【医師が解説】細菌性食中毒(夏の急性胃腸炎)の症状・診断・治療

夏の食中毒について

夏の暑い季節になってくると、怖いのが食中毒です。とくに細菌性の食中毒のピークは、6月~10月にかけてとなっています。ここでは、夏に多い細菌性食中毒の種類や対策について詳しくご紹介していきます。

「食中毒」という言葉は一般的にもよく聞かれますよね。「食あたり」と呼ばれることもありますが、人体に有害な微生物や物質に汚染された食品を食べることで発症し、下痢、嘔吐、腹痛、発熱などの急性胃腸炎を生じます。

食中毒では、医療機関で嘔吐や下痢をしてしまうと、周囲に感染が広がってしまいます。基本的には自宅安静で、悪いものを出し切っていただくことが一番の治療になります。当院では院内感染を防ぐために、ひどい嘔吐の方の診療は困難になります。

自宅で安静にしていただくのが一番ですが、受診されるのでしたら、設備のしっかりとした消化器内科をご受診ください。胃腸炎の症状だけでもともと健康な方は、当院では自宅安静していただくことをお願いします。高齢者やお子さん、免疫低下している方は、普段かかりつけの医療機関に相談ください。

食中毒とは?

食中毒といえば外食や集団給食などでかかるイメージが強いかもしれませんが、家庭でも多く発生しているので注意が必要です。

広い意味では毒キノコやフグ、化学物質などの毒による中毒も含まれますが、とくに多いのは食品についた「細菌」や「ウイルス」が原因の食中毒で、全体の約9割を占めます。

高温多湿の季節は細菌の活動が盛んになるため、梅雨から初秋にかけての食中毒は大半が細菌性です。反対に、乾燥低温の冬場はノロウイルスによる食中毒が中心になります。季節を問わず発生する食中毒には、生魚につく寄生虫(アニサキスなど)による食中毒が比較的多く報告されています。

食中毒の原因となる細菌やウイルスは「病原性微生物」と呼ばれ、様々な種類があります。同じ病原性微生物がついた食品を食べても、すべての人が食中毒になるわけではなく、反応には個人差があります。

食中毒は誰でもかかりうる可能性がありますが、乳幼児、高齢者、妊娠中の方、肝臓病や糖尿病の方、免疫抑制剤を服用されている方などは重症化しやすいので、とくに注意が必要です。

食中毒の発生件数

厚生労働省の統計によると、平成29年度の食中毒報告は16,464名です。そのうち死亡された方が3名確認されています。(ボツリヌス菌・腸管出血性大腸菌・植物自然毒)

しかし、これは医療機関を受診し、保健所に報告された件数です。軽い症状なら医療機関にかからない人もいるため、実際にはもっと多くの方が食中毒にかかっていると推定されています。原因別の数(平成29年度)を見ると、

  • 細菌…6621人
  • ウイルス…8555人
  • 寄生虫…368人
  • 化学物質…76人
  • 自然毒…176人
  • その他…69人
  • 不明…599人

となっています。

年度によって発生数や原因に差はありますが、細菌とウイルスが全体の約9割を占めます。夏は細菌、冬は主にノロウイルスによる食中毒が中心ですが、夏場にウイルス性の食中毒がおこったり、冬場に細菌性の食中毒がおこったりすることもあり、1年を通じて食中毒は発生しています。

夏の食中毒と冬の食中毒の違い

夏の食中毒は大半が細菌性ですが、冬の食中毒はほとんどがウイルスの「ノロウイルス」によるものです。

細菌は高温多湿の元で繁殖しやすく、ウイルスは低温乾燥の環境で感染が増えます。とくにノロウイルスは貝のカキで感染しやすいこともあり、11月~3月にノロウイルスによる食中毒が集中します。

細菌とウイルスは性質が全く異なり、細菌は細胞膜を持った独立した生物なのに対し、ウイルスは他の生物の細胞に寄生することでしか生きられません。そのため、基本的にはウイルスの方が感染力が強く、人から人へ伝染しやすい特徴があります。大きさもウイルスの方が小さく、細菌を防げるフィルターもウイルスは通過することができます。

