COPD(肺気腫)の治療薬とは?
COPD(肺気腫)は、主にタバコを吸い続けた影響で肺が穴だらけになる病気です。肺が傷つくことで気管支が狭まり、咳や痰も増え、息を思いきり吸ったり吐いたりができなくなります。
病院の治療では、狭まった気管支を広げ、息苦しさや咳を楽にするお薬を使います。COPDの患者さんが少しでも楽な日常をおくるために、お薬は有効です。しかしお薬の効果は、症状に対する一時的なものに過ぎません。
COPDの治療で一番大切なのは禁煙です。
ここではCOPDの治療で使うお薬について詳しくまとめていますが、現在も喫煙されている方には、「COPD改善のためには薬以上に禁煙が必要」ということをしっかりと意識していただきたいです。ご自身の意思で禁煙が難しい方には禁煙外来という方法もありますので、専門家にご相談ください。
禁煙した上でお薬を正しく使っていくことで、COPDによる苦しみを緩和し、病気の進行の防止や生活の質の向上を目指していきます。
COPD(肺気腫)治療でのお薬の役割
COPDの治療では、息苦しさ、咳、痰などの苦しい症状を緩和する吸入薬を中心に使用します。それらのお薬は、COPDで狭まった肺を拡げ、息苦しさ、咳、痰などの症状を一時的に楽にし、患者さんの生活の質を向上させるために有効です。
お薬を使わずに生活されている方はかなり辛いと思われますので、症状が気になるときは呼吸器の専門医を受診し、適切なお薬の処方を受けましょう。
しかし、最初に書いた通り、COPDの治療でもっとも重要なのは禁煙です。
ここのページをご覧になっている方は、COPDを薬で何とか治したいと思っている方も多いかと思います。けれど残念ながら、現段階ではCOPDをお薬で完治させることは叶いません。
COPDでは、肺がダメージを受けて穴だらけになっている状態になりますが、現段階で肺のダメージそのものを治せるお薬というのは存在していません。お薬は、その結果としておこる気管支の狭まりを拡げ、一時的に息苦しさや咳や痰などの症状を緩和するだけの働きです。
そのため、お薬の効き目が切れればまた元の苦しい状態に戻ってしまいますし、肺にもっともダメージを与えるタバコを止めない限り、COPDは悪化していく一方です。お薬はあくまでサポートという位置づけになります。
COPDが重度になると、もはやお薬の力でも苦しみを取り除くことはできなくなり、酸素機器を持ち歩き鼻にチューブを挿したまま暮らすしか方法がなくなります。タバコ以外の原因で重度のCOPDになってしまった方は止むを得ないですが、タバコが原因の方は自らの意志で禁煙を選択し、進行を予防していくことができるのです。
COPDの進行を防ぎ、少しでも生活の質を上げるために最善の方法は、お薬ではなく禁煙です。お薬を使用するときにはそれを忘れず、禁煙に取り組むことが大切です。
COPD(肺気腫)治療で使うお薬とは?
