インフルエンザとは?
インフルエンザにかかってしまったことがある方は非常に多いかと思います。毎年冬が近づくと話題となるインフルエンザですが、流行する年にもよりますが、年間1千万人が感染するといわれています。
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスに感染することで急激な発熱とともに、咳をはじめとした多彩な症状が認められる病気です。
インフルエンザウィルスは主に、11月から5月までの寒い時期を中心に流行することが多いです。抗原性の違いでA、B、C型の3つの型に分類されていますが、一般的にはA型とB型の2つが猛威をふるいます。C型は感染力が弱いため、あまり問題となりません。
インフルエンザウイルスは、毎年流行するタイプが異なります。これは、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種類のウイルス表面のたんぱく質の違いがあるためです。
とくにインフルエンザA型は、HAが16種類、NAが9種類もあります。このため、実に144種類(16×9)もの組み合わせがあります。一方でインフルエンザB型はHA、NAは1種類ずつのみです。そのため、かつて猛威をふるった
- ソ連型
- スペインかぜ
- 香港かぜ
- アジアかぜ
- 2009年の新型インフルエンザ
- 鳥インフルエンザ
などのインフルエンザは、だいたいがインフルエンザA型になります。
インフルエンザ予防接種は、流行するタイプを予測してつくられています。予測が当たれば予防効果は期待できますが、流行していないタイプの感染も毎年認められます。このため、手洗いなどの感染予防に努めることが大切です。
インフルエンザの感染経路と予防
インフルエンザウィルスの感染経路についてみていきましょう。
よくインフルエンザについて誤解されているのですが、そもそもインフルエンザなどのウイルスとは、空気中にフワフワしているようなものではないです。
ウイルスは、我々人間をはじめとした動物の細胞の中でなければ増殖することができません。動物の細胞に入った状態で自分のコピーを作り、外に飛び出して他の細胞を探し求めていくのです。
そのためインフルエンザウィルスは、主に動物の細胞の中で生き延びているのです。このインフルエンザが他の人に移る方法として、
- 飛沫感染
- 接触感染
の2つが挙げられます。
飛沫感染とは、既にインフルエンザに感染している人の咳、クシャミなどによって、つばや鼻水などの飛沫が原因となる感染です。飛んでしまった飛沫に含まれているインフルエンザウイルスにより、まわりの人が鼻や口から吸い込むことでウイルスを体内に取り込んでしまって感染してしまいます。
接触感染とは、インフルエンザに感染している人が咳を手で押さえたり、鼻水を拭いた際に、手にウィルスがついた状態で人と接触することで感染してしまいます。人と人が直接接触していなくても、その手でドアノブやタオルに触れるとウイルスが付着してしまいます。そのドアノブやタオルに触れた人が、その手で自分の身体を触ったり食事をしたりすると、ウイルスが体内に侵入してしまいます。
このようにインフルエンザは飛沫以外にも接触感染もあることから、
- インフルエンザの人の側にいなければ大丈夫
- マスクさえしていれば人に移すことはない
と思ってる人は注意が必要です。
感染予防のためにも、他人に移さないためにも、とくに手洗いを行うことが大切です。マスクは咳が出ている方が人に移さない目的で使うもので、感染予防の目的ではマスクの効果はうすいです。
インフルエンザは例年、冬の時期に流行するかと思います。流行が前後することはありますが、11月~12月にかけて流行が始まることが多いです。インフルエンザの流行には、寒さと乾燥が関係していると多くの方が感じていると思います。
実のところ熱帯では、インフルエンザは一年中認められます。高温多湿な環境もインフルエンザは好むらしいということがわかっています。
このため毎年インフルエンザワクチンは、先に流行する熱帯地方の流行をみて予測をたてています。
インフルエンザと風邪の症状の違い
インフルエンザの症状としては、
- 高熱(38度以上の発熱)
- 体の節々の痛み(関節痛や筋肉痛)
- 倦怠感 (だるさや悪寒、寒気)
- 頭痛
- 吐き気
- のどの痛み
- 咳、痰、くしゃみ
これらがあげられます。
これらの症状は風邪でも起こるため、ただの風邪だろうと放っておいたらインフルエンザだった…ということは多々あります。風邪とインフルエンザの違いとしては、
- インフルエンザは急激に発症する
