甲状腺腫瘍を知っていますか?種類と治療法について解説
はじめに
甲状腺は、首の前部に位置する蝶の形をした小さな臓器で、ホルモンの生成を通じて体の代謝を調整する重要な役割を果たしています。
甲状腺腫瘍とは、この甲状腺にできる腫瘍のことで、良性と悪性(がん)の両方があります。
甲状腺腫瘍は比較的珍しいものの、特に女性に多く見られます。
今回は、甲状腺腫瘍について、その種類、症状、診断方法、治療法について詳しく説明します。
甲状腺とは
甲状腺は、首の前側にある小さな臓器です。
蝶々のような形をしており、左右の甲状腺左葉(こうじょうせんさよう)と、甲状腺右葉(こうじょうせんうよう)、そしてそれらをつなぐような部分である峡部(きょうぶ)からできています。
甲状腺の裏側には反回神経(はんかいしんけい)という声帯を動かすための神経があり、さらに奥には気管(きかん)があります。
甲状腺がん 全ページ:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
甲状腺は、甲状腺ホルモンと言われるトリヨードサイロニン(T3)や、サイロキシン(T4)を分泌しています。
その他、カルシトニンというホルモンも分泌しています。
甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にするなどの役割を持っています。
甲状腺腫瘍の種類
甲状腺にできたしこりを甲状腺結節といいます。
そのうち、悪性のものを甲状腺がんといいます。
良性のものは、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)や、腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)、嚢胞などがあります。
2019年の甲状腺がん罹患数は18,780人であり、男性4,888人、女性13,892人でした。
そして、人口10万人あたりの罹患率は14.9人で、男性8.0人、女性21.5人でした。
甲状腺がんは、2017年の全がん罹患数のうち、1.9%を占めるのみであり、比較的まれながんと言えます。
さて、甲状腺がんには、主に以下の4つのタイプがあります。
- 乳頭がん:甲状腺がんの中で最も一般的で、約9割を占めます。ゆっくりと成長するため予後が良好です。しかし、ごくまれに悪性度が高い未分化がんに変化することがあります。
- 濾胞がん:乳頭がんに次いで多く、約5%ほどです。こちらも比較的ゆっくりと進行しますが、骨や肺に転移しやすいです。
- 髄様がん:甲状腺のC細胞から発生し、カルシトニンというホルモンを過剰に分泌することがあります。
- 未分化がん:最も稀で非常に進行が速く、治療が難しいタイプです。
甲状腺腫瘍の症状
初期の甲状腺腫瘍は無症状であることが多く、甲状腺にしこりを感じる以外の症状はありません。
そのため、健康診断での診察での甲状腺の触診(喉のあたりを医師が触れ、リンパ節の腫れや甲状腺の腫大がないかをチェックする)や、他の理由で行った検査で偶然発見されることが少なくありません。
症状が現れる場合、以下のようなものがあります。
- 首のしこりや腫れ
- 声のかすれ
- 呼吸困難や嚥下困難/
- 喉や首の痛み
- 喉の違和感
- 血痰(けったん)
診断方法
甲状腺腫瘍の診断には、いくつかの検査が行われます。
- 超音波検査:甲状腺の状態を詳細に見ることができ、腫瘍の大きさや性質を評価します。
- 細胞診検査:細い針を用いて腫瘍の細胞を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。
- 血液検査:甲状腺ホルモンやカルシトニン、さらにはサイログロブリンという甲状腺ホルモンの元となる物質のレベルを測定し、甲状腺の機能を評価します。
- CTやMRI:腫瘍の大きさや周囲の組織への広がりを詳細に確認するために行われます。
- シンチグラフィ検査:放射性医薬品を飲んだり、あるいは注射したりして、体内から放出される微量な放射線を計測して画像にするという検査です。
治療法
甲状腺腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や大きさ、進行度によって異なります。
- 手術:腫瘍の摘出が一般的で、特に良性の腫瘍や初期のがんでは効果的です。
- 放射線治療:手術後にがん細胞を完全に除去するために行われることがあります。
- ホルモン療法:甲状腺ホルモンの生成を抑える薬を使用することがあります。
- 放射性ヨウ素治療:特に乳頭がんや濾胞がんで有効で、体内のがん細胞を破壊します。
予後とフォローアップ
多くの甲状腺がんは早期発見と適切な治療によって良好な予後が期待できます。
定期的なフォローアップと検査が重要で、再発の有無や治療後の甲状腺機能の監視が行われます。
まとめ
甲状腺腫瘍は初期には無症状であることが多いため、定期的な健康診断が重要です。
発見された場合には、迅速な診断と適切な治療が予後を大きく左右します。
疑わしい症状がある場合や、甲状腺に異常を感じる場合には、専門医の診察を受けることをお勧めします。
健康な生活を維持するために、自分自身の健康状態を常に意識し、必要な検査や治療を受けることが大切です。
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カテゴリー:喉の病気 投稿日:2024-08-03
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