ヒスタグロビン注射とは?
「花粉症・注射薬」とインターネットで検索すると、ステロイドと減感作療法が並ぶと思います。しかしステロイド注射は保険適用外ですし、減感作療法は効果が出るのに数年かかります。
どれも二の足を踏んでしまう人も多いかもしれません。そのような方に当院でも実施しているのが、ヒスタグロビン皮下注射です。ヒスタグロビン注射は、花粉症のアレルギー性鼻炎にも保険適用がある注射です。ヒスタグロビンは国内献血由来の血液を原料とする、特定生物由来製品(生物製剤)に分類されます。
ヒスタグロビンは、非特異的減感作療法と呼ばれています。これは特定のアレルギー原因物質に対して感受性を低下させる「特異的減感作療法」とは異なり、全てのアレルギー物質に対して効果が期待できる治療になります。ですから花粉症だけでなく、アトピーの患者さんなどにも行うことがあります。
ヒスタグロビンは1967年から発売されている非常に歴史のある注射薬になります。ここでは、ヒスタグロビン注射の効果や副作用についてお伝えしていきたいと思います。
ヒスタグロビンとは?
ヒスタグロビンは、ヒスタミンと免疫グロブリンを合わせたお薬なので、「ヒスタ+グロビン」といいます。
人の献血で採取された血液のうち、γグロブリンという免疫に関与する細胞を集めます。これらを免疫グロブリンといいますが、これにはヒスタミンの働きを抑える作用があります。この免疫グロブリンにヒスタミンを加えると、抗ヒスタミン作用はさらに強まります。
このヒスタグロビン注射は特定のアレルギー物質に対して反応するのではなく、全てのアレルギー物質に反応します。そのため、スギ花粉以外が原因の人にも効果を発揮する治療です。複数のアレルギー物質がある人では、ヒスタグロビンでアレルギー反応を抑えることは効果的です。
人の血液と聞くとやや抵抗があるかもしれません。日本国内で献血されたものに限定していますし、感染症がある人の血液はまず使用していません。さらにヒスタグロビンは製造過程において、危険な細菌、ウィルスなどの排除が十分なされています。
ただし現在の技術でも、ヒトパルボウイルスB19だけは完全に除去するのが困難とされています。このウィルスは普通の人にはほぼ害がないウィルスですが、免疫が弱った人には悪さをする可能性があるので注意が必要です。
ヒスタグロビン注射が向いてる人は?
ヒスタグロビンがどのような方に向いているのか、考えていきましょう。
抗ヒスタミン薬を内服して花粉症を十分にコントロールできる人は、あえてヒスタグロビン注射を打つ必要性はありません。花粉症の症状がきつい中等度以上の人がヒスタグロビン注射の対象になります。
ヒスタグロビン注射は、週に1回から2回受診する必要があります。これを3週間続けることで、初めて効果が期待できます。3週間注射ができない方は効果が不十分となってしまうため、毎週通院して注射が可能な方が対象になります。
また月経直前、月経中や妊婦の方は避けるべきとされています。これは一時的に、アレルギー症状が強まってしまうことがあるためです。3週間生理が来ない時期と注射の時期を合わせるのは難しいかもしれません。そのため男性のほうが、ヒスタグロビン注射は向いていると考えられます。
ヒスタグロビン注射の適応は
ヒスタグロビン注射は、ヒスタミンの抗体を体に入れてヒスタミンが関与する病気の悪化を防ぐお薬です。花粉症はヒスタミンが鼻や目に作用して、鼻水や目のかゆみが出現します。ヒスタミンが花粉症で大量に出てくると、ヒスタグロビンがヒスタミンにくっついて、働きを阻害することで症状を止めます。
なおヒスタミンは、Ⅰ型アレルギーというIgEが関与する疾患に登場します。そのため、アレルギー性皮膚疾患や喘息にも適応があります。しかし現在喘息では、ヒスタミンはそこまで重要な因子と考えられていません、このため、喘息でヒスタグロビン注射を投与することは非常に稀です。
ヒスタグロビン注射の投与方法
花粉症の症状が出現したら、ヒスタグロビン注射1バイアルを注射用水1.5mLに溶解し皮下に注射します。通常1回1バイアルを、成人では週1~2回で計3週間を行います。これを1クールとするので、3週間の間に3~6回投与します。
十分な効果のあらわれない場合には、更に1クールの注射を行います。この場合は1回投与量を最高3バイアルまで増量することができますので、症状をみながら増量を検討します。当院では1回投与量は2バイアルまでで実施しています。
これがヒスタグロビンの投与方法になります。効果が認められたら、維持療法として注射を行っていきます。
ヒスタグロビン注射が打てない人とは?