- インフルエンザは38度以上の発熱が認められる
- インフルエンザは全身に様々な症状を呈しやすい
などが挙げられます。特に①の「症状が急激に発症する」というのは非常に特徴的です。
実は風邪も、ウィルスが9割の原因といわれています。
- ライノウイルス
- コロナウイルス
- エンテロウイルス
- エコーウイルス
- コクサッキーウイルス
- アデノウイルス
- パラインフルエンザウイルス
これらの様々なウイルスが原因になるのです。
つまりインフルエンザも風邪も、同じウィルスが感染することが原因なのです。ウィルスの中でも特にインフルエンザが注目を集めているのは、その感染力の強さにあります。インフルエンザは他のウィルスと比べて、
- 体内に感染した時の爆発的な増加スピード
- 周りへの感染力の強さ
が他のウィルスと比べて強いことから、予防接種を行うほどに注意がなされるのです。このことから、インフルエンザは症状が急激に発症するという特徴があります。
しかしながら
- 高齢者の方や乳幼児など免疫力が低下している方
- 普段から痛み止めなどを飲んでる方
- 持病で免疫力が低下している方
の場合は、
- 熱があまり出ない
- 症状も徐々に発症する
- 重症感があまりない
のような症状でも、インフルエンザだったということが度々あります。
30代の方で熱があまり高くない方でも、「平熱が低いからためインフルエンザかどうか調べてほしい」というご希望があったので検査したところ、インフルエンザ陽性であったことも経験しています。
このことから、症状だけでインフルエンザを完全に除外することは難しいと言わざるを得ません。あくまで傾向と考えてください。
インフルエンザで注意すべき合併症
インフルエンザは非常に感染力が強いことから、時には命の危険にさらすこともあります。インフルエンザに感染して、年間で1万人近い方が命を落としたと報告があります。
特に気を付けなければならない合併症が、
- 肺炎
- インフルエンザ脳症
の2つです。
インフルエンザは冬に大流行する病気である一方で、重症化すると命に係わる非常に危険な病気でもあります。この2つの合併症についてご説明していきます。
肺炎
まず肺炎ですが、インフルエンザウイルスが感染して気道や肺に炎症がおこると、その表面の細胞が壊れて防御機能が弱まってしまいます。
すると、インフルエンザウィルス自体で肺炎が起こるだけでなく、肺炎をおこす細菌に二次感染する危険性が高まります。
インフルエンザの場合は症状が激しいため、他の風邪以上に肺炎を合併しやすいです。特に
- 高齢者
- 喘息やCOPD(肺気腫)など呼吸器疾患がある方
- 糖尿病などで免疫力が低下している方
などで起こりやすいので注意が必要です。
肺炎を合併すると、重症化して死に至ることもあります。詳しく知りたい方は、「肺炎」のページをお読みください。
インフルエンザ脳症
次にインフルエンザ脳症です。インフルエンザ脳症は、12歳以下の小児、特に1~5歳の幼児におこりやすい合併症です。
発症は急激で、発熱後数時間から1日以内に
- けいれん
- 意識障害
- 異常行動
- 頭痛
といった神経症状が急激に進行します。そして、全身状態が悪化して多臓器不全となり、死に至ることもある合併症です。
インフルエンザに限らず高熱によってこのような症状をおこすこともあるので、そのすべてがインフルエンザ脳症によるものというわけではありません。
またインフルエンザ脳症は、解熱剤との関連が示唆されています。特にロキソニンなどのNSAIDsと呼ばれる解熱薬が疑われているため、注意が必要です。
インフルエンザの検査
インフルエンザの検査は、一度は経験されたことがある方が多いかと思います。鼻に綿棒を入れる検査で痛い記憶が残っている方も少なくないかと思います。
ここでは、インフルエンザの検査についてお伝えしていきます。
インフルエンザの検査を行う時期
まずインフルエンザの検査を行うかどうかは、時期が非常に重要となってきます。流行していない時期に測定しても、検査の精度も落ちてしまいます。
東京都感染症情報センターの統計をみてみましょう。
週で示されているので少しわかりづらいのですが、
- 第40週=10月初旬
- 第45週=11月中旬
- 第49週=12月初旬
- 第1週=1月初旬
- 第9週=2月下旬
- 第13週=4月上旬
となります。
イメージとしては11月中旬から年末年始あたりに流行しだし、1月か3月頃の間に徐々に減ってくるといったところでしょう。
インフルエンザを疑うときは、流行時期かどうかが非常になります。夏なのか冬なのかで、医師はインフルエンザを鑑別に挙げるかどうか変わります。
夏でも絶対ないわけではないので頭の片隅に置いておきますが、流行している冬の場合はインフルエンザをまず疑うことになります。
インフルエンザの検査方法
インフルエンザを検査する場合、簡易キットによる迅速診断を、当院含めて多くのクリニックでは採用しています。迅速診断法のやり方についてご説明しましょう。
まず、患者さんの鼻から粘液を採取します。インフルエンザであれば、そこにインフルエンザウイルスが含まれているはずです。
その採取した粘液を判定キットの判定部に滴下します。インフルエンザ抗体との反応によって、陽性であれば判定ラインに色のついた線が浮き出る仕組みになっています。
これにより、5~15分程度で結果がわかるので、すぐにインフルエンザかどうか確認することができます。
インフルエンザの検査費用は、検査自体で150点+検査判断料144点=294点=2,940円になります。ですから自己負担が3割の方では、882円となります。
インフルエンザ検査に関する疑問
インフルエンザの検査についてですが、
- インフルエンザの綿棒は痛いからやりたくない。
- インフルエンザの検査は発熱後すぐに検査しても意味がないと聞いたからやりたくない。
- インフルエンザが流行しているのなら検査しないでインフルエンザの治療薬だけほしい。
といったご要望をいただくことが少なくありません。
現在の検査方法では、従来よりも痛みが軽減しています。また、発熱後3時間以内でも検出できるキットも発売されています。そしてインフルエンザと診断することは、治療していく上ではとても重要になります。
それぞれのご要望に対する詳しいお答えは、「インフルエンザ迅速検査」のページをご覧ください。
インフルエンザ治療について
インフルエンザと診断された方は、どのような治療を行っていくのでしょうか。まず、一般的なインフルエンザの治療についてまとめていきたいと思います。
インフルエンザの治療で大切なことは、
- 現時点ではインフルエンザウイルス自体を退治するお薬は流通していない
ということです。
現在主流のインフルエンザの治療薬は、ノイラミニダーゼ阻害薬といわれています。ノイラミニターゼ(NA)とは、インフルエンザウイルスの表面にある糖蛋白で、細胞からウイルスが飛び出していく際に必要となります。この働きを邪魔するので、インフルエンザを退治するのではなく、細胞外に広がるのを防ぐのが主な治療になります。
そして2018年に新薬のゾフルーザが発売されましたが、こちらはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬といわれています。細胞内でのウイルスの増殖を抑制するお薬になりますが、ウイルス自体を直接やつけることはできません。
ですから、すでにインフルエンザウィルスが体内の細胞外に広がった後にインフルエンザ治療薬を開始しても、治療上の意味は薄れてしまいます。
ですからインフルエンザ治療は、「早期発見・早期治療」が大原則になります。発熱後48時間後に投与しても、インフルエンザウイルスが増殖してしまった後ですので効果が落ちてしまいます。ですからインフルエンザ簡易キットが陰性でも、流行時期や症状によっては、治療を開始することがあります。
ノイラミニターゼ阻害薬(タミフル・リレンザ・イナビル・ラピアクタ)
ノイラミニダーゼ阻害薬は、2020年の時点では4剤発売されています。
- タミフル(飲み薬)
- リレンザ(吸入薬)
- イナビル(吸入薬)
- ラピアクタ(点滴薬)
となります。
これら4剤の違いについて、下記の表にまとめてみました。
治療効果という面で比較すると、4剤とも同じになります。A型、B型それぞれのタイプでも効果に差はありません。
よくラピアクタが点滴で投与されるため、効果が高いと考えている人がいますが、実際は点滴、吸入、飲み薬どれも効果は同じです。
一方でインフルエンザウイルスの中には、タミフルが効かないなど、特定の薬に耐性を持つ場合もあります。このようにタミフル耐性のインフルエンザウイルスにはこのお薬がよいということはありますが、インフルエンザの診断の際にタミフル耐性かどうかを調べることは、特殊な医療機関でしか行いません。
そのためクリニックでも総合病院でも、基本的には簡易検査キットでA型・B型のみの診断になります。薬に耐性があるかどうか調べられる簡易キットも開発中とのことで、耐性ウイルスの報告が増えれば当院でも導入を検討したいと考えています。
