子どもの胸の痛み

子どもの胸痛

子どもが訴える症状には様々なものがありますが、子どもの胸痛は珍しい症状と言えます。
その理由は、子どもが胸痛を訴える場合の多くが、原因不明の特発性のもの、心理的要因によるもの、筋肉や骨格に原因があるものの場合だからです。
しかしながら、頻度としては少ないですが、心臓が原因で引き起こされる胸痛は致命的になる場合もあるので、原因を見極めることが重要になります。
本記事では、子どもの胸痛を引き起こす原因の特徴を領域ごとに整理し、わかりやすく解説しています。
子どもの場合「不快感」や「圧迫感」も「痛み」と訴える場合があることも踏まえて解説していますので、ぜひ参考にしてください。

胸痛を引き起こす各原因の特徴

胸痛を引き起こす原因には以下のものがあります。

領域 割合
胸壁(筋骨格系) 約50〜80%
呼吸器系 約10〜20%
心因性(精神系) 約10%
心臓(循環器系)、外傷、消化器系 約5%
  1. 特定の姿勢や動きで悪化する胸痛:筋骨格性胸痛(肋間神経痛、胸壁痛など)
  2. 息を吸ったり、咳をしたりすると強くなる胸痛:呼吸器疾患(気管支炎、肺炎、気胸など)
  3. 心の状態が体に影響して感じる胸痛:心因性胸痛、ストレス性胸痛
  4. 食後や空腹時に悪化する胸痛:消化器疾患(逆流性食道炎、食道炎など)
  5. 運動やストレスで悪化する胸痛/胸の中央や左側に重く締め付けられるような胸痛:心疾患(先天性心疾患、不整脈など)
  6. 感染による炎症や刺激が原因で生じる胸痛:肺炎、胸膜炎、肋軟骨炎など
  7. 特に明確な原因がわからない胸痛:特発性胸痛

それぞれ詳しく解説します。

①特定の姿勢や動きで悪化する胸痛:筋骨格性胸痛

子どもの胸痛の原因として最も一般的で、胸痛の原因の約50〜80%を占めるとされているのが、筋肉や骨格が原因による胸痛です。
肋間筋や胸部の筋肉・骨格の炎症や過度の運動、外傷によって痛みが生じます。

【筋骨格性胸痛の特徴】

★痛みが特定の動きや姿勢で悪化する

  • 前屈や体をひねる動作、腕をあげる動作で痛みが増すことが多い
  • 特定の姿勢(長時間同じ姿勢でいるなど)で痛みが悪化する場合もある

★胸の表面に痛みがある

  • 胸の痛みが表面的で、押したり触ったりすると痛みが増す場合がある
  • 肋骨や胸の筋肉の炎症が原因の場合、触れると痛みを確認できる(圧痛)

★痛みが鋭い、刺すような感覚

  • 突然「ズキッ」とくる鋭い痛みや刺すような痛みが特徴的
  • 一定の姿勢や動きで痛みが急に走ることがある

★深呼吸や咳で悪化しない(または軽度)

  • 呼吸器や心臓の疾患とは異なり、深呼吸や咳では痛みが増強しにくいことが多い
  • ただし筋肉の緊張が関与する場合には、深呼吸で痛む場合もある

★原因が明確であることが多い

  • 運動やけが(転倒、打撲)、長時間の不自然な姿勢(デスクワークやゲームなど)が痛みのきっかけとなる

胸を押すと痛い」「動きや姿勢によって痛みが増す」場合は、筋骨格性胸痛の可能性が高く、重篤な疾患のリスクは低いと考えられます。
痛みが広範囲で長引く場合や、呼吸困難や発熱を伴う場合は、他の原因を疑う必要があるため、医療機関を受診しましょう。
適切な休息や痛みを和らげる対症療法(湿布や鎮痛剤)が効果的なことが多いですが、症状が改善しない場合は診察を受けることをおすすめします。

②息を吸ったり、咳をしたりすると強くなる胸痛:呼吸器疾患(気管支炎、肺炎、気胸など)

子どもの胸痛の約10〜20%を占めるのが、気管支炎・肺炎・気胸などの呼吸器疾患が原因となる胸痛です。

【呼吸器疾患が原因となる胸痛の特徴】

★痛みが呼吸や咳、くしゃみに連動

  • 深呼吸や咳をした際に鋭い痛みを感じることが多い

★胸の一部に局所的な痛み

  • 肋骨付近や肺に近い場所に限定される痛みがある

★呼吸音の異常を伴う場合がある

  • 息苦しさ、ゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴、咳が多い場合は、呼吸器疾患が関与している可能性が高い

★主に肺炎、気胸、胸膜炎などが原因となることが多い

  • 特に胸膜炎では、炎症によって肺を包む膜が擦れ、痛みが強まる

呼吸器疾患による胸痛では、咳や発熱を伴うことや、呼吸に関連して痛みが増すという点が鑑別のポイントになります。
また、呼吸器疾患による胸痛は、早急に治療が必要なもの(気胸、肺塞栓症など)から、軽度のもの(気管支炎など)まで多岐にわたります。