とくにノロウイルスは感染力が非常に強く、10~100個のウイルスが体内に入ってくるだけで感染します。1人が感染すると、排泄物経由で空気中にウイルスが散って付着し、周囲の人へ感染が広がりやすい特徴があります。詳しくは、ノロウイルスのページを参照ください。

一方、細菌性の食中毒は人から人へとは伝染しにくいですが、菌が食べ物の中で増殖し、それを食べることで感染することが主です。そのため、冬場のノロウイルスは「いかに周囲からもらってこないようにするか」が大切ですが、夏場の細菌性食中毒では、「いかに細菌を増やさないようにするか」が大切になります。

夏の食中毒(急性胃腸炎)の原因

夏場は細菌による食中毒がピークを迎えます。高温多湿で簡単に細菌が繁殖しやすく、食品や調理環境が不衛生になりやすいことに加え、アウトドアやレジャーなど外の環境での飲食が増えること、暑さや寝不足で胃腸の働きや体の抵抗力が低下しやすいこともその理由です。

夏の食中毒の原因になりやすい食品は、

  • 生や加熱不足の肉・魚介・卵
  • 未殺菌の湧水や井戸水
  • 洗い不足の生食材
  • 常温に放置された作り置きの料理
  • 不衛生な手で作られたおにぎりやサンドイッチ
  • 動物の排泄物から二次感染した食材

などとなっています。

食中毒の原因となる細菌には様々な種類がありますが、基本的には常温を好みます。夏場の20℃~40℃の高温多湿の環境に放置された食品は、細菌の繁殖には絶好の環境になってしまいます。細菌は、数が増えることで人体への毒性を増すのです。

とくに危険なのは、生や半生の肉・魚・卵や不衛生な生水ですが、加熱した料理やハムなどの加工食品であっても、常温に放置していると食中毒のリスクが高まります。

また、細菌は人の手やペットなどの動物、肉以外の食材にも多くついています。生野菜や魚介類は流水で十分に洗い、食べ物に触れる手や調理器具はよく洗浄することが大切です。

夏の食中毒の原因となる細菌は、

  • カンピロバクター
  • サルモネラ菌
  • ウェルシュ菌
  • 病原性大腸菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • 腸炎ビブリオ
  • セレウス菌

の7つが代表です。その割合は、以下のようになります。

平成29年度の細菌性食中毒の割合を円グラフにしました。

この他、

  • アニサキス(寄生虫)
  • ボツリヌス菌
  • エルシニア・エンテロコリチカ
  • ビブリオ・バルニフィカス
  • リステリア菌

などによる食中毒も報告されています。冬場が中心のノロウイルスによる食中毒が夏場に発生するケースも見られます。

ちなみに、ノロウイルスなども含めた1年での食中毒の原因の割合は以下のようになります。

平成29年度の食中毒の原因について円グラフでまとめました。

ただし、夏場に急激な下痢や腹痛をおこした場合、細菌性以外の単純な原因のこともあります。例えば、

  • 冷たい物の食べ過ぎ、飲みすぎ
  • 暑さや寝不足で胃腸が弱っていた
  • エアコンや夜風での寝冷え
  • 胃腸かぜ

などです。

これらの症状は食中毒とよく似ているため、食中毒をただの寝冷えや風邪として見過ごしてしまうケースも少なくありません。嘔吐や下痢がひどいときには食中毒の可能性もあるので注意しましょう。

胃腸や体力が弱っているときは食中毒にもかかりやすいので、衛生管理への注意と同時に、暴飲暴食を控え、適度な休息を取り、体調を整えることも大切です。

食中毒(急性胃腸炎)の症状と潜伏期間

食中毒の症状は、原因になった微生物の種類によって異なりますが、基本的には

  • 腹痛
  • 嘔吐
  • 下痢(水のような便が続く)

の胃腸症状が中心です。

これは、胃腸に入りこんだ有害な微生物や毒素を外に追い出そうとする体の防衛反応です。食中毒の種類によっては、

  • 激しい悪寒、発熱
  • 血便
  • 筋肉痛や頭痛
  • 神経のマヒ

などの症状が見られることもあります。(原因菌別の特徴的な症状は、下の「夏の主な食中毒の種類と特徴」にまとめています)