現状ではインフルエンザの治療は、「どの薬を選択するか」よりも、「どれだけ早く投与するか」が重要になります。
投与方法以外にもう一つ特徴的なのが投与回数です。
タミフル・リレンザは1日2回を5日間、つまり計10回投与するのに対して、イナビルは1回に2吸入(成人の場合)投与すれば治療が完了します。ちなみにこれはイナビルの効果が強いわけではなく、持続時間が長いためです。
イナビルの主成分であるラニナミビルは、最高血中濃度到達時間が4時間、半減期(半分の濃度になるまでの時間)が70時間程度です。イナビルは一度吸入すると血中濃度が半分になるまでに3日ほどかかるので、一回の吸入で十分に効果が持続するのです。
インフルエンザ新薬のゾフルーザ
インフルエンザ治療の新薬として、ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)が2018年3月に発売となりました。
ゾフルーザは従来のインフルエンザ治療薬であるノイラミニターゼ阻害薬とは異なる作用メカニズムで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制します。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬というメカニズムをとっています。
ゾフルーザはプロドラックと呼ばれていて、服用すると体内のエステラーゼによって分解されて、効果を発揮する活性体にかわります。この活性体が、インフルエンザウイルスのタンパク質を作るメッセンジャーRNA合成のジャマをします。その結果としてインフルエンザウイルスが増殖できなくなり、感染した親ウイルス自体も、次第に細胞から消失していきます。
このゾフルーザが画期的なのは、ウイルスが外に出ていくのを抑えるのではなくて、中で増殖することを抑えてくれる点です。従来のタミフルでは、細胞に感染したウイルス自体がなくなるまで薬を服用続ける必要がありましたが、ゾフルーザは錠剤を1回服用するだけで治療が可能です。
実際にタミフルとゾフルーザを比較した研究でも、症状が出ている期間は同程度でしたが、ウイルス排出停止までの時間はゾフルーザのほうが早いという結果がでています。(中央値ゾフルーザで24時間、タミフルで72時間)
つまり本人の症状は従来のインフルエンザ治療薬と大差ありませんが、周囲への感染を広がりにくくすることがわかります。このためゾフルーザは画期的な医薬品として注目を集めて、厚労省が2015年に創設した先駆け審査指定制度に基づいて、短期間で承認された新薬になります。
しかしながらゾフルーザには、ウイルスの耐性化(効果がなくなってしまうこと)のスピードが早いことが問題となっています。発売当初から懸念されていたことですが、1年目にしてA型(H1N1)にて1.7%、A型(H3N2)で9.5%の報告が国立感染症研究所からなされました。とくに子供での耐性化が多いという報告もあり、
「12歳未満にはゾフルーザの投与を推奨しない」
との提言が学会よりなされています。
ゾフルーザには以下のようなメリットがあります。
- 1回の錠剤服用で治療ができる
- 子供でも使うことができる
- インフルエンザA型・B型にも効果が期待できる
- 鳥や豚などのインフルエンザウイルスにも効果が期待できる
人だけでなく家畜にも効果が期待できることから、感染予防のための殺処分なども防げる可能性もあります。また、新型インフルエンザなどの備えにも期待されています。
デメリットとしては、
- 薬価が少し高い
- 新しい薬なので、副作用などのデータが乏しい
- 耐性ウイルスが出現しやすい
といったことが挙げられます。後述する異常行動などの副作用報告は、現在のところはありません。
ゾフルーザの用法は、1回だけ錠剤を内服する形になります。用量は、年齢と体重によって以下のようになります。
【12歳以上】
- 40mg
- 80kg以上では80mg
【12歳未満】
- 40kg~:40mg
- 20kg~40kg:20mg
- ~20kg:10mg
剤形と薬価については、
- 10mg錠:1507.5円
- 20mg錠:2395.5円
となっています。成人の方であれば40mgで4791円になりますので、3割負担で1437円となります。ノイラミニターゼ阻害薬と比べると少し高くなります。
お子さんの場合は、オレンジジュースやぶどうジュース、りんごジュースなどと一緒に服用しても大丈夫です。アイスやヨーグルト、プリンなどと一緒に服用しても問題ありません。
副作用で異常行動?インフルエンザ治療薬の副作用
