喘息の長期管理薬とは?
喘息は、気道に慢性炎症が起きて狭くなっている状態です。それが引き金となって気道が過敏になり、ちょっとしたきっかけで咳や息苦しさをくり返します。
喘息の治療は、
- 炎症を抑え、喘息の悪化や発作を予防する長期管理治療
- 発作時の症状を和らげる発作治療
の2つに分かれます。
発作治療に対しては、苦しいのを何とかしたいのでみなさん積極的です。一方で長期管理治療は、症状が無い状態でも継続しなければいけない治療ですので、モチベーションが続かない患者さんも少なくありません。
長期管理治療では、吸入ステロイド薬を毎日吸入することが中心です。吸入ステロイド薬は喘息の慢性炎症への効果が優れていますので、それを毎日使って炎症を抑え、発作のおこりにくい状態に整えていくことが治療の柱になります。効果が不十分な場合に、他のタイプの吸入薬や飲み薬を組み合わせていきます。
長期治療を続けることは大変ですが、お薬への理解を深めることで治療への意欲を高めていただき、より良い日常や病気の改善につながれば幸いです。
長期管理治療薬
- 吸入ステロイド
:フルタイド・パルミコート・アズマネックス・キュバール・オルベスコ - 吸入ステロイド・吸入β2刺激薬合剤
:アドエア・レルベア・シムビコート・フルティフォーム - ロイコトリエン拮抗薬
:シングレア/キプレス・オノン - テオフィリン製剤
:テオドール/テオロング/ユニフィルLA - 吸入抗コリン薬
:スピリーバ - 経口ステロイド
:プレドニン・コートリル・メドロール・レダコート - 抗IgE抗体
:ゾレア・ヌーカラ
吸入薬および抗IgE抗体は、現時点でジェネリック医薬品は発売されていません。ジェネリック医薬品が発売されているのは、以下になります。
- シングレア/キプレス:モンテルカスト
- オノン:プランルカスト
- テオドール/テオロング/ユニフィルLA:テオフィリン徐放錠
- プレドニン:プレドニゾロン
喘息で長期管理治療が重要な理由
喘息の患者さんは気道に慢性炎症を抱え、常に気道が過敏な状態にあります。ですが、炎症が落ち着いているときには特別な自覚症状が無いことも多いため、「発作が出たら薬で治療すればいいや」「症状が無いから喘息が治ったかも」と考えてしまって、治療を中断してしまう方も少なくありません。
ですが喘息は、発作がおこる前に予防の治療を継続していく方が重要です。まずはじめに、その理由を理解してください。
喘息は発作をくり返すたびに状態が悪化し、重症化していく傾向があります。発作がおこると、そのたびに気道の壁が厚く硬くなり、元に戻ることができなくなります。そんな気道の変化をリモデリングと呼びます。
壁が厚くなるということは、それでなくても狭くなっている気道がますます狭くなってしまうわけですから、発作の症状は治まったとしても、気道の状態自体は発作がおこる前より悪くなってしまいます。気管支の過敏性が増して、重い発作が起こりやすくなってしまいます。
そしてリモデリングによって筋肉が繊維化して硬くなっていくため、発作時に気道を拡げるお薬の効きもだんだん悪くなり、お薬を吸ってもなかなか息苦しさが治まらないようになります。
このように、さらに発作はおこりやすい状態になり、おこる発作の程度も回数を重ねるごとに重くなり、初めは効いていたはずの発作時のお薬もだんだん効かなくなってしまいます。
だからこそ、喘息は「発作がおきてから治療」ではなく、「発作がおきないように予防する長期管理治療」を継続していくことが非常に重要です。
喘息の長期管理治療の柱は吸入ステロイド薬
喘息の長期管理治療の主役は、吸入ステロイド薬です。これはよほどの理由がない限り、外すことができません。ステロイドは炎症を抑える作用に優れますので、多くのアレルギー疾患などの治療で用いられます。
ステロイドと聞くと副作用の多さが浮かぶ方もいるかと思いますが、それは口から服用する経口ステロイド薬の場合です。喘息の長期管理治療で使われる吸入ステロイド薬は気道に直接作用できますので、効果の高さのわりに全身への影響は最小限に済み、長期間使い続けることのできるお薬です。
