嗅覚障害とは?原因、症状、治療法について医師が解説
「嗅覚障害」とは、においを感じなくなったり、においの感じ方が今までと違うようになったりする状態を指します。
鼻炎などで鼻の内部が塞がれることや、認知症や薬物によって脳・神経に異常が生じることが原因です。
においの感じ方がおかしいと思う場合は嗅覚障害の可能性があるので、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
嗅覚障害とは
嗅覚障害は、匂いを感じる能力が失われる状態です。
風邪などを引いたことによる合併症や新型コロナウイルス感染症など、多くの原因によって引き起こされる可能性があります。
今回の記事では、嗅覚障害の原因、症状、診断方法、効果的な治療法について詳しく解説し、日常生活への影響と対処法を解説していきます。
嗅覚を感じるメカニズム
鼻の中の特定の領域には、嗅神経細胞という細胞が集まっています。
これらの細胞が匂いの情報を脳に送信します。
嗅覚細胞は定期的に新しく生まれ変わるため、外部からのダメージに対しても一定の回復力を持っています。
嗅覚を感じるメカニズムについては、以下のようになっています。
1.匂い分子の捕捉
嗅覚のプロセスは、空気中の匂い分子が鼻腔に入ることから始まります。
鼻の上部にある嗅上皮には、嗅細胞が存在し、これらの細胞が匂い分子を捕捉します。
2. 匂い受容体との結合
嗅細胞の表面には、様々なタイプの匂い受容体が存在しており、これらは特定の匂い分子と結合します。
一つの嗅細胞は一種類の受容体を持ち、特定の匂い分子に反応します。
3. 信号の変換
匂い分子が受容体に結合すると、嗅細胞は活性化され、電気信号が生成されます。
この信号は、嗅細胞から嗅神経を通じて脳の嗅球に伝えられます。
4. 信号の処理
嗅球で、匂いに関する信号はさらに処理されます。
嗅球内で、情報は複数の嗅細胞から集約され、パターンとして認識されます。
これにより、私たちは数千から数万の異なる匂いを識別することができます。
5. 脳への伝達
嗅球からの信号は、脳のさまざまな部位へと送られます。
主に嗅皮質へ伝わり、そこで意識的な匂いの認識が行われます。
また、匂いは感情や記憶と密接に関連しているため、扁桃体や海馬にも信号が送られ、それにより匂いが記憶や感情と結びつけられます。
このように、私たちは匂いを感じているのです。
そして、匂いがもたらす影響は、単なる感覚以上に、記憶や感情にも深く関わっているとされています。
嗅覚障害の原因
嗅覚障害は大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは「量的嗅覚障害」で、匂いの感じる強度が変わるタイプです。
もう一つは「質的嗅覚障害」で、匂いの質そのものが変わるタイプです。
これらの障害は、鼻の問題、嗅神経の問題、または脳の問題によって引き起こされることがあります。
嗅覚障害を訴えて外来を受診する患者の多くは、「量的嗅覚障害」と言われています。
原因による分類をしてみると、以下のようなものがあがります。
- 炎症性鼻副鼻腔疾患(慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎)
- 感冒後嗅覚障害
- 頭部外傷
- 先天性(Kallmann症候群)
- 薬剤性(抗腫瘍薬、抗甲状腺薬、ガス)
- 中枢疾患(脳腫瘍、神経変性疾患)
- 頭蓋内手術
- 原因不明(含む加齢化?)
このように、嗅覚障害の原因は多岐に渡ります。
その中でも、以下のものが3大要因とされています。
- 炎症性副鼻腔疾患:慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など
- 感冒後嗅覚障害:風邪を引いた後に嗅覚の障害が残るもの
- 外傷性嗅覚障害:怪我をすることで嗅覚に障害をきたすもの
また、最近では新型コロナウイルス感染症が嗅覚障害の一般的な原因として注目されています。
新型コロナウイルスであるCOVID-19に感染すると、一時的または長期的に嗅覚が失われることが報告されています。
嗅覚障害の症状
嗅覚障害の主な症状は、匂いが全く感じられない嗅覚脱失(きゅうかくだっしつ)、匂いを感じる能力が低下する嗅覚低下(きゅうかくていか)、匂いが異なって感じられる異嗅覚などがあります。
これらの症状は、食事の味が分からなくなる、食べ物の風味がわからなくなるなどがあります。
こうして、嗅覚障害に気づくということになります。
匂いを感じる能力が低下すると、食事が楽しめなくなり食事量が低下することで、特に高齢者などでは体重減少に繋がることがあります。
また、危険なガス漏れを察知できなくなるなど、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
嗅覚検査の種類
嗅覚障害の検査には主に以下の二つの方法があります。
1. 基準嗅力検査
使用されるのはT&Tオルファクトメーターという装置です。
この検査では、5種類の標準的な匂い(基準臭AからE)が使用されます。
各匂いは正常嗅覚者の閾値濃度である「0」から始まり、10倍希釈を重ねることで異なる濃度レベルが設定されています。
具体的な手順については、以下のようになります。
- 検査者は濾紙の一端を持ち、他端を基準臭に浸してから被検者に提示します。
- 被検者は基準臭がついた濾紙を鼻先約1cmに近づけて匂いを嗅ぎます。
- 嗅覚が感じられる最初の濃度が検知域値、匂いの種類を識別できる濃度が認知域値とされます。
2. 静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)
アリナミン注射液(プロスルチアミン)を用いた検査で、これを静脈内に注射します。
注射後、においを感じるまでの時間(潜伏時間)と、においが感じられてから消失するまでの時間(持続時間)を測定します。
通常、嗅覚正常者では潜伏時間は平均8秒、持続時間は平均70秒です。
嗅覚が低下している場合、潜伏時間は長くなる一方持続時間は短くなる傾向があります。
嗅覚障害の治療法
嗅覚障害の治療法は、障害の原因によって異なりますが、その方法をいくつか紹介します。
原因の治療
感染症による嗅覚障害
抗生物質や抗ウイルス薬など、原因となる感染症の治療が行われます。
アレルギー性鼻炎
抗ヒスタミン薬やステロイド鼻スプレーなどでアレルギー反応を抑え、嗅覚障害の改善を図ります。
副鼻腔炎
抗生物質の投与を行います。場合によっては手術が必要な場合もあります。
嗅覚訓練
匂いのサンプルを用いて定期的に嗅覚を刺激することで、嗅覚機能の回復を促す方法です。
漢方薬やビタミン剤
特定の漢方薬やビタミン剤が嗅覚障害の改善に効果的であるとされることもあります。
まとめ
嗅覚障害は、単なる不便から重大な生活の質の低下に至るまで、個人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
適切な診断と治療により、多くの患者が嗅覚機能の改善が可能な疾患です。
匂いの変化や消失に気づいたら、まずは耳鼻咽喉科などの専門の医師に相談しましょう。
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カテゴリー:よくある耳鼻科の症状 投稿日:2024-07-26
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