前庭神経炎

前庭神経炎の症状は?メニエール病との違いについても医師が解説

前庭神経炎とは?

前庭神経炎は、突然起こる激しい回転性めまい発作が特徴の病気です。
耳と脳を結ぶ前庭神経の炎症によって発生します。

前庭神経炎は、ウイルス感染が原因ではないかと考えられています。
そして、急激な強い回転性のめまい、吐き気、嘔吐が主症状となります。
基本的には、聴覚が低下するといった聴こえの症状は伴いません。

今回の記事では、前庭神経炎の原因やリスク、治療法、そしてメニエール病との違いについても解説していきます。

前庭神経炎の原因とリスク要因

ウイルス感染が最も一般的な原因とされていますが、自己免疫疾患や他の炎症性の病態によっても引き起こされることがあります。
ストレスや過労が症状を悪化させることもあります。

疫学的には男性にやや多く、発症年齢は50歳代に多いとされています。

前庭神経炎の症状

前庭神経炎は、突発的な回転性めまい(ぐるぐるとまわるようなめまい)で始まり、回転性めまいの発作は1回のことが多いとされています。

なお、前庭とは耳の奥にある内耳(ないじ)という部分にあり、バランスの維持を保つ役割を担っています。

前庭神経炎のめまいは1〜3日ほど持続し、その後徐々に改善します。
めまいが改善した後も、体を動かした際や歩行時のふらつき感が長期間持続します。
しかし、めまいに伴う難聴や耳鳴り、耳閉塞感といった聴こえの症状は認めません。
また、第Ⅷ脳神経である内耳神経以外の神経症状はありません。

前庭神経炎の診断プロセス

前庭神経炎の診断プロセスは、患者の症状や医歴を詳しく聞き取ることから始まります。
主な症状には、めまい、平衡感覚の喪失、耳鳴り、聴力の低下があります。
診断の過程で、以下のようなステップや検査が行われることが一般的です。

1.病歴聴取と身体診察

患者の病歴、特にめまいやバランス感覚に関連する症状について詳しく聴取します。
身体診察では、神経系の機能を評価するための様々なテストが行われることがあります。
例えば、以下のようなものがあります。

視覚的観察

・眼振の確認

眼振は、目が不随意に動く現象で、前庭系の異常が原因で発生することがあります。
患者に一点をじっと見てもらい、目の動きを観察します。

・視線固定の能力

患者が動く対象や静止した対象を視線で追い続ける能力を評価します。

バランスと歩行のテスト

・ロムバーグ試験

患者に足を揃えて立ってもらい、目を開けた状態と目を閉じた状態でのバランスを比較します。
目を閉じたときにバランスが著しく悪化する場合、感覚や前庭系の問題が疑われます。

・歩行テスト

患者に直線上を歩いてもらい、バランスや歩行の様子を観察します。
歩行時にふらつきが見られる場合、前庭の機能に問題がある可能性があります。

2. 聴力検査

前庭神経炎は耳の内部に影響を及ぼすため、聴力検査を行って聴力の低下や異常がないかを確認します。
前庭神経炎の場合は基本的には聴力低下はないので、正常聴力か、あるいはめまいとは関連のない難聴を示すこともあります。

3. ビデオ診断検査

ビデオ眼振計(VNG)やビデオ頭位変換眼振計(VHIT)などの検査を用いて、眼の動きを評価し、平衡感覚に関与する前庭系の機能を調べます。

4. 回転検査

特殊な椅子に患者を座らせ、回転させることで前庭機能を評価します。

5.カロリックテスト

温水または冷水を耳道に流し込み、前庭反応を引き起こすことで前庭機能を検査します。

6. MRIやCTスキャン

脳や耳の構造を詳細に観察し、他の疾患や異常が前庭神経炎の症状を引き起こしていないかを調べます。

これらの検査を通じて、前庭神経炎の診断が行われ、他の疾患(例えばメニエール病や脳腫瘍など)が原因で同様の症状が起こっていないかを除外します。

前庭神経炎の治療方法

前庭神経炎は後遺症を残さずに治ることも多いのですが、眼振などの後遺症が残ってしまう場合もあります。
そのため、症状が出た当初にステロイドを用いて神経障害の進行を防ぎ、神経機能を回復することを目標とした治療が広く行われるようになっています。

急性期の治療

治療は症状の管理が中心となります。
めまいが強く、眼振がある場合には入院の上、安静を保つようにします。

薬物療法には、めまいを軽減するための薬や、吐き気を抑える薬が用いられます。
場合によってはステロイドが用いられることもあります。

慢性期の治療

急性期がすぎたら、早めに離床し前庭の機能を回復させます。
リハビリテーション療法が回復を助けることもあります。

前庭神経炎とメニエール病の違い

では、最後に同じめまいを主症状とするメニエール病との違いについて解説しましょう。

メニエール病ではめまいに加えて、耳鳴り、耳の圧迫感、感音性難聴といった聴こえに関する症状が出現します。
一方、前庭神経炎ではこうした聞こえの症状はありません。

こうした違いなどがこの2つにはありますが、めまいの症状はしばらく続くという点では似ている病気となります。

まとめ

前庭神経炎は、適切な治療とケアによって症状が大幅に改善することが多い疾患です。

めまいやバランス障害が持続する場合は、専門の医師の診察を受けることが重要です。
耳鼻咽喉科や、めまいを専門とする外来などを受診するようにしましょう。

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カテゴリー:耳の病気  投稿日:2024-08-03

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