子どもの嘔吐

子どもの嘔吐

嘔吐とは

嘔吐は、体が「何か異常がある」と感じたときに、胃の中身を外に出そうとする防御反応です。
子どもが嘔吐を起こす原因は様々ありますが、「様子を見ても良い嘔吐」と「緊急性の高い嘔吐」があります。

この記事では、嘔吐を生じさせる疾患の中でも頻度が高いものの中から、「様子を見ていても良い嘔吐」と「緊急性の高い嘔吐」として次の疾患の解説をしています。

【様子を見て良い疾患】

  • ウイルス性胃腸炎
  • 食中毒
  • 乳糖不耐症
  • 胃食道逆流症(GERD)

【緊急性の高い疾患】

  • 腸重積
  • 急性虫垂炎
  • 腸閉塞
  • 髄膜炎

嘔吐を引き起こす原因

嘔吐を引き起こす原因には次のようないくつかの種類に大別できます。

  1. 消化器系に関係する問題
  2. 耳に関係する問題
  3. 脳に関係する問題
  4. 気持ち的な問題

①消化器系に関係する問題

食べ物が消化管をうまく通らなかったり、胃や腸が炎症を起こしたりすると、体はそれを異常と感じ、嘔吐を引き起こします
また、ウイルスや細菌、消化に影響を与える物質が原因となって嘔吐が引き起こされることもあります。

具体例としては、

  • ウイルス性胃腸炎
  • 食中毒
  • 乳糖不耐症
  • 胃食道逆流症(GERD)
  • 腸重積
  • 急性虫垂炎
  • 腸閉塞  など

食べ物が喉や胸に引っかかるような「つかえ感」や、腹痛を感じること、吐き気や嘔吐が食事後に頻繁に起こる場合消化器系の問題が疑われます。
しかし食後すぐに嘔吐するわけではなく、しばらく時間がたってから嘔吐することもあります。

②耳に関係する問題

耳の中には、体のバランスを感じ取る「前庭(ぜんてい)」という部分があります。
この前庭がうまく働かないと、体がどちらに向いているか、どう動いているかが脳に正しく伝わらなくなり「めまい」や「乗り物酔い」の状態になります。
その結果、気持ち悪くなって嘔吐を引き起こします。
乗り物酔いやめまいの他にも、耳に関係する問題としてはメニエール病や耳の感染症、または突然の姿勢の変化などがあります。
耳に関係する問題で引き起こされる嘔吐では、緊急性が高い場合は少ないので、安静にして身体を休ませることで回復するでしょう。

③脳に関係する問題

嘔吐に加えて、激しい頭痛、意識障害、けいれん、発熱などが伴う場合は、脳に関係する問題が疑われます。
頭の中の圧力が上がると、脳に直接影響を与え、嘔吐を引き起こします。これは体にとって非常に深刻なサインです。
頭の中の圧が上がる状況(頭蓋内圧亢進)というのは、頭部強打やケガをした後に頭蓋骨の中で出血が起こる。
または脳に腫瘍ができたり、脳や脊髄を包んでいる膜(髄膜)が感染したりして炎症を起こすと、脳や髄膜が腫れて頭蓋骨の中の圧が上昇します。

具体的には、

  • 髄膜炎
  • 脳腫瘍
  • 頭蓋内出血  など

どのような原因であるにせよ、頭蓋内圧が亢進している状態は生命に関わる危機的状況です。
嘔吐以外にも、激しい頭痛、意識障害、けいれん、発熱などの兆候がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。

④気持ち的な問題

強いストレスや恐怖、嫌な臭いを嗅ぐなど、感情や精神的な刺激が嘔吐を引き起こすことがあります。
明確な原因がある場合とない場合がありますが、①〜③に当てはまらない場合は、ストレスに当たるものがなかったか振り返ってみましょう。

嘔吐を引き起こす疾患

嘔吐を引き起こす原因にはいくつかの種類がありますが、その原因によっては「比較的頻繁に見られるが緊急性は低い疾患」と、「緊急性が高く迅速な対応が求められる疾患」があります。

【発症頻度は多いが緊急性は低い疾患】

  • ウイルス性胃腸炎
  • 食中毒
  • 乳糖不耐症
  • 胃食道逆流症(GERD)

【緊急性が高い疾患】

  • 腸重積
  • 急性虫垂炎
  • 腸閉塞
  • 髄膜炎

ウイルス性胃腸炎

ウイルス性胃腸炎は冬に多く発生し、特に牡蠣や貝類に含まれるノロウイルスやロタウイルスが原因となることが一般的です。
非常に感染力が強く、汚染された食べ物や水、または感染者との接触によって広がります。
生牡蠣を食べた後、幼稚園や学校で流行しているという状況での嘔吐であれば、ウイルス性胃腸炎の可能性が高いでしょう。

