高血圧とは?
高血圧は、今や国民病ともいわれている病気です。
2010年に行われた国民健康・栄養調査では、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%が高血圧と診断されています。さらに年齢が高いほど高血圧がみられて、50歳以上の男性と60歳以上の女性では60%を超えています。
そのため高血圧の有病者は、日本国内だけで約4,300万人(男性2,300万人・女性2,000万人)もいるといわれています。
一方で、高血圧の治療をしっかりとされている人は半分以下ともいわれています。実際に高血圧は、軽度から中等症の人は症状がほとんどありません。そのため、血圧を測定しないと気づかない病気です。
高血圧は生活習慣病のひとつとして、時間をかけて動脈硬化を強めてしまいます。その結果として、脳や心臓といった重要な血管のトラブルにつながってしまうことがあります。
それだけでなく、急激に血圧が上昇すると高血圧緊急症といわれる症状が出現することがあります。
- 頭痛
- 吐き気
- 動悸
- 意識障害
などの怖い症状が出現することがあります。
慢性的な高血圧が原因となる病気
高血圧緊急症のような症状が出現する頻度は、決して高くありません。高血圧は一時的に血圧が高いことではなく、慢性的に血圧が高いことが大きな問題となります。
そもそも血圧とは、心臓から血管に流れる圧を測定します。そのため持続的に血圧が高いと、血管に負担がかかってしまうのです。24時間365日、血管に強い圧が加わり続けることで、痛み続けてしまうのです。
血管が痛むことで、
- 動脈硬化(血圧を受け続けることで血管が固くなります)
- 動脈瘤(高い圧を受け続けた部位がコブのようになります)
- 動脈解離(高い圧を受けた血管が割けてしまいます)
などを引き起こしてしまいます。
②・③は致命傷になるため、場合によっては手術が必要になります。一方で頻度が高いのが、①の動脈硬化です。
動脈硬化は、弾力性が失われて硬くなっていく病気です。固くなって血管の弾力性が失われると、動脈内にさまざまな物質が沈着して血管が狭くなります。こうした沈着物が高圧で吹き飛ばされ、傷ついたところにカサブタ(粥腫)ができてさらに狭くなる…という悪循環がおきるのです。
血管は全ての臓器に栄養や酸素を送るために、全身につながっています。そのため動脈硬化が起きた部位の先の臓器、または臓器内を走ってる血管にこうした動脈硬化が起きると、
- 血管が破れる
- 血管が詰まる
- 血管が狭くなり栄養や酸素が十分にいかない
といったことが生じます。
血管は全身を駆け巡っていることから、全身の血管が障害されるということは、全ての臓器に影響するのです。特に障害が出やすいのが、
- 心臓(心不全、心筋梗塞、狭心症)
- 脳(脳出血、脳梗塞)
- 腎臓(高血圧性腎不全)
です。
特に①心臓②脳への障害は突然発症しますし、発症した際は死に至る可能性もある恐ろしい病気です。さらに一命を取り遂げた場合も、後遺症に悩む恐ろしい病気です。
そしてこれらの病気が発症してから高血圧を治療し始めても、動脈硬化がさらに悪化することは防げますが、動脈硬化の改善にはつながりません。つまり高血圧を早期に治療しないと、動脈硬化が元の状態に戻らなくなる恐ろしい病気なのです。
正常な血圧と高血圧のライン
高血圧は症状が出てから診断する病気ではなく、こういった測定から発見される病気です。そのため血圧を測定してみないことには、高血圧の診断は始まりません。
高血圧の診断基準は、
- Ⅰ度高血圧:140/90mmHg以上
- Ⅱ度高血圧:160/100mmHg以上
- Ⅲ度高血圧:180/110mmHg以上
となっています。
収縮期血圧とは心臓が血液を送り出した圧で、いわゆる「上の血圧」になります。拡張期血圧は心臓が返ってきた血液を取り込む瞬間での圧で、いわゆる「下の血圧」になります。つまり最高血圧=収縮血圧、最低血圧=拡張期血圧となります。