吸入ステロイド薬は、現段階では喘息の慢性炎症に対してもっとも優れているとされており、2015年の喘息治療のガイドラインでは、長期管理治療のベース薬として吸入ステロイド薬が強く推奨されています。
すでに咳や息苦しさが出ている患者さんに対しては、気管支を拡げる作用のあるβ2刺激薬が併用して使われることが多く、成人喘息では、ステロイドとβ2刺激薬の合剤吸入薬が長期管理治療の主流になっています。
吸入薬は毎日吸わなければいけませんし、症状が無いのにお薬を使うのは嫌だと考える方もいると思います。けれど、発作の予防を怠ってしまうと後々もっと苦しい目に合う可能性があるのです。
軽症のうちにちゃんとした長期管理治療を継続すれば、お薬は軽く少ない量で済みますし、咳や息苦しさも改善されて日常生活が楽になります。重症化した喘息になるとお薬も効きが悪くなり、治療も症状も大変になります。
喘息は、重くなれば命に関わることもある病気です。吸入薬を正しく使い、長期管理治療を継続していきましょう。
喘息のガイドラインに基づいた薬物治療
それでは、喘息の薬物療法についてみていきましょう。
下の図が、2015年のガイドラインの治療ステップの一覧です。基本としては、ステップ1から試し、効果が弱いときにはステップを上げて治療を行います。
これをみていただくと、「吸入ステロイド」が長期間管理薬の基本となっています。
吸入ステロイドの量を増減しながら、それだけで症状がコントロールできなければ他のお薬を追加検討していく形になります。このように喘息は、吸入ステロイドを柱として長期管理治療していくことが推奨されているのです。
他の内服薬や貼り薬は、あくまでも「補助」の役割です。吸入ステロイドでは効果が不十分であったり、何らかの理由で吸入ステロイド薬が使えない場合のみ、そういったお薬が検討されることになります。
喘息を内服薬や貼り薬だけで対処している場合がありますが、それは喘息の治療として正しい方法とは言えません。
そして喘息発作時の治療としては、短時間作用型β2刺激薬を使っていきます。
【参考】ガイドラインの追加治療とは?
ガイドラインに記載されている追加治療は、基本治療のお薬の調整だけでは効果が不十分だったときに検討されます。そのときの選択薬は「LTRA以外の抗アレルギー薬」と書かれていますが、具体的には、
- インタール
- 抗ヒスタミン薬(アレジオンなど)
- トロンボキサン阻害薬(リザベン)
- Th2阻害薬(アイピーディ)
などがあります。
しかしこれらは、
- 小児喘息
- アトピー型喘息
- 鼻炎と合併した喘息
など、アレルギーの関与が強い喘息には多少の効果がありますが、高用量の吸入ステロイド薬が効かないほどの重症喘息に高い効果を発揮することはほとんど無いと言えるでしょう。
ですから追加治療は、比較的軽度でアレルギーの要素が高い方に適応します。
喘息の長期管理で使われる吸入薬
喘息の長期管理治療では、ステロイド吸入薬が中心となります。
喘息患者さんの気道で慢性炎症がおきるのは、本来体を守るはずの免疫細胞の働きが過剰になってしまっているからです。しかし現段階では、免疫自体を正常化させる方法は見つかっていません。
吸入ステロイド薬は炎症を抑える作用に優れますが、吸入を止めれば慢性炎症が再燃してしまいます。そのため、気道をダメージから守り病気の進行を防ぐためには、
- 毎日欠かさず続けること
- 症状が無いからと途中で止めてしまわないこと
- 正しい吸入方法でしっかりお薬を気道に届けること
が重要なポイントになります。
喘息吸入薬でもっとも重要なお薬の作用は、
- 吸入ステロイドによる気道への抗炎症作用
になります。これによって気道の慢性的な炎症を抑えることで、過敏さを和らげます。
また喘息では、気道が狭くなってしまうことが息苦しさにつながります。ステロイドは気道を広げる作用は持たないため、
- 穏やかに気道を広げる長時間作用型のβ2刺激薬
をステロイドと併用するとより効果が高まり、状態が安定しやすくなることがわかっています。
このため患者さんの状態によって、
- 吸入ステロイド単剤
