

となります。

ラツーダの海外用量

ラツーダは、海外ではもう少し高用量で使われています。

アメリカでは、成人に対して

  • 統合失調症:40mg~160mg
  • 双極性障害Ⅰ型のうつ状態:20mg~120mg

※13~17歳の青年期では日本と同程度の用量

双極性障害については、単剤では高用量では有効性を示せてはいませんが、デパケンやリチウムとの併用も踏まえて認められています。

EUでは統合失調症のみの適応となっており、37mg~148mgで使われます。

服用時期でみたラツーダの副作用

ラツーダの副作用について、服用時期ごとにみていきましょう。

抗精神病薬SDAでの服用時期での副作用の違いをまとめました。

ラツーダの飲み始めに注意すべきなのは、錐体外路症状になります。ドパミンを遮断しすぎてしまうことでの副作用で、

  • アカシジア:ソワソワして落ちつかない
  • ジストニア:異常な筋肉の緊張
  • パーキンソニズム:筋肉のこわばりや振戦(ふるえ)

などの副作用が起こることがあります。

それに加えて穏やかな鎮静作用がありますので、眠気やふらつきが認められることもあります。

眠気は服用を続けていくうちに少しずつ慣れていきますが、服用中も注意が必要になります。

そして服用を続けていく中で認められるのが、

  • 高プロラクチン血症:乳汁分泌や生理不順(性機能障害)
  • 糖代謝異常:高血糖や糖尿病
  • 肝・腎機能障害:肝機能障害や腎機能障害

になります。

ドパミン遮断作用によってプロラクチンが上昇してしまい、出産直後の状態と同じような高プロラクチン血症が認められます。

女性では生理不順(生理がこない)、男性では性機能障害が認められます。

そしてラツーダは相対的に少ないとはいえ糖代謝に悪影響を与えて高血糖になりやすくなり、糖尿病に進行してしまうこともあります。

また、肝臓や腎臓に負担がかかってしまって機能が低下してしまうことがあるため、あわせて定期的に採血して行く必要があります。

お薬を減薬していく際には、離脱症状や悪性症候群の可能性があります。

ラツーダは離脱症状はそこまで多くないと考えられますが、減薬の際に心身の不調が認められることがあります。

またお薬の増減によって、悪性症候群が起こることがあります。

悪性症候群は発熱や意識障害に加え、錐体外路症状(手足の震えやこわばり、嚥下障害)、自律神経症状、横紋筋融解症(筋肉の痛み)などが認められます。

お薬の増減の後に、咳や鼻水などがなくて高熱が認められた場合は、注意が必要です。

抗精神病薬SDAの副作用を一覧にしました。

ラツーダの副作用の対処法

ラツーダで副作用が認められた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

ラツーダで副作用が認められた場合、

  • 何とかなるなら様子を見る(経過観察)

が基本的な対処法となります。お薬を飲み続けるうちに身体が少しずつ慣れていき、落ちついてくることが多いためです。

しかしながらどうしても症状が改善しない場合は、主治医に報告して相談してください。

ラツーダを使っていったほうが良い場合は、症状を和らげるお薬を併用してしばらく様子を見ることもあります。

生活習慣で改善ができる部分があれば、並行して行っていくことも大切です。

抗うつ剤の副作用への対処法をまとめました。

ラツーダの副作用で多くの方が気にされるのが、

  • 眠気
  • 太る

になります。

ラツーダの副作用について、対処法も含めて詳しくお伝えしていきます。

ラツーダと眠気・不眠

ラツーダの承認時の副作用報告をみてみましょう。

  • 眠気(傾眠):3.2%
  • 不眠:2.9%

このようにラツーダは、眠気と不眠のどちらも認められます。

ラツーダは鎮静作用は穏やかなお薬で、賦活作用が期待できます。このため、眠気にも不眠にも転じるお薬になります。

承認時調査では不眠が多いですが、精神病症状が改善していないことが原因の不眠も含まれているため、お薬の直接的な副作用での不眠は少ないと思われます。

ラツーダで眠気が生じる原因としては、

  • 抗α1作用の直接的な眠気
  • セロトニン2A遮断作用による深部睡眠の増加

こういったことが考えられます。

ラツーダは抗ヒスタミン作用はほとんどなく、抗α1作用も弱いです。このため直接的な眠気は、そこまで強いとはいえません。

またセロトニン2A遮断作用によって、深い睡眠が増加する傾向にはあります。

ラツーダで眠気が認められた場合の対処法としては、

  • 慣れるまで待つ
  • 服用のタイミングをかえる(夕食後や就寝前)
  • お薬の量を減らす
  • 他の抗精神病薬に変更する

といったことがあります。

ラツーダと体重(太る?痩せる?)

