SGLT2阻害薬とは?
SGLT2(エスジーエルティー・ツー)阻害薬は糖尿病の治療ガイドラインで定められている治療薬のひとつで、膵臓ではなく腎臓に作用することで血糖値を改善する働きがあります。
SGLT2は腎臓に存在する物質で、尿中に含まれる糖をコントロールすることで血糖値を調節しています。
SGLT2阻害薬は、このSGLT2の働きを妨げることで効果を発揮します。
また、SGLT2阻害薬は心血管疾患や腎疾患の予防や治療に効果があることも研究されています。
SGLT2阻害薬は、錠剤で発売されています。
ジェネリック医薬品は全てのSGLT2阻害薬で発売されていません。
ここでは、SGLT2阻害薬の効果や副作用についてご紹介していきます。
SGLT2阻害薬のメカニズム
まず最初に、高血糖時の尿糖排泄について説明します。
- 血液中の糖が腎臓で濾過されます。
- 濾過された糖は主にSGLT2の働きで血液中に再吸収されます。
- 再吸収しきれなかった糖が尿として排泄されます。
SGLT2阻害薬を服用するとどうなるでしょうか。
- 血液中の糖が腎臓で濾過されます。
- SGLT2阻害薬がSGLT2による再吸収を妨げます。
- 再吸収しきれない糖が腎臓で増えるため、尿中へ排泄される糖も増えます。
SGLT2阻害薬を服用すると血液中へ戻る糖が減少するため、血糖値が低下します。
また、糖が体外へ排泄されるためエネルギー量が減り、体重減少効果も期待できます。
SGLT2阻害薬の使い分け
SGLT2は6種類発売されていますが、どのように使い分けしているのでしょうか。
処方医の考え方は様々ですが、簡単に説明します。
スーグラ
- ⊕インスリン治療と併用できる
- ⊕通常量の半量の規格が存在するため減量しやすい
- ⊖服用時間が朝食時に限定されている
フォシーガ
- ⊕インスリン治療と併用できる
- ⊕心血管疾患・腎疾患の適応がある
- ⊕エビデンスが豊富
- ⊕服用時間が朝食時に限定されていない
デベルザ
- ⊕半減期が短いため夜間頻尿の副作用が抑えられる
- ⊕割線があるため減量しやすい
- ⊖服用時間が朝食時に限定されている
ルセフィ
- ⊕フィルム製剤が存在するため持ち運びに便利
- ⊖服用時間が朝食時に限定されている
カナグル
- ⊕腎疾患への適応がある
- ⊖100mg錠しかないため用量調節がしずらい
- ⊖服用時間が朝食時に限定されている
ジャディアンス
- ⊕エビデンスが豊富
- ⊕心血管疾患への適応がある
- ⊖服用時間が朝食に限定されている
SGLT2阻害薬の副作用
SGLT2阻害薬を服用することで尿中の糖が増えるため、主に膀胱炎等の尿路感染症、膣カンジダ症等の性器感染症が懸念されています。また、尿量増加による頻尿にも注意が必要です。
SGLT2阻害薬の副作用と頻度は、以下のように報告されています。
各SGLT2阻害薬の副作用と頻度(%)
(各製品インタビューフォームより集計)
また、重篤な副作用として下記の症状に注意が必要です。
低血糖
SGLT2阻害薬だけを使用する場合は低血糖は起こりにくいのですが、併用薬の効きが良くなるため注意が必要です。
低血糖症状には、空腹感、発汗、ふるえ、動悸、だるさ等があります。
腎盂腎炎
腎盂腎炎(じんうじんえん)は尿路感染症のひとつです。
SGLT2阻害薬を服用すると尿中の糖が増えるため、尿路感染症の副作用に注意が必要です。
腎盂腎炎の症状には、寒気、ふるえ、 発熱、背中をたたくと痛い等があります。
外陰部及び会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)
フルニエ壊疽(えそ)は、尿路感染が進展した症状です。
SGLT2阻害薬を服用すると尿中の糖が増えるため、尿路感染症の副作用に注意が必要です。
フルニエ壊疽の症状には、陰部の痛み、陰部の皮膚が赤~赤紫色に腫れる、痛みを伴う水ぶくれができただれたりする等があります。
敗血症
敗血症は、特定の細菌に感染したときに起こります。
SGLT2阻害薬を服用すると尿中の糖が増えて細菌が繁殖しやすくなるため、注意が必要です。
敗血症の症状には、発熱、寒気、脈が速くなる、体がだるい等があります。
脱水
SGLT2阻害薬を服用すると、尿量が増えることで体内の水分量が減るため、脱水に注意が必要です。
脱水症状には、口の渇き、立ちくらみ、めまい、体に力が入らない等があります。
ケトアシドーシス
SGLT2阻害薬はその作用機序からケトアシドーシスに注意が必要です。
ケトアシドーシスの症状には、意識の低下、吐き気、嘔吐、腹痛等があります。
ショック・アナフィラキシー
SGLT2阻害薬に特有の症状ではありませんが、ショック・アナフィラキシーに注意が必要です。
ショック症状には、冷汗、めまい、意識消失等があります。
アナフィラキシー症状には、全身の痒み、蕁麻疹、ふらつき等があります。
ダイエットは適応外
SGLT2阻害薬は過剰な糖を尿として排泄することから、ダイエット目的に適応外使用されることが増えていますが、保険が使えず、また重大な副作用が生じた場合に救済制度の対象外ともなります。
肥満症の治療薬としては、BMI27以上で生活習慣病リスクが2つ以上ある場合のみ、セマグルチド(商品名:ウゴービ)の使用が認められています。
SGLT2阻害薬の特徴
SGLT2阻害薬の特徴は下記の通りです。
- 単独では低血糖の危険性が低い
- 血糖値が高い患者さんでの効果が期待できる
- 心血管疾患や腎疾患に対する効果が期待できる
単独では低血糖の危険性が低い
SGLT2阻害薬の血糖降下作用はインスリンを介さないため、単独では低血糖の危険性が低いとされています。
また、SGLT2が阻害されるとSGLT1(※)による再吸収が若干増加することも要因のひとつと考えられます。
※糖を運ぶたんぱく質には主にSGLT1・SGLT2があり、腎臓で糖の再吸収に関わるのは主にSGLT2
血糖値が高い患者さんでの効果が期待できる
糖尿病患者さんはSGLT2の働きが強く現れ、正常よりも多くの糖を吸収していると考えられています。
そのため、SGLT2阻害薬で高い治療効果を期待することができます。
心血管疾患や腎疾患に対する効果が期待できる
SGLT2阻害薬では心血管疾患や腎疾患に対するデータが示されています。
また、エビデンスのない薬剤の多くも効果を検証しており、適応が追加される薬剤が増えることが期待できます。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:糖尿病治療薬 投稿日:2023-06-30
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