COPDの診断を受けたときの第一選択薬は、
- 長時間作用型の抗コリン薬の吸入薬
- β2刺激薬の吸入薬
のいずれかです。
それぞれのお薬単独で効果が不十分な場合は、2つを併用、もしくは2つがミックスされた合剤を使用します。
COPDの患者さんは、肺の壁がもろくなり穴が開いています。このため、すぐに気管支がつぶれてしまい、息の通り道が狭くなり、呼吸が苦しくなってくるのです。さらに慢性的な炎症があるため、咳や痰が止まらなくなります。
COPDのお薬での治療とは、気管支を拡げる作用のある物質を利用し、一時的に息苦しさ、咳、痰などを緩和させることです。その作用に優れているのが、上の2つのお薬になります。
抗コリン薬とβ2刺激薬は作用の仕組みが異なりますが、結果として気管支を拡げることは同じです。どちらを先に選ぶかは、専門家の中でも意見が分かれるところですが、現時点での効果としては同等と研究では示されています。
COPD治療薬の特徴
<長時間作用型の抗コリン薬>
- 副交感神経の気管支収縮作用を抑える
- 吸入薬のみ
- 緑内障・前立腺肥大症には不適
<β2刺激薬>
- 交感神経の気管支拡張作用を促す
- 吸入が無理なケースには、貼り薬と飲み薬が検討できる
- 絶対禁止の持病がない
どちらがより効果を発揮するかは個人差があり、患者さんの状態を見ながら一番良いと思われるお薬を試していきます。どちらも単独では効果が不十分なら、2つを併用か最初から2つがミックスした合剤を処方します。
ただ、
- 閉塞隅角緑内障の方
- 前立腺肥大症による排尿障害のある方
には、抗コリン薬の使用は禁止になっていますので、β2刺激薬単剤のみが適応になります。抗コリン薬の作用が、これらの持病の症状を悪化させるリスクがあるからです。
緑内障は閉塞隅角のパターンのみが禁忌となっていますが、ご自身の緑内障がどのパターンか認識している方は少ないです。緑内障が悪化すると失明につながることから、基本的には緑内障の方全般に抗コリン薬は使用しないことが多くなっています。
前立腺肥大は、高齢男性の多くに認められる疾患です。病院で診断されていなくても、
- 残尿感がある
- トイレが近い
- 尿がスムーズに出せない
などの症状があって高齢の男性なら前立腺肥大の可能性が高いため、抗コリン薬の処方は避けます。
またCOPDの治療では、吸入薬の使用が原則です。COPDの症状に対しては吸入薬が一番効果が高く、副作用は少ないことがわかっているからです。しかしながら認知症や吸入力の低下で吸入が困難なケースには、β2刺激薬の貼り薬や飲み薬を代わりに使用します。
COPD(肺気腫)の治療ガイドライン
COPDの治療ガイドラインは以下のようにピラミッド形になっていて、悪くなればなるほど上の治療を追加で足していくことになっています。
この図で見ると、お薬の中心は長時間作用性抗コリン薬かβ2刺激薬とされています。それで効果が不十分なときは、
- 2つの併用(合剤)→テオフィリンの追加→吸入ステロイドの追加
となり、それでも息苦しさが改善されなくなると、酸素療法が必要になります。
COPD治療薬の効果
COPDの第一選択薬は
- 長時間作用型の抗コリン薬吸入
- β2刺激薬吸入
のいずれか、もしくはその合剤です。
それぞれのCOPD治療薬の効果について、みていきましょう。
吸入長時間作用型抗コリン薬の効果
抗コリン薬は、副交感神経の働きを抑えるお薬です。副交感神経が活発になると、呼吸量が少なくなって気管支が収縮します。その働きを抑えることで気管支の収縮を防ぎ、気管支を広く保つように働きます。
具体的には、ムスカリン受容体という部分をブロックする物質が主成分になっています。お薬の種類によって、チオトロピウム、グリコピロニウム臭化物、ウメクリジニウム臭化物などの成分が使用されていますが、効果としての違いは特にありません。
昔は短時間作用型のタイプしかなく、1日に3~4回の吸入が必要でした。しかし長時間作用型の吸入薬が発売されたことで1日1~2回の吸入で済むようになり、多くのCOPDの患者さんの症状がコントロールしやすくなりました。
吸入β2刺激薬の効果
