漢方薬の処方に重要な「証」とは?

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漢方薬の処方に重要な「証」とは?

東洋医学(漢方医学)では、患者さんそれぞれが持つ体質や症状などをひっくるめた「証」を大切にし、独特の診断方法で見定めていきます。

証にはいろいろな側面があって、昔から培われてきた経験則がつまり大変奥深いものです。西洋医学の病院で本格的な証の診断は困難なのですが、ここでは、一般的な西洋医学を行っている医者が、どのように証を判断し、どのように漢方を使っているのかをお伝えできたらと思います。

※病院やクリニックの医師の中にも、漢方に造詣が深い先生はたくさんいらっしゃいます。あくまで一般的な医師の立場で、お伝えさせていただきます。

漢方での証とは?

漢方での「証」を簡単に言ってしまうと、西洋医学の「診断」を意味します。

患者さんそれぞれの

  • 体質
  • 身体の抵抗力
  • 病気の原因

などをひっくるめたものです。

西洋医学では、診断名が決まれば治療方法は決まってきます。ですが東洋医学における証は患者さんごとで異なるので、同じ病気だとしても、お薬の処方内容が変わってくるのです。

代表的な証の種類

漢方の代表的な証としては、

  • 陰陽
  • 虚実
  • 寒熱
  • 表裏

という見方があります。

それ以外にも、身体のバランスのくずれから原因をみていく

  • 気・血・水

という証があります。

身体全体の反応をみる証(陽証と陰証)

証の大きな見方として、「陰陽」があります。

外から刺激を受けると、身体は様々に反応をしめします。その反応の全体的な方向性を陽か陰かで分けていくのが陰陽のとらえ方です。大まかに分けると、

  • 活動的で熱性の反応を示すときは陽証
  • 非活動的で寒性の反応を示すときは陰証

となります。

陽証の方は、より強い漢方が使えて治癒もはやくなります。一方陰証の方には、ゆっくりと効く穏やかな漢方が向いています。陰証の方に強い漢方を使うとかえって身体の負担となってしまうため、注意が必要です。

陽証を示唆する症候 陰証を示唆する症候
暑がりで薄着 寒がりで厚着
クーラーなど寒冷刺激を好む 電気毛布など温熱刺激を好む
口渇があり冷水を好む 口渇はないが温かい湯茶を好む
顔面が紅潮・眼球の充血 顔面が蒼白
高体温(36.7℃以上)傾向 低体温(36.2℃以下)傾向
冷やすと症状が軽減する 温めると症状が軽減する

体力の充実をみる証(実証と虚証)

「虚実」の証では、

  • 病気への身体の抵抗力と病気の勢い

をみていきます。漢方薬を選ぶに当たって、一番重視する証です。病気に対し、

  • 抵抗力が強く激しい痛みや腫れ、発熱などの反応がでていると実証
  • 病気に対する力が低下し、弱々しい反応が長引いていると虚証

となります。陽証の方は実証、陰証の方は虚証のことが多いです。

実証を示唆する症候 虚証を示唆する症候
元気がある・体力がある 元気がない・体力がない
がっしりした体格 きゃしゃな体格
声が太く大きい 声が細く小さい
眼に力があり生き生き 眼に力がなくうつろな感じ
動作がしっかり 動作がしっかりしない
便秘しやすい 下痢しやすい
脈の力が強い 脈の力が弱い
症状は比較的強くて激しい 症状は比較的弱くて穏やか

病気の性質をみる証(寒証と熱証)

「寒熱」の証は陰陽と似ているところがあるのですが、代謝の活発さや身体機能などをより具体的な「寒と熱」という現象に分けてみていきます。

同じ病気にかかっても、人によってその反応の出方は異なります。

患者さんが自覚症状として感じる「寒いや熱い」と多くの場合は一致しますが、ときに真寒仮熱という状態があります。一見すると熱証なのですが、本質的には寒証であることがあるのです。熱があっても脈が力なく、遅い状態です。病気が慢性化した時に認められることがあります。

寒証を示唆する症候 熱証を示唆する症候
代謝低下 代謝亢進
循環機能高い 循環機能低下
体温が低い 体温が高い
寒がり 暑がり
動作がゆっくり 動作がしっかり
声が小さい 声が大きい
痩せている 太っている

病気の部位をみる証(表証と裏証)

「表裏」の証では、病気がどこまでの深さまで進んだのか、その部位をみていきます。

皮膚や毛髪など、体の表面にとどまっているのならば、表証となります。反対に、消化器や循環器などの内臓にまで病気が及んでいれば裏証となります。

寒気やほてり、筋肉の痛みなど感覚的にわかる不調が出ている場合は「表証」であることが多く、内臓の不調によりはっきりと症状が表にはでていない状態が「裏証」になります。

その中間の状態を半表半裏といいます。身体の外と内の間でくすぶっている状態のときです。

症状の原因をみていく証(気血水)

漢方医学では、精神疾患の病態を含めた体の不調を、「気・血・水」の異常としてとらえます。

私たちの身体は気・血・水の3つの要素が体内をうまく巡ることによって、健康が維持されていると考え、これらが不足したり、滞ったり、偏ったりしたときに、不調につながるというのが漢方の見方です。

気は見えない生命エネルギーのことで、自律神経の働きに近いと言えます。血はそのまま血液を指し、身体を巡って栄養を運びます。水は水分代謝や内分泌など血液以外の体液全般のことです。

の異常 気うつ(気滞) 気が上手く流れない状態
気虚 気の足りない状態
上衝(気逆) 怒りやストレスで気が上昇する状態
の異常 瘀血 冷えなどで血のめぐりが悪い状態
血虚 血が足りない状態
血熱 血に熱が入り、血行が加速している状態
の異常 水毒(水滞) 余分な水がたまり、滞っている状態
津虚 水が不足している状態

気血水の乱れによる症状は以下のようになります。

の異常
(自律神経)
気うつ 抑うつ気分、呼吸困難、喉頭部違和感など
気虚 意欲低下、疲労感、だるさなど
気の上衝 頭痛、めまい、発汗、のぼせ感、イライラなど
の異常
(血液)
瘀血 頭痛、月経異常、肩こり、遷延する抑うつなど
血虚 貧血、めまい、動悸、不安、健忘など
血熱 不安、焦燥、のぼせ、イライラなど
の異常
(代謝や免疫)
水毒・水滞 めまい、むくみ、頭痛、動悸、不安など
津虚 乾燥、尿の減少、目のくぼみ、声のかれなど

まとめ

漢方薬を処方するときは、患者さんそれぞれの「証」を考えることが重要です。

西洋医学の病院で漢方薬を使う場合であっても、「証」を意識するかどうかで、効果的な処方ができるかどうかが違ってくるのです。

とくに、

  • 身体の反応をみる「陽証と陰証」
  • 体力の充実をみる「実証と虚証」
  • 症状の原因をみる「気・血・水」

の3つは大切なポイントと言えるでしょう。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:漢方について  投稿日:2020年2月24日

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