とくに乳幼児、高齢者の方、妊娠中、肝臓病・糖尿病・自己免疫疾患などの持病がある方、免疫抑制剤を服用中の方は重い症状が出やすいので注意が必要です。

中でも深刻な合併症をおこしやすい食中毒の原因菌として、腸管出血性大腸菌のO-157がよく知られています。O-157を含む腸管出血性大腸菌による食中毒では、

  • 腸からの出血(血便)
  • 急性腎不全
  • 脳性マヒ

などの合併症をおこすことがあり、日本でも死亡例が出ています。

感染源の食品を食べてから症状が現れる時間は、菌種や感染した人の状態によって差があります。細菌が体内に入ってから症状出現までの期間を潜伏期間と呼びます。

細菌の毒素が食品について感染する毒素性の食中毒ではすぐに症状が出やすいですが、細菌が体内で繁殖することで発生する食中毒は、数日以上経ってから症状がおこることがあります。

潜伏期間が比較的短いものは、

  • 黄色ブドウ球菌 約1~6時間
  • ウェルシュ菌 約6~18時間
  • サルモネラ菌 約6~72時間
  • 腸炎ビブリオ 約2~96時間

比較的長いものは、

  • カンピロバクター 約2~7日
  • 病原性大腸菌(O-157など) 約3~5日

となりますが、これは1つの目安です。同じ物を食べても症状の出方には個人差があるため、同じ食事をした家族でも発症がズレたり、無症状の人がいたりということがおこります。

主な夏の食中毒の種類と特徴

夏の食中毒の原因菌は、

  • カンピロバクター
  • サルモネラ菌
  • ウェルシュ菌
  • 病原性大腸菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • 腸炎ビブリオ
  • セレウス菌

の7つが代表とご紹介しましたが、それぞれ特徴が違います。ここでは、1つ1つの特徴をもう少し詳しくご説明します。

カンピロバクター

【主な感染源】

  • 加熱不足の肉(主に鶏肉)
  • 殺菌されていない生水
  • ペットや動物の排泄物

【潜伏期間】

  • 2~7日程度

【症状の特徴】

  • 血の混じった下痢、発熱、頭痛、筋肉痛などをともなうことがある
  • 感染から数週間後に手足や顔面のマヒ(ギランバレー症候群)を起こすことがある

カンピロバクターは、現在の日本でもっとも多く見られる細菌性食中毒の代表です。年間2000人程度に発症が認められています。カンピロバクターの中にも17菌種が確認されていますが、その中でカンピロバクター・ジェジュニという種類が大部分をしめています。

感染してから嘔吐や下痢などの症状が現れるまでには2~7日程度かかりますが、感染すると頭痛や筋肉痛などの症状がおき、下痢には血が混じるこることがあります。重度になると、手足や顔面がマヒするギランバレー症候群をひきおこすケースも報告されています。

100個程度の少ない菌でも感染し、細菌の中では感染力が強い性質を持ちます。ただし、空気中では生きていけないため、人から人へと感染することはありません。

感染源としては、汚染した(細菌に感染した)動物の肉を加熱不足で食べることで感染することが多く、とくに鶏肉につきやすい特徴があります。

しかし、カンピロバクターは、ペットを含むあらゆる動物に存在しています。鶏以外の加熱不足の肉料理、動物の排泄物が触れた未殺菌の湧水などからの感染例もあります。

鶏肉の汚染率は20~40%といわれていますが、熱に弱い細菌なので中まで十分に火を通すことでカンピロバクターは死滅します。カンピロバクター食中毒を防ぐために以下のことに注意しましょう。

  • 肉は十分に加熱する
  • 生肉の汁が他の食品や食器につかないように注意する
  • 生肉を扱ったら十分に手を洗う
  • 生肉を調理した調理器具を洗浄殺菌する
  • ペットが食品に触れないように注意する
  • 未殺菌の湧水や井戸水を飲まない

カンピロバクターに限らず、夏場の生肉は危険です。生肉の刺身などを食べたくなることもあるかと思いますが、夏場は肉の生食は避け、中まで十分に加熱しましょう。また、生肉と他の食材が接すると、そちらから感染することもあります。生肉を扱うときは注意し、手や使った調理道具は十分に洗浄を行いましょう。

