アナフィラキシー

アナフィラキシーの原因・症状・治療

アナフィラキシーとは

アナフィラキシーとは、過剰なアレルギー反応がおこり全身に強い症状が現れる病気です。さらに血圧低下や呼吸困難、意識障害などをきたすことをアナフィラキシーショックといい、命に関わることがあります。

また、症状が落ち着いてから数時間後(4~12時間)に再び症状が出現することもあります。これは、二相性反応とよばれ、はじめの症状より強くでることがあるため注意が必要です。

アナフィラキシーの誘因

食べる、刺される、触れる、注射するなどの方法で、アレルギーをひきおこす原因物質(アレルゲン)が体内に侵入しアナフィラキシーがおこります。

なお、アナフィラキシーの発生率は増えていますが、死亡率の大きな変化はないとされています。

食物

アナフィラキシーの誘因は食べ物がほとんどです。原因食物で多いのは、鶏卵、乳製品、小麦、木の実類などが挙げられます。なかでも、ショック症状を誘発したものは鶏卵、牛乳、小麦、木の実 などで、くるみやカシューナッツなどの報告例が増えています。

また、食べただけではアレルギー症状が出ず、摂取後の運動負荷による「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」に注意が必要です。これは、運動が腸からのアレルゲン吸収に影響するためにおこります。原因となる食物の摂取後2時間以内の運動で発症することが多いとされていますが、最大で4時間経過 して発症することもあります。なお、運動以外に誘発されるのは、鎮痛剤の服用や疲労、入浴などです。

医薬品

レントゲン検査時などに使用される造影剤でアナフィラキシーが発症します。特に気管支喘息の既往があると重症化する可能性があるため注意が必要です。

この他に、輸血やワクチンなどの生物学的製剤、抗生物質や解熱鎮痛剤などの医薬品が原因になることがあります。

最も注意するのは薬剤投与後の5分間です。数時間後や24時間以降に発生するケースや、何度も使用した医薬品でもおこります。

昆虫

ハチではアシナガバチやスズメバチ、ミツバチで、アリはオオハリアリ、ヒアリなどの昆虫毒が原因になります。

ハチに2回刺されると免疫が過剰に反応し、危険だといわれますが、初回でも安心はできません。ハチのもつヒスタミンなどの化学物質により、多数で頻回に刺されるとアナフィラキシー様反応をおこすことがあります。

なお、ヒアリの毒にはハチ毒と共通した成分が含まれており、ハチ毒アレルギーを持つ人は注意が必要です。

昆虫毒によるアナフィラキシーの発症リスクは、住んでいる地域環境によって異なります。職業との関連もあり、発症は大人に多いとされていますが、レジャーやスポーツで自然の多い場所へ行くときは昆虫毒に注意をしてください。

ラテックス(天然ゴム)

ラテックスはゴムの成分です。医療用の手袋や乳児用のおしゃぶり、風船などの身近な日用品に含まれており、皮膚や粘膜からアレルゲンが吸収されます。

また、ラテックスアレルギーを持つ人が特定の食べ物を摂取してアレルギー症状がおこるものをラテックスフルーツ症候群といいます。クリ、バナナ、アボカド、キウイなどの成分が似ているために、体が異物として認識するためです。

その他の誘因

  • アニサキス(寄生虫)
  • 食品添加物
  • 食品中の色素
  • 人工甘味料(エリスリトール)
  • ゲル化剤(ペクチン)

刺身や寿司など生の海産物を食べて腹痛をおこすことで知られているアニサキス(寄生虫)によるアニサキスアレルギーがあります。また、食品の添加物もアナフィラキシーの誘因となることがあります。

アナフィラキシーの症状

数分で死に至ることもあるアナフィラキシーは、原因やその人によって症状が異なり、典型的な症状がでない場合もあります。

呼吸停止や心停止までの時間はアレルゲンが吸収される具合によって異なり、薬物5分、ハチ15分、食物30分と報告 されています。一命を取り止めても、脳にダメージを残すおそれがあるため、速やかに医療機関を受診してください。

症状の一例 は以下の通りです。

皮膚・粘膜 赤み、かゆみ、蕁麻疹、口内違和感、目やまぶたの腫れ
呼吸器 鼻水、のどがつまった感じ、声がかすれる、犬が吠えるような咳
消化器 吐き気、腹痛、下痢
心血管系 胸の痛み、脈が速くなる、動悸、血圧低下、失神、心停止
中枢神経系 不安(子供の場合は突然の行動変化)、頭痛、恐怖感、意識の混濁

子供の場合は症状を説明できないことが多いため、機嫌が悪い、元気がない、寝てしまうなどの様子を観察してください。

なお、喘息発作や過換気症候群、不安などアナフィラキシーと似ている症状もあります。なかでも間違われやすいのが血管迷走神経反射で、予防接種や採血時などに失神や血圧低下をおこすものです。これは、痛み刺激や恐怖などが自律神経調節に関与するためにおこります。これらには皮膚や粘膜症状は出ません。

アナフィラキシーがおこった場合

アナフィラキシーは、自宅や学校など病院以外の場所でおこることが多いです。迅速な対応が必要になるため、119番通報をして救急車をよぶことも検討してください。

また、エピペンが処方されている人は速やかに使用し、呼吸停止やショック状態に陥った場合は、AEDを利用した心肺蘇生が必要です。

緊急時は、できるだけ多くの人を呼びましょう。症状の観察や救急隊員の誘導、病院へ行く準備、関係者への連絡など周囲の人の協力が不可欠です。

原因となるものを除去する

アレルゲンをできるだけ早く除去することが重要で、口に入れた時は口から出してすすぎます。介助する場合は、原因になっているものを飲み込まないように注意して吐かせてください。

皮膚についた場合は、十分な水で洗い流します。このとき、手で目をこすらないように注意しましょう。

なお、ハチに刺された場合には、介助者の口で毒を吸い出したり、無理に毒を出そうとして皮膚をもみこんだりしてはいけません。ハチ毒アレルギーのある方は、市販されている専用の吸入器を携帯する方法もあります。

体位に注意する

アナフィラキシーがおこったときに、急に体勢を変えると数秒で急変する可能性があります。

基本はあおむけで安静にし、両足を30センチほど高くすると臓器への血流が確保され、血圧上昇に期待ができます。

また、嘔吐による窒息を防ぐため、顔は横に向けてください。寝ると呼吸が苦しい場合は座るようにガイドライン では示されています。

アナフィラキシーの治療

治療の第一選択はアドレナリンの投与です。アドレナリンは体内に存在するホルモンの一種で、普段の生活で怒ったり、興奮したりすると分泌されます。

アナフィラキシー治療においてアドレナリンの絶対禁忌 はありません。心疾患のある高齢者や、妊婦の場合でも母体を守ることが胎児を守ることにつながるため、アドレナリン筋肉注射は適応されます。

エピペン®の使用

アドレナリンの自己注射薬であるエピペン®は、ペンタイプで針が見えない形状になっており、症状の進行を一時的に緩和する補助治療薬です。すぐに効果が表れますが、持続時間が短い特徴があります。

なお、副作用として動悸やしびれなどの報告 はありますが、自然回復が見込めます。

速やかに使用する

副作用をおそれず直ちに投与することが大切です。緊急時にやむをえない場合に、保護者や教員などが薬物を投与しても医師法違反にはなりません。

正しく使用する

エピペン®は上下先端のどちらにも親指をかけないよう持ち方に注意が必要です。

太ももの外側に投与し、緊急時には衣類の上からでも注射が行えます。投与部位が動かないよう固定し、投与後にカチッと音がするまで強く押し付けましょう。

誤った使用例の報告もあり、日頃から練習用具を活用したトレーニングを行うことが大切です。

備えておく

外出時には必ずエピペン®を携帯しましょう。夏場の持ち歩きには注意をして、高温になりやすい車内に置かないなどの対策をしてください。また、落とすと破損をする可能性もあります。

自宅では冷蔵庫に入れず、幼児の手の届かないところなど適切な場所に保管します。災害時にも持ち出せるようにしておくことが非常に重要です。

なお、飛行機の持ち込み時には所持品検査でトラブルになることも考えられるため事前に連絡をしておきましょう。

使用期限のあるエピペン®を適切に保管して、緊急時に備えることが大切です。

根本的治療

アレルゲンに少しずつ体を慣らし、過剰なアレルギー反応をおこさないための根本的治療がアレルゲン免疫療法です。

食物アレルギーにおける経口免疫治療は、症状が悪化するリスクもあるため一般診療として推奨 されず、条件を満たした専門医のもとで行われます。

なお、ハチ毒アレルギーに対するアレルゲン免疫療法は有効ですが、日本では保険適応になっていません。

対症療法

症状の緩和目的で行われる対症療法には、アレルギー反応に関与するヒスタミンの作用をブロックする抗ヒスタミン薬や免疫系の働きを抑制するステロイドなどがあります。また、気管支拡張薬は、呼吸状態の改善に役立つ場合があります。

アナフィラキシーの予防

原因となるアレルゲンを避けます。ただし、食物アレルギーの場合における過度な食事制限は、子供の成長発達に影響するため、医師に相談することが重要です。

子供が大きくなると活動範囲が広がり保護者の目が行き届かないため、友人や兄弟の食事を誤って食べてしまうケースも考えられます。いつもと違った環境でも子供自身が対処できるように、普段から家庭内で話し合うことが大切です。園や学校とも情報を共有しておきましょう。

また、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーに対しては、食後にすぐ運動をしないよう注意してください。

これとは別で、ハチがいる場所へ出かけるときは、黒っぽい色や花柄、フリルのついたひらひらした服は避け、腕や足が露出しないようにしましょう。ハチは甘い匂いに誘われる習性があり、ヘアスプレーや香水などを使用しない方が無難です。また、飲みかけの空き缶に入り込んだハチに刺されたケースもあります。

なお、手でふりはらうとハチは敏感に反応するため、慌てず静かに移動します。興奮したハチが集団で襲ってくることも考えられます。下の方は見えにくいハチの習性を利用して、かがんで姿勢を低くして移動してください。

まとめ

アナフィラキシーとは、過剰なアレルギー反応がおこり全身に強い症状が現れる病気です。

食物や医薬品、昆虫毒などが誘因となり、血圧低下や呼吸困難、意識障害などのアナフィラキシーショックをきたすことがあります。

アナフィラキシーは命に関わることも多く、迅速な対応が必要です。

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カテゴリー:通年の子供の病気  投稿日:2024-05-30

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