舌下免疫療法(SLIT)

舌下免疫療法(SLIT):小児から大人までのアレルギー治療について医師が解説

アレルギーは多くの人々の生活の質を大きく左右します。
そんな中、舌下免疫療法(Sublingual Immunotherapy: SLIT)は、アレルギー治療の新たな希望として注目されています。
この治療法は、特に花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎に対して有効です。
今回の記事では、このSLITについて、子供と大人に対する適応についても解説していきます。

舌下免疫療法(SLIT)とは

花粉症などのアレルギー性疾患に対しての治療には、アレルゲン免疫療法と薬物療法などがあります。
この2つは、アレルギー性疾患に対するアプローチが異なります。
薬物療法は症状を一時的に和らげることに焦点を当てており、抗ヒスタミン薬やステロイドを使用してアレルギー反応を抑えます。
一方、アレルゲン免疫療法は、体のアレルゲンに対する耐性を徐々に高めることを目的としており、長期的な症状の軽減や体質改善を目指します。
この方法では、小さな量のアレルゲンを定期的に体内に導入することで、アレルギー反応を自然に抑える体の能力を強化します。

さて、このアレルゲン免疫療法には、舌下免疫療法(SubLingual Immunotherapy:SLIT)と皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)があります。
中でも、SLITは、アレルギー性鼻炎や花粉症など、アレルゲン(ダニやスギ花粉など)が原因で起こる疾患に対して用いられる治療法です。
この方法では、アレルゲンを小さな量から始めて徐々に増やし、定期的に舌の下に投与することで、体をアレルゲンに慣れさせ、症状の軽減や根本的な体質改善を目指します。
SLITは、特にスギ花粉症やダニによるアレルギー性鼻炎の患者に推奨されています。

なぜ舌下免疫療法なのか?

舌下免疫療法は、アレルゲンを直接舌の下で溶かして摂取することにより、体を徐々に慣れさせる治療法です。
従来の注射によるSCITと比べ、針を使わないため、痛みがなく、自宅で簡単に行えるのが大きな利点です。

SLITは保険適用となるのか

SLITはもともと大人を対象に、国民病といわれるスギ花粉症に対し、2014年に保険収載となり、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎に対しても2015年からSLITが可能となりました。

2018年には年齢制限が撤廃され、小児への治療が保険適用で可能となりました。
これにより、幼少期からのアレルギー対策が可能となり、将来的なアレルギー疾患の発症予防につながることが期待されています。

治療のプロセス

SLITの開始前には、患者のアレルギー原因を特定するための問診、血液検査、皮膚テストが行われます。
一部の患者—例えば気管支喘息のある方、口腔内に傷や炎症がある方、その他の疾患で治療中の方、妊娠中または授乳中の方—はSLITを受けることができません。
治療は毎日、舌の下にアレルゲンを投与し、完全に溶けるまで保持した後、飲み込みます。
投与後は最初の5分間は飲食やうがいを避け、治療開始前後2時間の間は入浴、飲酒、激しい運動も控えるようにします。
治療薬の増量は段階的に行われます。
副作用が現れないかどうかをチェックする必要があるので、最初の投与は医療機関で実施されます。
治療が問題なく行えることが確認されたら、その後は自宅で行います。
通常、治療期間は3〜5年間です。

有効性と安全性

SLITは一般に高い有効性が認められており、多くの患者で症状の改善が見られます。
しかしながら、伝統的な薬物療法(飲み薬、点鼻薬、点眼薬)とは異なり、SLITはアレルギーの根本的な治療を目的としています。
副作用は主に口腔内の腫れやかゆみとして現れますが、これらは通常数時間で自然に解消します。
しかし、アナフィラキシーのような重篤な反応が現れた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。

このように、SLITはアレルギー疾患の治療において効果的かつ安全な選択肢であり、根本的な改善を目指している患者に特に推奨されます。

小児への適用と副作用について

小児に対するSLITは成人と同様のアレルゲン量で行われますが、副作用として口腔内の刺激感が強まることがあります。
特に運動を伴う活動後の激しい反応には注意が必要で、副作用があった場合には速やかに医師の診察を受けることが進められています。