これをもとに自分の血圧を確認してみましょう。最高血圧が120以下、最低血圧が80以下であれば正常血圧と診断されます。最高血圧が140以上、最低血圧が90以上のどちらかを満たせば、高血圧の可能性があります。
可能性と示したのは、血圧が一過性に高いだけでは高血圧とは診断できません。血圧は、一日の中でも変動が激しい数値です。たとえば運動をすれば、容易に血圧が上がります。
そのため、測定した1回限りの値で即座に診断はできないのが高血圧です。病院で測定するという近況に緊張してしまうことで血圧が上がる「白衣高血圧」もあります。ただし、反対に病院だと血圧が下がる「仮面高血圧」もあるため注意は必要です。
こうした事情を知っている人は、「今日はたまたま血圧が高かったかな」といった形で軽くとらえてしまう人が多いです。しかし一度でも高血圧の可能性が指摘された方は、放置してしまうと後でとんでもない病気が待っている可能性もあります。実際に様々な研究でも、血圧が140/90以上は心血管病の発症率と死亡率が優位に上がることが示されています。
また、2019年度に日本高血圧学会が発表したガイドラインでは、正常域の血圧の名称が変わりました。
- 正常血圧:120/80mmHg以下
- 正常高値血圧:130/80mmHg以下
- 高値血圧:140/90mmHg以下
となり、できるだけ正常の中でも血圧が低い方が望ましいという考えが反映されました。
国内の研究では、120~127/72~76の血圧の方が、最も心血管の病気の発症が低くなったというデータがあります。このため合併症がない75歳未満の方の高血圧治療目標も、130/80mmHg以下とするように強化されました。
これを受けて名称が変更になり、130/80mmHg以上140/90未満は、高値血圧と名称が変更となりました。
高血圧の診断には家庭血圧が重要
高血圧の可能性がある方は、家庭での血圧測定をお願いしています。上で述べたように、病院で測定した血圧は変動することが大きいからです。
血圧計は大きく分けて3種類あります。
- 指式
- 手首式
- 上腕式
の3種類です。
この中でお勧めは上腕式です。手首式や指式は不正確な測定になり、実際の血圧との誤差が大きいです。そのため実際は高血圧だったのに、見逃してしまう可能性があります。
血圧計は高血圧と診断する時だけでなく、治治療効果を判断するためにも大切な機械になります。血圧計の高いものは1~2万しますが、安いものでしたら3,000円程度から発売されています。
安いから測定が不正確ということはありません。血圧計を購入された方は1日2回、朝と夕の血圧を測定してみましょう。
高血圧にも個人差があって、
- 朝だけ血圧が低いが日中は血圧が高い
- 夕方だけ血圧が高い
- 常に血圧が高い
1日の中でも変動することがあります。
血圧がいつ高いか分かれば、どれくらい効果が強いお薬をどのタイミングで飲めば良いかを推定することができます。適切な治療につながるのです。
高血圧の方に必要な検査
また高血圧の方は、他の病気が隠れていることがあります。特に、
- 高血圧
- 脂質異常症(高脂血症)
- 糖尿病
- メタボリックシンドローム(肥満)
などは死の4重奏と言われており、動脈硬化の原因になる病気です。
高血圧の方は、
- アルコール
- 喫煙
- 過食
- 運動不足
など日常生活に問題がある人も多いです。これらは上記4つの病気につながるため、高血圧の方は複数の病気にかかっているのに気づいていない可能性があります。
そのため当院では、こういった生活習慣病が隠れていないか採血での検査をお勧めしています。生活習慣病も高血圧同様に症状からではなく、検査しないと気がつきにくい病気です。
高血圧の治療をする目的は、重大な病気に罹患するのを防ぐためです。逆にいえば、高血圧だけ治療しても病気は防げません。そのため生活習慣病の精査をご提案しています。
また高血圧は、生活習慣以外にも起こり得る病気です。
- 甲状腺疾患
- 心不全
- 腎不全