サルモネラ菌

【主な感染源】

  • 加熱不足の卵・肉・魚料理
  • ネズミやペットが触れた食品

【潜伏期間】

  • 6~72時間

【症状の特徴】

  • 嘔吐や下痢に悪寒や発熱をともない、胃腸風邪に似た症状をおこすことがある

サルモネラ菌は、卵での食中毒原因として有名な細菌です。動物の腸や川・下水・湖など、広く自然界に存在しています。加熱不足の卵や鶏肉を通して感染することが多いですが、他の肉や魚、生卵を使った手作りのマヨネーズや洋生菓子からの感染も報告されています。ペットやネズミの排泄物を介して食品に付着してしまうこともあります。

免疫力の弱い乳幼児や高齢者の方は重症化することがあるので、とくに注意が必要です。感染するには大量の菌が必要と考えられてきましたが、最近は少量でも感染するケースが報告されています。

サルモネラ菌は加熱に弱いので、以下の点に注意しましょう。

  • 卵、肉、魚はしっかり加熱する。(75℃1分以上)
  • 夏場は生卵や半熟料理を避ける
  • 食材は低温で保存し、新鮮なうちに使う
  • 生肉の取り扱いに注意する
  • ネズミの発生に注意する
  • ペットが食品や食器に触れないようにする

ウェルシュ菌

【主な感染源】

  • 作り置きの煮込み料理(カレーなど)

【潜伏期間】

  • 約8~20時間

【症状の特徴】

  • お腹の張りや下痢が中心で比較的軽症のことが多い

ウェルシュ菌は、人や動物の腸や土壌・下水など、様々なところに生息しています。芽胞という硬いバリアを持つため生命力が高く、酸素のない環境で繁殖します。

1gあたり10万個以上増殖しないと感染はせず、感染力の弱い菌ではありますが、厄介なのは熱に強いということです。100℃で加熱すると他の菌は死にますが、1~6時間ほどは死なずに生き残ります。

そのため、煮込み料理(カレーなど)を作り置き、常温で放置している間にライバルがいなくなったウェルシュ菌が増殖し、それを食べて感染してしまうケースが多いのです。

作り置きの煮込み料理は、給食や施設などで提供されることも多いため、ウェルシュ菌による食中毒は集団食中毒の原因になりやすい特徴があります。

ウェルシュ菌による食中毒を防ぐために、以下のことに注意しましょう。

  • 夏場はできるだけ作り置きしない
  • 保存する場合は、短時間で冷却して冷温保存する
  • 食べるときは十分に再加熱し、すぐに食べる

病原性大腸菌(腸管出血性大腸菌)

【主な感染源】

  • 加熱不足の肉
  • 動物から二次感染した生野菜
  • 未殺菌の湧水や井戸水

【潜伏期間】

  • 3~8日

病原性大腸菌は、食中毒をおこす細菌の中でもとくに注意が必要な細菌です。様々な種類がありますが、警戒しなくてはならない種類として腸管出血性大腸菌O-157があります。およそ病原性大腸菌による食中毒のうち、10%ほどになります。

他の細菌性食中毒と異なる点は、腸管出血、急性腎不全、けいれんやマヒなどの合併症をおこすケースが見られることです。とくに、乳幼児や高齢者の方が感染すると合併症のリスクが高く、命に関わることもあるので注意が必要です。

感染源として多いのは、生~半生の食肉や、不衛生な環境にある生水や野菜などです。牛や豚など家畜の腸内に多く存在するため、生焼けの牛肉料理などからの感染が多くなっています。家畜の排泄物から水や野菜へ二次感染し、それを飲食することで感染することもあります。

大腸菌は、人も含めて動物の腸に普段から存在しています。普通の状態では無害ですが、他の菌種の病原因子を取り込んだものが病原性大腸菌となり、それが食品から腸に入ると様々な症状を引き起こします。

中でも腸管出血性大腸菌は、産生する強い毒素によって腸管に出血をおこしたり、腎臓を攻撃して溶血性尿毒症症候群(HUS)という急性腎不全の原因になります。O-157もその1種で、ベロ毒素という強力な毒素を持ち、日本でも死亡した例が報告されています。その他、O-111などでの発症も確認されています。