ラツーダは他の抗精神病薬に比べると、代謝への影響が少ないお薬になります。

とはいえラツーダも、どちらかというと代謝を悪化させる方向に働くお薬ではあります。

このため、体重や血糖について注意していく必要はあります。

食欲や代謝などは様々な影響があり、お薬だけでなく病状も関係してくるため、一概にお薬の影響だけではありません。

ですから、食生活と合わせてお薬の影響の程度を考えていきます。

ラツーダ承認時での副作用頻度は、

  • 体重増加:1.1%
  • 体重減少:0.9%

このように報告されています。

ラツーダで太る原因は、

  • 抗ヒスタミン作用や抗セロトニン2C作用の直接的な食欲増加
  • 原因不明だが、非定型抗精神病薬が代謝を低下させるため

が考えられます。

抗ヒスタミン作用や抗セロトニン2C作用は、いずれも食欲を増加させる働きがあります。ラツーダはどちらの作用もわずかなため、直接的に食欲増加を生じることは少ないです。

また原因がよくわかっていませんが、昔からある定型抗精神病薬に比べて、非定型抗精神病薬は代謝が低下することが分かっています。

ラツーダは非定型抗精神病薬の中ではマシですが、どちらかといえば太る傾向にはあるお薬になります。

そしてラツーダで太ってしまった場合の対処法としては、

  • 生活習慣を見直す
  • 運動習慣を取り入れる
  • 食事の際によく噛むようにする
  • お薬の量を減らす
  • 他の抗精神病薬に変更する

といったことがあります。

ラツーダとアカシジア(錐体外路症状)

ラツーダで最も頻度が多い副作用として、アカシジアがあります。

アカシジアは、日本語に訳すると静坐不能と呼ばれる症状で、

  • じっとしていられない
  • ソワソワして落ちつかない
  • 足がむずむずする
  • 貧乏ゆすりが止まらない

といった症状になります。心の落ちつかなさと、身体を動かしたいという衝動が合わさります。そして体を動かすと、その苦痛は軽減します。

アカシジアの原因は、

  • 感情に関係する部分でのドパミンのブロック

が関係しているといわれています。

錐体外路症状の一つと考えられていますが、パーキンソン症状を生じる部分(黒質線条体のドパミンブロック)とは異なると考えられています。(アカシジアは中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミンブロック)

ラツーダによるアカシジアの特徴として、

  • 用量依存性に増加する

といったことがあげられます。

ラツーダは、セロトニン2Aよりもドパミン(D2)に対する親和性がわずかに高いため、ドパミンをブロックする副作用が認められます。

ラツーダでアカシジアが認められた場合の対処法は、

  • 慣れるまで待つ
  • お薬を併用する(抗不安薬・βブロッカー・抗コリン薬)
  • お薬の量を減らす
  • 他の抗精神病薬に変更する

といったことがあります。

ラツーダの離脱症状と減薬方法

ラツーダは作用が比較的に穏やかで作用時間も長く、そこまで離脱症状は多くないと考えられます。

ですが長期で服用している場合は、少しずつ減量していく必要があります。

ラツーダの離脱症状としては、

  • ドパミン作動性:幻覚や妄想(過感受性精神病)・アカシジア・ジスキネジア
  • コリン作動性:精神症状(不安・イライラ)・身体症状(不眠・頭痛)・自律神経症状(吐き気・下痢・発汗)