体のウイルスを排除しようとする働きから、嘔吐や下痢という形で強制的に胃腸の内容物を排出します。
また、ウイルスが引き起こす炎症によって発熱や腹痛も現れます。
ウイルスが体の外に排出されてしまえば症状は回復するので、基本的に経過観察でも良いでしょう。
ただし、嘔吐と下痢によって脱水になりやすく、経口での水分摂取が難しい場合は対症療法として点滴を行います。

また、感染力が強いので感染を広げない感染予防対策も重要になります。

  • 石鹸を使った手洗い
  • ・部屋内(ドアノブ、電気のスイッチ、リモコンなど多くの人がよく触る部分)の消毒
    ノロウイルス感染の場合はアルコールの消毒効果がありません。次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)を薄めたものを使いましょう。
  • ・嘔吐物やオムツを処理する際の使い捨て手袋やマスクの着用
    汚染されたものや、使用後の手袋やマスクはビニール袋に密閉して廃棄しましょう。

これらのことに注意しながら、予防対策を行いましょう。

食中毒

夏は食材が痛みやすく、高温多湿で食材に付着した細菌が増殖しやすいことから、食中毒のリスクが高まります。
食中毒による嘔吐や下痢も、原因となった細菌やウイルスが体の外に排出されると回復するため、経過観察となります。
脱水にならないように水分摂取を促しながら、安静にして様子を見ましょう。

食中毒を起こしやすい食材を以下に挙げます。

【食中毒を起こしやすい食材】

  • 生肉(特に鶏肉)
  • 生魚・刺身・貝類
  • 生卵
  • 乳製品
  • カットフルーツやサラダ
  • 加工食品

嘔吐前にこれらの食材を食べていないか、思い返して見ましょう。

乳糖不耐症

乳糖不耐症とは、乳製品に含まれる糖(乳糖)を消化できないために、乳製品摂取後に嘔吐や下痢が起こる症状です。
乳糖を分解するためには「ラクターゼ」という酵素が必要ですが、この酵素が不足していると、乳糖が適切に消化されず、腸内でガスや酸が発生し、腹痛や下痢・嘔吐などの症状が現れます。
乳糖不耐症を引き起こす根本的な原因であるラクターゼ不足は、基本的に遺伝的要因(先天性要因)によるものと考えられています。
特に乳幼児に多く見られ、乳糖不耐症が自然に治ることはあまり期待できません。
症状が出た場合は、乳製品の摂取を控える、乳糖分解酵素のサプリメントを使用するなどして、栄養バランスに注意しながら対応することとなります。

胃食道逆流症(GERD)

一般的に胃食道逆流症(GERD)とは、胃の内容物や胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜を刺激することで、胸やけや酸っぱい味が口の中に上がってくるなどの症状を引き起こす状態です。
しかし、小児の場合は、下部食道括約筋がまだ十分に発達していないため、胃の内容物が食道に逆流しやすくなります。
これは特に新生児や乳児でよく見られる「生理的逆流」と呼ばれる状態で、多くの赤ちゃんが生後数ヶ月間、授乳後にミルクを吐き戻すことがあります。
大多数の乳幼児は、成長とともに下部食道括約筋が発達し、GERDの症状は自然に改善されます。

胃の画像

授乳の際は、少ない量で回数を増やし、授乳後のゲップをしっかり出す、また、授乳後はしばらく上体を起こしておくなどして対応しましょう。

腸重積

腸重積(ちょうじゅうせき)は、主に乳幼児に多く見られる病気で、生後6ヶ月〜2歳くらいの年代で好発します。
多くの場合、原因が不明です。
腸の一部が、隣接する腸管の中に滑り込んでしまう状態で、この結果、腸が「二重」

サンプル画像

に重なるようになり、腸管の通り道が塞がれたり、血流が阻害されたりします。突然の激しい腹痛と嘔吐が特徴で、子どもが急に泣き出し、周期的に痛みを訴えます。
イチゴゼリーのような血便が見られることもあります。

(一般社団法人日本小児外科学会)

