おたふくかぜワクチンについて
	
		おたふくかぜはムンプスウイルスによって起こる感染症で、髄膜炎や難聴などの重い合併症のリスクがあります。
		しかし、日本ではおたふくかぜワクチンは任意接種となっており、2回接種の普及率は非常に低いのが現状です。
		ワクチンで予防できる病気でありながら、接種率の低さから毎年多くの子どもが感染し、治療が難しい難聴を患うケースが続いています。
		この記事ではおたふくかぜの概要とワクチンの効果について詳しく解説します。
	
| 予防できる病気 | おたふくかぜ(流行性耳下腺炎) | 
| 定期 / 任意 | 任意接種 | 
| ワクチンの種類 | 生ワクチン | 
| 接種方法 | 皮下注射 | 
| 接種開始時期 | 1歳から可能 | 
| 費用 | 約3,000円〜8,000円(医療機関により異なります) ※公費助成を行っている自治体もあります
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おたふくかぜってどんな病気?	
		おたふくかぜは、医学的には「流行性耳下腺炎」と呼ばれる病気で、耳の下にある耳下腺が腫れることが特徴です。
		多くの場合、両方の耳下腺が腫れますが、片方だけ腫れる場合もあります。
		子どもによく見られる病気で、3歳から6歳の子どもが全体の約60%を占めています。1)  
	
おたふくかぜの症状
		主な症状は、耳下腺や顎下腺の腫れと痛み、発熱、頭痛です。
		腫れは通常3〜7日間続き、その後徐々に治っていきます。
		大人が感染した場合、子どもよりも腫れや痛みが強く、重症化や合併症のリスクが高まる傾向があります。
	
		おたふくかぜの厄介な点は、30〜35%は症状が出ない(不顕性感染)ことです。
		そのため、感染していることに気付かず、他の人に病気を広げてしまう可能性があります。
	
おたふくかぜの感染経路
		おたふくかぜは飛沫感染または接触感染によって広がります。
		潜伏期間は2〜3週間で、耳下腺が腫れる7日前頃から、腫れた後9日頃まで感染力を持っています。
		症状が出る前や、症状が治まった後もウイルスを周囲に広げる可能性があり、感染の拡大を防ぐことが難しい病気です。
	
	
合併症のリスク
		おたふくかぜに感染すると、合併症として無菌性髄膜炎、脳炎、難聴、精巣炎、卵巣炎、膵炎などのリスクがあります。
	
無菌性髄膜炎
		おたふくかぜに感染した人の1〜10%が発症すると言われており、頻度の高い合併症です。
		ムンプスウイルスが脳の髄膜に感染し、炎症を起こします。高熱や激しい頭痛、嘔吐、首の硬直が主な症状です。
	
脳炎
		脳炎は頻度は低い(0.02〜0.3%)ものの、非常に重篤な合併症です。
		高熱、頭痛、意識障害、けいれんなどが見られ、髄膜炎よりも深刻で、後遺症が残る可能性があります。
		迅速な診断と治療が必要です。
	
難聴
		おたふくかぜに感染した人の0.01〜0.5%に難聴が発生します。
		一度難聴になると、治療をしても多くの場合、聴力がもとに戻ることはありません。
		特に子どもの場合、永続的な聴力低下のリスクが高いため、予防が重要です。
	
精巣炎・卵巣炎
		思春期以降の男性では、20〜40%の確率で精巣炎を発症します。
発熱と疼痛が主な症状です。
		また、思春期以降の女性では、約5%が卵巣炎を合併することがあります。
		症状としては下腹部痛や発熱、吐き気などがあります。
	
膵炎
		おたふく風邪ウイルスが膵臓に感染することで発症します。
		合併率は約4%と言われています。
		上腹部痛、背部痛、吐き気、嘔吐が主な症状です。
		ほとんどの場合は軽症ですが、重症化すると入院治療が必要になります。
	