β2刺激薬は、交感神経を活発にして気管支を拡張させるお薬です。交感神経には副交感神経とは反対に、呼吸量を増やすために気管支を拡げる作用があるのです。
具体的には、β2受容体という部分を刺激する物質が使われています。インダカテロールマレイン酸塩、ホルモテロールフマル酸塩水和物など主成分は異なりますが、こちらも効果としての違いはありません。
抗コリン薬とβ2刺激薬は作用の仕組みは違いますが、気管支の拡張・収縮に関わる自律神経の働きを調整し、狭まった気管支を拡げるという目的は同じです。気管支が拡がれば、COPDによる息苦しさや咳を一時的に緩和することができます。
しかし、最初に書いた通り、COPDの根本の問題になっている肺のダメージを治す力はありません。そのため、いずれのお薬も息苦しさや咳を一時的に楽にする対症療法となります。
これらのお薬を継続的に使うことで、
- 症状の緩和
- 生活の質(QOL)を上げる
- 呼吸機能の改善
を目指します。
お薬の効果が切れればまた元の苦しい状態に戻ってしまいますので、お薬は毎日吸入を続けることが大切です。また、どちらも即効性は期待できません。毎日吸入することで徐々に症状の緩和が実感できますので、1~2回吸入して良くならないといって、治療を自己中断しないようにしましょう。
COPD治療薬の副作用
COPDの治療に使われる吸入薬は、比較的副作用が少なく使いやすいお薬です。
ですが、副作用が認められることもあります。それぞれのお薬の種類ごとに、可能性のある副作用をみていきましょう。
吸入抗コリン薬の副作用
上でもご紹介しましたが、
- 閉塞隅角緑内障の方
- 前立腺肥大症による排尿障害のある方
には、抗コリン薬は処方できません。副作用により病気の悪化のリスクがあるからです。
それ以外で抗コリン薬に比較的よく見られる副作用には、以下のようなものがあります。
- 口の渇き
- 声がかすれる
- のどの刺激
このような症状が出た場合は、主治医に相談してください。
重篤な副作用はごく稀ですが、万が一以下のような症状が現れたときは使用を止め、病院を受診してください。
- 横になると息が苦しく、座ると楽になる
- 激しい動悸、胸の痛み
- お腹の強い張り、嘔吐
- 眼痛、頭痛、眼の充血
- 強いむくみ、じんましん、呼吸困難
上記以外にも何か気になる症状があった場合は、主治医や薬剤師に相談してください。
吸入β2刺激薬の副作用
β2刺激薬は正しく使えば副作用の少ないお薬ですが、以下のような副作用が報告されています。
- 動悸
- 手のふるえ
- 筋肉のけいれん
- かゆみ、じんましん
重篤な副作用はごく稀ですが、万が一以下のような症状が出たら使用を止め、病院を受診してください。
- 脱力感、手足のマヒ、筋力の低下
- 激しい動悸、めまい、失神
上記以外でも、何か気になる異変があった場合は主治医や薬剤師に相談してください。
また、いずれのお薬も処方量以上を使うと副作用のリスクが高まります。処方量は必ず守り、吸い過ぎないように注意してください。
吸入長時間作用型抗コリン薬
COPDに対して使用できる長期作用型の抗コリン薬の吸入薬は、現在5種類があります。
- スピリーバ レスピマット
- スピリーバ ハンディヘラー
- シーブリ
- エンクラッセ
- エクリラ
この5つの中で、どれが最も優れているといった明確なデータはありません。それぞれの特徴を踏まえ、患者さん自身が一番使用しやすいお薬を使っていきます。
スピリーバ レスピマット
<主な特徴>
- 1日2回(朝・夕)
- スプレー式
- 1回ごとのカプセル交換が必要
- 重度喘息にも適応あり
<向いている人>
- 吸入力が低下している人
- 喘息が合併している人
<製品情報>
- 製品名:スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入
- 発売元:日本ベーリンガーインゲルハイム
- 主成分:チオトロピウム臭化物水和物
- 薬価:1キットあたり6481.2円
スピリーバ レスピマットは、抗コリン薬の吸入薬で唯一のスプレー式になります。スプレー式のお薬は、吸入力が低下しても吸入することができます。そのため、吸入力が低下しやすい高齢の方に第一選択薬としてよく使われます。