腸管出血性大腸菌は、細菌の中では感染力や伝染力が強く、少量の菌でも感染する上、幅広い食品が感染の原因になります。感染が広がる可能性が高いため、国が定めた特定感染症の三類感染症に指定されており、感染が認められたら保健所に報告しなければいけません。

大腸菌は低温に強く冷蔵庫内でも生きていますが、熱や消毒には弱いので、十分な加熱調理や調理環境の衛生など、以下の点を心がけましょう。

  • 食品は加熱調理する(75℃1分以上)
  • 野菜も湯がく(100℃5秒程度)
  • 生肉の取り扱いに注意する
  • 手洗いや調理器具の洗浄を徹底する
  • 動物に触れたら十分に手を洗う

黄色ブドウ球菌

【主な感染源】

  • おにぎりやサンドイッチ

【潜伏期間】

  • 1~6時間

【症状の特徴】

  • 原因食品を食べてから1日以内に嘔吐や腹痛がおこる

黄色ブドウ球菌は動物に広く存在する身近な菌で、人の手足の皮膚や鼻・喉の粘膜にも多く存在しています。その中にエンテロトキシンという毒素を産生する種類があり、この毒素が食品について体に入ると食中毒の原因になります。

人間の手から食品へと毒素が付着することが多く、様々な食品が感染源になりますが、一番は手作りのおにぎりや巻きずし、サンドイッチなどです。細菌がついた手で握ると毒素が食品の表面にこびりついてしまいます。おにぎりが原因の黄色ブドウ球菌食中毒は、全体の4割を占めます。

黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いですが、産生した毒素のエンテロトキシンは、100℃で30分加熱しても無毒化しないため、黄色ブドウ球菌の食中毒予防は「手からつけない」ことが重要です。まずは手洗いを徹底し、手に傷があるときは指サックや調理用手袋を使用しましょう。

黄色ブドウ球菌による食中毒を防ぐために、以下のことに注意しましょう。

  • 調理前・食事前には石ケンで十分な手洗いをする
  • 手に傷のあるときは指サックや調理用手袋をつける
  • 食品にツバがかからないようにする
  • 調理器具を洗浄殺菌する
  • 食品は低温保存する
  • 虫やネズミ、ペットが食品に触れないように注意する

腸炎ビブリオ

【主な感染源】

  • 魚介類や海藻などの海産物

【潜伏期間】

  • 約2~96時間

【症状の特徴】

  • 嘔吐・腹痛・発熱・悪寒、下痢に血が混じることがある
  • 持病のある方では全身の痛み、皮膚の発疹や水ぶくれなどをおこすことがある
    ・肝臓病の持病がある方
    ・ステロイドなど免疫抑制剤を服用中の方
    ・鉄剤を服用している貧血の方

ビブリオは魚介類などの海産物につきやすい細菌です。河口や沿岸などの海で生息している菌で、塩分を好む性質があります。3%程度の塩分濃度で繁殖しやすいですが、真水や酸には弱く、水道水の流水で十分に洗うなどの注意をすれば比較的防ぎやすいタイプです。

ただ、上に書いた持病がある方で重症化しやすいビブリオの菌種が確認されていますので、注意が必要です。

腸炎ビブリオは昔の日本では多く見られた食中毒でしたが、食品衛生に関する知識が飲食業で広まり、発生件数はだいぶ減りました。しかし、家庭では今でも発生することがあるので以下の点に注意しましょう。

  • 海産物(魚介や海藻)は真水の流水でよく洗う
  • 海産物を使った調理器具も流水と洗剤でよく洗う
  • 食材は短時間でも冷蔵庫に保存する
  • できるだけ加熱する(60℃10分間)
  • 生で食べる刺身や寿司は食べる直前に冷蔵庫から出す