治療効果と臨床データ

臨床データによると、SLITは花粉症やアレルギー性鼻炎に対して高い有効性を示しており、症状の軽減だけでなく、長期的な寛解や根本的な体質改善へとつながることが報告されています。
特にスギ花粉とダニに対する併用治療では、副作用が管理されつつも、効果が持続することが確認されています。

このようにSLITは、幅広い年齢層に対して効果的で安全なアレルギー治療法として注目されており、今後もその適用範囲と臨床結果に期待が寄せられています。

まとめ

今回の記事では、舌下免疫療法(SLIT)について詳しく解説しました。
SLITはアレルギー性疾患の根本的な治療方法として、特に花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎に効果的です。
従来の薬物療法と異なり、SLITは体内でアレルゲンに対する耐性を徐々に高めることを目的とし、長期的な症状軽減を図ります。
この治療は痛みを伴わず、自宅で行える点も大きな利点です。
2014年以降、保険適用されるようになり、年齢制限が撤廃されたことで子供への適用も拡大しています。
ただし、3〜5年ほどの治療期間を要するため、きちんと治療を完遂することが大切です。
この記事がSLITの理解を深めるのにお役に立てば幸いです。

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。

クリニック一覧

医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。

(医)こころみ採用HP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

カテゴリー:耳鼻科の検査  投稿日:2024-08-29

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

喉頭内視鏡検査

喉頭内視鏡とは? 知っておきたいその役割と検査の流れ 喉頭内視鏡(こうとうないしきょう)検査という言葉を聞いたことはあるでしょうか。 この検査は、喉頭ファイバースコピーともいい、炎症やポリープ、がんなどの病気の診断や、発… 続きを読む 喉頭内視鏡検査

カテゴリー:耳鼻科の検査  投稿日:

聴力検査

聴力検査を受けてあなたの耳の健康を守ろう 私たちの耳は日常生活において非常に重要な役割を果たしています。 しかし、聴力が徐々に低下することに気づかないことも多くみられます。 自分では気づきにくい聞こえの悪さを発見してくれ… 続きを読む 聴力検査

カテゴリー:耳鼻科の検査  投稿日:

ドロップスクリーン

ドロップスクリーンとは?新しいアレルギー検査について解説 日本人の約半数の方がアレルギー性疾患を持っており、これに対応するために多様な診断方法が用いられています。 中でも、アレルゲン特異的IgE抗体検査は広く利用されてお… 続きを読む ドロップスクリーン

カテゴリー:耳鼻科の検査  投稿日:

人気記事

【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用

喘息の長期管理薬とは? 喘息は、気道に慢性炎症が起きて狭くなっている状態です。それが引き金となって気道が過敏になり、ちょっとしたきっかけで咳や息苦しさをくり返します。 喘息の治療は、 炎症を抑え、喘息の悪化や発作を予防す… 続きを読む 【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用

カテゴリー:喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)  投稿日:

SGLT2阻害薬の効果と副作用

SGLT2阻害薬とは? SGLT2(エスジーエルティー・ツー)阻害薬は糖尿病の治療ガイドラインで定められている治療薬のひとつで、膵臓ではなく腎臓に作用することで血糖値を改善する働きがあります。 SGLT2は腎臓に存在する… 続きを読む SGLT2阻害薬の効果と副作用

カテゴリー:糖尿病治療薬  投稿日:

急性扁桃炎

急性扁桃炎の症状、治療法は?何日で治るかについても医師が解説 目次 扁桃炎とは 原因と種類 症状 診断方法 治療 回復期間:何日くらいで治るのか? 予防策 まとめ 扁桃炎とは 扁桃腺は、口と喉の間に位置し、体内に侵入する… 続きを読む 急性扁桃炎

カテゴリー:喉の病気  投稿日: