ノイロトロピン注射とヒスタグロビン注射
花粉症の注射で調べると、敷居が高いステロイドや効果が出るのに時間がかかる減感作療法が並ぶと思います。
即効性がありながらも安全性の高い注射を探されている方にお勧めなのがノイロトロピン注射です。
ノイロトロピン注射は、日本臓器製薬株式会社が1976年に発売された注射薬です。
もともとは腰痛や首の痛みなど、整形外科的な疾患に使われていたお薬でしたが、アレルギー抑制にも効果があることが分かって注目されました。
ウサギの皮膚から抽出されたエキスで、化学合成物質ではないことから安全性も高いといわれています。
薬を飲んでいてもアレルギー症状が良くならないという人には、検討することがある注射剤になります。同じくアレルギーの効果が期待できるヒスタグロビン注射と、一緒に注射されることが多いです。
※ヒスタグロビン注射について詳しく知りたい方は、『ヒスタグロビン皮下注射の効果と副作用』をお読みください。
ノイロトロピン注射とは?
ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを接種したウサギの炎症皮膚組織から抽出したエキスをもとに作っています。
完全に解明されていないことが多いノイロトロピン注射ですが、主な作用機序としては以下のことがわかっています。
- ノルアドレナリン作動神経、セロトニン作動神経の活性化
- 末梢循環改善作用
- 鼻粘膜ムスカリン作動性アセチルコリン受容体増殖の抑制
- 好酸球浸潤抑制作用
もともと腰痛や首の痛みが出る人は、下行性疼痛抑制系神経の働きが弱まっています。この神経の働きをつかさどるアドレナリン作動神経とセロトニン作動神経の働きをもとに戻して、痛みを和らげるのがノイロトロピン注射の役割です。
ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬とは働きが違うため、湿布や痛み止めを飲んでも効かない人には効果的です。
さらに末梢循環を改善する作用もあります。特に患部が冷たくなっている部位に効果的なので、腰痛や首の痛みなどで温度が下がってるところに効くお薬です。
なぜ花粉症などのアレルギー疾患に効果があるのかというと、鼻粘膜にあるアセチルコリン受容体が増えるのを抑えるためです。花粉症は花粉を敵と認識してIgEや好酸球が働き、結果としてヒスタミンやロイコトリエンが大量に分泌されます。これらが鼻粘膜に働くことで、ムスカリン作動性アセチルコリンが働き、鼻水や鼻詰まりが出現します。ノイロトロピンはこの受容体の数を抑えることで、結果として花粉症の症状を抑制することができます。
また最近になって、おおもとである好酸球にも働いて作用を抑えることがわかりました。これによって鼻に局所的に効くだけではなく、体全体でおこっているアレルギー反応を抑制することが分かったのです。
ノイロトロピン注射の使用方法
ノイロトロピン注射は、腰痛症・頸肩腕症候群・症候性神経痛などの整形的な腰や首などの痛み、 湿疹・皮膚炎・蕁麻疹など皮膚のかゆみ、そして花粉症などのアレルギー性鼻炎に効果があります。
通常、成人1日1回ノイロトロピン単位として3.6単位(1管)を投与します。つまり1アンプルを皮下に注射します。回数は症状に応じてですが、だいたい1週間に1~3回程度が多いです。ただし、毎日ノイロトロピン注射を打つことも可能です。症状が強い場合は2管に増量することも可能とはいわれていますが、地域によっても解釈が異なっています。
なおノイロトロピンは内服薬もありますが、こちらは腰や首の痛みのみの適応で花粉症のアレルギー性鼻炎は適応となっていません。投与量が少ないと意味をなさない薬であるため、ノイロトロピンを花粉症に使用する場合は飲み薬ではなく、注射薬で皮下に投与する必要があります。
ノイロトロピン注射の花粉症に対する効果
ノイロトロピン注射の花粉症に対する試験では、62%に効果を認めたことが確認されています。
具体的には、ノイロトロピン注射1管を1 週間に3回投与しました。10日間後に自覚症状の改善度をくしゃみ・鼻詰まり・鼻水の3項目について調べています。
- 著効(3項目共に症状の改善または消失)
- 有効(2項目に症状の改善または消失)
- やや有効(1項目に症状の改善または消失)
- 不変(3項目共に症状不変)
と判定しました。結果としましては、著効・有効の方が 62%であり、不変の人は20%との結果でした。
さらに注目すべきは、個々の症状をみても鼻づまりに5割の人が効果を示したことです。鼻づまりはヒスタミンではなくロイコトリエンが主に関与して症状が出現することから、アレグラやアレジオンなどの抗ヒスタミン薬の効果が出づらいところです。ノイロトロピンはこの鼻づまりに効果を示したことからも、花粉症の鼻の症状には効果が期待できるお薬といえます。
花粉症の症状だけでなく、鼻水の好酸球の数を調べてみると約7割の人が減少しており、医学的にもノイロトロピン注射は花粉症に効果があることが示されています。
ただし、3項目完全に消失した人はほとんどいないという報告もあります。副作用が少ないかわりに効果もマイルドと考えた方が良いかもしれません。
ノイロトロピン注射の副作用
ノイロトロピンは正確な市販後調査がされていないため、どの副作用がどれくらい出るかはわかっていません。一番多いと予想されるのは、注射部位の疼痛・硬結・発赤・腫脹・熱感が出現することです。しかしこれは、インフルエンザの予防接種なども含めて、皮下注射だとどれも起こり得ることです。
そのほか、特別に多い副作用もなく、比較的安全に使用できるお薬です。
腰の痛みや首の痛みで週に1~3回定期的に病院に来る人は、老人の方が多いです。そのためノイロトロピンは、もともと高齢者に多く使用していた注射薬です。高齢者に多く使用していても副作用がほとんどないことから、ノイロトロピンは非常に安全な薬剤かと思います。
妊婦に関してはノイロトロピンの添付文書をみると、
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳中の婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。 〔妊娠中及び授乳中の投与に関する安全性は確立していない。〕
と記載されています。この記載は安全と言われているお薬にも大部分は書かれているものです。実際にウサギの皮膚が主成分なことからも、現場では妊婦や授乳中の方にも投与していることが多いです。
さらにノイロトロピンは、併用禁忌どころか注意もないお薬です。これはどんなお薬を飲んでようが、どんな疾患を併発していようが投与できるということです。
まとめ
- ノイロトロピン注射はもともと腰の痛みや首の痛みに投与していたお薬ですが、近年花粉症などのアレルギーにも効果があることが示されています。
- ノイロトロピン注射を週に1~3回皮下注射で投与します。
- ノイロトロピン注射は副作用が少なく、どの方にも投与できるお薬です。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:アレルギーの注射剤 投稿日:2020-09-06
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