セレウス菌

【潜伏期間】

  • (嘔吐型)1~5時間
  • (下痢型)8~16時間

【主な感染源】

  • (嘔吐型)作り置きのチャーハン、パスタ、焼きそばなど
  • (下痢型)ラップをせずに放置した食品など

【症状の特徴】

  • 嘔吐、腹痛が中心の嘔吐型と、腹痛、下痢が中心の下痢型がある

セレウス菌による食中毒は、嘔吐・腹痛をおこす「嘔吐型」と腹痛・下痢をおこす「下痢型」があります。日本ではほとんどが嘔吐型です。作り置きで放置したご飯物や麺類による感染がよくあります。下痢型の方はラップやフタをせず放置している料理などに幅広くつく可能性があります。

予防には以下のことに注意しましょう。

  • 米類や麺類を大量に作り置かない
  • 食品の保存はラップなどでフタをする

その他の食中毒の原因菌

夏の食中毒の代表は上でご紹介した7つですが、それ以外にも注意すべき細菌性食中毒があります。

以下について、簡単にご紹介していきます。

  • アニサキス(寄生虫)
  • ボツリヌス菌
  • エルシニア・エンテロコリチカ
  • ビブリオ・バルニフィカス
  • リステリア菌

アニサキス(寄生虫)

【主な感染源】

  • 冷凍処理をしていないシメサバ
  • 生食の魚介類

【潜伏期間】

  • 約2~15時間

【症状の特徴】

  • みぞおちの激しい痛み、嘔吐
  • さらに時間が経過すると激しい下腹部痛、腹膜炎をおこすこともある

アニサキスは魚介類に幅広く存在する寄生虫で、サバ、アジ、サンマ、イワシ、カツオなどの青魚や、イカ、ヒラメなど多くの魚介類にアニサキスの幼虫がついていることがあります。アニサキス幼虫は長さが2~3cmの細い線虫で、白い糸のような形状をしています。細菌と違って目に見えます。

元々は魚介の内臓に寄生していますが、魚介が死んで鮮度が落ちると内臓から筋肉の方へ移動してきます。ですから魚は新鮮なうちに内臓を取り、十分に洗浄することが大切です。

また、-20℃で24時間以上の冷凍処理をするか、60℃で1分以上の加熱調理をすると死滅します。ですからお寿司屋さんで生イカを調理する際は、包丁で小さく刻みをいれることアニサキスをやっつけます。反対にいえば、冷凍イカを解凍した場合は包丁が入っていません。(生イカか冷凍イカが見分けられます)

アニサキスを予防するために、以下のことに気を付けましょう。

  • 魚介類はよく洗う
  • できるだけ冷凍処理や加熱したものを食べる

リステリア菌(リステリア・モノサイトゲネス)

【主な感染源】

  • 長期保存でそのまま食べられる加工食品(生ハムなど)

【潜伏期間】

  • 20時間~90日

【症状の特徴】

  • 妊娠中、高齢者の方で重症化しやすい
  • インフルエンザのような症状がおこり、重症化すると胎児や命に関わる

リステリア菌は、基本的には感染力の弱い細菌ですが、妊娠中の方と高齢者の方では稀に重症化することがあります。とくに妊娠中の方がかかると胎児への影響や命の危険が指摘されているので、注意が必要です。日本では食品との因果関係が不明ですが、リステリア菌の感染症自体は年間で約80件と推定されています。

日本より発生数が多い海外では、未殺菌のチーズや牛乳、生ハムやスモークサーモンなどの加工食品での食中毒感染が確認されています。

冷蔵庫で長期保存でき、そのまま食べられる食品に注意が必要です。とくに妊娠中の方は以下の点に注意しましょう。

  • なるべく十分に加熱した食品を食べる
  • ハムなど調理済みの加工食品も加熱調理を心がける
  • できるだけ長期保存を避ける

ボツリヌス菌

【潜伏期間】

  • 8~36時間

【主な感染源】

  • いずしや瓶詰など自家製の長期保存食品
  • ハチミツ(1歳未満)

【症状の特徴】

  • 1歳未満の乳児でとくに注意が必要
  • 話しにくい(口がまわらない)、飲み込みづらい、呼吸しにくいなどの症状がともなうことがある

ボツリヌス菌は、感染すると神経に障害を受け、様々な部位にマヒをおこすことがあります。重症化すると呼吸が難しくなり、死に至ることもあります。とくに注意が必要なのが1歳未満の乳児で、腸内細菌のバランスが不安定のためボツリヌス菌への抵抗力が弱いと言われています。

