はじめに
脂質異常症と診断された方の大部分は、「脂質を取る量を減らさなければ」と考えるかと思います。しかし脂質異常症の方は、食事療法だけでなくて運動も意識したほうが良いです。
脂質の摂取量を減らすとともに、脂質を燃やして脂質を使用することも重要になります。そのため適度な運動が大切になります。運動療法は、どの脂質異常症に対しても推奨されている治療になります。
しかし運動療法といっても、
- どんな運動を?
- どれくらい?
- 週に何回?
など様々な疑問点があるかと思います。さらに運動療法は、患者さんによっては禁忌であることもあります。運動を始めるにあたっては、まずは主治医に相談してください。ここでは、脂質異常症の方の運動療法についてみていきたいと思います。
どんな運動がお勧め?
脂質異常症の運動療法にも目を向けてみましょう。運動には、主に2種類の運動があります。
- 有酸素持久運動
- 無酸素運動
の2つです。
それぞれの特徴は、以下のようになります。
- 有酸素運動:酸素を取り入れながら持続的にエネルギーを使用する運動
- 無酸素運動:瞬間的にエネルギーを爆発させる運動
このうち脂質異常症の運動療法で推奨されているのが、①の有酸素持続運動です。
脂質は元々飢餓の時などエネルギーが不足したときに、脂肪を分解してエネルギーとするための貯蔵庫です。そのため貯蔵庫が必要になるように、体の中のエネルギーを不足させないといけません。
そのため瞬間的にダンベルを持ち上げるなどのきつい運動をしても、筋肉内のエネルギーを使用して終わりになってしまいます。筋肉内は疲労物質(乳酸)がたまり「運動をやった」感がでますが、実は脂肪の貯蔵庫はびくともしないのです。
そのため持続的にエネルギーを使用し続けることで、血管内のエネルギーを消費する必要があります。持続的にエネルギーを消費することで徐々に体もエネルギー不足に気がつき、脂肪を燃焼してくれます。
どのような有酸素運動が良いかとされていると、
- 速歩
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
- 社交ダンス
などが挙げられます。歩いたりジョギングしたりというのは、道具も必要ないですしどこでもできるのでお勧めです。
有酸素運動をどれくらい行えばいいの?
次に、どれくらいの強度で何分くらい行えばよいのでしょうか。
基本的に運動量は、
- 運動の強度×運動時間=運動量
となります。ただし先ほど示したように、脂肪を燃焼するには血管内のエネルギーを消費して、体がエネルギー不足に気が付き、脂肪を燃焼しはじめる時間が必要になります。
また、あまりに激しい運動をすると心臓や肺へ負担が強すぎてしまい、逆効果になる可能性もあります。そのため単純に運動量を増やせばよいものではありません。イメージとしては、「適度な運動強度を長い時間行う」形になります。
具体的な運動量ですが、厚生労働省は脂質異常症の対策として、「健康づくりのための運動指針2006」というのを示しています。こちらによると、3METs以上の強度の運動を1日60分、1週間に23エクササイズ以上を目標にするように定めています。
しかしながら実際には、計算通りにはうまくは測れません。ジョギング一つとっても、
- 走るスピード
- 年齢
- 基礎体力
- 体重
- 普段の運動時間
で全然強度が変わってしまいます。そもそも運動するのに、いちいち計算してやろうとするのは難しいかもしれません。そのためお勧めが、脈拍数を一度測定することです。
脈拍は心臓が1分間に何回「ドクン、ドクン」と動いたかという回数になります。正常な方は、1分間に60~100回心臓は脈を打ちます。手首や首に指をあてると脈をふれることができます。気になる人は時計さえあれば自分の脈拍数を測ることができます。
この脈拍数が、110~120回/分がお勧めとされています。脈拍数が110~120回は、最大酸素摂取量50%の強度といわれています。この50%の強度は運動中の血圧上昇が少なく、疲労物質の蓄積も少ないといわれています。
この脈拍数110~120回の運動強度のジョギングや水泳を、最低30分(できれば60分)を週に3回以上するのが理想です。可能であれば、もちろん毎日です。
ただし最も大切なことは、継続できるスケジュールです。正常な人でも、脂肪というのは貯えがあります。脂質異常症の人はこの貯えが非常に沢山ある人で、血中内にあふれ出てきてしまっている状態です。そのため、長い年月をかけて徐々に脂質を燃やす必要があります。
そのため、あくまでも上のは理想論です。大切なことは、30~60分間続けられる有酸素運動を長い年月続けることです。
- 一生懸命走ったけど1週間持たなかった。
- 冬は寒いから外に行きたくない。
- 趣味のサイクリングを日曜日だけ頑張っている
では意味がありません。最低週に2~3回は続けられる有酸素運動をぜひ見つけてみてください。ジムに通って、運動を継続していければ理想です。ジムは運動する施設のため多くのメリットがあります。
- ランニングマシンなどで脈拍を測定することができる。
- プール施設などもある。
- ダンスなどのプログラムで効率的に運動できる。
- 暑い、寒いなど関係なく室内でできる。
- お金を払っているため、モチベーションにつながる。
などがあります。場合によっては、プログラムを一緒に考えてくれるジムもあります。そこまで敷居が高ければ、日常生活の中での運動を増やすようにしてください。一駅分、歩いて帰るようにするなどです。
このように、しっかりとした運動習慣を作ることが理想ではありますが、1日に10分の運動でも身体によい効果があります。10分の運動を毎日意識することで、心血管イベントのリスクが軽減することもわかってきています。ご自身に合った形で、有酸素運動を取り入れていただくだけでも効果的です。
METsとエクササイズ
運動の負荷の重要な要素として、
- METs(メッツ)
- エクササイズ
があります。それぞれについて簡単に説明します。METsとは運動強度を示します。安静に座ってる時を1METSとして定義しています。具体的には、
