はじめに
健康診断の結果を見てみたら脂質異常症と判定されてしまった方も多いのではないでしょうか?脂質異常症は体内の脂肪の異常を示しています。
脂質異常症は、かつては高脂血症とよばれていました。血液中の脂質は動脈硬化の原因となりますが、血中のコレステロールは全てが悪者ではありません。善玉コレステロール(HDL)という良いコレステロールも存在します。
この善玉コレステロールは、少ない方(すなわち低HDLコレステロール血症)が動脈硬化を起こしやすいので、高脂血症という病名は不適切ではないかといわれるようになりました。そのため2007年7月、高脂血症から脂質異常症に改名されたのです。
脂質異常症と診断された方は、
- 自分はどれくらい重篤な脂質異常症か?
- 悪玉コレステロールが高いのか?善玉コレステロールが低いのか?
- 他の脂質は大丈夫か?
など気になると思います。しかし実際の検査値をみても、よくわからないかもしれません。ここでは、検査値をどのようにみていけばよいのかを確認していきましょう。
ご自身の脂質異常症のパターンと程度を理解して、治療と対策をたてていきましょう。
健康診断で脂質異常症に関係ある数値は?
脂質異常症と診断された方は、採血結果を実際に見てみましょう。
- 総コレステロール(TC)
- 悪玉コレステロール(LDL)
- 善玉コレステロール(HDL)
- 中性脂肪(TG)
この4つが脂質異常症に関係のある数値です。それぞれ、簡単に説明します。
総コレステロール
総コレステロールとは、血液中の全てのコレステロールの合計値です。総コレステロールは、220mg/dl以上で異常値と示されています。
1980年代は高脂血症として、総コレステロールの数値に注目が置かれていました。しかし総コレステロールの中には、悪玉コレステロール(LDL)もいれば善玉コレステロール(HDL)もいます。
善玉コレステロールは、その名前からもわかる通りで、ある程度は高い方が良いことが分かってきました。そのため、総コレステロールの数値が高い人の中には善玉コレステロールが高い人も含まれているため、「総コレステロールが高い=高脂血症」と診断しないという方針が2007年に決められました。
2007年からは、高脂血症から脂質異常症と診断名も変更されています。現在の総コレステロールの値は、LDL(悪玉コレステロール)などを計算する際に用いられていて、この数値自体はあまり重視されていません。
悪玉コレステロール(LDL)
2007年より、悪玉コレステロールが高いことが一番の問題であることが分かってきました。
一般的に悪玉コレステロールは、LDLと略されます。LDLとは、low-density lipoproteinの略語です。日本語では、低比重リポたんぱく質といいます。
高LDLコレステロール血症とは、LDLが140mg/dl以上で診断されます。現時点では、コレステロールの検査値の中で、唯一の心血管疾患の絶対的リスクファクターです。
善玉コレステロール(HDL)
善玉コレステロール(HDL)は、その名の通り良いコレステロールです。HDLは、high-density lipoproteinの略語です。日本語では、高比重リポたんぱく質といいます。HDLは、反対に低いと問題になります。
HDLは40mg/dl未満で、脂質異常症となります。特に女性において、低HDLは心血管疾患の重要なリスクファクターとなります。
トリグリセリド(TG)
トリグリセリドとは、英語でtriglycerideと表記されます。これをTGと略します。日本語では、中性脂肪といいます。
高トリグリセリド血症とは、150mg/dl以上を示します。トリグリセリドは直近の食事の影響をまともに受けるため、12時間以上の絶食後の測定が望まれます。
高トリグリセリドも脂質異常症に含まれるため、注意が必要です。高TG血症は、高LDL血症ほど虚血性心疾患との関連性が明らかではありません。
ただし、トリグリセリドが増加するほど、HDLコレステロールは低下していくことが知られています。つまり高トリグリセリド血症は、低HDLコレステロール血症の憎悪因子になると言えるでしょう。
食事の影響をうけやすかったので軽視されることが多かったのですが、慢性的に高い状態がつづいていると動脈硬化につながりやすいことがいわれています。
脂質異常症(高脂血症)の診断基準は?
2017年度の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、およそ以上のような診断基準となっています。LDLコレステロールが120~139mg/dLの場合は、リスクを総合的に考えて治療を検討していく境界域高コレステロール血症とされています。
ここで注意が必要なのが、これらの値は空腹時の採血結果ということです。空腹時は、食後10~12時間後の状態をいいます。ガイドラインでは、早朝に朝ごはんを食べる前の数値で診断するように記載されています。
一般的に採血される項目は、
- 総コレステロール(TC)
- トリグリセリド(TG)
- 善玉コレステロール(HDL)
の3項目です。最も問題になる悪玉コレステロール(LDL)は採血では測定されず、Friedewald式にて算出されます。この式は、
- TC-HDL-TG/5=LDL
となっています。食後の影響が大きいトリグリセリドの値を使用するため、食後だとLDLの値も誤差が大きくなります。食後ですとTGの数値が大きくなりますので、TCから実際の値以上にマイナスしてしまい。LDLが低い数値で出てきてしまう可能性があります。
ですからこの計算式は、TGが400以下の時のみ使用可能です。400以上の時は、
- TC-HDL=non HDL
といった計算式でnon HDL(善玉コレステロール以外のコレステロール)として病態を見る必要が出てきます。170mg/dL以上を高non HDL血症、150~169mg/dLの場合を境界域non HDL血症といいます。
結論としては、
- 食後だからTGが高いのは当たり前
- 一番問題になるLDLが高くないならいいや
- HDLがしっかりあるから大丈夫
なんて甘い考えは捨ててください。脂質異常症と健康診断で診断されて病院受診をすすめられた方は、もう一度早朝空腹時の採血を調べることをお勧めします。
中性脂肪は食事の影響を大きく受ける
脂質に関係する検査項目のうち、特にトリグリセリドは食後の影響をかなり受けるといわれています。
トリグリセリドは、食事を食べてから30分ぐらいから上昇し始め、食後2~3時間は空腹時の1.5~2倍程度上昇するといわれています。トリグリセリドは、4~6時間後に最も高くなる人が多いです。しかし、
- 体質
- 食べた量
- 食べた内容
によって一概にこれが当てはまると言えません。特に最近、食後の中性脂肪値が空腹時の数倍まで急激に高くなるという食後脂質異常症という病気が問題になっています。とある研究では、食後の中性脂肪の値が高いほど、脳梗塞のリスクも高くなることが分かりました。
ですから中性脂肪が高い場合は、12時間以上の絶食をしっかりと行って再検査が必要になります。一般的には前日の21時以降に食事をとらず、朝食をとらないで午前中に検査を行うことが多いです。絶食といってもお水は大丈夫ですが、糖質のはいった飲料水は控えるようにしましょう。
どのようにコレステロールは変化するの?
脂質異常症についてさらに詳しく知りたい方は、脂質がどのように代謝されているのかを知ってみると良いかもしれません。
脂質を取り込まれた後の代謝の順序ですが、
- 食事をとることで脂質が取り込まれる
- 脂質が分解されTG(トリグリセリド)が上昇
- TGが肝臓に取り込まれる
- 肝臓でLDL(悪玉コレストロール)が作られる
- LDLがコレステロールを体中に回す
- LDLがHDL(善玉コレステロール)に変化
- HDLが余分なコレステロールを回収してまわる
という流れがおおまかな脂質代謝になります。
コレステロールや脂質というと不要なものというイメージがあるかもしれませんが、コレステロールのおおもとである脂質は体にとって大切な物質であるということです。そのため⑤で、LDLが体中にコレステロールを回しているのです。3大栄養素は、
- 脂質
- たんぱく質
- 炭水化物
となっています。脂質は、体にとってとても大切な役割があります。具体的にあげると、
- 細胞膜の構成
- ホルモンの原料
- 胆汁酸の原料
などが挙げられます。細胞膜は、細胞内にばい菌などの有害物質が進入してくるのを防ぎます。細胞膜が弱いということは、免疫力が弱いということになります。
脂質を必要とするホルモンとは、具体的には性ホルモンや副腎皮質ホルモンになります。副腎皮質ホルモンとは、具体的にいうとステロイドです。ステロイドは、代謝や免疫に深く関与しており薬にも多く使用されています。
