ブレスト・アウェアネス

ブレスト・アウェアネスのすすめ

女性の皆さん、「ブレスト・アウェアネス」という言葉をご存じでしょうか?
ブレスト・アウェアネスとは、日頃から自分の乳房に気を付けていこうという生活習慣のことを言います。
乳がんと診断される患者さんの数は年々増加しています。
乳がん患者さんの人数は、20歳代後半より徐々に増え始め、30歳代・40歳代で急激に増加し、40歳代後半〜50歳代がピークになっています。
乳がんは早期の状態で発見することができれば、長生きすることができるがんです。
定期的な検診を受けることは大切です。
それに加えて、日頃からご自分のおっぱいに関心を持っておくことで、わずかな異変にも早く気が付くことができます。
ピルを内服されている方やホルモン補充療法を受けている方は、このような治療が乳がんを増やすことはないのかと心配されているかと思います。
この記事では産婦人科医の立場から、ピル・ホルモン補充療法と乳がんのリスク、検診の大切さについて解説します。

ブレスト・アウェアネスとは?

ブレスト・アウェアネスとは日頃から自分の乳房に関心を持って観察する習慣のことをいいます。
観察といっても難しいことではありません。
普段から着替えをするとき、入浴するときなどに鏡で自分の乳房を見たり、触ってみたりすることから始めてみましょう。
生理がある女性では、生理の周期によって乳房の状態が変化するかと思います。
自分に起こっている変化について知っていれば、いつもとは違う異変に気づくことができます。
乳房を観察したときに、しこりが触れる、皮膚の一部がくぼんでいる・ひきつれている、乳頭から血液が出てくる、乳頭や乳輪にびらんができているなどの変化に気が付いたら、早めに乳腺科へ相談に行きましょう。

ピルと乳がんリスク

毎月の生理のときの痛みがつらい、PMSで困っている、避妊したいなどの理由で超低用量ピル(LEP)や低用量ピル(OC)を内服することは、日々の生活を快適にしてくれる大切なツールです。
私たち産婦人科医は、ご自身の目的に応じてピルを有効活用して頂きたいと願っております。
そこで気になるのが、ピル内服によって乳がんのリスクは高まらないのかということかと思います。
ピルと乳がん発症リスクについて検討している欧米の研究では、わずかにリスクが高まる可能性があるかもしれないという結果が出ています。
日本で最初の低用量ピルが発売されたのは1999年なので、あまり歴史がありません。
このため日本人を対象とした大規模な研究はまだありませんが、首都圏の女性を対象とした研究では、ピルによって乳がんのリスクは上昇しないという結果が出ています。
(Ichida M, Kataoka A, Tsushima R, Taguchi T. No increase in breast cancer risk in Japanese women taking oral contraceptives: a case-control study investigating reproductive, menstrual and familial risk factors for breast cancer. Asian Pac J Cancer Prev. 2015;16(9):3685-90. doi: 10.7314/apjcp.2015.16.9.3685. PMID: 25987022.)
超低用量・低用量ピルでは、含まれているエストロゲンの量は少なく、乳がんのリスクが明らかに増加するとは言えないと考えています。
ただ、ピルの内服の有無に関わらず、乳がんは近年若い女性において増えています。
日頃からブレスト・アウェアネスを行い、ご自分のおっぱいの変化に気づくことができるようにすることが大切です。

ホルモン補充療法と乳がんリスク

ホルモン補充療法を受けることによって、ホットフラッシュなどのしんどい症状が軽くなるだけでなく、骨折や心血管系イベントのリスクを下げるという効果も見込めます。
更年期障害で困っている女性にとって、ホルモン補充療法は受けるべき治療と言えます。
ホルモン補充療法と乳がんの関連についての研究では、ホルモン補充療法によって乳がんに罹患するリスクはわずかに上昇すると言われています。
ただこのリスクは大きなものではなく、他の乳がんリスク因子(肥満や座ってばかりのライフスタイル)の方が影響は大きいと考えられています。
ホルモン補充療法は、必要な場合には受けるべき治療と考えます。
乳がんのリスクを恐れて治療を中止する必要はないと思われます。
ホルモン補充療法を受けている年代に乳がん患者さんが多いことは事実であり、ブレスト・アウェアネスによって日頃からご自身のおっぱいに関心をもつようにしましょう。

検診の大切さ

40歳以上の女性では、2年に1度のマンモグラフィーによる検診を受けることで死亡率が低下することが証明されています。
お住いの自治体から補助が出ますので、無料〜3000円程度で検査を受けることが可能です。
ホルモン補充療法を受けている方では、乳がんになりやすい年代であることを考慮し、できれば1年に1度検診を受けることをおすすめします。

まとめ

ピルやホルモン補充療法は、様々な症状を和らげることができ、多くの女性にとって受けるべき大切な治療です。
これらの治療によって、乳がんのリスクがわずかに高まる可能性があることも知っておいてください。
乳がん検診を受けることに加えて、日頃からブレスト・アウェアネスを意識しておくことで、早期発見につなげることができると考えています。

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カテゴリー:よくある婦人科の症状  投稿日:2025-05-05

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