乳児では、主に未殺菌のハチミツが原因になります。そのため、1歳未満の乳児にはハチミツを与えてはいけません。乳児ボツリヌス症の症状は、便秘、母乳を吸う力が弱くなる、泣き声が小さくなる、無表情になるなどが見られます。

ボツリヌス菌の食中毒を防ぐには以下のことに注意しましょう。

  • 1歳未満の乳児にはハチミツを与えない
  • 作り置きの料理は十分に加熱する
  • 瓶詰などを作るときの瓶は十分に煮沸殺菌
  • 土の中に住む菌なのでとくに根菜などはしっかりと洗う
  • 瓶詰や真空パックで異臭や膨張が確認されたら食べない

エルシニア・エンテロコリチカ

【潜伏期間】

  • 2~5日

【主な感染源】

  • 加熱不足の肉(とくに豚肉)
  • 未殺菌の井戸水や湧水
  • ペットや動物が触れた食品

【症状の特徴】

  • 発熱、腹痛、下痢
  • 高齢者で重症になりやすい

エルシニア・エンテロコリチカは、豚肉につきやすい細菌です。動物の腸内に存在し、未殺菌の井戸水などが排泄物経由で汚染されることもあります。ペットが触れた食品が原因になることもあります。

低温に強く、冷蔵庫内でも繁殖することがあるので、以下のことに注意しましょう。

  • 生肉を長期冷蔵保存しない
  • 生肉の扱いに注意する
  • 肉は中まで十分加熱して食べる

食中毒の治療

明らかな飲み過ぎや食べ過ぎ以外で激しい嘔吐、腹痛、下痢などがおこったときは、食中毒の疑いがあります。

細菌性の食中毒の場合、細菌や毒素を腸から追い出す必要があるので、市販の下痢止めや吐き気止めは使用しない方がいいとされています。できるだけ悪いものを出しきってしまうことが大切です。

食中毒が疑われた場合、基本的には「悪いものを出し切る」以外の方法がありません。以下のような症状や状態でなければ、基本的には自宅で水分摂取をしっかりとして様子を見てください。

  • 水分がまったくとれないとき
  • 血便などの症状が見られるとき
  • 乳幼児、高齢者、妊娠中、持病のある方、体力の弱っている方に発症したとき

です。この場合はすぐに医療機関、できれば消化器内科を受診しましょう。

医療機関を受診するまでの間は脱水症状に注意が必要です。下痢や嘔吐が続いている間は、経口補水液やスポーツドリンクで水分とミネラルの補給をしてください。そして吐き気がそこまでひどくなければ、食事をとったほうが早くよくなります。腸液が分泌されて、細菌が便と一緒に外に出ていきます。

周囲の方が患者さんを介護する場合、排泄物に触れたらよく手を洗い、汚れた寝具や衣服が他につかないように注意してください。

医療機関での食中毒の治療

医療機関で行う細菌性食中毒の治療についてご紹介していきましょう。

比較的軽い食中毒は、基本的に水分やミネラルの補給を行いながら、嘔吐や下痢で細菌や毒素が排出されていくのを待つ形になります。下痢止めは排出を妨げる可能性があるので使用しません。少しでも回復を早めるために整腸剤を処方することが多いです。状態が悪い場合は、細菌を殺す抗生剤を処方する医療機関もあります。

基本は自宅で安静にして体と胃腸を休め、下痢や嘔吐が続いている間は経口保水液やスポーツドリンクでの水分・ミネラルの補給を行いながら回復を待つことになります。吐き気がひどくて水分や食事がとれない場合は、吐き気止めを処方することもあります。

激しい嘔吐や下痢が続き、体力的に不安があるときには点滴を行います。O-157などでの合併症が疑われたときは、詳細な検査や治療が必要になることもあります。とくに、乳幼児、高齢者の方、妊娠中の方、持病があり体力の弱っている方などに激しい下痢や嘔吐が見られた場合は、早めに医療機関を受診してください。