以下の3つの患者さんはヒスタグロビン注射は禁忌となり投与できません。
- 激しい喘息発作時の患者さん〔症状を増悪させることがあります。〕
- 月経直前及び期間中の患者さん〔一時的に症状を増悪させるおそれがあります。〕
- 妊婦又は妊娠している可能性のある患者さん〔人の血液製剤を投与するため妊婦さんに完全に安全か確認試験がされていません。〕
若い女性の方は②か③が当てはまる可能性があるため、ヒスタグロビンは打ちづらい可能性があります。特に生理が不定期な人は注意が必要です。
さらに以下の患者さんはヒスタグロビン注射を投与するのを注意する必要があります。
- 副腎皮質ステロイド剤を常用している患者さん(ステロイドを内服している人では、花粉症の症状が悪化することがあります。)
- IgA欠損症の患者さん〔ヒスタグロビンを投与することで、過敏反応を起こすおそれがあります。〕
- 肝障害の既往歴のある患者さん〔肝機能異常を起こす可能性があります。〕
- 溶血性・失血性貧血の患者さん〔ヒトパルボウイルスB19の感染を起こす可能性があります。〕
- 免疫不全患者・免疫抑制状態の患者さん〔ヒトパルボウイルスB19の感染を起こす可能性があります。〕
絶対に使用してはいけないとはなりませんが、④溶血性貧血・失血性貧血の患者さん ⑤免疫不全患者さんでは、ヒトパルボウィルスB19に感染して重症化した例も海外では報告されています。ヒトパルボウイルスB19は、溶血させてしまうので貧血や免疫不全の患者さんにはリスクが高いのです。
花粉症などのアレルギー疾患に対して、ヒスタグロビンは絶対に使わなければいけない薬でもないので、これらが該当する患者さんは避けた方が無難かもしれません。
花粉症の重度の場合は一時的にステロイドの内服も検討されますが、そのような方もヒスタグロビンは避けた方が良いでしょう。点鼻薬や点眼薬にもステロイドが含まれてますが非常に微量なので、ヒスタグロビンを避ける必要はありません。
ヒスタグロビンの副作用
人の血液を使っているとなると副作用が気になる人もいるかもしれませんが、昭和42年から発売されているお薬ですが、重度の感染症が発症したと国内で発表になったことはありません。
海外では先ほどの溶血性貧血の方に投与してヒトパルボウィルスB19が発症したケースが報告されていますが、少数のため溶血性貧血でも禁忌とはなっていません。
正確な市販後調査がされていないため、普通の人がヒスタグロビンを投与した場合どの副作用がどれくらい出るかはわかっていません。一番多いと予想されるのは、注射部位の疼痛・硬結・発赤・腫脹・熱感が出現することです。しかしこれは、インフルエンザの予防接種なども含めて皮下注射だとどれも起こり得ることです。
そのほかに特別多い副作用もなく、比較的安全に使用できるお薬です。
ヒスタグロビンの効果
ヒスタグロビンの臨床試験では、102人を対象に本剤1回1バイアル投与の治療で、67%の有効率を得たと報告があります。特に、くしゃみや鼻水に対する有意な改善が認められたとのことです。
また効果が出ない32%にさらにもう1クール、今度は1回2~3バイアルの治療を行うと、60%の方に有効でした。つまり2クールやっても効果が出ない人は、10%しかいないことになります。そのため非常に効果がある治療と言えます。
ヒスタグロビンはアレルギー性鼻炎に対して適応があることからもわかるように、目の症状には効果が弱いとされています。また鼻閉(鼻づまり)に対しては、ヒスタミンよりもロイコトリエンが関与しています。そのため鼻閉の症状が強い人に注射をしても、効果が弱いとされています。
そのため鼻閉がある人は、ナゾネックスやアラミストなどの点鼻薬、α交感神経刺激薬に抗ヒスタミン薬が加わったディレグラ、もしくは直接抗ロイコトリエンを阻害するキプレス・シングレア・オノンの方が効果があります。