この状態が進行すると腸の壊死(腐敗)を引き起こすリスクがあるため、緊急度が高い疾患と言えます。
すみやかに医療機関を受診しましょう。

発症から経過が短い場合は、「高圧浣腸」と呼ばれる治療が行われます。
高圧浣腸で腸重積が解除できない場合や、腸が壊死している可能性がある場合は、外科的手術が必要になります。
腸重積は治療後に再発することがあるため、治療後もしばらくの間は子どもの状態を注意深く観察しましょう。
再発の兆候が見られた場合は、再び医療機関を受診してください。

急性虫垂炎(盲腸炎)

急性虫垂炎(盲腸炎)とは、虫垂(ちゅうすい)という腸の一部に炎症が起こる病気です。
幅広い年齢に生じますが、10〜20歳代に好発し、小児の急性腹症の原因として最も多い疾患となります。
典型的な症状は突然の右下腹部の激しい痛みで、吐き気や嘔吐、発熱などを引き起こします。
最初はおへその周りにあった痛みが、その後右下腹部に移動する場合は、特に急性虫垂炎の可能性が高いです。
早期に治療しないと虫垂が破裂し腹膜炎を引き起こすリスクがあるので、緊急性の高い疾患と言えます。

急性虫垂炎は、虫垂が何らかの理由で閉塞することで起こるとされています。
急性虫垂炎と診断されると、炎症の程度によって抗生剤の内服治療か、緊急の外科的手術が行われます。
手術後は数日の入院が必要となりますが、術後1〜2週間で通常の生活に戻ることができます。

腸閉塞

腸閉塞(イレウス)とは、腸管の一部が詰まったり、ねじれたりすることで、食べ物や消化液、ガスが腸内を正常に通過できなくなる状態です。
これにより、腹痛や嘔吐、膨満感、便秘などの症状が現れます。
腸閉塞は放置すると腸が壊死することがあり、緊急の治療が必要になる場合があります。
子どもの腸閉塞の原因として、腸重積が最も多く全体の50〜60%、続いて先天性腸閉鎖症が10〜15%の割合を占めるとされています。
先天性腸閉鎖症は、新生児期の腸閉塞の主要な原因の一つです。
新生児においては、比較的早期に発見されることが多く、生まれつき腸の一部が閉じていたり、狭くなっていたりする先天性の異常です。
腸閉塞の診断がされると、閉塞の程度や腸管壊死の有無によって保存的治療か、外科的手術かが決められます。
腸閉塞が軽度で、腸の壊死や重大な合併症がない場合、まずは保存的治療が試みられます。
これは、絶食と点滴による水分補給、鼻から胃に管を入れて腸内のガスや液体を吸引する「胃管挿入」などです。
これにより、腸内の圧力を軽減し、腸の通過を改善することが期待されます。
腸閉塞が重度である場合や、腸がねじれて血流が遮断されている場合には、外科手術が必要です。
手術では、詰まっている部分を解消し、必要であれば壊死した腸の部分を切除します。
手術後は、数日から数週間の入院が必要となります。
腸の機能が回復するまでは点滴で栄養補給を行いながら、徐々に食事を再開することになるでしょう。

髄膜炎

髄膜炎は、脳や脊髄を包んでいる膜(髄膜)が細菌やウイルスなどの感染によって炎症を起こす病気です。
髄膜炎が起こると、脳の周りにある組織が腫れて、脳の中にある液体が増えたり、流れが悪くなったりします。
脳は頭蓋骨に囲まれているので、腫れた脳が膨らむスペースがありません。
これが原因で、頭の中の圧力が高くなるのです。
この状態を「頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)」と言います。
髄膜炎は、治療開始が遅れれば遅れただけ、致死率や後遺症の発症率が上昇します。
放置すれば致死的重篤な症状を引き起こすことがあり、早期の診断と治療が非常に重要です。
髄膜炎の初期症状には、発熱、激しい頭痛、首の硬直、意識障害、嘔吐、光に対する過敏症などがあります。
これらの症状が見られたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
小児における髄膜炎の原因は、大人と異なり、特に細菌性髄膜炎では、Hib(B型インフルエンザ菌)、肺炎球菌、髄膜炎菌が主要な原因となります。
また、新生児では、大腸菌やリステリア菌が関与することもあります。
ウイルス性髄膜炎では、エンテロウイルスやムンプスウイルス(おたふく風邪)、ヘルペスウイルスが一般的な原因です。
小児特有の感染症やワクチン未接種によるリスクが高いため、予防接種が非常に重要となります。
髄膜炎は重篤な病気であるため、髄膜炎の診断がつくと入院して治療と経過観察が行われます。
入院中は、原因菌によって抗生物質の内服治療や、解熱鎮痛剤を用いた対症療法が行われます。

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カテゴリー:よくある子供の症状  投稿日:2024-10-07

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