効果や投与方法と共に、もう一つ気になるのが副作用です。いずれのお薬も副作用は下痢や嘔気などの腹部症状が多いですが、これもどのお薬が多いといったことはありません。
そもそも副作用の頻度はそこまで多くはなく、どれも1~5%程度です。これに加えてインフルエンザB型ではそもそも消化器症状が多いことから、インフルエンザの症状か薬の副作用か判別は難しいところです。ですから、どの薬も過度に心配する必要はないと思います。
インフルエンザ治療薬の副作用で異常行動を引き起こしたというニュースをご記憶されている方もいらっしゃるかと思います。タミフルのみにはなりますが、10代の患者さんには飛び降り等の異常行動が問題視されて、基本的に使用しない旨が添付文書にも記載されています。
しかしタミフルでなぜこのような副作用が出たかは、現在でもわかっていません。そもそも薬のせいか、インフルエンザによるものかも判別されていないです。インフルエンザが重症化したインフルエンザ脳症でも、こういった異常行動が認められることがあります。
実際に厚生労働省が調べたところ、異常行動を認めた患者さんは、
- タミフル投与群で11%(840/7438例)
- タミフルを投与していなかった群は13%(286/2228例)
となっています。ですから、タミフルを加えて異常行動が多いと証明はできなかったということになります。
これら4剤の特徴を踏まえて、年代別にどのようなお薬が使われているか確認してみましょう。
まず9歳までの小児の場合は、タミフルが第一選択肢になります。
タミフルは唯一の内服薬のため、お子さんには非常に使用しやすいお薬となっています。リレンザやイナビルは吸入がしっかりとできないと効果が出ないため、お子さんには不向きです。特にタミフルはドライシロップもあるため、0~4歳児に非常に使用しやすいお薬となっています。
一方で10~19歳の場合は、タミフルの使用は激減します。先ほど記載した10代の異常行動が添付文章に記載されているためです。因果関係は不明ですが、添付文章にタミフルのみ記載されているため、イナビルやリレンザが使われることが多くなります。
20~59歳の場合は、タミフルとイナビルの二つが多いです。ただしタミフルが2001年に発売されたのに対して、イナビルは2010年発売になります。つまりタミフルの方がまだ使用頻度は多いものの、徐々にイナビルの方が多くなっているというのが実情です。これはタミフルが5日間毎日投与しなければならないのに対して、イナビルは1日で治療が終わることが大きいです。
高齢者になると、この2剤に加えてラピアクタが選択されます。高齢者の場合はインフルエンザが重症化すると入院になることも多いため、他の点滴と一緒にラピアクタが投与されることがあるためです。
ゾフルーザが発売となりましたが、異常行動についてはメカニズムもはっきりしておらず、ノイラミニターゼ阻害薬と同様に注意する必要があります。タミフルと同じように錠剤であり1回の服用で済むので、お子さんに処方されることも多くなることが予想されます。
当院でのインフルエンザ治療薬の選び方
当院でも一般的な流れに準じて処方します。当院は点滴も可能なため、ラピアクタ含めて5剤から選択可能です。個々の患者様に適した処方を心がけています。
成人の方の第一選択肢としては、イナビルかゾフルーザになることが多いかと思います。どちらも1回で投与終了なため、何回も飲んだり吸ったりする必要がないというメリットが大きいです。
吸入薬の場合は、
- 咳込みが多い
- 吸入薬が苦手
- 吸入力や認知力低下で吸入薬が難しい高齢者
といったことがありますので、そういった場合は薬価は高くなりますが、ゾフルーザの処方を検討します。
私たち患者様ごとにベストな治療をするように心がけていますが、常にベストな治療を選択するのは非常に難しいことでもあります。
- 吸入薬はちゃんと吸えるか心配。
- 内服薬の方が確実に治療できてる気がして安心。
- 前に薬の副作用が出た。
などの希望がございましたら、処方を柔軟に変更させていただきます。
またインフルエンザの治療薬は症状を早く治すために処方しますが、症状自体をとるものではありません。特にインフルエンザの発熱に対しては、一般的に良く使用されている解熱剤(ロキソニンなどのNSAIDs)はインフルエンザ脳症のリスクを高めるために避けられています。
当院では、インフルエンザの発熱に対して安全性の高いカロナール(アセトアミノフェン)をインフルエンザ薬と一緒に処方します。
このほか症状に応じて臨機応変に対応しますので、発熱以外のつらい症状は医師に伝えてください。
インフルエンザ治療薬でも熱が下がらない場合は?