- 睡眠時無呼吸症候群
②~④は高血圧のせいで起きた可能性もありますが、病気が引き金になって高血圧になった可能性もあります。また①は、生活習慣とは全く関係ないです。意外と発見が遅れることがあるので、できれば甲状腺の状態も確認したいところです。
とくに高血圧は心臓に大きな影響があるため、
- 胸部レントゲン写真:心臓の大きさと供水の有無を確認
- 心電図:不整脈の有無を確認
- 心エコー:心臓の動きを確認
の検査を行っていくことがあります。
動脈硬化リスクから決定する高血圧治療の方針
次に、高血圧の治療方針についてみていきましょう。高血圧の治療方針は、血圧の数値だけで決定するわけではありません。
このように血圧の高さだけでなく、リスク因子を総合的に考えて重症度を判断し、治療方針を決定します。高血圧の治療目的は、動脈硬化の進展を防ぐことになります。ですから他の動脈硬化に影響を与える因子によって治療方針がかわるのです。
血圧の重症度に関しては、軽度(Ⅰ度)~重度(Ⅲ度)に分けられます。それに加えて、
- 動脈硬化の危険因子
- 臓器障害
の2つの観点から、リスクを分析していきます。
- 動脈硬化の危険因子:高齢・喫煙・糖尿病・脂質異常症・肥満・メタボ
- 血液循環に関係する重要臓器のダメージ:脳・心臓・腎臓・血管・眼底
を評価していきます。
このうち、
- 糖尿病
- 重いメタボリックシンドローム(糖尿病境界域+脂質異常症+肥満)
- 慢性腎臓病や血液循環系の臓器障害
があると、一発でアウトで高リスクとなります。
その他の危険要因としては、
- 高齢(65歳以上)
- 喫煙
- 脂質異常症
- 肥満(特に腹部肥満)
- 若年(50歳未満)発症の心臓病の家族歴
となります。
高血圧を改善する生活習慣
いずれの重症度にしても高血圧の方は、まず生活習慣を見直す必要があります。
このようなことに気をつけていく必要があります。特に食事は、最も重要な項目です。
その中でも塩分は、血圧を上げる最も重要な因子です。目標値としては、塩分を6gと言われています。日本人は塩分摂取量が多いといわれていますので、注意が必要です。
- 味噌
- 醤油
- 塩
これらの調味料には、大量の塩分が含まれています。平均日本人の塩分摂取量は10~12gと、目標値の倍以上になります。しかもこれは平均です。高血圧の方は、平均以上に塩分を摂取していることも多いです。
塩分が多く含まれている量を食べ物をみてみると、
- ラーメン 5~7g
- カレー 2~4g
- 塩サケ 5g
- たくあん 3切れ 1.2g
このようになりますので、ラーメンを1杯食べるだけで1日の推奨塩分量に簡単に達してしまうのです。そのため6gを厳守しようとすると、かなり薄味になります。濃い味に慣れてる方にとっては、かなりつらい食事になります。
その他にも、上に挙げたようなことを中心に血圧を下げる努力をしなければなりません。それも1日や2日ではなく、基本的にはずっとです。しかし脳出血や心筋梗塞の恐ろしさや、動脈硬化のなれの果てをみていると、高血圧の改善はとても重要です。
高血圧のお薬はいつから開始するのか
ガイドラインでは生活習慣を是正したうえで、お薬による治療開始の時期を、先ほどのリスクと踏まえて決定しています。
低リスクの人は、まずは3か月間の生活習慣の改善で経過観察します。リスク因子がなく、血圧が140~160台の人は生活習慣の改善を考えていきましょう。
ですが生活習慣を変えても、収縮血圧を10~20下げるのが限界ともいわれています。血圧が下がるのを待ち続けていては、動脈硬化が進行してしまうため、血圧の数値によっては早期に治療介入が必要な場合もあります。その一つの目安が160になります。収縮期血圧160以上が持続している方は、薬物治療を検討します。
さらに収縮期血圧が180以上は、先ほど記載した高血圧緊症のリスクがあるため、確実に治療する必要があります。特に血圧が高い方で、
- 激しい頭痛→脳出血
- 激しい背部痛→大動脈解離
- 息苦しさ・浮腫み→心不全