以下のような症状を伴う場合は早急な治療を要するので速やかに医療機関を受診してください。

  • 突然の激しい胸痛
  • 呼吸困難
  • 咳とともに血痰が出る
  • 高熱や倦怠感が続く

③心の状態が体に影響して感じる胸痛:心因性胸痛、ストレス性胸痛

子どもの胸痛の約10%を占めるのが、精神的な要因が原因となる心因性の胸痛です。
ストレス、不安、心理的負担によって胸痛が引き起こされます。
身体的な異常が見つからないことが多く、胸の痛みは非特異的で、頭痛や腹痛などの不定愁訴を伴うことが多いとされています。

【心因性胸痛/ストレス性胸痛の特徴】

★締め付けられる、押しつぶされるような感覚

★ストレスや不安、プレッシャーを感じたときに起こりやすい

★特定の動きや姿勢には関係しない

★心拍が速くなることや、息苦しさを伴うことがある

★時間帯や状況に関連する

  • 試験前などのプレッシャーを感じる場面で突然起こるが、気持ちが落ち着くと軽減する など

心因性の胸痛は、心のストレスや緊張が「胸が苦しくなる」という形で現れる症状です。
命に関わる病気ではないことがほとんどですが、繰り返す場合はストレスの原因を探したり、専門家に相談することが大切です。

④食後や空腹時に悪化する胸痛:消化器疾患(逆流性食道炎、食道炎など)

子どもの胸痛の約5%を占めるのが、消化器疾患によるものとされています。
子どもの場合「胸焼け」や「胸部の不快感」を「胸の痛み」として言い表すことも多くあります。
子どもの消化器疾患による胸痛で最も一般的なものが、胃酸が食道に逆流する胃食道逆流症(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)です。

【消化器症状が原因となる胸痛の特徴】

★痛みのタイミング

  • 食後や空腹時
  • 前かがみや横になる姿勢で痛みが悪化することがある

★痛みの性質

  • 焼けるような感覚:胸の中央部やみぞおち付近に、焼けるような痛みや不快感がある(胃食道逆流症に多い)
  • 鈍い痛みや圧迫感:消化管の痙攣や炎症が原因である場合に多い
  • 放散痛(背中や肩甲骨周辺の痛み):胃潰瘍や胆石などの疾患では、痛みが背中や肩甲骨周辺に広がることがある

★随伴症状

  • 胸やけや酸味のあるげっぷ:胃酸の逆流が原因の場合によく見られる
  • 吐き気や嘔吐:特に胃や十二指腸の疾患に関連することが多い
  • 腹部膨満感:食道や胃の機能が影響している場合に伴うことがある

★誘因

  • 特定の食事:脂っこいものや辛い食べ物、炭酸飲料が原因で症状が引き起こされることが多い
  • ストレス:消化管の機能がストレスによって影響を受け、痛みが誘発されることもある

★痛みの場所

  • 胸骨の裏側やみぞおち付近:特に食堂や胃が関連している場合に感じられる
  • 広がる痛み:胃潰瘍や胆石の場合、痛みが右肩や背中に広がることもある

消化器疾患による胸痛は、主に胃食道逆流症である場合が多く、他には食道炎や胃潰瘍などが原因となることもあります。
消化器疾患が原因となる胸痛は、基本的に経過を観察していても良いでしょう。
しかしながら1つ注意しなくてはならないことがあります。
それは、胸痛と一緒に嘔吐が見られる場合です。
大人の場合でも同じですが、狭心症や心筋梗塞は体に与える負担の強さから、嘔吐を起こすことがあるからです。
胸痛とともに吐き気や嘔吐などの症状がある場合は、消化器疾患との区別が難しいため速やかに医療機関を受診しましょう。

特に受診を急ぐべきサインとして以下のようなものがあります。
以下の症状を伴う場合は、救急車を呼ぶことを検討するべきです。

  • 激しい胸痛が突然始まった
  • 胸痛が肩や腕、背中、あごに放散している
  • 息苦しさや動悸がある
  • 意識がもうろうとしている、または失神
  • 唇や皮膚が青白い(チアノーゼ)
  • 嘔吐が繰り返し起こり、改善しない

⑤運動やストレスで悪化する胸痛/胸の中央や左側に重く締め付けられるような胸痛:心原性疾患(先天性心疾患、不整脈など)

子どもの胸痛の約1〜5%を占めるのが、心原性(心臓に原因がある)疾患になります。
胸痛の原因の割合としては少ないですが、突然死などを引き起こす可能性もあるので、鑑別が重要になります。
胸痛が起こる原因としては、心臓への負担が増えることや、心臓に供給される血流の障害が原因になります。
つまり、運動時やストレス時が痛みの出現しやすいタイミングと言えるでしょう。

【心原性疾患が原因となる胸痛の特徴】

★運動やストレスで誘発される痛み

  • 運動中や強いストレスを感じた際に、胸の中央や左側に重苦しい圧迫感を感じることが多い
  • 休息や安静で軽減することもある(狭心症の場合)

★胸の中央部や左側に感じる痛み

  • 痛みは胸の中央または左側に限られず、肩、腕(特に左腕)、背中、首、あごに広がることがある

★締め付けられるような痛みや圧迫感

  • 「胸の奥が潰されるような」「締め付けられるような」鈍い痛みが特徴的
  • 焼けるような感覚を訴える場合もある

★冷や汗や悪心を伴う場合が多い

  • 痛みに加え、冷や汗、吐き気、動悸、顔色不良(蒼白)などの全身症状が見られる場合は要注意

★主に狭心症、心筋梗塞、心膜炎が原因

  • 狭心症:運動やストレスで悪化、数分/以内に改善することが多い
  • 心筋梗塞:強い痛みが持続し、冷や汗や呼吸困難を伴うことが多い
  • 心膜炎:胸痛が強いが、前かがみになると軽減することが特徴的

心疾患による胸痛は、運動やストレスで心臓に負担がかかったときに悪化し、休むと軽減することが多いのが特徴です。
また、痛みが胸の中央や左側だけでなく、肩や腕、あご、背中に放散する場合もあります。
このような特徴に当てはまる場合は、早急に医療機関を受診しましょう。
また、心疾患の家族歴があるかどうかも重要な判断のポイントになります。
心疾患は遺伝的な要因が影響する疾患でもあるからです。
家族に心疾患の方がいる場合は受診時に伝えましょう。

⑥感染による炎症や刺激が原因で生じる胸痛:肺炎、胸膜炎、肋軟骨炎など

子どもの胸痛の約1〜5%が、感染による炎症によって生じるものとなります。
感染による胸痛は、炎症が痛みを引き起こすメカニズムとして共通していますが、炎症がどの部位に起きているか(肺、胸膜、肋軟骨など)によって特徴が異なります。
胸痛に加え、発熱などの全身症状も伴うことがあるので総合的に判断することになります。

【炎症が原因となる胸痛の特徴】

★痛みが呼吸や咳に連動

★局所的な痛みや圧迫感

  • 痛みが胸部の一部に限定される場合が多く、感染部位に近い場所(肋骨周囲や胸骨付近など)で感じられる

★全身症状を伴う場合が多い

  • 発熱、倦怠感、悪寒、咳、呼吸困難、息切れなど

★特定の動作や姿勢で痛みが変化する

  • 胸膜炎は、痛みが姿勢によって和らぐ場合がある(例:横向きで寝た時)
  • 肋軟骨炎は、体を捻るなどの動作で痛みが増加する

★その他の特徴的な症状

  • 肺炎:胸部の鈍い痛みや不快感、咳を伴う。高熱が出ることが多い
  • 胸膜炎: 鋭く刺すような痛み。深呼吸や咳で痛みが現れる
  • 肋軟骨炎:胸骨や肋骨付近に圧痛があり、押すと痛むことが多い
  • 心筋炎:胸痛に加え、息切れ

⑦特に明確な原因がわからない胸痛:特発性胸痛、前胸部キャッチ症候群

ここまで、子どもが胸痛を起こす原因について解説してきました。しかし実際には、多くの胸痛は原因が明らかにならない、特発性胸痛であると言えます。

★突発的な痛み

★短時間で自然に解消

★活動時、安静時の両方で発生する

★痛みの強さが軽~中等度

★特定の原因が確認できない

★成長期に多い

特発性の胸痛は、成長期特有の身体的な変化や心理的なストレスが関連していると考えられています。
頻度が高いため保護者の方は戸惑うことも多いかもしれませんが、通常は一時的で症状も軽い場合がほとんどです。
成長期特有の一時的な症状である場合が多いですが、不安を感じた際には医師に相談してもよいでしょう。

また、特発性胸痛の1つで、思春期に多く見られる「前胸部キャッチ症候群」というものがあります。
前胸部キャッチ症候群では、特発性胸痛の特徴に加えて、以下のような特徴があります。

  • 突然の「ピリッ」とした鋭い痛み
  • 痛みは数秒から数分程度で自然に解消する
  • 症状は一度限りではなく、繰り返し起こる

子どもの胸痛は珍しい症状であり、ほとんどの場合、命にかかわる心配のないものが原因です。
ただし、まれに心疾患や感染症などの重大な疾患が隠れていることもあります。
特に、運動中やストレス時に突然生じる胸痛や、嘔吐や冷や汗を伴う場合は注意が必要です。
痛みの特徴や随伴症状を観察し、必要に応じて早めに医療機関を受診しましょう。

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大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

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精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:よくある子供の症状  投稿日:2025-04-12

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