「やっとの思いで病院で処方してもらったインフルエンザ治療が全然効かない!」そんな人のために、薬を使っても熱が下がらないケースについても説明したいと思います。
大切なのは、「熱」は必ずしも悪いものではないということです。熱が出ているということは、インフルエンザを退治するために体が頑張っているということなのです。そもそも、どうしてインフルエンザにかかると熱が上がるのかを順番に理解してみましょう。
- インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、白血球やマクロファージなどの免疫細胞がインフルエンザウイルスを細胞に取り込みます。
- この際に取り囲んだ細胞が、サイトカインという発熱を促す物質を放出します。
- サイトカインが脳に行くことで、体内にインフルエンザウイルスが侵入したことを体が感知します。
- 脳の視床下部の体温調節中枢が、体温を上げます。
この順序で熱は上がります。
インフルエンザウイルスが体内に侵入した事がきっかけですが、私たち自身の体が熱を上げているのです。ではなぜ、熱を上げるのでしょうか?以下の3つの理由が挙げられます。
- 発熱でインフルエンザウィルスを退治する
- 発熱により免疫細胞がさらに活性化する
- 発熱で私たち自身が病気になったと自覚する
ウィルスの多くは熱に弱い特徴があります。インフルエンザも熱に弱いため、体温が上昇することで退治することができます。
また熱自体は、体のエネルギーに変換されます。エネルギーが作られることで、インフルエンザウイルスと戦う白血球などの免疫細胞の活動がさらに高まります。化学の実験でも高温になるほど反応が活発になったかと思いますが、熱は免疫活動を活発にしてくれるのです。
さらに発熱が出ることで、私達自身が病気になったと気づくことができるということも大切です。熱以外にも、関節痛や筋肉痛、気持ち悪い、寒気がするなどの症状もサイトカインの働きです。これらの症状は辛いですが、辛いからこそ病気になったと気づくことができます。
病気の一番の治療は薬ではなく、安静に体を休めることです。熱が出てだるくなることで、無理ができずに身体を休めることができます。「熱が高くなっているのは、インフルエンザを頑張って退治してるんだ!」と考えてみるとどうでしょう。
発熱の仕組みに加えて、先ほど記載したインフルエンザ治療薬の仕組みが非常に重要になります。インフルエンザ治療薬はインフルエンザをやっつけるわけではなく、増殖を抑えるにとどまります。
つまり体内に入ったインフルエンザウィルスは、自分の免疫でやっつける必要があります。そのためインフルエンザ治療薬は、どれを選択してもすぐに熱が下がるということはありません。
実際の臨床試験でも、イナビル40mg吸入した人(334人)とタミフル75mgを1日2回で5日間飲んでいた人(336人)を比較したところ、どちらも3日(約73時間)ほどでよくなりました。
つまりどの治療薬でも、ある程度の日数を要することになります。ちなみにここで示した3日というのは、あくまで平均の日数です。これよりも早く熱が下がる人もいれば、3日以上続く人もいます。
大切なことは、インフルエンザが退治されるまでは体内の免疫細胞に頑張ってもらうしかないということです。そのためには、熱が出てくるのは仕方がないのです。
しかしながら熱はつらい症状のため、カロナールなどの解熱剤も一緒に処方します。熱を下げたからといってインフルエンザの治りが遅くなる…というデータはありません。そしてお薬を使って一時的に熱を下げたとしても、インフルエンザが治ったわけではありません。熱さましを飲んで楽になったからといって、仕事や学校には行かないようにしましょう。
もう一つ熱に関して多い質問が、どのくらい熱が続いたら病院に再び受診したほうが良いかということです。これには正解はありませんが、先ほど記載したようにインフルエンザでは3日程度で解熱することが目安になります。
1~2日で熱が下がらないのは一般的なことなので、そこまで慌てなくても大丈夫です。5~7日程度熱が下がらないとなったら、他の病気の可能性を考える必要があります。具体的には、
- インフルエンザの治療が不十分だった(治療薬がうまく吸入できなかったり、飲んだ後吐いてしました、治療薬に耐性のインフルエンザ等を考えます。)