また、若い方でもCOPDの進行によっては吸入力が弱くなりますし、年齢とともに吸入力が低下し吸入器タイプの他のお薬が使いにくくなることもありますので、最初からスプレータイプのスピリーバ レスピマットが処方されることも多いです。
そのような理由から、COPDの治療で最も多く処方されているのが、このスピリーバ レスピマットになります。
さらに、スピリーバ レスピマットは、2015年に重症喘息に対しても適応が認められました。喘息への適応があるのもスピリーバ レスピマットが唯一になりますので、喘息とCOPDを併発している方にも使いやすいお薬です。
スピリーバ ハンディヘラー
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 吸入器(ハンディ―ヘラー)使用
- 1回ごとのカプセル交換が必要
- 最初に発売された長期作用型
<向いている人>
- 初期からこの薬でコントロールできている人
<製品情報>
- 製品名:スピリーバ吸入用カプセル18μg
- 発売元:日本ベーリンガーインゲルハイム
- 主成分:チオトロピウム臭化物水和物
- 薬価:1カプセルあたり193.8円
スピリーバ ハンディヘラーは、COPD の治療に使える長期作用型の抗コリン薬として、初めて登場したお薬です。2004年にベーリンガーより発売されました。
これが発売される以前は、短期作用型のタイプ(アトロベント、テルシガン)が使われていましたが、作用時間が短く1日の吸入回数が3~4回必要でした。しかし、スピリーバ ハンディヘラーの登場で吸入回数が減り、治療継続がしやすくなったことで多くのCOPDの方の症状が緩和されています。
しかし、このお薬の後で使い勝手の良い新しいタイプが発売され、現在新たに治療を始める方に処方することはほとんど無くなってきました。とはいえ、お薬の効果自体は他のお薬に劣るわけではありませので、初期からスピリーバ ハンディヘラーで治療し、安定している方はそのまま継続で問題ありません。
こちらはドライパウダー式のお薬です。粉末状のお薬が入った1回分のカプセルを専用の吸入器(ハンディ―ヘラー)にセットし、吸入します。ドライパウダーは自分のタイミングで吸えるメリットがありますが、ある程度吸入力がないと吸えないデメリットがあります。
COPDは年を取るにつれて吸入力が低下していく病気ですので、現在は吸入力が弱くても使えるスプレー式のスピリーバ レスピマットの方が主流になっています。
また、ドライパウダー式のお薬もこの後新しいタイプが他社から発売されていますので、使用の便利さなどの面ではそちらが選択されることも多くなっています。
シーブリ
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 吸入器(ブリーズヘラー)使用
- 効果発現が速い
- 1回ごとのカプセル交換が必要
- 吸入器がコンパクト
<向いている人>
- 若年者
- 午前中に活動性が高い人
- しっかり吸入できたか目で確認したい人
<製品情報>
- 製品名:シーブリ吸入用カプセル50μg
- 発売元:ノバルティスファーマ・Meiji Seika ファルマ
- 主成分:グリコピロニウム臭化物
- 薬価:1カプセルあたり194.1円
ドライパウダー式であるシーブリは、吸入力のある若年者に向いているお薬です。中でもシーブリは、吸入後に一番早く効果が現れると言われていますので、朝から活発に動かなければいけない方には良いお薬といえます。
ただし、吸入の際に毎回カプセルをセットする手間がかかります。これが面倒で続けられない方は、他のお薬に変更した方がいいかもしれません。
この手間が気にならなければ、毎回カプセルを交換して使う方法にはメリットもあります。交換する際にカプセルの中にお薬が残っていないかで吸入を確認することができますし、吸入器自体がコンパクトで持ち歩きに向いています。
エンクラッセ
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 吸入器(エリプタ)使用