- 吸入ステロイドと吸入β2刺激薬の合剤
を選んでいきます。
吸入ステロイドの単剤
<メリット>
- β刺激薬の副作用が無い
- 合剤より薬価が安くなる
<デメリット>
- ステロイドの量が合剤より高くなる可能性がある
- 中程度以上の人には向かない
現在、喘息治療に使える吸入ステロイド単剤のお薬としては、以下の7種類が発売されています。
<ドライパウダー式>
- フルタイドディスカス
- アズマネックス
- パルミコート
<エアゾール式>
- フルタイドエアゾール
- キュバール
- オルベスコ
<ネブライザー>
- パルミコート吸入液
種類によって投与方法や量は異なりますが、効果に対する良し悪しは特にありません。それぞれのお薬にメリットとデメリットがありますので、患者さん自身が毎日吸入しやすく、自分に合っていると思えるお薬が一番でしょう。
詳しくは後述していきます。
吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤
<メリット>
- 炎症抑制だけでなく、気道拡張の効果も得られる
- 安定した効果が得やすい
<デメリット>
- β刺激薬の副作用(手のふるえ、動悸など)の可能性がある
- 単剤より薬価が高くなる
現在主に使われる吸入ステロイド薬とβ2刺激薬の合剤は、以下の5種類が発売されています。
<ドライパウダー式>
- アドエアディスカス
- シムビコート
- レルベア
<エアゾール式>
- アドエアエアゾール
- フルティフォーム
吸入ステロイド薬の単剤と同様に、種類によって形状や特徴が違いますが、どれも正しく使えば有効なお薬です。
詳しくは後述していきます。
喘息吸入薬の剤形の違い
単剤にも合剤にもそれぞれ、
- ドライパウダー
- エアゾール
とお薬の形状が違うタイプが発売されています。
ドライパウダーは、粉末状のお薬を専用の吸入器で吸うタイプです。エアゾールは、スプレー式でお薬が噴射されてくるタイプです。
単剤と合剤のどちらを使っていくかが決まったら、その次にはドライパウダーかエアゾールのどちらにするのかという選択肢があります。単剤にも合剤にも両方のタイプが数種類ずつ発売されています。
ドライパウダーとエアゾールは、お薬としての効果に特別な差は認められていません。エアゾールの方が粒子が細かく、気道の奥にまで届くと言われていますが、それが治療効果にどのような違いをもたらすかまでは明確にわかっていません。
ですのでこの2つは単純に、「使い勝手の良さ」で選択して良いと思います。吸入力による向き不向きや、患者さん自身の希望に応じ、使いやすいと思われる方を選択していきます。
<ドライパウダーが優位>
- 薬価が安い
- 吸入のタイミングをとりやすい
<エアゾールが優位>
- 吸入力が無くても楽に吸える
- 粉っぽさがない
ドライパウダーは、吸入器のマウスピースをくわえ、患者さん自身の吸入力でお薬を吸いこんで使います。一方でエアゾールは、お薬がスプレー缶に入った状態になっています。ボタンを押せば1回分のお薬がスプレー状になって噴射されて気管に降り注ぎます。
このためエアゾールの方が、吸い込む力が弱くても楽に使用ができます。ただ、スプレーのタイミングに合わせて吸わなければいけませんので、タイミングが取りにくい人にはスペーサーという補助器を使用します。
基本的には、吸入力が普通にある方ならドライパウダー、お子さんや高齢の方で吸入力に不安があればエアゾールが選択されます。吸入力があっても、ドライパウダーの粉っぽさが苦手な方はエアゾールを選ぶこともあります。
重篤な持病や認知症のある方、小さなお子さんなどで、エアゾールでも吸入が難しい場合には、最後の手段で吸入液を使います。吸入液はネブライザーという特殊な専用機器を使い、マスクの中で霧状になったお薬をゆっくりと自然な呼吸で吸い込むことができます。
喘息吸入薬の副作用
喘息吸入薬は、気道に限定して作用しますので副作用は少ないお薬ですが、ステロイドやβ刺激薬による副作用がいくつか報告されています。
- 単剤の副作用:ステロイドによるもの
- 合剤の副作用:ステロイドによるもの+β2刺激薬によるもの
現在報告されている主な副作用には、以下のようなものがあります。
<吸入ステロイドによる副作用>
- 声がかすれる(嗄声)
- 口の中のカビが増殖する(口腔カンジダ症)
- 口の中が乾燥する
- 口やのどの不快感
嗄声は、声がかすれてしまう症状です。これは、ステロイドが咽頭筋に付着したことによる筋力低下で起きるといわれています。
口腔カンジダ症は、カンジタというカビによる口の中の感染症です。カビと言っても普段から私たちの体に住んでいる種類で、健康な状態では無害です。しかし、体の免疫力が落ちた時には過剰に繁殖し、口の中に白いブツブツやかゆみなどの症状をおこすことがあります。ステロイドには免疫を抑える作用があるため、口の中に住むカンジタを繁殖させてしまうことがあるのです。
口やのどの乾燥や不快感はステロイドの作用というより、ドライパウダーの吸入薬を勢いよく吸いすぎたときなどにおこります。
これらの副作用を防ぐためには、吸入薬の使用後にうがいをするようにしましょう。
<吸入β2刺激薬による副作用>
- 動悸
- 手のふるえ
- 血清カリウム値低下
などが報告されています。こちらは、β2刺激薬による作用です。
β2刺激薬は適正な範囲で使う限りは安全性の高いお薬ですが、処方以上の量を吸入すると心臓に影響し、交感神経の働きを高めてしまいます。指定された回数以上を吸わないように注意しましょう。
ステロイド単剤と合剤の実際の選び方
喘息の患者さんが咳や息苦しさを訴え受診したときは、β2刺激薬と吸入ステロイドの合剤から治療することがほとんどです。
吸入ステロイドの単剤は慢性炎症への作用や予防効果に優れますが、炎症が燃え盛って咳や息苦しさの症状が出ているときには効果が不十分ですので、β2刺激薬との合剤から治療するのです。
ガイドライン上は、ステップ1の吸入ステロイドの単剤から始めるのが基本となっていますが、辛い症状のある状態で単剤を使ってもなかなか効果が見えません。症状が目立っているときには患者さんの苦痛を速やかに取り除くことが優先ですので、そういうときにはステップ3の合剤使用から始めます。
これらの合剤吸入薬で症状が落ち着いていれば、治療ステップを3→2→1と減らしていきます。ステップダウンは、ガイドライン上では3~6ヶ月おきにとなっていますが、実際には主治医の裁量が大きいです。状況によっては、1年間同じ処方で経過をみていくこともあります。
ステップダウンが進むと、合剤から吸入ステロイド単剤への変更を検討していきます。しかしながら現状では、合剤から単剤に変更して治療を行うべきかは賛否両論で、専門家でも考え方が分かれます。
β2刺激薬は、適正な範囲で使うのであれば安全性の高いお薬ですし、吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤による相乗効果も示されているので、そこで安定している患者さんにさらなるステップダウンが必要かどうかは、現状ではかなり悩ましいところです。
ですから合剤で安定している患者さんに対しては、そのままの治療を維持することが多くなっています。
- β2刺激薬の副作用が気になる
- 薬価を安くしたい
などの希望が患者さんにある場合には、単剤への変更を考えていきます。
合剤と単剤の切り替えは、基本的に同じステロイドの成分で・吸入器が同じもので行っていきます。これがスムーズにいくのは、
- アドエア (合剤)-フルタイド(単剤)
- シムビコート(合剤)-パルミコート(単剤)
の2パターンのみとなっていますので、切り替えの際がしやすいように、これらのお薬が処方される割合が高くなっています。
ただ、必ずこの組み合わせでなければ切り替えできないわけではありません。その方が慣れやすいからという理由なので、どのような組み合わせでも単剤⇔合剤の変更は可能です。
SMART療法
β2刺激薬の効果は、気管支を広げ息苦しさや咳を楽にすることですが、アドエアとレルベアは効果発現まで約15分かかるのに対し、シムビコートは約1分で気管支拡張の効果を示します。
この即効性の効果を利用した治療法として、SMART療法という方法があります。SMART療法は、長期的に喘息管理しながら発作時にも同じお薬を追加する方法で、シムビコートのみ適応があります。同じお薬で両用がきくので便利ですが、1回の吸入量が1~2吸入の軽中症程度の方に限られます。
シムビコートでのSMART療法が向いているのは、初めて喘息と診断された方、もしくは喘息と診断されていたものの治療をせず、喘息の症状が再発した方です。
最初から高用量のステロイドが必要な重症な方は別ですが、軽症の方の治療はその先どれくらいのステロイド吸入が必要か分かりません。そういうときにシムビコートを処方すれば、定期的に吸入+咳が出たときに追加吸入というSMART療法の方法で様子を見ていくことができます。
高用量が必要な方は、レルベアと比較すると価格が倍増してしまううえ、SMART療法が適応外になります。
また、SMART療法が最も活用しやすいのは、咳喘息の診断をするときです。咳喘息とは長引く咳のみが主な症状になった喘息で、シムビコートは咳喘息にも効果を示します。
吸入ステロイド単剤の種類
現在、喘息治療に使える吸入ステロイド単剤のお薬としては、以下の7種類が発売されています。
<ドライパウダー式>
- フルタイドディスカス
- アズマネックス
- パルミコート
<エアゾール式>
- フルタイドエアゾール
- キュバール
- オルベスコ
<ネブライザー>
- パルミコート吸入液
ドライパウダー式とエアゾール式に分けて、その特徴をご紹介します。
ドライパウダー式
<単剤ドライパウダーが向いている人>
- 合剤発売前から使用し、安定している方
- 合剤で長期安定し、β2刺激薬の副作用が気になるという方
- 合剤で長期安定し、薬価を安くしたいと希望される方
- 15歳未満で軽症、ドライパウダー吸入に問題のない方
単剤ドライパウダーは最も基本的な喘息吸入薬になります。世界で最初に発売された吸入ステロイド薬はフルタイドでした。
現在は合剤の登場により使われることが減ってきていますが、昔からこれで治療して安定している方は継続している場合も多いですし、患者さん自身が単剤への変更を希望される場合もあります。
また、15歳未満の小児喘息の治療は単剤からのスタートが原則で、ドライパウダーの中ではフルタイドとパルミコートに小児適応があります。
それぞれの特徴を表にして以下にまとめます。赤で示したところがそのお薬の強みです。
<フルタイドディスカス>
- 世界初の吸入ステロイド薬
- 中用量以上では薬価が一番安くなる
- 合剤 (アドエアディスカス)との切り替えがしやすい
<アズマネックス>
- 味がない
- 残量が0になるとロックがかかり空吸入を防げる
- 吸入回数で用量が調整できる
- 小児適応なし
<パルミコート>
- 粉っぽさがない
- 低用量での薬価が一番安い
- 吸入回数で用量が調整できる
- 合剤(シムビコート)との切り替えがしやすい
エアゾール式
<単剤エアゾールが向いている方>
- 単剤の適応者でドライパウダー吸入の難しい方
単剤エアゾールは、単剤のドライパウダーが吸いづらい人に向いています。単剤が適応する方のうち、吸入力の弱いお子さん、高齢者の方、呼吸機能に問題のある方、粉っぽさが苦手な人などに選ばれます。
それぞれの特徴を表にして以下にまとめました。赤で記したところがそのお薬の強みです。
<フルタイドエアゾル>
- フルタイドディスカスと同じ成分
- 合剤エアゾール(アドエアエアゾール)への切り替えがしやすい
- 味や匂いがほとんど無い
<キュバール>
- 最初に発売されたエアゾール式吸入ステロイド薬
<オルベスコ>
- 中用量までなら1日1回の吸入で済む
- 薬価が一番安い
吸入ステロイド・吸入β2刺激薬合剤の種類
現在主に使われる吸入ステロイド薬とβ2刺激薬の合剤は、以下の5種類が発売されています。
<ドライパウダー式>
- アドエアディスカス
- シムビコート
- レルベア
<エアゾール式>
- アドエアエアゾール
- フルティフォーム
ドライパウダー式とエアゾール式に分けて、その特徴をご紹介します。
ドライパウダー式
<合剤ドライパウダーが向いている人>
- 吸入力に問題のない方
- 単剤ドライパウダーの使用では不十分だった方
合剤ドライパウダーは、現在成人喘息の治療の中心とし使われているお薬です。15歳以上で新たに喘息と診断された方が治療を始める場合、これらからスタートすることがほとんどです。
お薬としては新しく、2007年に世界初の合剤としてアドエアが発売され、その後他の合剤も承認を受けて喘息治療薬として使えるようになりました。
アドエアとシムビコートは、COPD(肺気腫)の治療でも使用されます。
15歳未満の方は単剤からのスタートが原則ですが、それだけでは効果が不十分だったときには合剤への変更が検討されます。15歳未満の小児喘息への適応はアドエアディスカスのみとなっています。
それぞれの特徴を表にして以下にまとめました。赤で記したところがその吸入器の強みです。
<アドエアディスカス>
- 世界初の合剤吸入薬
- 単剤フルタイドディスカスの合剤版
- 小児適応あり
<レルベア>
- 朝のみの吸入で効果が持続する
- 中用量以上では薬価が一番安い
- 吸入器の操作が簡単
<シムビコート>
- 単剤パルミコートの合剤版
- 発作時に追加で吸入することができる(中軽症の場合のみ)
エアゾール式
<合剤エアゾールが向いている人>
- 単剤エアゾールでは効果が不十分だった方
- 合剤ドライパウダーが吸いづらかった方
それぞれの特徴を表にして以下にまとめました。赤で記したところがその吸入器の強みです。
<アドエアエアゾル>
- アドエアディスカスのエアゾール版
- 味や匂いがほぼない
- 吸うタイミングが取りづらい
- 小児適応あり
<フルティフォーム>
- ステロイド成分はアドエアと同じ
- β2刺激薬はシムビコートと同じで即効性がある
- 吸うタイミングが取りやすい
- 匂いや味にアルコール臭がある
- 小児適応なし
喘息吸入薬でコントロール不良の場合
吸入薬の治療でコントロールが悪い場合、吸入薬の増量や他のお薬の追加が検討されます。
吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤での治療では、7~8割の方はコントロール良好な印象ですが、かなり高用量の吸入ステロイド薬を使ってもコントロール不良の方がいます。そのような方は「重症喘息」と定義されます。
けれど、「吸入薬の効果が不十分=重症喘息=お薬の増量や追加」と判断する前に、
- そもそも喘息かどうか
- 吸入薬が上手く吸えているかどうか
の2つを確認する必要があります。
本来この2つは、治療前に確認すべきことです。喘息の治療薬が効かないということは、そもそも喘息という診断が間違っている可能性もあります。正しく喘息の診断ができていないことも少なからずあります。
吸入薬は飲み薬と異なり、上手く吸えていなければ効果を発揮できないお薬です。ですが医師はお薬が用法通りに吸えているという前提で効果を判断しているため、そのズレで過剰投与につながってしまうことがあります。
喘息吸入薬で効果が不十分な場合の治療
成人喘息の方の多くは、吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤でコントロールが良好になります。ですがそれでも効果が不十分となり、吸入薬もきちんと吸えているということであれば、次の一手を考えなければいけません。
その際に併用する候補となるお薬は、
- LTRA(leukotriene receptor antagonists):ロイコトリエン拮抗薬
- テオフィリン製剤
- LAMA(long acting muscarine antagonists):抗コリン薬
の3つが挙げられます。
ロイコトリエン拮抗薬
ロイコトリエン拮抗薬は、喘息の炎症に関わる炎症物質の1つロイコトリエンをブロックするお薬です。副作用も少なく効果も高いことから、喘息の治療で非常に使いやすいお薬となっています。
ロイコトリエン拮抗薬には、
- シングレア/キプレス(一般名:モンテルカスト)