- インフルエンザ以外の感染の可能性(インフルエンザにかかって免疫が落ちた時に、他の病気が発症したことを考えます。またインフルエンザ以外に、最初から感染していた可能性もあります。)
- 感染症以外の発熱の可能性(患者さんによっては、もともと発熱がしやすい病気をもっている人もいます。感染ではなく原疾患が悪くなった可能性、もしくは今回の発熱をきっかけに病気が発症した可能性があります。)
多くの場合は、まず①・②の可能性を考えます。特に②の免疫が落ちたときに他の病気が合併することを、2次感染といいます。非常に重篤化しやすいため、注意が必要です。③は患者さんの背景やその時の状態によって考慮していきます。
ただしここに書いたことは、状態が変わらなかった場合の話です。状態が受診時よりも悪くなった場合は、全く別のことを考えなければなりません。
意識がもうろうとするようなことがあれば、インフルエンザ脳症の可能性があります。咳や痰が出てきて息が苦しいとなったら、肺炎が合併している可能性があります。熱だけではなくて他の症状が出現したら、すぐに病院で相談してください。
インフルエンザで学校や仕事はいつまで休めばよいのか
インフルエンザは自分だけでなく、他の人に移る病気です。インフルエンザウイルスの排出期間は、だいたい発熱の1日前から、症状出てから5~7日までと考えられています。
特に発熱してから5日間は他の人に移りやすいことが、様々なデータから証明されています。そしてインフルエンザB型で特に多いのですが、一度熱が下がった後に再び発熱することも少なくありません。(二峰性発熱)
一方でインフルエンザは、解熱(37度以下)してから2日後くらいに体内からほぼ消失していることが、多くの研究でわかっています。
以上のことからインフルエンザは、学校保健安全法で第2種感染症に定められていて、診断された場合は休むことを義務付けています。
具体的に休む期間ですが、
- 学校:発熱後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過してから
- 幼稚園や保育園:発熱後5日を経過し、かつ解熱後3日を経過してから
となっています。注意が必要なのは、最低5日間は休む必要があるということです。翌日解熱したからといって、3日後に出席は認められていません。これは先ほど記載したように、5日間は解熱したとしても他の人に移りやすいことが証明されているからです。
一方で職場の場合は事情が複雑です。新型インフルエンザや鳥インフルエンザなどを除くと、学校保健安全法のように法律で休む期間が規定されていないため、会社ごとに規定が異なります。
一般的には学校保健安全法に準じて、発熱したあとの5日間は絶対で、熱が続く場合は解熱してから2日経過するまでは出勤自粛が原則になります。あくまで出勤自粛になり、法定な拘束力があるわけではありません。有給を使って休まざるをえないというのが現状です。
一方で、
- 大切なテスト期間だから、テストを受けたい
- 会社で大事な会議があるから、休むわけにはいかない
- せっかくの旅行なのにキャンセルしたくない
など、様々な事情があるかと思います。患者様によっては通常より早く動きたいので、解熱後すぐにインフルエンザの検査をして陰性であれば大丈夫ではないかと考えられる方もいらっしゃいます。
しかしインフルエンザキットで陰性だからといって、他の人に移さない状態とはいえません。インフルエンザキット陰性=完全にインフルエンザウィルスが消滅した…とは言えないのです。お気持ちは察しますが、インフルエンザは他の人に移すリスクがあるため、必ず必要期間は休みましょう。
またインフルエンザの検査キットは正確に検査できるとはいえ、100%ではありません。症状によってはインフルエンザ検査が陰性でも、流行時期や症状でインフルエンザに準じて治療する場合があります。その場合はインフルエンザが極めて疑わしい状態ですので、たとえ検査が陰性でも上記の期間まで休むようにしてください。
当院では必要であれば、インフルエンザ証明書を当日発行いたします。
- A型かB型か
- インフルエンザの治療期間
を含めて記載しますので、証明書が必要な方は、インフルエンザと診断された時点で医師にお伝えください。
インフルエンザ治療薬の予防投与
インフルエンザ治療薬は、ウイルスが広がっていくのを防ぐ働きがあります。
