糖尿病の原因について|インスリン分泌と肥満の関係

糖尿病の原因

「糖尿病の原因は肥満」という話を聞いたことがあるかもしれません。
確かに肥満は糖尿病の原因の一つです。
しかし他にも糖尿病の原因はあります。
この記事では、糖尿病の原因による分類、1型糖尿病の原因となる自己免疫、2型糖尿病の原因となるインスリンの分泌低下とインスリン抵抗性について解説します。
これを読めば、糖尿病の原因が理解できます。
糖尿病が気になる方は役立ててみてください。

糖尿病の原因による分類

糖尿病は、体の中にあるインスリンというホルモンが不足、もしくはうまく働かなくなることで、血液の中にブドウ糖(血糖)が増えて、高い血糖値(高血糖)が続き、さまざまな合併症を起こす病気です。
糖尿病は原因によって4つのタイプに分類されます。
なおこの記事では1型糖尿病、2型糖尿病について解説し、他は省略させていただきます。

1型糖尿病

膵β細胞が破壊されてインスリンの分泌が著しく低下し、高血糖を起こすタイプです。

2型糖尿病

軽度のインスリンの分泌低下、ならびにインスリンが効きにくい体質によって高血糖を起こすタイプです。

特定の原因によるその他の糖尿病

遺伝性のもの、膵臓疾患、内分泌疾患、肝疾患、薬剤、感染症によるものなどがあります。

妊娠糖尿病

妊娠中に初めて発見または発症するタイプです。

1型糖尿病の主な原因は自己免疫

健康な人の体は、外から病原体などの異物が侵入してくると、免疫が働いて異物を排除しようとします。
一方、自分の体の成分には免疫は働かず、寛容状態が保たれます。
ところが自分の体の成分に対して免疫が働いて抗体を作り出し、排除しようとすることがあります。
これを「自己免疫」と呼び、このとき作り出される抗体が「自己抗体」です。
多くの1型糖尿病の発症初期には、膵島細胞に存在する蛋白に対する自己抗体が出現します。
そしてこの自己抗体がインスリンの分泌を抑制するということ、免疫を抑制すると1型糖尿病の発症が抑えられるということが分かっています。
また自己と非自己の識別に関与するHLA遺伝子が桁外れに強く関連しており、自己免疫が強く関係していると考えられています。
ただし劇症1型糖尿病では、自己抗体が見つからず、病因は不明です。

2型糖尿病の主な原因はインスリンの分泌低下

2型糖尿病は、さまざまな遺伝に関する要素に、インスリンの分泌低下、消化管ホルモンの作用低下、過食・運動不足による肥満などの要素が加わって起こるタイプです。

遺伝的要素

2型糖尿病の発症には遺伝的要因が関係していることは、家族調査、一卵性双生児の疾病一致率などから明らかです。
そして2型糖尿病の発症に関連した遺伝子は約50種類発見されています。
しかし多くは欧米人にみられる遺伝子であり、日本人には関係しないものも存在します。
日本人は欧米人のように肥満傾向が強くなくても2型糖尿病を発症します。
つまり日本人は2型糖尿病になりやすい体質を持っているのではないかと考えられます。
そして理化学研究所が行った東アジア人54,690人を対象とした調査によると、日本人を初めとした東アジア人に特有の2型糖尿病に関連する8つの新しい遺伝子が発見されました。

インスリンの初期分泌の低下

日本人の2型糖尿病の一番の特徴は、インスリンの初期分泌が少ないことです。
糖尿病の検査の一つにブドウ糖負荷試験があります。
空腹時にブドウ糖75gを溶かした水を飲み、それぞれ検査前、ブドウ糖負荷後30分、1時間後、2時間後に血糖値とインスリン値を測る検査です。
2型糖尿病の方にこの検査を行うと、ブドウ糖負荷後30分におけるインスリンの分泌が少なくなります。
この現象を「インスリンの初期分泌の低下」と呼ぶのですが、この原因は今のところ不明です。
しかし酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用(酸化ストレス)が、インスリン分泌の低下に関係しているのではないかと考えられています。
慢性的な高血糖状態が続くと、過剰なブドウ糖とタンパク質が結合して糖化タンパクに変化します。
この過程で酸化ストレスが発生し、膵臓のβ細胞にダメージを与え、インスリン分泌が障害されるという説です。

消化管ホルモンの作用低下

食事をとると血糖値が上がりますが、血糖値にリンクして「インクレチン」という消化管ホルモンが分泌されます。
インクレチンはインスリン分泌を刺激し、食後の血糖値をコントロールするホルモンです。
このインクレチンの作用が低下すると、インスリンの分泌も低下します。
ただしインクレチンの作用が低下する原因は不明です。

肥満

インスリンは筋肉や臓器などの細胞へ血糖を送り込み、糖はエネルギーとして使われます。
このインスリンの働きによって血糖値が正常範囲に保たれる仕組みです。
ところが肥満になると、インスリンがうまく働かなくなり、血糖が細胞に入りにくくなって、血糖値が高くなります。
これを「インスリン抵抗性」と呼びます。

インスリン抵抗性がおこる機序
  • 肥満になると血中に遊離脂肪酸が増加し、肝臓に取り込まれて脂肪肝となり、肝臓でのインスリン作用が低下する
  • 骨格筋にも遊離脂肪酸が取り込まれ、血糖の取り込み能力が低下する
  • 脂肪細胞内に異常なタンパクが蓄積し、脂肪の炎症やインスリン抵抗性をおこす
  • 脂肪組織内で過酸化脂質の産生が増加し、膵β細胞や他の臓器に影響する

他にもさまざまな説があるのですが、どれも決定的なものではありません。
要するに十分なインスリンがあっても、肥満になるとうまく働かなくなるということです。
ただしこれらのエビデンスを示す論文は、大半は欧米人のデータをもとにしています。
欧米人の2型糖尿病者の平均BMIは30なのに対し、日本人の2型糖尿病者の平均BMIは23と大きな隔たりがある点に注意が必要です。
欧米人のデータをそのまま日本人に当てはめると矛盾が生じるリスクがあります。

肥満の原因

次に肥満が起こる原因を示します。

甘いものの食べ過ぎ

カロリーの摂り過ぎは肥満の原因の一つです。
ただし日本では縄文時代でも1,500Calは摂取していたという説があり、身体の大きさを考慮すると、摂取カロリー量はそれほど増えていないと考えられます。

運動不足

主に運動不足によってカロリー消費量が低下し、肥満になっていると考えられます。

まとめ

糖尿病は、体内のインスリンが不足、もしくはうまく働かなくなることで、血糖が増えて、高血糖が続き、さまざまな合併症を起こす病気です。
糖尿病は、原因によって1型、Ⅱ型に分類されます。
1型糖尿病の主な原因は、自己免疫です。
2型糖尿病の原因は、遺伝的要素、インスリンの分泌低下、過食・運動不足による肥満などです。
日本人では、インスリン分泌の低下による2型糖尿病が多くみられます。
しかしインスリン分泌が低下する原因はまだ分かっていません。
これからの調査研究の成果が期待されます。

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カテゴリー:糖尿病  投稿日:2025-07-04

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