- 3METs:歩行
- 2.5METs:ゴルフ
- 4METs:自転車や速歩
- 6METs :階段歩行やジョギング
- 7METs:テニス
- 8METs:ランニングや水泳
としています。
そして次に、エクササイズです。これは運動強度のMETsを運動時間で掛け算して運動量を計算したものです。一例をあげると、
- 歩行(3METs)×1時間行った=3エクササイズ
- 自転車(4METs)×30分行った=2エクササイズ
と計算します。
運動療法とあわせて禁煙を
喫煙されている方は、運動療法とあわせて意識していただきたいことがあります。いわれるまでもないかもしれませんが、禁煙になります。タバコはこの機会に、やめていくことを検討していただきたいのです。なぜ脂質異常症を改善しなければならないかというと、動脈硬化症をふせぐためです。
動脈硬化とは、血管が固くなり狭くなることで心臓や脳の血管がつまってしまい、
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
など脳や心臓に致死的なダメージを与えるからです。これらを防ぐために、脂質異常症を改善して動脈硬化を防ぐのです。せっかく運動療法で脂質異常症を改善しても、タバコを吸ってると動脈硬化が加速的に進行します。
喫煙は、
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 高血圧
- 肥満
と並ぶ主要な危険因子として注目されています。禁煙することで、
- 動脈硬化の改善
- 心血管疾患のリスク低下
- 運動能力の上昇
など様々なデータが出ています。さらにタバコを吸い続けること自体で、肺気腫(COPD)が発症するリスクがあります。COPDは、タバコで肺が傷つき穴ぼこだらけになる病気です。肺が傷つくことで、
- 咳
- 痰
- 労作時の息切れ
などが出現します。恐ろしいことはタバコを辞めても一度COPDが発症するともとに戻りません。特に労作時の息切れなどが出現した場合は、COPDは重度なことが多いです。
治療薬でも完全に症状が取ることができずに、少しでも動くと苦しくなります。さらにCOPDの恐ろしい所は、肺にとどまらないことです。肺で起きた炎症が全身に回ることで、色々な病気が併発します。あるデータでは、脂質異常症自体もCOPDで悪化するというデータもあります。
ですから、脂質異常症の治療とあわせて禁煙を意識していただけたらと思います。
※禁煙治療については、『禁煙外来』をお読みください。
高齢者は主治医に相談を
高齢者の方で脂質異常症を指摘されて、張り切って運動しようとしている方もいると思います。しかしその前に、まずは病院で他に病気が無いか見てみる必要があります。
脂質異常症は、生活習慣病のうちの一つと言われています。
- 上体肥満(特に内臓脂肪型肥満)
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高中性脂肪)
そしてこれらの病気は基本的に、「食べ過ぎ、飲みすぎ」の人に多いという共通項目があります。そのため、高齢者で脂質異常症だけある人の方が珍しいです。多くの方が、他の肥満、高血圧、糖尿病含めて病気が隠れている可能性が高いです。
さらに先ほどの喫煙している人には、COPDが隠れていることも多いです。このように高齢者の方は複数病気を持っていることがほとんどです。
そして複数病気を持っている人は、かなり動脈硬化が進んでいる可能性があります。動脈硬化自体が進んでないか病院で調べた方が良いでしょう。動脈硬化が進んでいた人はさらに、心臓の機能が問題ないか調べる必要があります。
高齢者は、一つ病気が起きるとドミノ倒しのように次々と出てきます。そのためまずは病院で状態を調べる必要があります。ときには運動を避ける必要がある場合もあります。例えば糖尿病の方であれば、合併症である網膜症がひどいケースや重度の高血圧がある場合は運動は控えたほうが良いです。
大きな病気が脂質異常症以外なかった方でも、過度な運動に耐えられないことがあります。よくあることとしては、
- 夏場で散歩してたら、水分不足から血管が詰まって脳梗塞で運ばれた。
- 冬の夜にジョギングしたら寒くて血管が収縮した影響で心筋梗塞になった。
- 一生懸命自転車で走っていたら血圧が上昇して、脳の血管が破裂した。
など様々なトラブルが起こりえます。そのため過度な運動は避けるようにして、無理のない運動を続けるようにしてください。
また、高齢者の多くは筋力自体が低下してしまいます。特に脂質異常症などの人は元々運動不足の人が多いため、筋力減少が顕著な人が多いです。そのような方は有酸素運動とともに、軽度の無酸素運動で筋力アップを試してみることが有用といわれています。筋力トレーニングを、筋レジスタンス運動といいます。
軽度の筋力低下の場合は、
- 腹筋
- 背筋
などの筋レジスタンス運動が良いとされていますが、中等度以上の人は、
- 椅子に座って足を上げ下げする。
- ペットボトルに水が入ったものをダンベル代わりに持ち上げる。
など状態に合わせて行います。
運動する際には、くれぐれも無理だけはしないようにしましょう。
まとめ
- 脂質異常症は高LDL、低HDL、高TG血症の3種類があり、どれも運動療法が有用です。
- 運動療法はジョギングや水泳などの有酸素運動が有用です。
- 有酸素運動を脈拍110~120程度の軽めの負荷で、30~60分を目標に行うようにします。
- 喫煙している方は、運動療法前にまず禁煙しましょう。
- 高齢者の方は、運動療法の前にまずは病院で他に病気がないか調べてもらいましょう。場合によっては運動療法自体がリスクのこともあります。
- 高齢者の方で筋力自体が低下している方は、筋力アップのトレーニングも取り入れることでより運動療法の効果がでます。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:脂質異常症(高脂血症) 投稿日:2020-10-11
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