睡眠薬(睡眠導入剤)こころみ医学

副作用は軽減されているけれど…

『非ベンゾジアゼピン系睡眠薬』と呼ばれるマイスリー、アモバン、ルネスタは、睡眠に関わる受容体に的を絞って働くことで、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の依存性やふらつきが軽減されています。

とはいえ、副作用がないわけではありません。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用・対策を確認してみましょう。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果と特徴

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、超短時間型で主に「寝つきを良くする」睡眠薬です。

脳の活動を抑えることで睡眠をもたらしますから、自然な感じでウトウトしていくというより、急に効いてきて ストンと眠るような感覚があります。これはベンゾジアゼピン系睡眠薬も同じです。

そのような効き方なので、ベッドに入る直前に飲むようにしましょう

とくに、超短時間型の非ベンゾジアゼピン系では、飲んだ後の行動が記憶から飛んでしまう「健忘」という副作用が出やすいので、注意が必要です。

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系が脳に働く仕組みについては、ベンゾジアゼピン系って何?睡眠薬や抗不安薬の作用の仕組みをお読みください。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用と対策

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、抗不安作用や筋弛緩作用もあわせ持つベンゾジアゼピン系に比べ、催眠作用に特化し副作用は軽減されています。しかし、注意が必要な副作用もあります。順番に対策をみていきましょう。

  1. 健忘
  2. 依存
  3. 眠気の持ち越し
  4. 苦み

①健忘

上でもお伝えした通り、睡眠薬を服用した後の記憶ができなくなってしまうことを「健忘」といいます。睡眠薬を飲んでから物忘れが起こってしまうので、「前向性健忘」と呼ばれます。

朝起きると食べた覚えのないお菓子のゴミがあったり、友人への発信履歴があったりと、睡眠薬を飲んだ後に自分がやったことを忘れてしまうのです。

この副作用は、アメリカの議員がマイスリーを服用後、記憶がないまま自動車事故をおこしてしまったことを機に注目されるようになりました。

記憶することができないだけですので、そのときは、普通に行動できているのです。電話でも普通に話をしています。

しかし、当の本人は全く覚えていないので怖いですよね。

この副作用は、睡眠薬が中途半端な覚醒状態にしてしまい、脳の記憶に関わる部分の機能だけを落としてしまうことで生じてきます。

もちろん、すべての方におこるわけではなく、多くの場合は問題なく使えますが、可能性はあるので注意しましょう。

健忘の対策

前向性健忘は、

  • 超短期間型
  • 飲む量が多い
  • アルコールと併用した時

など、睡眠薬の作用が急激になるときに生じやすくなってしまいます。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、効果の短いタイプの睡眠薬しかありませんので注意が必要なのです。

対策としては、

  • 布団に入る直前に飲む
  • アルコールとは絶対に一緒に服用しない

ことを注意しましょう。

それでも改善がみられない場合には、

  • お薬の変更・減量

を検討します。

②依存

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ依存を形成しにくいですが、長期で服用していると少しずつ依存は形成されていきます。

依存は、

  • 身体依存
  • 精神依存
  • 耐性

の3つが複合して生じていきます。

身体依存とは、身体が薬のある状態に慣れてしまうことで、急になくなるとバランスが崩れてしまい、かえって不眠がひどくなる(反跳性不眠)などの反応がおこることです。

精神依存とは、本当はもうお薬が無くてもいい状態にあったとしても、「眠れなかったら…」と不安になって止められなくなることです。不眠は辛いですから、精神的な依存が強くなりがちです。

耐性とは、お薬の作用に慣れて効果を感じづらくなることです。

「依存」と聞くと怖いかもしれませんが、アルコールに比べたらはるかにマシですので、医師の処方を守っていれば過度に心配することはありません。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は耐性がつきにくく、ルネスタでは1年、マイスリーでは8か月連続服用しても耐性が認められなかったとする報告があります。

とはいえ、まんぜんと使ったり、量をどんどん増やしたりすれば依存がつきやすくなってしまいますので、以下のことに注意していきましょう。

依存の対策

依存を避けるためには、

  • 医師の処方通りに使う
  • 出口を見据えてお薬を使っていく
  • 勝手に増量したり乱用したりは絶対にしない
  • アルコールとは一緒に服用しない

医師は依存にならないように処方していきますので、指示を守って使い、一定の量でコントロールできている場合は問題ありません。

睡眠薬依存が本当に問題になるのは、効かないからと量がどんどん増えて、大量になってしまう方です。

そのような方は衝動的になりやすいなどの傾向があります。医師と相談の上で、睡眠薬以外の対策も含めて考えていくことが大切です。

アルコールとの併用も厳禁です。

③眠気の持ち越し

睡眠薬は夜だけに効いてくれれば理想ですが、効きすぎてしまうと、翌朝まで眠気が続いてしまうことがあります。

そんな睡眠薬の作用を「持ち越し効果(hung over)」と呼んだりもします。眠気ばかりではなく、

  • だるさ
  • 集中力の低下
  • ふらつき

などがみられることがあるため、車の運転などには注意が必要です。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はすべて超短時間型で、半減期(血液中の濃度が半分になるまでにかかる時間)も2~5時間と短いので、普通に服用していれば翌朝に眠気を持ち越すことはほとんどありません。

ただ、まれに睡眠薬の代謝が悪い方がいて、薬が効きすぎてしまうことがあります。

眠気の持ち越しの対策

万が一眠気の持ち越しがあって、生活に支障をおよぼす場合には、

  • 効果がより短いお薬に変える
  • 睡眠薬を減量していく

のどちらかが選択肢になります。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中でも半減期(お薬の血中濃度が半分に減るまでの時間)に差はありますから、より半減期の短い睡眠薬に変えていくのはひとつの方法でしょう。

それが難しければ、睡眠薬の量を少なくしていきます。

お薬の量を少なくすれば、半減期は変わらなくても、薬が有効な濃度での作用時間を短くすることができます。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果や作用時間の比較を知りたい方は、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果・作用時間の比較をお読みください。

④苦み

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のうち、アモバンとルネスタには苦みの副作用があります。唾液から分泌されるために、飲んだ直後だけでなくて翌日も続くことが多いです。

マイスリーには苦みはありません。

苦みの対策

苦みの感じ方には個人差があります。人によってはまったく感じないという方もありますし、強く感じてしまう方もいらっしゃいます。

何らかの成分が原因と考えられていますが、残念ながら原因がよくわかっていません。

ルネスタの方が苦みを感じることが少ないですので、アモバンの苦みが気になるときはルネスタの方がいいかもしれません。

まとめ

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べると副作用は出にくくなっています。

けれど、健忘や依存などには注意が必要ですし、

  • アルコールと併用しない
  • 勝手に量を増やさない
  • 就寝時以外に飲まない

などのことを守らなければ、副作用が強く出てしまいます。副作用が気になるときは主治医と相談し、処方通りに正しく使うようにしてください。

執筆・監修

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こちらの記事は、下記の精神科医が執筆・監修しております。

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大澤亮太

  • 役職:医療法人社団こころみ理事長/(株)こころみらい代表産業医
  • 資格:精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医
  • 学会:日本精神神経学会

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