- オノン(一般名:プランルカスト)
2種類のお薬が発売されています。
このお薬がとくに向いているのは、喘息に鼻炎を合併している患者さんです。ロイコトリエン拮抗薬は気管支喘息の症状改善だけでなく、鼻づまりや鼻水といったアレルギー性鼻炎にも優れた効果があります。
鼻炎は喘息発症のリスクであると同時に、その合併が喘息のコントロールに悪い影響を与えることもわかっています。そのため、鼻炎を合併している患者さんに対してお薬を追加するときは、ロイコトリエン拮抗薬を選択します。
喘息患者さんにどれくらいの割合で鼻炎が合併しているかというと、2009年に行われた大規模な調査(SACRAサーベイ)では、実に70%近くの喘息患者さんにアレルギー性鼻炎の合併が認められました。
テオフィリン製剤
テオフィリン製剤は、
- 気管支を拡げる作用(気管支拡張作用)
- 炎症を抑える作用(抗炎症作用)
の2つを併せ持ったお薬です。コーヒーなどにも含まれているキサンチン誘導体という成分が主になっています。
現在発売されているテオフィリン製剤には
- テオドール
- テオロング
- ユニフィルLA
などがあります。
喘息の炎症にも狭くなった気管支にも有効なため、1980年代には喘息の第一選択薬として多く使用されていました。しかしながら、
- 気管支の炎症を抑える作用:吸入ステロイドに劣る
- 気管支を拡げる作用:β2刺激薬や抗コリン薬に劣る
ために、喘息治療の主流としては使われなくなりました。とはいえ他のお薬が効かないときには、今でも選択肢の1つになっています。
ただし、テオフィリン製剤を使うときは定期的に血中濃度を測らなければいけません。血中濃度によって効果や副作用が変化し、高濃度になるとテオフィリン中毒の危険があるからです。
血中濃度と効果・副作用の目安は、
- 5~10μgl/ml:抗炎症作用が期待される
- 10~20μg/ml:気管支拡張作用が期待される
- 20~30μg/ml:軽度の副作用がでやすい
- 30~40μg/ml:重度の副作用出現の恐れ
- 40μg/ml以上:テオフィリン中毒の恐れ
とされています。
テオフィリンは血中濃度が上がるほど効果も期待されますが、20μg/mlを超えると副作用が出やすくなるので、8~20μg/ml程度の濃度を保つように調整していきます。
また、血中濃度が急速に上がり過ぎるのを防ぐため、テオフィリン製剤はゆっくり胃や腸に溶け出す徐放性製剤になっています。とくに高齢者は血中濃度が上がりやすいですので、少量から始めることがすすめられています。
抗コリン薬
抗コリン薬は、慢性気管支炎や肺気腫などCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療薬として、長年使われてきたお薬です。
近年になって重度喘息への効果も注目され、臨床試験で効果が認められたため、2014年に重度喘息の治療薬として保険が適応されるようになりました。
現時点では
- スピリーバーレスピマット
という1種類の吸入薬のみが喘息治療では使用されています。
スピリーバーレスピマットは、長時間作用型の吸入抗コリン薬になります。抗コリン薬は、気管支の収縮に関わるアセチルコリンの作用を阻害することで、狭くなった気管支を拡げることができます。
注意点としては、
- 閉塞隅角緑内障
- 前立腺肥大症による排尿障害
のどちらかが持病の方には使うことができません。
現段階でスピリーバーレスピマットは、治療ガイドラインのステップ3~4といった重症喘息にしか適応しないお薬になっています。
軽症の喘息に対する効果や安全性が示されれば、ステップ2でも使用できるようになるかもしれません。
最終手段の経口ステロイド治療について
これまでにご紹介したようなお薬を調整しても効果が不十分な場合、最後の手段として経口ステロイド薬の併用が検討されます。経口ステロイド薬は吸入ステロイド薬と異なり、飲み薬として口から飲む内服薬です。