また、アレグラやアレジオンなどの抗ヒスタミン薬と併用が可能か心配される方も多いですが、併用しても問題ありません。ヒスタミンをブロックする結果は同じですが、その過程はそれぞれ全く別です。
ヒスタグロビンは直接ヒスタミンと結合し作用を弱めるのに対して、抗ヒスタミン薬はヒスタミンが受容体とくっつくのを阻害することになります。むしろ抗ヒスタミン薬でも効果が乏しい場合、このヒスタグロビンを併用して使うことは治療選択肢のひとつです。
ヒスタグロビンの値段
<先発品>
商品名 | 剤形 | 薬価 |
---|---|---|
ヒスタグロビン皮下注 | 注射剤 | 731円 |
※2020年9月時点
ヒスタグロビンの薬価は731円となります。3割負担の方は219円です。これを3週間で3回から6回投与します。ただし投与量が増えると、この値段の2~3倍かかります。
これに診察料が加わるので、初診は1500円程度、再診は500円程度のところが多いです。そのため1クールを3回注射すると考えると、2000~3000円かかると思います。
ヒスタグロビンの作用の仕組み(作用機序)
ヒスタグロビンはどのようにして作用するのでしょうか?花粉症の作用機序をもとに、ヒスタグロビンの作用を確認しましょう。
花粉症の作用機序
花粉症というのは体が花粉を敵と認識して外に出そうとする防御反応です。その防御反応は以下のようになります。
- 花粉(スギ)が体内に侵入。
- マクロファージ(体の中の警察官)が異物と認識して花粉を食べる。
- マクロファージがT細胞、そしてB細胞とバケツリレーのように花粉の情報を次々に渡す。
- 花粉が次に入ってきたときに撃退するために、B細胞がIgEという特殊な爆弾を作り、肥満細胞(体の中の爆弾保管庫)に保管しておく。
- 花粉が再び侵入した際に、肥満細胞は保管しておいたIgE爆弾が発射されて花粉にくっつく。
- IgEが爆発することをきっかけに、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出される。
このヒスタミンなどの化学物質が目に作用すると、目を刺激してかゆみや充血を生み出します。目のかゆみや充血が起こると、涙が出てきます。涙によって花粉を目の外に追い出そうとするのです。
このヒスタミンが鼻に作用すると鼻を刺激して、くしゃみや鼻水として外に花粉を出そうとするのです。
こうして目や鼻に異常があることを知らせて、体からスギ花粉を守ろうとしているのです。でも花粉は身体にとっては害にはなりません。ほっておけばよいのに、身体が過剰に反応してしまうアレルギーの病気なのです。
ヒスタグロビンの作用機序
ヒスタミンを阻害するということは、先ほどの説明でいうところの⑥の作用を邪魔します。
④や⑤で出てくるIgEや肥満細胞を邪魔しても、すでにヒスタミンがたくさん作られた後では効果が期待しづらいです。速効性を求めるのであれば、直接目や鼻の症状を引き起こすヒスタミンをブロックする必要があるのです。
まとめ
- ヒスタグロビンは他の人の血液から作られたヒスタミン抗体です。
- ヒスタグロビンは週に1,2回投与を3週間続けます。
- ヒスタグロビンは安全性の高い薬ですが、
①激しい喘息発作時の患者さん
②月経直前及び期間中の患者さん
③妊婦又は妊娠している可能性のある患者さん
には使用することができないお薬です。
抗ヒスタミン薬など内服薬だけではコントロールできない人は、ヒスタグロビンを検討してみてもよいでしょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:アレルギーの注射剤 投稿日:2020-09-06
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