更年期障害各論「関節痛」
更年期の女性において、「関節の痛み」を感じている女性は20%程度いると言われています。
実際の医療現場においても、関節痛だけではなく「筋肉の痛み」や「手足のしびれ」があるという患者さんを診ることがよくあります。
年のせいだから仕方ないかしら・・・とあきらめていることが多いです。
関節や筋肉は毎日の生活でよく使う場所です。
痛みやしびれを感じながら生活するのはつらくはありませんか?
この記事では更年期における関節痛について解説します。
原因
~女性ホルモンが変化すると関節にも影響が出ます~
手指の関節痛やしびれの原因のひとつとして、女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少することがあります。
エストロゲンというホルモンは、女性のからだを健康的に維持していくために重要な働きをしています。
このようなホルモンは、それぞれの臓器に存在する「受容体」に結合することによって仕事をすることができます。
エストロゲンの受容体には、アルファとベータが存在します。
アルファ受容体は、子宮/卵巣や乳腺などの臓器、つまり生殖器をメインに存在しています。
一方、ベータ受容体は、骨、関節、靭帯、腱などの運動器をメインに分布しています。
卵巣の機能が保たれていて、エストロゲンの量が充分あるときには、ベータ受容体からエストロゲンが運動器に働き、健康を保ってくれます。
骨や関節、靭帯、腱はツヤツヤとして潤いがあり、血流は豊富です。
潤いや血流があると、痛みやしびれが出ることはあまりありません。
更年期になると卵巣の機能は少しずつ下がっていきます。
するとエストロゲンの作用も減少してしまいます。
軟骨や筋肉が衰え、関節内の水分が減少し、血流が悪化してしまいます。
すると、関節や筋肉に痛みが出てきてしまいます。
症状
- 手指の関節の痛み
- 手足のしびれ
- 筋肉痛 など
症状の内容や程度は人それぞれ異なります。
診断
関節痛やしびれの原因は更年期だけではありません。
整形外科領域に病気があって症状を引き起こしていることがあります。
まずはお近くの整形外科でご相談していただき、骨や関節に異常がないかを診てもらいましょう。
脳血管障害によってしびれが起きていることもあります。
脳神経外科/神経内科を受診し、脳や末梢神経に異常がないかを診てもらいましょう。
更年期と決めつけずに、まずは専門医の診察を受けることをおすすめします。
特に異常が見つからなかった場合には更年期が原因である可能性が高くなります。
治療
生活習慣を見直す
からだが冷えると、血行が悪くなって痛みやしびれを感じやすくなります。
着ている洋服や室温の管理を行って、できるだけからだを冷やさないようにしましょう。
からだを冷やすような食べ物にも注意が必要です。
できるだけ毎日運動するようにして、筋肉や関節が衰えないようにすることも大切です。
タバコは、血流が悪化し痛みやしびれを増強させる恐れがあるので、禁煙/減煙を心がけましょう。
エクオール
エクオールは、大豆イソフラボンから腸内細菌によって生成される物質です。
エストロゲンと似た構造を持ち、同じような作用をすると言われています。
エクオールは、特にエストロゲンベータ受容体に結合しやすいと言われています。
ベータ受容体は運動器に多く存在しています。
つまりエクオールは、関節や骨、滑膜に作用しやすいと言えます。
関節痛やしびれの改善に対して効果が期待できます。
エクオールでは乳がんのリスクが高くなることはありません。
乳がんの患者さんも飲むことができると言われています。(エクオールを摂取したいときには、乳がんの主治医に必ず相談してください。)
ホルモン補充療法
エストロゲンを補充し症状が改善することを目指します。
婦人科を受診しないと受けることができない治療です。
子宮を摘出されている場合にはエストロゲンのみを投与し、子宮を有する方には黄体ホルモンを併用します。
エストロゲン製剤には、内服するものと、皮膚から投与するもの(ジェル、パッチ製剤)があります。
血栓症予防の観点から、経皮製剤をおすすめしています。
黄体ホルモンは連続投与と周期投与があります。
長らく月経がない女性には連続投与を行い、月経がある、もしくは最近まであった方には周期投与を行うことが多いです。
ホルモン補充療法を行う前には、子宮頸がん(体がん)の検査、経腟超音波検査、血液検査、乳がん検診を受けて頂き、ホルモン補充療法を行ってもよいかどうかを判断します。
漢方
症状や体質から個々の患者様にふさわしいと考えられる漢方を処方しています。
まずは1カ月程度内服してみて、症状の改善があるかどうかを判断するようにしてください。
まとめ
更年期女性の関節痛やしびれは、卵巣機能の低下が原因の一つと考えられています。
エストロゲンは関節や骨、筋肉を健康に保つという重要な役割を担っています。
卵巣の機能が低下することによって、関節や神経系にトラブルが起こってしまいます。
定期的に運動・ストレッチを行うなど、生活習慣を見直すことでも、つらい症状を和らげることはできます。
エクオールは運動器に働きやすいと言われており、関節症状を改善する効果が期待できます。
婦人科でホルモン補充療法を受けたり、漢方薬を処方してもらったりすることも、関節痛に有効と考えられている治療法です。
つらい症状はひとそれぞれです。
ひとりで我慢せずに、お気軽に婦人科でご相談ください。
一人でも多くの女性が、健やかな更年期を過ごせることを祈っております。
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カテゴリー:更年期障害 投稿日:2025-05-16
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