はじめに
肺炎球菌は、日本に限らず世界を中心に猛威を振るっている細菌です。肺炎とついてる通り、肺炎球菌は成人肺炎で最も罹患率が高い細菌になります。一方で乳幼児の方は、細菌性髄膜炎として最も頻度の高い菌です。
このように、赤ちゃんからご高齢の方まで幅広い年齢層の病原菌として重要になるのが肺炎球菌です。肺炎球菌に感染してから慌てて抗菌薬を投与しても、時すでに遅しのことが多々あります。
そうならないようにするためにも、肺炎球菌ワクチンで予防することがとても大切になります。現時点で肺炎球菌ワクチンは、
の二つの肺炎球菌ワクチンが発売されています。
- この二つは何が違うのか?
- 自分はどちらを接種すればよいのか?
- 両方接種したらよいのではないか?
などの疑問に答えるために、ここでは肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスとプレベナーの違いをみながら、肺炎球菌ワクチンの知識を深めていきましょう。
ニューモバックスとプレベナーの違い
まずそれぞれの違いを表にしてみましょう。
ニューモバックス | プレベナー13 | |
---|---|---|
承認時期 | 1988年 | 2014年 |
発売会社 | MSD株式会社 | ファイザー株式会社 |
含まれている種類 | 23種類 | 13種類 |
接種可能年齢 | (2歳~64歳) 65歳以上の方 |
2か月以上6歳未満 65歳以上の方 |
公費対応可能年齢 | 65・70・75・80など、65歳から5の倍数 | 2か月以上6歳未満 |
価格 | 7500円程度 (原価4706円) |
10000円程度 (原価7200円) |
接種方法 | 皮下注射、筋肉注射 | 筋肉注射 |
ワクチンの種類 | 莢膜ポリサッカライドワクチン | 蛋白結合ワクチン |
免疫記憶 | なし | あり |
カバーする肺炎球菌の種類の違い
まず一番簡単な違いは、含まれている肺炎球菌の種類が違います。
肺炎球菌と一言で言っても、実は90種類近いタイプがいます。肺炎球菌ワクチンはその中でも、頻度の高いタイプを中心に予防するように選ばれています。それぞれの肺炎球菌ワクチンは、
- ニューモバックスは23種類
- プレベナー13は13種類
と、ニューモバックスの方が多くカバーできています。具体的には、
肺炎球菌の血清型 | |
---|---|
両方含まれているタイプ | 1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、23F |
ニューモバックスのみ | 2、8、9N、10A、11A、12F、15B、17F、20、22F、33F |
プレベナーのみ | 6A |
となっています。このように、ニューモバックスの方がプレベナーより広くカバーできているのです。
実際に肺炎球菌カバー率も、
- ニューモバックス 69.6%
- プレベナー 48%
とニューモバックスの方が広くカバーできています。ここだけ見ると、ニューモバックスの方が優れているように見えるかもしれません。
免疫力の違い
しかしプレベナーにも勝るところがあります。それは、各々の製造方法の違いによります。
- ニューモバックスは、莢膜ポリサッカライドワクチン(肺炎球菌の莢膜由来成分からなる不活化ワクチン)
- プレベナーは、蛋白結合ワクチン(肺炎球菌莢の一部のタンパクの型別吸着させて、不溶性とした不活化ワクチン)
これだけだといまいち違いが分かりづらいと思います。最大の違いは、
- ニューモバックスは肺炎球菌のタンパク成分がない
- プレベナーは肺炎球菌のタンパク成分がある
この「タンパク成分」があるかないかが非常に重要です。細かい機序は個々では割愛しますが、たんぱく質があるなしで、
- ニューモバックスはB細胞のみが活性化される
- プレベナーはT細胞、B細胞ともに活性化される
ようになります。プレベナーはT細胞による免疫を活性化し、メモリーB細胞を誘導できます。このメモリーB細胞に肺炎球菌の一部を覚えさせておくことで、いざ肺炎球菌に感染したときに迅速に対応できるようになります。
つまりプレベナーの方がカバー率が少ない分、免疫を長いこと覚えさせておくことが可能なワクチンとなっています。
実際にニューモバックスは5年後効果が低下してしまうので、また接種しなければいけません。ですがプレベナーは、1回接種しただけで終わりです。
高齢者の公費適応の有無
公費とは、国が全額注射分の代金を支払うことで打てる注射です。言い換えれば、患者さんはお金を支払わずに接種できることになります。
- ニューモバックスは65歳以上で、65、70、75、80・・・と5の倍数の方
- プレベナーは2か月から6歳未満の小児の方
となっています。まずニューモバックスの方がカバー率が高いことから、高齢者の場合はよりカバーした方が良いという考えやデータがあるため、高齢者のみ選択されています。
現在では、65歳以上であれば全ての人が公費なわけではなく、65歳、70歳と5の倍数の年齢のときのみ適応となっています。
一方のプレベナーは、2か月から5歳までと小児の方が公費対象になります。プレベナーは免疫記憶細胞が産生することで終生持続するといわれています。そのため、一時的な効果しかないニューモバックスより、小児ではプレベナーが公費負担されています。
ニューモバックスとプレベナーは両方接種できるの?
ここまでで肺炎球菌の脅威、ニューモバックスとプレベナーの違いは何となく伝わったでしょうか?ある程度伝わった方は、
- 肺炎球菌を予防するために、ニューモバックスとプレベナー両方接種することはできないのか?
という疑問が生まれると思います。答えから先に申し上げると、ニューバックスとプレベナーを両方接種することは可能です。特にプレベナーは「ブースター効果」といって、相乗効果が期待できる注射です。ブースタ効果とは、両方を接種することによって、さらに免疫機能が高まることを意味します。つまりプレベナーとニューモバックスを両方打つことで、相乗効果が期待できるのです。
また、プレベナー単体を複数回打つだけでもブースター効果が得られます。実際に小児では、プレベナーを追加でさらに1回投与することが海外では推奨されています。具体的には、プレベナーの接種を完了した小児に対し、さらに 8週間以降に 1回接種することで追加で抗体価が上がったとされています。
ただし、先ほどあげたように、年齢によって
- 投与可能かどうか
- 公費になるかどうか
が違います。そのため年齢によってどうするか考えていきましょう。
2か月から2歳未満の方
2か月から2歳未満の場合は、ニューモバックスは適応になりません。そのためプレベナーのみ適応になります。2歳未満の場合はプレベナーは投与回数は2回になります。具体的な投与間隔ですが、
- プレベナー投与を7か月齢以上12か月齢未満の場合:初回免疫:1回0.5mLずつを2回、27日間以上の間隔で皮下に注射
- プレベナー投与を12か月齢以上24か月齢未満の場合:1回0.5mLずつを2回、60日間以上の間隔で皮下に注射
となっています。なお小児の場合は公費になるため、無料でプレベナーを接種することが可能です。
肺炎球菌による髄膜炎は、生後6か月からかかりやすい病気です。可能であれば早めに投与することが推奨されています。
3歳から6歳未満の方
3歳からニューモバックスも適応になりますが、免疫力が低下している人のみとなっています。
実際に日本では、小児に積極的にニューモバックスを投与するのは少ないです。そのためこの年齢も、プレベナーになります。6歳未満であればプレベナーは公費になります。なお3歳からは、プレベナーの投与は1回になります。
具体的には、
- プレベナーを24か月齢以上6歳未満:1回0.5mLを皮下に注射
となっています。
さらに小児では、追加でさらにプレベナーを1回投与することが海外では推奨されています。具体的には、プレベナーの接種を完了した小児に対し、さらに 8週間以降に プレベナーを1回接種することで追加で抗体価が上がったとされています。
抗体とは、実際に肺炎球菌が体に侵入したときに撃退する爆弾と考えてください。つまり、抗体が多ければ多いほど予防効果が上がるのです。プレベナーは、ブースター効果で追加することで抗体量が増えます。
実際にアメリカでは14~59か月齢の小児に対し、補助的追加接種を定期接種として実施した結果、肺炎の罹患した患者数がさらに減ったというデータもあります。
添付文章でも追加でプレベナーを投与する場合、1回0.5mLを1回、2回目の接種後60日間以上の間隔で、皮下に注射するように指示しています。
ただしこの追加で1回増やす補助的追加接種は、日本においては定期接種には含まれていません。そのため、自費になるので注意してください。
現在はプレベナーを公費で打った後に小児の方にニューモバックスを追加投与した場合のデータは少ないため、やはり心配な方はプレベナーの追加投与の方が良いと思います。
6歳から64歳までの方
6歳未満まではプレベナーが主役でした。しかし6歳以上からは、ニューモバックスにバトンタッチします。とは言っても、6歳から64歳までの人はほとんど肺炎球菌ワクチンを接種する必要はありません。
肺炎球菌による肺炎に罹らないわけではないですが、実際に感染したとしても多くの方が、抗菌薬(ばい菌をやっつけるお薬)で回復できます。
実際にこの年齢で健康な人に肺炎球菌ワクチンを接種して、さらに肺炎球菌肺炎を防げたか検討したデータは少ないです。しかし6歳から64歳の方でも、免疫力が低下している人は別です。具体的には、
- 脾摘患者
- 鎌状赤血球疾患、あるいはその他の原因で脾機能不全である患者
- 心・呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者
- 免疫抑制作用を有する治療が予定されている者で治療開始まで 少なくとも14日以上の余裕のある患者
の方が対象になります。特に脾臓を摘出された方は、積極的にニューモバックスを接種するように指示されています。脾臓を摘出する病気の多くは血液疾患です。
血液の病気は免疫に直に関わってくるため、非常に重篤になりやすいです。もし血液の病気含めて上記の条件に当てはまる人は、一度医師に相談してもよいかもしれません。
ただしニューモバックスは1回目を自費で打った場合は2回目も自費になりますので、もう少しで公費になる人は状態を見て接種するか考えてもよいでしょう。
65歳以上でニューモバックスが公費になる方
現在、高齢者のワクチン接種について日本感染症学会では細かくガイドラインを記載しています。結論としては、
- ニューモバックス、プレベナーどちらから先に投与すればよいか
に関しては、結論が現時点では、はっきりと出ていません。ただし一つはっきりしていることがあります。それは、
- ニューモバックスが公費負担になる場合は、ニューモバックスから摂取する
という点です。ニューモバックスが公費負担になる人は、65歳、70歳、75歳・・・と5の倍数の人と決まっています。そのため公費負担の人が先にプレベナーを接種して、投与間隔を待っている間に66歳になってしまうと、ニューモバックスも自費で投与することになってしまいます。
そのため、必ずニューモバックスの方は自分が公費でニューモバックスが投与できるかどうか確認する必要があります。自分が公費で投与できるか分からない方は、一度問い合わせてみると良いかもしれません。
一方でプレベナーのブースター効果を期待する場合は、ニューモバックスを接種してから1年以上空けることが推奨されています。またプレベナーは1回接種すれば効果がずっと持続しますが、ニューモバックスは5年間で効果が切れるとされています。
そのためニューモバックスを接種して、5年以上たてばもう一度接種するようにしましょう。ちなみにニューモバックスの2回目接種は、プレベナーを接種したかどうかにかかわらず、現時点では全て自費になります。
自費になるからニューモバックスは1回だけで2回目は接種しないとなると、せっかく最初に接種したニューモバックスの効果が無くなるので非常に危険です。必ず2回目も接種しましょう。
65歳以上で公費負担にならない方
日本では公費負担にならない方は、
- ニューモバックス→1年後プレベナー→1回目のニューモバックスを接種してから5年以上経過で2回目のニューモバックス
- プレベナー→6か月から4年以内にニューモバックス
どちらが先でもよいことになっています。どちらを先に接種したら肺炎球菌が予防できたか、はっきりとしたデータは正直なところございません。そのため日本では、どちらが先でもよいことになっています。
しかしアメリカACIPは2014年9月のMMWR雑誌にて、
- プレベナーを先に接種して、6~12か月後ニューモバックスの接種
を推奨しています。プレベナーを先に接種することでメモリーB細胞を作っておき、肺炎球菌の莢膜をまず覚えやすくします。その後、ニューモバックスを接種した方がブースター効果があるのではと期待されているからです。
これに関しては臨床ではっきりと示されたわけではないので、今後の研究結果が期待されています。
まとめ
- 肺炎球菌は、肺炎で最も多い原因菌です。肺炎球菌に罹患すると重症化しやすいです。
- 肺炎球菌ワクチンは、プレベナーとニューモバックスの二つがあります。
- プレベナーは13種類、ニューモバックスは23種類の肺炎球菌のタイプをカバーします。
- プレベナーは、2か月から6歳未満の小児の方が公費の対象になります。
- ニューモバックスは、65歳以上で5の倍数の人が公費の対象になります。
- プレベナーのニューモバックスは、年齢によっては両方接種することもできます。
ばい菌と抗菌薬やワクチンはいたちごっこの世界といわれています。
- ばい菌が繁殖する
- 人間がばい菌を予防したりやっつけるワクチンや抗菌薬を作る
- それらのワクチンや抗菌薬が効かないばい菌が出現する
- 薬が効かないばい菌に対して新しい薬が開発される
- またその薬が効かないばい菌が登場する・・・
このように人間が何かを作ると、それが効かない新しい菌が登場します。実際にニューモバックスやプレベナーがカバーしていない肺炎球菌が悪さすることも多くなってきています。そのため肺炎球菌ワクチンは、また新たなタイプが登場する可能性があります。
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カテゴリー:ワクチン 投稿日:2020-09-23
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