この2つの離脱症状が認められることがあります。

ラツーダはは抗コリン作用もわずかなため、直接的なコリン作動性の離脱症状は少ないです。

ですが錐体外路症状を和らげるために、抗コリン薬(アキネトンやアーテン)を副作用止めに使うことがあります。急に減量してしまうと、コリン作動性離脱症状が認められることがあります。

これらの離脱症状は、薬が減って1~3日ほどして認められます。2週間ほどで収まっていくことが多いですが、まれに月単位で続いてしまうこともあります。

こういった離脱症状を防ぐために、ラツーダや副作用止めは少しずつ減量していきます。

脱症状がひどい場合は元のお薬の量に戻し、減量のペースを緩めていきます。減量の方法は以下の2つの方法がありますが、漸減法を行っていくことが一般的です。

ラツーダの運転への影響

心の病気の治療薬は多くが運転や危険作業が禁止となっていました。

これは眠気やふらつきなどの副作用が生じる可能性があるためです。そういったリスクがある以上は、製薬会社も「運転禁止」とせざるを得ませんでした。

ラツーダの添付文章でも同様に、

眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。

という表現となっています。

統合失調症でも、症状がコントロールできていれば運転免許は取得することができます。(医師の診断書が必要)

お薬を服用せずに病状が良くない方が運転に悪影響があるかもしれませんし、薬を服用したら運転禁止とするべきかは悩ましいところです。

ラツーダだけでなく、ほとんど全ての統合失調症治療薬で運転禁止となっています。運転できないことが、社会復帰の妨げになってしまうこともあります。

自己責任にはなりますが、お薬を服用しながら運転されている方もいるのが実情です。

ただし、

  • はじめて使ったとき
  • 他のお薬からの切り替えをしたとき
  • 量を増減させているとき
  • 体調不良を自覚したとき

は無理をせず、運転は控えていただいたほうがよいです。

ラツーダの妊娠・授乳への影響

ラツーダの妊娠への影響から見ていきましょう。ラツーダのお薬の添付文章には、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること。

このように記載されています。

もちろん妊娠中は、お薬を避けるに越したことはありません。

しかしながらラツーダを中止したら病状が不安定になってしまう場合は、お薬を最小限にしながら続けていくことが多いです。

統合失調症は、お薬を減量していくと症状が不安定になるリスクが高まります。ですからその場合は、ラツーダの服用を続けることが多いです。

ラツーダは、奇形のリスクに関して明かな報告はありません。1.5~6倍用量でのラットやうさぎを使った動物実験でも、明らかな催奇形性は認められていません。

むしろラツーダが影響するのは、産まれた後の赤ちゃんになります。離脱症状や錐体外路症状が認められることがあると報告されています。

後遺症が残るたぐいのものではないので、産科の先生にお伝えしておけば、過度に心配しなくても大丈夫です。

次に、ラツーダの授乳への影響をみていきましょう。ラツーダのお薬の添付文章には、

授乳中の婦人に投与する場合には、授乳を中止させること。

このように記載されています。

しかしながら授乳についても、明らかなネガティブな報告はありません。母乳で育てることは、赤ちゃんにも非常に良い影響があるといわれています。

ご自身での判断にはなりますが、ラツーダを服用していても授乳を続ける方がメリットが大きいようにも思います。

母乳を通して赤ちゃんにラツーダの成分が伝わってしまうことは、動物実験で確認されています。

乳児健診で体重が増えていかないといったことがあれば、医師と相談したほうが良いでしょう。

海外の妊娠に対する基準

妊娠に関する海外の基準であるオーストラリア分類で、ラツーダは以下に分類されています。

B1:妊娠中の女性と出産適齢期の女性の使用は限られているが、奇形の頻度や他の直接的または間接的なヒトの胎児への有害な影響は観察されていません。動物での研究は、胎児の損傷の発生の増加の証拠もありません。

つまり、「動物実験で赤ちゃんへの障害が増えるというデータはなく、いままでの患者さんの中では、何か不利益が増加したという報告はない」ということになります。

ラツーダ錠のジェネリック

ラツーダ錠は、2020年に発売されるお薬になります。お薬の開発には莫大なお金が必要となるため、発売から10年ほどは成分特許が製薬会社に認められて、独占的に販売できるようになります。(先発品)

ラツーダ錠のジェネリックは、この特許が切れた後に発売されます。(後発品)

ジェネリック医薬品の名称は、近年は薬の一般名がつけられます。ラツーダ錠であれば、ルラシドン錠になるかと思います。

ジェネリック医薬品になると、様々な製薬会社が製造を行います。これらのお薬は有効成分は同じですが、それぞれが微妙に異なります。というのも、お薬の製造方法や製剤工夫が会社によって異なるためです。

ですがジェネリック医薬品は、先発品と同じように効果を示すための試験をクリアしていて、血中濃度の変化がほぼ同等になるように作られています。

ラツーダは即効性を期待するお薬ではないため、ジェネリック医薬品が発売されれば、変更しても効果に大きな差はないと推定されます。

【参考】ラツーダの作用機序

最後に、ラツーダの作用の仕組みについてお伝えしていきたいと思います。

ラツーダが効果が発揮するのは、大きく2つの物質が関係しています。

  • ドパミン
  • セロトニン

ドパミンは脳の中で、大きく4つの働きをしています。

抗精神病薬の作用とドパミンへの影響について図にしてまとめました。

  • 中脳辺縁系―陽性症状の改善(幻聴や妄想)
  • 中脳皮質系―陰性症状の出現(感情鈍麻や意欲減退)
  • 黒質線条体―錐体外路症状の出現(パーキンソン症状やジストニア)
  • 視床下部下垂体系―高プロラクチン血症(生理不順や性機能低下)

統合失調症では、中脳辺縁系でのドパミンの分泌・活動の異常によって幻聴や妄想といった陽性症状が認められると考えられています。

この中脳辺縁系のドパミンを抑えることで、陽性症状の改善が期待できます。(ドパミンD2受容体遮断作用)

しかしながらドパミンを全体的にブロックしてしまうと、他の部分では必要なドパミンの働きが抑えられてしまいます。

他の3つの部分ではドパミンの働きが抑えられてしまい、上記のような副作用が生じます。

そこで注目されたのが、ドパミンを抑制する働きのあるセロトニンです。このセロトニンをブロックすると、中脳辺縁系以外でのドパミンの働きを高める作用が期待できます。

ですから、ドパミン(ドパミンD2受容体)とセロトニン(セロトニン2A受容体)を同時にブロックすれば、陽性症状と陰性症状の両方に効果が期待でき、副作用も軽減されます。

こういった作用メカニズムがあるお薬を非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)といいます。

ラツーダはこの2つの作用がメインのため、非定型抗精神病薬のうちSDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)に分類されます。

ラツーダのドパミンとセロトニンへの働き方について、以下で詳しくお伝えしていきます。

ドパミンに対する作用

ラツーダは、

  • D2受容体遮断薬(アンタゴニスト)

として働きます。

ラツーダはドパミンD2受容体をブロックすること、幻聴や妄想など陽性症状の改善が期待できます。

また、

  • D4受容体への影響がわずか

という特徴があります。これが認知機能改善にプラスに働くと考えられています。

セロトニンに対する作用

ラツーダはセロトニンに対して、

  • セロトニン1A受容体:部分作動(パーシャルアゴニスト)
  • セロトニン2A受容体:遮断(アンタゴニスト)
  • セロトニン7受容体:遮断(アンタゴニスト)

の3つの働きが主にあります。セロトニン2C受容体遮断作用は少なく、食欲増加などの副作用の少なさにつながっています。(抗ヒスタミン作用もほとんどない)

セロトニン2A受容体をブロックすることで、中脳辺縁系以外でのドパミンの働きを間接的に強めます。これがラツーダでの陰性症状の改善や副作用の軽減につながります。

セロトニン1A受容体に対しては、部分作動薬として働きます。セロトニン1A受容体は、抗うつ剤が作用するポイントです。

ラツーダは1A受容体の働きを強めることで、感情障害に対しても効果が期待できます。

またセロトニン7受容体は記憶や学習に関係していると考えられていて、これをブロックすることは、気分や認知機能にプラスの影響があると考えられています。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:ラツーダ  投稿日:2023年3月23日

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