食中毒の回復

夏の細菌性の食中毒は、重症例でない限りは回復します。

一番注意が必要なのは腸管出血性大腸菌による合併症と、体力や免疫力の低下した方の重症化、妊娠中や重い持病のある方です。その場合は入院治療が必要なことがありますが、多くの場合は、嘔吐や下痢で原因の細菌や毒素が排出されれば自然に回復していきます。

ただし、食中毒によって胃腸はかなりのダメージを受けています。食欲が戻ってもしばらくは消化の良い食事をし、胃腸を休めてあげましょう。その後は再び食中毒にかからないように、衛生管理や予防を心がけましょう。

食中毒の回復期には、以下の点に注意しましょう。

  • 下痢や嘔吐が続いているときは水分・ミネラルの補給(経口保水液やスポーツ飲料)を心がける
  • 吐いたものが詰まらないよう注意する
  • トイレや汚物の衛生を心がけ、周囲への感染を予防する
  • 下痢や嘔吐が治まった後も消化の良い物から少しずつ食べる

夏の食中毒の予防対策

夏の食中毒の原因となっている細菌は、その特徴はそれぞれであるものの、共通して心がけられる予防対策があります。

基本的には、夏の食中毒は「いかに細菌を増やさないようにするか」が重要です。このため、

  • 原因となる細菌をとらないようにする
  • 高温環境を避ける(常温で放置しない)
  • しっかり加熱する

ことが基本になります。

厚生労働省がすすめている夏の食中毒予防の3原則も、「(細菌を)付けない」「増やさない」「やっつける」の3つです。

「つけない」は、手洗い、調理器具・食器・ふきん・調理環境の清潔を保つことと、生肉の汁や不衛生なものを他の食材につけないなどの心がけです。

「ふやさない」は、細菌が繁殖しやすい常温に食品を放置しないことです。多くの細菌は10℃以下の低温や75℃以上の高温には弱いので、冷蔵や冷凍での保存を意識し、肉類は中まで火を通し、調理後の料理はすぐに食べることがすすめられます。

「やっつける」は、細菌を死滅させるために十分に加熱調理をすることや、調理器具や保存容器は素材に合った消毒を行うことなどがあげられます。

手はただ水で洗うだけでなく、よく泡立てた石ケン・ハンドソープを使い、手の付け根から指先まで、表も裏も丁寧に洗うようにしましょう。最後は清潔なタオルやペーパーでしっかりと水気をふいてください。夏場は濡れたふきんやタオルに雑菌が繁殖しやすいため、できればペーパーを使うか、常に清潔なものを準備するようにしましょう。

それ以外に注意できることを、以下にまとめたいと思います。

【調理時】

  • 調理前や生肉、魚介を扱った後は石ケンで十分に手洗いをする
  • 食材はできるだけ加熱する
  • 肉類は中までしっかり火を通す
  • 野菜や生の海産物(魚介や海藻)は真水の流水で洗う
  • 生肉の汁が他の食材や食器につかないように注意する
  • 料理や食材を常温に放置しない
  • 常温解凍は避け、冷蔵解凍かレンジ解凍にする
  • 包丁やまな板は食材で分けるか、先に生野菜などを切り、肉や魚は後にするなどの工夫をする
  • 生肉や魚を扱った器具は十分な洗浄や素材に合わせた消毒(熱湯や市販の漂白剤)をする

【買い物・保存】

  • できるだけ作り置きや買い置きはしない
  • 保存は冷蔵・冷凍で
  • 常温の状態に食材や料理を放置しない
  • 食材やお弁当の持ち歩きは保冷バックを利用する
  • 生の肉や魚はビニールでくるみ、他の食品と離す
  • 帰ったらすぐに冷蔵庫へ入れる
  • 詰め過ぎや開けっ放しで冷蔵庫の温度が上がらないよう注意する

【衛生対策】

  • 調理前後や食事前には石ケンで十分に手洗いをする
  • 動物に触れた後も手洗いをする
  • 調理環境や保存環境を清潔に保つ
  • 調理器具やまな板の洗浄は十分に
  • 水に汚れた食器をつけっぱなしにしない
  • 生ごみの処理をコマメにする

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

【お読みいただいた方へ】
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大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:細菌性食中毒(夏の急性胃腸炎)  投稿日:2019-05-11

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