- カプセルの交換が不要
<向いている人>
- 吸入の手間が簡便な方が良い人
<製品情報>
- 製品名:エンクラッセ62.5μgエリプタ30吸入用
- 発売元:グラクソ・スミスクライン
- 主成分:ウメクリジニウム臭化物
- 薬価:1キットあたり5877.7円
エンクラッセの一番の特徴は、1日1回の1吸入で治療ができる点です。また、他のお薬のように1回ずつカプセルをセットする手間がありません。30回分のお薬がエリプタという吸入器に最初から充填されており、とても簡単です。
エクリラ
<主な特徴>
- 1日2回(朝・夕)
- ドライパウダー
- 吸入器(ジェヌエア)使用
- 残量確認や空吸入防止に優れる
- 2015年発売
<向いている人>
- 残量を毎回確認し忘れる方
- 吸入できたか目で確認したい方
<製品情報>
- 製品名:エクリラ400μgジェヌエア60吸入用
- 発売元:杏林製薬
- 主成分:アクリジニウム臭化物
- 薬価:1キットあたり5963.5円(60吸入)
エクリラは2015年に発売されたばかりですので、この後どのような位置づけになるかが注目されています。
エクリラの一番の特徴は、ジェヌエアという新しいタイプの吸入器になります。ボタンを押すと薬がセットされ、赤から緑に表記されます。そして、しっかりと吸入できると表記が緑から赤に戻るようになっています。
さらに、吸入残量が0になるとロックがかかり、空吸入を防ぎます。これらの特徴で、従来の吸入器ではおこりやすかった吸入ミスや空吸入を防止し、より効果的なお薬の効果を目指します。
吸入薬最大のデメリットは、毎日ちゃんと吸っていたつもりが吸入ミスがあった…のような事態がおこりやすいことです。せっかくのお薬も十分に吸えてなければ意味がありません。吸入ミスが出やすいという方には、エリクラは使いやすいかと思います。
吸入β2刺激薬
現在COPDに対して使用できるβ2刺激薬の吸入薬は次の2種類です。
- オンブレス
- オーキシス
以前はセレベントというお薬がありましたが、後発のオンブレスの方がCOPDに対する有効性が高かったため、現在はCOPDの治療薬としてはあまり使われなくなってきています。
β2刺激薬には貼り薬や飲み薬もありますが、COPDの患者さんに対しては吸入薬が一番効果が高く、副作用は少ないメリットがあります。しかし、
- 認知症などで吸入が難しい方
- 吸入力の低下で吸えない方
などのケースには、
- ホクナリンテープなどの貼り薬
- メプチン錠などの飲み薬
を使います。
貼り薬や飲み薬はあくまで吸入薬の代打ですので、吸入薬が面倒だから貼り薬に変えてくれというわけにはいきません。吸入薬の方が少ない副作用で高い効果が得られます。吸入が可能な方には、吸入薬が一番有効です。
オンブレス
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 吸入器(ブリーズヘラー)使用
- 1回ごとのカプセル交換が必要
- むせやすい
<向いている人>
- 1日1回の吸入が良い人
<製品情報>
- 製品名:オンブレス吸入用カプセル150μg
- 発売元:ノバルティスファーマ処方薬
- 主成分:インダカテロールマレイン酸塩
- 薬価:1カプセルあたり142.3円
COPDのβ2刺激薬と言えばオンブレス、というイメージがある代表的なお薬です。これ以前に主流だったセレベントは、COPDへの有効性で抗コリン薬のスピリーバに劣ると言われていましたが、オンブレスは同等という結果が研究で示されています。
1日1回の吸入で良いため使い勝手も悪くなく、抗コリン薬が適応しにくいケースには多く用いられています。ただ、やや粉っぽさがあり、むせやすいのが難点です。
オーキシス
<主な特徴>
- 1日2回(朝・夕)
- ドライパウダー
- 吸入器(タービュヘラー)
- 粒子が細かく粉っぽさがない
- 毎回カプセルをセットする手間がない
<向いている人>
- 吸った感覚がない方が良い人
<製品情報>
- 製品名:オーキシス9μgタービュヘイラー60吸入
- 発売元:Meiji Seikaファルマ
- 主成分:ホルモテロールフマル酸塩水和物