が発症してる可能性もあります。
その場合は一刻を争う可能性があるため、当院では関東労災病院や井田病院など、提携先をご紹介させていただきます。
高血圧治療薬(降圧薬)の使い分け
緊急性が低いと判断された場合は、当院で降圧薬の治療を開始させていただきます。降圧薬は世界中で広く使われているため、非常にたくさんのお薬があります。
高血圧のガイドラインに基づいて、適切な降圧薬を患者さんごとに選んでいきます。高血圧のガイドラインでは、
- ARB、ACE阻害薬
- 抗Ca(カルシウム)拮抗薬
- 利尿薬
- α遮断薬
- β遮断薬
の5つが代表的です。一つのお薬でコントロール不十分な場合は、これらを組み合わせていきます。
その場合の効果的な組み合わせは、以下のようになります。
当院はガイドラインに基づいて、
- ARB、ACE阻害薬
- 抗Ca拮抗薬
から処方しています。利尿剤は尿を出しやすくするお薬ですが、トイレが近くなってしまうので、まずはこの2剤から開始します。
それぞれの特徴としては、ARBやACE阻害薬は血圧をあげる物質であるアンジオテンシンⅡという物質を阻害するお薬です。血圧を下げる作用はマイルドですが、血圧の負荷で影響を受けやすい心臓と腎臓を保護する作用があります。
ACE阻害薬は空咳が副作用としてあるため、当院ではARBを中心に治療します。ただしARBも2017年では、
- ロサルタン(®ニューロタン)
- カンデサルタン(®ブロプレス)
- テルミサルタン(®ミカルディス)
- オルメサルタン(®オルメテック)
- イルベサルタン(®イルベタン・®アバプロ)
- アジルサルタン(®アジルバ)
- バルサルタン(®ディオバン)
と7種類ものお薬があります。
細かい特徴として、ニューロタンは尿酸排泄作用があるといわれていて尿酸が下がります。そのためビールを飲みすぎて尿酸が高い人などに使います。
またミカルディスやアバプロは代謝改善作用があるといわれていて、脂質の代謝を改善するといわれています。そのため糖尿病や脂質異常症などがある方には相性がよいです。
一方で腎保護があるARBですが、重度の腎障害がある方ではむしろ、腎不全を進行させるといわれています。そういったことからも、採血で一度腎臓の機能を確認する必要があります。
またカルシウム拮抗薬は、血管を拡張させることによって血圧を下げるお薬です。さまざまな降圧薬の中でも、効果が強いお薬といえます。血管を拡張させながらも、身体の臓器血流はしっかり保たれるので、臓器障害がある方や高齢者にも使用しやすいお薬となっています。
ただし、血圧は下げれば下げるほど良いというわけではありません。血圧を下げすぎると、
- めまい
- 気分不快
- 食思不振
- 失神
など起こります。また急激に下げすぎると血管が逆に詰まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞が起きやすいと言われています。
そのため当院では、
- 年齢
- 血圧の実際の値
- 今までの大きな病気
- 現在の症状
- 採血やレントゲンなどの検査結果
などを元に、患者さんごとに適切な治療を探っていきます。
ひとつのお薬で高血圧の改善が見込めなければお薬を上乗せしていくのではなく、合剤に切り替えたり柔軟に対応していきます。
また、飲み薬が苦手な人や急激な血圧の低下が不安な方には、
- フランドルテープ
- イソソルビドテープ
といった貼り薬でも対応できます。貼り薬であれば、血圧が下がりすぎても剥がせばすぐに効果がなくなります。
【お願い】
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【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:高血圧 投稿日:2019-05-11
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