良性発作性頭位めまい症

良性発作性頭位めまい症とは|原因や治療法について医師が解説

良性発作性頭位めまい症とは

良性発作性頭位めまい症(BPPV: Benign Paroxysmal Positional Vertigo)は、短い時間続く、ぐるぐると目が回るようなめまいを引き起こす病気です。

特に頭の位置を変えるときに発生し、立ち上がる、寝返りを打つ、頭を後ろに傾けるなど、特定の頭の位置によってめまいが引き起こされます。

良性発作性頭位めまい症は、内耳の半規管内にある小さなカルシウムの結晶(耳石:じせき)が適切な位置から移動することによって起こります。

今回の記事では、良性発作性頭位めまい症とはどのような病気なのか、原因や治療法について詳しく解説していきます。

良性発作性頭位めまい症の原因

良性発作性頭位めまい症は、耳の奥にある内耳(ないじ)を構成する前庭(ぜんてい)という部分に異常が起こることで生じます。

前庭とは?内耳とは?

なお、内耳とは耳の奥にある骨でできた部分で、聴覚を司る蝸牛(かぎゅう)というカタツムリのような部分と、平衡感覚を司る前庭系から成り立っています。

そして、前庭系は、卵形嚢(らんけいのう)と球形嚢(きゅうけいのう)という液体で内部が満たされた二つの袋と、半器官というこちらも液体で満たされたリングのような構造から構成されています。

内耳の概要の画像


引用)内耳の概要 – 19. 耳、鼻、のどの病気 – MSDマニュアル家庭版

良性発作性頭位めまい症の原因

良性発作性頭位めまい症は、耳石という石が耳の特定部位に付着することや、耳石が内耳の半規管内(はんきかんない)を浮遊することがきっかけとなります。

すると、頭の動きが止まった後にも三半規管の中で耳石が動き、あたかもまだ頭が動いているように脳が勘違いしてしまいます。
その結果、めまいや、眼振(がんしん:眼が自分の意思とは無関係に動くこと)が起こると考えられています。

良性発作性頭位めまい症の症状

BPPVの主な症状はめまいです。
頭を動かした際に、特定の位置をとるとめまいが起こります。
患者は回転性、つまりぐるぐる回るように感じることが多いです

どのような場合にめまいが出るのか

実際には、起床・就寝時、棚の上の物をとる上向き、または洗髪の際などの下向き、そして寝返りなどでめまいが引き起こされることが多いです。

めまいはどれくらいの時間続くのか

そして、頭を動かしてからめまいが出現するまでには若干のタイムラグがあります。
めまいは、だんだん強くなり、次第に弱くなりやがて消失します。数秒から数十秒持続します。
このめまいは、目をあけていても閉じていても出現することが多いとされています。

めまいを改善させる方法はあるのか

めまいが起こった際の頭の位置を繰り返すと、めまいが軽くなったり起きなくなったりすることが多いです。

めまいと一緒に出現する症状は何か

良性発作性頭位めまい症では、めまいの他に眼振が出現します。
しかし、難聴や耳鳴りなどの聴こえに関する症状はありません

また、吐き気や嘔吐などが起こることはありますが、めまい以外の神経症状はありません。

良性発作性頭位めまい症の診断

良性発作性頭位めまい症は主に患者の症状と、頭位眼振検査を行って診断されます。
頭位眼振検査とは、フレンツェル眼鏡または赤外線CCDカメラという特殊なカメラを装着して行います。
そして、患者の頭を特定の位置に動かすことでめまいを誘発し、眼振の有無を観察します。

良性発作性頭位めまい症の治療

以下に、BPPVの治療について一般的に行われる手法をいくつか紹介します。

頭位治療

良性発作性頭位めまい症は、半規管内に移動した耳石の影響であるとされています。
そのため、頭の位置を調整し、耳石を半規管から卵形嚢まで移動させることを目的とした治療、つまり頭位治療(とういちりょう)が行われています。

その中でも、Epley法(エプリー法)という方法は最も一般的な手法の1つです。
以下の図では、その一例を示します。

Epley法


引用)良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用).Equilibrium Res.2009;68(4):218-225. p224

この図は、左後半規管の良性発作性頭位めまい症に対する Epley 法の動きです。
Epley 法の頭部の動きと、これによる後半規管内の耳石の動きを示しています。

一連の運動により、半規管内の浮遊耳石が卵形嚢内に移動することを想定しています。

その他にも頭位を変えるという治療法があります。
こうした頭位治療は6〜8割の方に有効とされています、必ずしも全例に有効ということではありません。

薬物療法

良性発作性頭位めまい症は、自然に治ることも少なくない病気です。
そのため、抗めまいや抗不安薬、血管拡張薬などのめまいに対する一般的な治療によってめまいの症状を抑え、自然に治ることを待つことも可能と考えられています。

予後

BPPVは再発することもありますが、適切な治療を受ければ、ほとんどの患者は日常生活を普通に送ることが可能です。
しかし、BPPVは年齢とともに再発する可能性があることが知られています。
また、他の内耳の問題や疾患と関連して発生する場合もあります。
そのため、再発や関連する症状が現れた場合は、適切な治療を受けるために医師に相談することが重要です。

まとめ

今回の記事では、良性発作性頭位めまい症の原因や発症のメカニズム、治療法、予後について述べました。
良性発作性頭位めまい症は自然に改善することも少なくない病気ですが、もしもめまいや吐き気などの症状が続く場合には、耳鼻科や頭頸部外科、めまい専門医などを受診するようにしましょう。

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カテゴリー:耳の病気  投稿日:2024-08-12

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