糖尿病の尿の変化
「最近、尿が泡立つことに気付いた」
「なんだか尿から甘い匂いがする気がする」
「尿の回数が増えて、夜寝てる時もトイレで起きるようになった」
以前とは少し違う、自分の尿について疑問や心配を感じているのではないでしょうか。
結論から述べますと、糖尿病を発症すると、上記のような尿の変化が起こります。
この記事では、糖尿病で発症する”尿の変化”について解説します。
- 糖尿病によって生じる典型的な尿の症状
- 尿に変化を生じさせる糖尿病の病態について
- 尿以外に生じる糖尿病の典型的なサイン
- 糖尿病かも!?と思った方に、健診結果で注目するポイント
尿にこのような変化があったからと言って、必ずしも糖尿病であるというわけではありません。
ただし、このような尿は正常な尿の性状ではないので、糖尿病以外の病気が隠れている可能性もあります。
隠れている病気の検索も含めて、読んでいただけると参考になるのではないかと思います。
糖尿病のサイン~尿の変化~
糖尿病では典型的な尿に関する症状があり、以下の3つが代表的なものとなります。
- 尿が泡立つ
- 尿から甘い匂いがする
- 尿の回数が増える
①尿が泡立つ
糖尿病になり尿中にタンパク質が含まれるようになると、尿が泡立つようになります。
糖尿病になると腎機能が低下するので、通常では排出されないタンパク質が尿中に排出されるようになるからです。
逆に言うと、糖尿病でなくても腎機能が低下していれば、タンパク尿となり尿が泡立つことがあります。
腎機能の低下は、腎疾患以外にも高血圧、炎症(自己免疫疾患、感染症や発熱など)、激しい運動、ストレスなどでも起こります。
尿の泡立ちは、タンパク尿以外の要因でもおこります。
尿は、尿の勢いやPHなどの影響で泡立つことがあるからです。
②尿から甘い匂いがする
糖尿病になりケトン体が尿中に含まれるようになると、尿から甘い匂いがするようになります。
糖尿病とはインスリンの不足によって、糖をエネルギーとして使えなくなる状態が背景にあります。
体が糖をエネルギーとして利用することができなくなると、脂肪をエネルギー源として分解するのですが、その過程でケトン体が生成されます。
このケトン体は甘い匂いがする物質です。
したがって、糖尿病でなくてもエネルギーとなる糖がない場合に、ケトン体が産生され尿中に排出されることがあります。
具体的には以下のような場合が考えられます。
- 断食や低炭水化物ダイエット
- 激しい運動
- アルコール中毒や過度の飲酒
③尿回数が増える
糖尿病になると尿量が増加し、それに伴い尿回数も増えることになります。
特に夜間の安静時には腎臓に流れる血液量が増えることから、夜間に尿回数が増えるという特徴もあります。
尿量が増える原因は、過剰な糖が尿中に排出される際に浸透圧(濃度の濃い液体を薄めようとする働き)で水分を引き寄せることに起因しています。
尿量の調整は、腎臓だけでなく、血圧や循環血液量、脳から分泌されるホルモン、薬剤、さらには精神的な要因など、さまざまな要素が複雑に関与しながら行われています。
尿の泡立ちや匂い、尿量の変化だけで一概に何かの病気のサインということはできません。
他の症状と合わせて気になる場合は、医師の診察を受け、適切な検査を行うことが重要です。
尿の変化を起こす糖尿病の病態
糖尿病では尿以外にも典型的な変化が見られます。
後ほど、尿以外の症状についても解説しますが、糖尿病の成り立ちを理解しておくと解説も分かりやすいと思います。
糖尿病とは、インスリンという血糖値を下げるホルモンが不足して血糖値の高い状態が続く病気のことをいいます。
そして血糖値が一定以上になると、糖が尿中に排出されるようになります。
私たちは食事で栄養素を取り入れますが、身体の細胞がエネルギー源にできるのは炭水化物を分解してできる糖(グルコース)だけになります。
インスリンが血糖値を下げる仕組みは以下のようになります。
インスリンは、糖を細胞内に取りこむ際の細胞に付いている扉の”鍵”みたいなものだと言えます。
正常であれば1つの鍵で扉が開き、細胞内に取りこむことで血液中の糖が減るのですが、糖尿病ではこのインスリンが不足しているので、糖を細胞内に取り込めなくなるという流れになります。
糖尿病によるインスリン不足や、炭水化物の摂取不足によって細胞が糖を取りこめなくなると、私たちの身体は体内に糖が無いと判断して体内の脂肪やタンパク質を糖に変換します。
この脂肪→糖に変換される過程で、ケトン体という物質が生成されます。
細胞の糖の取り込みができない状態が続くと、ケトン体が過剰になり尿や呼吸中に排出さるようになります。
それが糖尿病患者さんの尿や吐く息から甘い匂いがする理由となります。
ちなみに、脂肪→糖に変換されても、インスリンが不足しているので、変換された糖も細胞には取りこまれずに、高血糖状態を助長するという流れになり悪循環をもたらします。
またケトン体が多くなると、体内の血液が酸性に傾き、最悪の場合は生命の危機に陥ります。
糖は身体にとってとても大切なものなので、ある一定量までは身体に取りこみ、筋肉・脂肪・肝臓で蓄えます。
しかし、それでもさらに糖が過剰に存在する場合は、尿中に排出されることになります。
尿は血液が腎臓でろ過されることで生成されるのですが、糖の含まれる濃い尿を薄めようと血液中の水分が引き寄せられ、尿量が増えます。
同時に血管内の血液量が減ることになります。
また、高血糖状態は血管壁や神経組織を傷つけるといわれており、細い血管の集合している臓器や、再生能力の低い神経は影響を受けやすくなります。
糖尿病による神経障害、網膜症、腎症が3大合併症となる理由もここにあります。
糖尿病のサイン~尿以外の変化~
糖尿病では、尿以外にも前兆と考えられる症状やサインがいくつかあります。
これらのサインが現れていないかも、確認してみてください。
①極度の喉の渇きと多飲
多量の尿を生成するので、脱水状態になりやすくなります。
脱水に伴い身体が水分を欲することから口喝を感じ、多飲という行動に繋がります。
②増加した食欲
細胞が十分なエネルギーを得られないことから、食べ物を求めるようになります。
③体重の減少
細胞は糖からエネルギーを得られなくなると、脂肪やタンパク質を糖に変換しようとします。
そうすると脂肪や筋肉の減少が進行し、体重が減ります。
また、脱水もあいまって体重減少が起こります。
④疲れやすさ
糖が細胞に適切に取り込まれないため、体はエネルギー不足となり疲れやすくなります。
⑤視力の変化
網膜の毛細血管が障害されること(糖尿病性網膜症)や、高血糖状態が水晶体のタンパク質に影響を与え、白内障(糖尿病性白内障)を引き起こす場合があります。
⑥肌、歯茎、尿路の感染が頻発
高血糖は細菌の成長を助け、感染のリスクを増加させる可能性があります。
⑦肌の乾燥やかゆみ
脱水や神経障害の結果として、肌が乾燥し、かゆみが出ることがあります。
⑧手足のしびれや痛み
高血糖による神経障害の結果、しびれや痛みが生じることがあります(糖尿病性神経症)。
⑨治りにくい傷やあざ
高血糖によって毛細血管が傷つくと、傷を修復する過程で血管の壁が厚くなります。
それによって元々細い血管の内腔が狭くなり、血流が乏しくなることで組織の修復が妨げられ、傷がなかなか治らないことがあります。
⑩慢性的な皮膚の変化
例えば、黒ずんだ、厚みのある皮膚のパッチが首、腋窩(わきの下)、手指などに発生することがあります(これは無害な状態であるアカントーシス・ニグリカンスとして知られています)。
※アカントーシス・ニグリカンスは、しばしばインスリン抵抗性と関連しています。
糖尿病は早期発見が重要
もし、尿の泡立ちや多尿といった症状がある、または尿以外にも気になる症状があるのであれば、それは体からの何かしらのサインかもしれません。
これらの症状だけでは、病気の診断をすることはできません。気になる方は医師の診察を受け、適切な検査を行うことが重要です。
糖尿病は初期段階では自覚症状が少ないため、見逃されることが多いです。早期発見・早期治療が非常に重要になります。
診断や治療についてもっと詳しく知りたい方は、糖尿病の症状・診断・治療を読んでみて下さい。
身体の変化を軽視せず、早めのチェックで健康な未来を手に入れましょう。