- 薬価:1キットあたり3419.6円
基本的には1日1回で済むオンブレスの方が主流ですが、オーキシスの効果が劣っているわけではありません。オンブレスより粉っぽさがないため、ドライパウダーでむせやすい方にはこちらの方が使いやすいかもしれません。また、1回ずつカプセルを交換する手間もありません。
抗コリン薬とβ2刺激薬の合剤吸入薬
抗コリン薬やβ2刺激薬の単剤で効果が不十分な場合、2つを併用するか最初から両方がミックスされた合剤を処方します。状態によっては最初から合剤を使用するケースもあります。
合剤はどれも2013年以降に発売された新しいお薬です。現在COPDに適応できる合剤には3つの種類があります。
- ウルティブロ
- アノーロ
- スピオルト
となっています。それぞれの細かい違いについてみていきましょう。
ウルティブロ
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 専用の吸入器(ブリーズヘラー)使用
- 1回ごとにカプセルの交換が必要
- むせやすい
<向いている人>
- オンブレスかシーブリを使用していた人
<製品情報>
- 製品名:ウルティブロ吸入用カプセル
- 発売元:ノバルティスファーマ
- 主成分:グリコピロニウム臭化物・インダカテロールマレイン酸塩
- 薬価:1カプセルあたり253.5円
ウルティブロは、抗コリン薬単剤のシーブリとβ2刺激薬単剤のオンブレスの主成分を合わせたお薬で、吸入器はオンブレスやシーブリと同じ(ブリーズヘラー)です。オンブレスやシーブリを使用していた方には慣れやすいと思います。
アノーロ
<主な特徴>
- 1日1回(基本は朝)
- ドライパウダー
- 専用の吸入器(エリプタ)使用
- カプセル交換は不要
<向いている人>
- カプセルを毎回セットしたくない人
- エンクラッセで治療していた人
<製品情報>
- 製品名:アノーロエリプタ30吸入用
- 発売元:グラクソ・スミスクライン
- 主成分:ウメクリジニウム臭化物・ビランテロールトリフェニル酢酸塩
- 薬価:1キットあたり7924.7円
アノーロはウルティブのようにカプセルを毎回セットする手間がありませんので、使用が簡単です。
また、抗コリン薬単剤のエンクラッセを使用していた方も、同じ吸入器(エリプタ)のアローラは使いやすいお薬です。
スピオルト
<主な特徴>
- 1日2回(朝・夕)
- スプレー式
- 1回ごとのカプセル交換が必要
<向いている人>
- 吸入力が低下している人
- スピリーバレスピマットを使用していた人
<製品情報>
- 製品名:スピオルトレスピマット60吸入
- 発売元:日本ベーリンガーインゲルハイム
- 主成分:チオトロピウム臭化物水和物・オロダテロール塩酸塩
- 薬価:1キットあたり7960.3円
スピオルトは、合剤の中では唯一のスプレー式の吸入薬です。スプレー式の良い点は、吸入力が弱くても吸入できる点です。特にCOPDは、吸入力が年を取るにつれて弱くなりますので、高齢の方にはこちらを処方することが多くなっています。
また、抗コリン薬単剤のスピリーバ レスピマットと吸入方法が同じのため、そちらから移行する方には使用しやすいお薬となっています。
吸入薬以外の治療薬
合剤でも効果が不十分なときには、テオフィリンや吸入ステロイドの追加を検討します。
しかしながら効果は限定的で、あくまで補助という位置づけになります。
テオフィリン製剤
テオフィリン製剤には、
- 気管支を拡げる作用(気管支拡張作用)
- 炎症を抑える作用(抗炎症作用)
の2つの作用があります。
コーヒーや茶葉に含まれるキサンチン誘導体という物質の働きを利用しており、代表的な製品としては、テオドールなどがあります。
ただ、抗コリン薬やβ2刺激薬に比べると効果は落ちるため、積極的に使われることはありません。
また、テオフィリンは血中濃度によって効果や副作用が分かれるため、血中濃度を測りながら投与する必要があります。
血中濃度が高い方が効果は強いですが、濃度を上げ過ぎると、
- 嘔吐や頭痛
- 動悸
- 不整脈
- けいれん
などの副作用の可能性があるので、慎重な処方がお薬になります。