このためインフルエンザにかかってしまったリスクが高い方は、予防投与をすることで症状を抑え込めることがあります。
それぞれの薬剤の用法としては、以下のようになります。
- タミフル:75mgを10日間内服
- リレンザ:10mgを10日間吸入
- イナビル:1キットを2日間吸入
同じ吸入を行うならば10回よりも2回が好まれることが多いため、リレンザはあまり使われません。新薬のゾフルーザは、まだ予防効果は示されておらずに適応ではありません。
お薬の添付文章では、インフルエンザ患者さんと同じ空間で生活する方で、
- 高齢者(65 歳以上)
- 慢性呼吸器又は慢性心疾患
- 代謝性疾患(糖尿病など)
- 腎機能障害
の場合に対象となっています。
しかしながら「治療」ではなく「予防」ですから、健康保険の適応ではなく自費診療になります。例えば医療機関であれば、濃厚接触したスタッフは予防投与を行ったりすることもあります。
ですからインフルエンザ治療薬の予防投与は、添付文章に書かれている病気の方だけに限られているわけではありません。気になる方は予防投与が可能かどうか、医師に相談してみてください。
インフルエンザの2019/2020年度の流行状況
インフルエンザの流行状況をみていきましょう。
2019年~2020年度での東京都でのインフルエンザの流行状況をご紹介します。東京都感染症情報センターの統計によれば、
このようになっています。(2020年5月10日(第9週)時点)
2019年度は、第49週(12月上旬)にしてインフルエンザの流行シーズンとなりました。
2019~2020年度の特徴としては、A型インフルエンザの流行の立ち上がりが早かったことです。12月中に感染者が増加し、例年よりも3週間ほど早い印象でした。しかしながら2020年度に入ってからは落ち着きを見せており、A型インフルエンザの流行は収束に向かいました。
2020年度に入ると、新型コロナウイルス感染症の脅威が徐々に高まってまいりました。その中で、
- 手洗いをはじめとした感染予防
- 咳が出ている方はマスクを着用
といった感染防御の基本についての世間の関心が高まり、インフルエンザがそこまで広まなかったことが挙げられます。またインフルエンザ迅速検査自体が、検査者のエアロゾル感染を誘発しかねないために、2月中旬ごろより行わないようになっていきました。臨床的な症状をもとに診断することが、医師会でも推奨されていました。
緊急事態宣言がなされる中で、病院に通院される患者さんも減少したため、統計では大幅な減少が認められたと考えられます。
インフルエンザの2017/2018年度の流行状況
2017年度は、第47週にしてインフルエンザの流行シーズンとなりました。2014年度と2016年度は流行のピークが早かったのですが、同様に流行開始は早かったです。
2017~2018年度の特徴として、例年は2~3月ごろから流行することが多いB型が早くから流行ったことです。そこにA型の流行が重なって、近年で最もインフルエンザが流行したシーズンとなりました。
同時に流行していることで、インフルエンザAとBの混合感染のリスクも高いシーズンでした。
第4週をピークに、インフルエンザの患者さんは減少に向かいました。B型の流行が早まったことで、例年よりも早くインフルエンザは収束に向かい、前年よりも感染は長引きませんでした。
インフルエンザの2018/2019年度の流行状況
2018年度は、第49週(12月上旬)にしてインフルエンザの流行シーズンとなりました。例年通りの流行といえます。
2018~2019年度の特徴としては、A型インフルエンザが大流行し、近年でも最大の流行となりました。患者さんは12月末から1月にかけて急激に増加し、2月にはいって暫くすると、急激に落ち着きました。
例年はB型インフルエンザが2~3月にかけて増えてくるのですが、あまり認められませんでした。早めにインフルエンザが落ち着いたと思いきや、14週ごろからB型インフルエンザが一時的に増えましたが、すぐに収束していきいました。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:インフルエンザ 投稿日:2019-05-11
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