胆汁酸の原料ですが、胆汁酸は脂肪の消化・吸収に関与しています。つまり①・②として重要なコレステロールを吸収するために、コレステロールが使用されているのです。コレステロールを失うと胆汁酸が失われ、さらに吸収が悪くなってコレステロールが低下するという悪循環に陥ります。
このようにコレステロールは、私たちの体にとって大切な役割をしています。人類の歴史の大部分は飢えとの戦いでしたが、現在は簡単に食事ができるため、大部分の方がコレステロールが過剰となっています。そのため、コレステロールを体内に配る大切な役割のLDLが、悪玉コレステロールといった悪者扱いされているのです。
この脂質の代謝は、もっと細かく分けると外因性経路、内因性経路、コレステロール逆転送系の3つの経路があります。詳しく知りたい方は、以下をお読みください。
外因性経路
食事により外から摂取した脂質(大部分はトリグリセリド)は、胆汁酸や脂肪分解酵素の働きによって小腸で吸収された後、小腸上皮細胞内でカイロミクロンに取り込まれます。
カイロミクロンとして血中に入った後、末梢組織に遊離脂肪酸を配給し、身体の各組織でエネルギー源となったり貯蔵されたりします。余った脂質は肝臓に取り込まれて代謝されます。
内因性経路
肝臓で合成されたトリグリセリドとコレステロールは、リポ蛋白の形態で血中に分泌されます。血中に入ったリポ蛋白はLPL(リポ蛋白リパーゼ)に代謝され、末梢組織に脂肪酸とコレステロールを分配し、その後肝臓に戻って代謝されます。
この過程で、中性脂肪を分解することによって脂肪酸が生成されて、末梢組織に分配されていきます。
VLDL(超低密度リポ蛋白)が遊離脂肪酸を、LDLがコレステロールをそれぞれ末梢組織に配給・分配しています。
コレステロール逆転送系
HDLは末梢組織から過剰なコレステロールを回収し、再分配を行います。コレステロールが減少したHDLは、再び過剰なコレステロールを回収します。
LDLやHDL以外のコレステロール
これまで登場したLDLやHDL以外に、
- LPL
- VLDL
といった言葉がでてきたかと思います。
コレステロールもトリグリセリドもそのままの状態では水に溶けないので、特殊な蛋白質(アポ蛋白と呼ばれている)に付着して血液中を運ばれています。このコレステロールやトリグリセリドとアポ蛋白の複合体を、リポ蛋白といいます。
簡単に説明すると、
- LPL(リポ蛋白リパーゼ)とは、中性脂肪を分解する脂質分解酵素です。リポ蛋白に含まれる中性脂肪を分解し、高密度のリポ蛋白に組成をかえていきます。
- VLDL(超低密度リポ蛋白)とは、50%がトリグリセリド、コレステロールやリン脂質が20%ずつで構成されています。食事中の脂質と炭水化物から肝臓で合成され、血液中に分泌されます。VLDLの役割は、体中にコレステロールを運ぶ船の役割をします。コレステロールを運ぶ際に、徐々にIDL(中間密度リポ蛋白)となります。
ここでまた、新しいIDLという単語がでてきました。せっかくなので、IDLも簡単に説明しましょう。
- IDL(中間密度リポ蛋白)は、40%がトリグリセリド、35%がコレステロールでできます。このIDLは中間になりますので、VLDL→IDL→LDLと切り替わる間のリポ蛋白です。
LDLとは、何回も登場している悪玉コレステロールです。このアポ蛋白をまとめると、
- LPL
- VLDL
- IDL
- LDL
- HDL
など、悪玉や善玉以外にもたくさんのコレステロールが存在しているのです。
まとめ
- 脂質異常症は悪玉コレステロール(LDL)が140以上、善玉コレステロール(HDL)が40以下、トリグリセリド(TG)が150以上で診断されます。
- 脂質異常症は空腹時の採血で診断されます。空腹時は一般的に、12時間以上の絶食状態をいいます。
- 食後の場合は、トリグリセリド(TG)が高くなります。
- 脂質は中性脂肪→LDL→HDLの順に変化しながら体内のコレステロール量を調整します。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:脂質異常症(高脂血症) 投稿日:2020-10-10
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