吸入ステロイド
吸入ステロイドは、主に気管支喘息の治療で使われていますが、β2刺激薬との合剤の中にはCOPDに適応が認められているものがあります。
現時点では、
- シムビコート
- アドエア
の2種類があります。
これらのお薬は、
- 炎症を抑える作用(吸入ステロイド薬)
- 気管支を拡げる作用(β2刺激薬)
の2つの作用が得られるお薬です。
ただ、こちらはすべてのCOPDの患者さんに使えるわけではありません。症状の増悪を繰り返す症例に対して検討することになっています。
吸入ステロイドは炎症を抑える効果に優れますが、免疫力を下げてしまう反作用があります。COPDの方は息を吐く力が弱く、自分の呼吸によって細菌を吐き出すことが難しいため、免疫力が低下すると感染のリスクが高まります。
そのため、COPDの方に吸入ステロイドを使用すると肺炎の副作用の可能性があり、その頻度は数%と低いものの、リスクを考えるとむやみに使うことができません。
しかし、多くの研究では中間量の吸入ステロイド合剤の吸入により、COPDの症状改善へのメリットがリスクより大きいことが報告されています。
具体的には、
- 呼吸機能の改善
- 運動能力の改善
- 増悪頻度の低下
などが見られる患者さんが多いのです。
そのため、他のお薬で効果の見られない重度の患者さんに対しては、副作用をチェックしながら吸入ステロイドを投与することがあります。
また、軽度~中程度の患者さんに対しても、その有効性への研究が進められています。
その他のお薬
これまでのお薬とは別に、痰や咳などの症状がどうしても止まらないときの補助として、痰切り薬や咳止め薬が使われることもあります。
とくに痰切り (ムコダイン・ムコソルバンなど) には、
- 痰の粘弾性の改善
- 気道の免疫力向上
- 感染の抑制
の効果が認められ、ガイドラインでも勧められています。
一方、咳止め薬の方は本来COPDの方には向きません。痰などを必死で外に出そうとする体の働きを妨害してしまうからです。しかし、あまりに咳が苦しくなっているときには、やむを得ず一時的に使うことがあります。
COPD治療薬の注意点のまとめ
COPDの治療でお薬を使用するときには以下のことに注意しましょう。
COPDの吸入薬は、毎日正しく続けることで効果が現れます
- お薬の使用とともに禁煙が必要です
- お薬は必ず専用の吸入器にセットしてください
- カプセルをそのまま開けたり直接飲んだりしないでください
- アルミシートは吸入の直前に開封してください
- 処方通りの吸入法・回数を守ってください
- 吸入をし忘れた場合は、次の吸入時間までに余裕があれば気づいたときに吸入してください
- 次の吸入時間が迫っているときは1回分を飛ばし、次から普通通りに吸ってください。
- 2回分をまとめて吸入することは絶対に避けてください
また、以下のような方は、お薬の処方を受ける際に必ず医師・薬剤師に報告してください
- お薬・食べ物でアレルギーをおこしたことがある(かゆみ、発疹など)
- 緑内障、前立腺肥大の可能性がある
- 甲状腺機能異常、糖尿病、心血管系の障害(不整脈、高血圧、冠動脈疾患、急性心筋梗塞など)、けいれん性疾患(てんかんなど)、低カリウム血症、肝障害などがある。
- 妊娠または授乳中
- 他のお薬を使っている
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:COPD(肺気腫)の治療薬 投稿日:2019-05-14
関連記事
人気記事
【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用
喘息の長期管理薬とは? 喘息は、気道に慢性炎症が起きて狭くなっている状態です。それが引き金となって気道が過敏になり、ちょっとしたきっかけで咳や息苦しさをくり返します。 喘息の治療は、 炎症を抑え、喘息の悪化や発作を予防す… 続きを読む 【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用
カテゴリー:喘息の長期管理薬(吸入ステロイド) 投稿日: