髄膜炎菌ワクチンについて
たった1〜2日で命を奪うこともある、恐ろしい感染症をご存知ですか?
侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、初期症状が風邪と似ているため見逃されやすいものの、急速に進行し重篤化する可能性がある非常に危険な病気です。
世界保健機関(WHO)によると、治療を受けなければ死亡率は50%にも達します。
IMDの怖さはそれだけではありません。
たとえ命を取り留めても、後遺症として聴覚障害や四肢の切断など、生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。
今回は、IMDを含む髄膜炎菌感染症から身を守るための「髄膜炎菌ワクチン」について解説します。
予防できる病気 | 髄膜炎菌感染症 |
---|---|
定期接種 / 任意接種 | 任意接種 |
ワクチンの種類 | 不活化ワクチン |
接種方法 | 筋肉内注射 |
接種開始時期 | 原則、2歳以上 |
費用 | 2万円前後(医療機関により異なります) |
髄膜炎菌感染症はどんな病気?
髄膜炎菌感染症は、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)によって引き起こされる感染症で、軽症から重症までさまざまな病態を含みます。
髄膜炎菌感染症の症状
髄膜炎菌感染症の初期症状は風邪に似ており、発熱、頭痛、吐き気などが見られます。
そのため、早期診断が難しい場合があります。
進行すると、項部硬直(首が硬くなり前に曲げられない)や光過敏(光に対する異常なまぶしさ)、意識混濁や錯乱、皮膚に赤や紫の斑点ができるなどの症状が現れます。
感染経路
髄膜炎菌感染症は、咳やくしゃみなどの飛沫感染で人から人にうつります。
髄膜炎菌は健康な人の鼻咽頭にも存在することがあり、誰でも感染する可能性があります。
髄膜炎菌に感染しても、必ずしも発症するわけではなく、多くの場合、無症状で終わります。
しかし、乳幼児や免疫力が低下している人、集団生活を送る若者は注意が必要です。
侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)について
髄膜炎菌感染症の中でも、特に重症な病態が「侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)」です。
髄膜炎菌が血液や脳を包む髄膜に侵入し、激しい炎症を引き起こします。
IMDの特徴
- 初期症状は風邪に似ているため早期診断が困難
- 進行が非常に早い(発症から1〜2日で重篤化)
- 高い致死率と後遺症のリスク
IMDの治療と予後
治療には抗菌薬が用いられます。
適切な治療を受けても、発症後24〜48時間以内の死亡率は5〜10%と高く、治療を受けなければ死亡率は50%にも達します。
回復した場合でも、約20%の人に聴覚障害や神経障害、壊疽による手足の切断などの重い後遺症が残ることがあります。
髄膜炎菌感染症の濃厚接触者には、予防的に抗菌薬の投与が推奨されます。
具体的な予防策の実施については、各地域の保健所や医療機関の指示に従ってください。
髄膜炎菌ワクチンの予防接種について
髄膜炎菌感染症を予防するための最も効果的な手段は、髄膜炎菌ワクチンの接種です。
日本では2015年からこのワクチン接種が可能になりました。
髄膜炎菌には、A群、B群、C群、W群、Y群の主要な血清型があります。
現在、日本では任意接種となっていますが、ワクチンを接種することで感染リスクを大幅に減らすことができます。
ワクチンの接種スケジュール
ワクチンの種類 | 血清型 | 対象年齢 | 接種回数とスケジュール |
---|---|---|---|
メンクアッドフィ® | 血清型A、C、Y、W-135に効果 | 2歳以上 | 1回接種 |
Menveo® | 血清型A、C、Y、W-135に効果 | 2歳以上 | 1回接種 |
Bexsero® | 血清型Bに効果 | 10〜25歳 | 2回接種(1か月以上の間隔) |
Trumenba® | 血清型Bに効果 | 10〜25歳 | 3回接種(初回から1〜2か月後に2回目、6か月後に3回目) |
日本では、原則として2歳以上から接種できます。
アメリカ、オーストラリア、イギリスなど、髄膜炎菌ワクチンが定期接種に組み込まれている国もあります。
留学の際には接種証明の提出が必要となる場合がありますので、事前に確認しておきましょう。
髄膜炎菌ワクチンの効果と副反応
髄膜炎菌ワクチンは、おおむね80〜95%の予防効果があり、重症化を防ぐ点でも非常に効果的です。
定期的な追加接種によって、長期にわたる免疫の維持が可能です。
安全性も高く、副反応としては接種部位の痛みや赤み、腫れなどがみられる程度で、通常数日以内に治まります。
髄膜炎菌ワクチン接種が特に推奨されるケース
- 髄膜炎が流行している地域へ渡航する予定の人
- 集団生活を送っている人、これから集団生活を送る予定がある人
- 大勢が集まる場所に行く予定の人(コンサート、スポーツ観戦など)
- 免疫力が低下している人
アフリカには「髄膜炎ベルト」と呼ばれる髄膜炎菌感染症の流行地域があります。
セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリアなどを含む、サハラ砂漠以南の国々です。
12月から6月の乾季に流行することが多いため、この時期に渡航や長期滞在を予定している人は、髄膜炎菌ワクチンの接種を強くおすすめします。
髄膜炎ベルト以外でも、髄膜炎菌感染症は世界各国で報告されています。
渡航前に、最新の流行情報を確認するようにしましょう。
学校や保育園への対応:出席停止の対象
髄膜炎菌感染症は、学校保健安全法で「第二種学校感染症」に指定されています。
感染拡大を防ぐため、医師から感染の心配がなくなったと診断されるまで、学校や保育園への出席は停止となります。
登校再開には、医師の診断書や登校許可証が必要になる場合があります。
具体的な手続きについては、学校や園にご確認ください。
ワクチン接種を受けて合併症リスクを減らそう
髄膜炎菌感染症は、発症すると重篤な合併症を引き起こす可能性がある怖い病気です。
しかし、ワクチン接種によって予防することができます。
お子さんが集団生活を送る場合や、海外渡航を予定している場合は、ぜひかかりつけ医に相談し、必要なワクチンについてよく相談しましょう。
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カテゴリー:こどものワクチン 投稿日:2025-03-31
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