日常の音が苦痛になる?聴覚過敏の原因や対策について医師が解説
聴覚過敏とは
聴覚過敏(Hyperacusis)は、通常は問題を引き起こさないようなレベルの音でも、耐え難く感じられる状態を指します。
聴覚異常感の中でも、耳鳴りの次に頻度が高い訴えです。
今回の記事では、聴覚過敏の原因や症状、診断方法や治療方法、さらに聴覚過敏の人に対するサポート方法についても解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
聴覚過敏の原因
聴覚過敏の原因については、まだ完全にはわかっていません。
今のところは、聴覚だけでなく、感情や記憶、認知、行動に関わる脳の部分が絡み合って聴覚過敏が起こっているのではないかと考えられています。
つまり、音に対する感じ方や音の大きさを認識する脳の回路や、苦痛を感じる回路が通常とは異なる反応を示しているということです。
この現象は、自分には聞こえるが実際には存在しない「音の幻影」、つまり耳鳴りと似ています。
聴覚過敏は、耳や聴覚に関する経路の問題から始まることが多いです。しかし、ストレスや精神的な疾患が原因で聴覚とは異なる経路、例えば苦痛を感じる回路が最初に活性化することもあります。また、自閉スペクトラム症の人々のように、生まれつき聴覚過敏を持つ人もいます。
一方で「末梢説」という考え方もあり、これは耳の内部の障害が聴覚過敏の原因だとするものです。しかし、耳の障害がある人全てが聴覚過敏を持つわけではないため、この説だけでは聴覚過敏を完全に説明することはできません。
聴覚過敏の症状
聴覚過敏の主な症状は以下のようなものがあります。
音に過敏になる
日常の音(電話のベル、子供の泣き声、車の通る音など)が耐え難く大きく感じられます。
耳の不快感や痛み
特定の音が原因で耳や頭に痛みを感じることもあります。
過度のストレスや不安
音に対する恐怖から、社会的な場や外出を避けるようになります。
集中困難
職場や学校での集中力が低下し、生産性に影響を受けてしまうこともあります。
睡眠障害
小さな音にも反応してしまい、夜間の睡眠が妨げられます。
聴覚過敏の診断
聴覚過敏の診断としては、以下のような方法がとられます。
問診
患者さんが聴覚過敏かどうかをしっかり確認するために、問診で詳しく話を聞きます。
広汎性発達障害や自閉スペクトラム症があるか、また子供の頃から特定の音が苦手だったかも聞き取ります。
聴覚過敏を引き起こすかもしれない原因となる病気を診断
以下に、聴覚過敏を起こす疾患や病態を示します。
引用)聴覚過敏の診断と治療.日耳鼻.2017;120:1184-1185.
実際に聴覚過敏を訴える人に対しては、こうした病態を念頭において原因となる疾患を診断することが大切です。
聴力試験(オージオグラム
聴力のレベルを測定し、聴覚の健康状態を評価します。
音響反射テスト
このテストは、耳が音にどのように反応するかを見るために行われ、聴覚過敏の検出に有効です。
不快閾値検査
特定の周波数での聴覚の感度を詳しく調べ、どの音域が過敏に反応するかを特定します。
カウンセリングと評価
患者がどのように症状を経験しているかを理解し、可能なストレスや心理的要因を評価します。また、苦痛度の評価や、抑うつ状態の評価も行っていきます。
聴覚障害の対処法と治療
聴覚過敏の治療は、以下のようなステップで進めていきます。
- 病状の説明
- 治療の理論の説明
- 治療の目標設定
- 適切な音の環境作り
病状によっては、どの段階でも症状が安定することがありますが、場合によっては精神科や小児科、痛みの治療を専門とするクリニックとの協力が必要です。
広汎性発達障害や自閉スペクトラム症の場合は、これを生まれつきの特性と捉え、薬での治療や、現状維持の支援、介入しないという選択もあります。
では、具体的な治療法をご説明しましょう。
音響療法
耳鳴りの再訓練療法(TRT)は、補聴器やサウンドジェネレーターを使い、音量の認識を改善する方法です。
耳栓やイヤーマフを使用して音を遮る方法もありますが、長時間の使用は逆に音の認識を悪化させることがあるため、緊急時に限り使用するよう指導することが大切です。
ただし、生まれながらにして聴覚過敏の場合、この方法を許すことが望ましいとされています。
薬物治療
耳鳴りと同じように、不眠は症状を悪化させる要因です。そのため、睡眠障害がある場合は積極的に治療を行います。また、不安やうつが強い場合には、向精神薬が必要になることもあります。
精神医学的なアプローチ
もし患者が精神医学的な介入を拒否する場合や、近くに適切な施設がない場合、耳鼻科医が精神医学的なアプローチを行う必要があります。
認知行動療法は、患者が自身の認知や行動を見直し、改善するのを支援する方法で、不適切な思考や行動に気づき、それを修正できるように支援します。また、音響療法が難しい場合には、この治療法が非常に重要になります。
聴覚過敏の人の生活の工夫とサポートをするためのヒント
聴覚過敏は、症例によっては現状維持、あるいは介入しないことが最善となるケースもあります。
そこで、聴覚過敏の人の生活の工夫と、そのサポートのためのヒントを提案していきたいと思います。
聴覚過敏者が安心して生活できる環境を整えるには?
静かな居住環境の確保
交通の少ない静かな地域での住居選びや、防音材料を用いた住環境の改善が効果的です。
家の中で特定の「静かな安息の場所」を設け、聴覚過敏の人がリラックスできる空間を作りましょう。
日常生活での騒音管理
家庭内の家電製品は、動作音が小さいものを選ぶようにしましょう。
窓に二重窓を設置するか、厚手のカーテンを使用して外部の騒音を減らすことも良いですね。
適切な音量でのコミュニケーション
家族や同居人は、不必要に声を大きくすることなく、落ち着いたトーンで話すよう心がけるようにしましょう。
テレビやラジオの音量は低めに設定し、必要に応じてヘッドホンを使用することも望ましいです。
社会的な活動の工夫
社会的な集まりや外出時には、事前に場所の騒音環境を確認し、必要に応じて聴覚過敏の人が使用できる耳栓やノイズキャンセリングヘッドフォンを準備しましょう。
家族や友人が聴覚過敏を持つ人をサポートする方法
理解と認識の向上
聴覚過敏について正しく理解し、その人がどのような音に敏感かを知ることが重要です。
家族や友人が聴覚過敏の状況を理解することで、適切なサポートができるようになります。
感情的なサポート
聴覚過敏が引き起こすストレスや不安を和らげるため、聴覚過敏の人が自分の症状について話したいときは、じっくりと耳を傾けます。
環境調整への協力
外出先での席の選び方や、会話時の声のトーンの調整など、積極的に協力しましょう。
必要に応じて、静かな環境での活動やレジャーを選ぶなど、配慮を持って行動計画を立てるようにしましょう。
教育と啓発
他の家族メンバーや友人にも聴覚過敏についての知識を共有し、理解を広めましょう。
聴覚過敏に関する情報を共有し、支援するためのコミュニティリソースを利用することも良いでしょう。
家族や友人の理解とサポートが、聴覚過敏のある人々にとっては非常に心強い支えとなります。
まとめ
今回は、聴覚過敏とはどのような症状なのか、対処方法について解説しました。
聴覚過敏がある人にとっては、適切な対応が人々のQOL(生活の質)を高めることにつながります。このため、もしも生活に支障が出るほどの症状があるようであれば、耳鼻科を受診するようにしましょう。
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カテゴリー:よくある耳鼻科の症状 投稿日:2024-06-25
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