妊娠中のおたふくかぜのリスク
		妊娠中におたふく風邪にかかると、母親と胎児の両方にリスクがあります。
		妊娠初期に感染すると自然流産や低出生体重児が生まれる可能性が高くなります。
		おたふくかぜワクチンは生ワクチンであるため、妊娠中に接種することはできません。
		そのため、妊娠を計画している女性は、妊娠前にワクチン接種を受けることが重要です。
	
おたふくかぜの予防接種について
	
		おたふくかぜワクチンは、世界保健機関(WHO)によって定期接種にすべきワクチンとして推奨されています。
		多くの国で定期接種が実施されている一方で、日本では任意接種となっています。
	
		日本でも1989年にMMRワクチン(おたふくかぜ、麻疹、風疹の混合ワクチン)が導入されましたが、副反応の髄膜炎の発症率が高かったため、1993年に中止されました。
	
		最近の動向として、2020年から2023年にかけて小児科学会を中心に副反応の調査が行われました。
		将来的におたふくワクチンの定期接種化が検討される可能性があります。
	
おたふくかぜワクチンの接種のスケジュール
		おたふくかぜワクチンは、2回接種することが推奨されています。
	
- 1回目:1歳から接種可能 ※1歳を迎えたらできるだけ早く接種することをおすすめします
- 2回目:小学校入学の前の年(年長さんのとき)
 
		周囲でおたふくかぜが流行している場合、2回目の接種を早めることも可能です。
		流行状況や接種スケジュールについては、かかりつけの小児科で相談してください。
	
		他のワクチンとの同時接種も可能で、MR(麻疹風疹)ワクチンや水痘ワクチンと同時に接種することができます。
	
すでにおたふくかぜにかかったことがある場合
		おたふくかぜは一度感染すると、ほとんどの場合で生涯にわたる免疫が得られます。
		そのため、再感染は非常にまれであり、基本的にワクチン接種は必要ないとされています。
	
おたふくかぜワクチンの効果と副反応について
	
		おたふくかぜワクチンは、非常に高い予防効果があります。
	
		海外の研究によると、1回接種した場合はワクチンを接種していない状況と比べて患者数が88%以上減少し、2回接種すると減少率は97%以上となり、ほぼ完全に防ぐことが可能です。
		1回接種でも予防効果はあるものの、2回接種を行うことでさらに高い効果が得られ、感染の拡大を効果的に抑えられるということを示しています。
	
		ワクチン接種には副反応もありますが、その多くは軽微です。
		接種部位の痛みや微熱、軽度の耳下腺の腫脹などが見られることがありますが、これらの症状は通常、自然に治ります。
	
		まれに、数千人に1人の割合で、ワクチン接種後に無菌性髄膜炎を発症することがあります。
		重要な点として、おたふくかぜに自然感染した場合にも髄膜炎を発症するリスクはあり、ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発症リスクは、自然感染した場合と比較してはるかに低いことが挙げられます。
	
おたふくかぜかな?と思ったら
		おたふくかぜが疑われる場合は、まず医療機関に連絡してください。おたふくかぜは感染力が強い病気です。
		事前連絡することで医療機関側は適切な感染予防対策を取ることができます。
	
学校や保育園への対応:出席停止の対象
		おたふくかぜは学校保健安全法で第二種学校感染症に指定されています。
		耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまでは出席停止となります。
		登校・登園許可証の提出を求められる場合があるので、学校や園に確認してください。
	
ワクチン接種を受けて合併症リスクを減らそう
	
		おたふくかぜは重症化や合併症のリスクがあるため、予防が非常に重要です。
	
		日本では、おたふくかぜワクチンは定期接種に指定されておらず、任意接種となっています。
		その結果、2回接種の普及率はかなり低く、難聴などの合併症に苦しむケースが後を絶ちません。
		ワクチンで予防できる病気であるにもかかわらず、接種率の低さがこのような状況を招いています。
	
		自分や家族の健康を守るために、ワクチン接種を積極的に検討してみてください。