吸入ステロイド薬は気道に限って作用しますが、口から飲めば消化器官から血流に乗って全身を巡りますので、気道以外にもステロイドが作用してしまうデメリットがあります。効果は高いですがその分副作用も多くなるため、経口ステロイド薬は様々なお薬を調整しても無理なときの最後の手段とされているのです。
ということは、ステップ4まで進んで他のお薬の効果が見られない場合、止むを得ず経口ステロイド薬を使うことになります。喘息治療で経口ステロイド薬を併用する患者さんは、かなりの重症で難治性の方や、他の病気が合併している方のみです。
現在喘息の治療でもっとも多く使用されているのは、
- プレドニン
という経口ステロイド薬です。
この他にも、
- コートリル
- メドロール
- レダコート
などが使われることもあります。
ステロイドホルモンは一言でいうと、「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。ですから抗ストレスホルモンともいわれます。ストレスに対抗し、炎症を抑える作用があります。
しかし、それは体の攻撃力を高める代わりに、防御のスイッチを切ってしまうという作用の仕方です。そのため、ステロイドは全身の様々な部位に影響が及び多くの副作用を持つ諸刃の剣とも言えるお薬です。効果も高い分、副作用も強いわけです。
経口ステロイドの主な副作用としては、
- 満月様顔貌・肥満
- 細菌やカビなどに感染しやすくなる
- 糖尿病
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 高血圧・むくみ
- 肝機能障害
- 緑内障・白内障
- 精神不安定・不眠
- 骨粗鬆症
- 筋力低下
- 月経異常
- ニキビ・皮下出血
以上のように、内服のステロイド薬は副作用の強いお薬です。そのため、できる限りこの最終手段を使わなくて済むように、様々なお薬を調整しながら長期管理治療を行います。
ですが、よっぽどの重症の方や、他の病気を合併している方では、副作用に対処しながらでも経口ステロイドを使って発作を抑えなければいけないことがあります。重症の方に発作がおこると命に関わる危険もあるからです。
最初にも書いた通り、喘息は軽症のうちに吸入ステロイド薬を毎日吸って発作を抑え、気道の状態を安定して保つことが重要な病気です。また、禁煙をする、風邪をひかないように心がけるなどの生活習慣も病状に関わります。
喘息は重症化するほどお薬の効きも悪くなり、強いお薬をたくさん使わなければいけないことになりますので、今は軽症で済んでいる方は正しく吸入薬を使い、長期管理治療をしっかり続けていきましょう。
喘息の分子標的治療薬
重症の患者さんは、経口ステロイド薬を使ってでも発作を抑えないと命に関わりますので、副作用に対処しながら使用するしかないのが現状です。
そうした中、近年注目されているのが「分子標的薬」という新しいタイプのお薬です。炎症に関わるリンパ球や好酸球などの免疫細胞の働きを抑えるお薬で、皮下注射で投与します。効果が強いわりに副作用は低く、元々はリウマチなどの膠原病やがんなどの難治病に対して開発されたものです。
分子標的薬は、経口ステロイド薬を使用せざるを得ない重症喘息の患者さんに対しても優れた効果が期待され、現在は健康保険の適応にもなりましたが、薬価が非常に高価なのが難点です。
現在重症喘息の治療で使用できる分子標的薬は、
- ゾレア
- ヌーカラ
の2種類があります。
ゾレアは2009年に重症喘息の治療薬として承認され、2015年の喘息治療ガイドラインにも登場しています。ヌーカラは、日本では2016年に重症喘息の治療薬として承認された新しいお薬です。
経口ステロイド薬の副作用で苦しんでいた方にとっては、分子標的治療薬は救世主とも言えるお薬です。高額療養費制度や医療費控除の対象にもなりますが、大きな病院でなければ実施できないことが多いです。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:喘息の長期管理薬(吸入ステロイド) 投稿日:2019-05-14
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