子どもの腹痛
「お腹が痛い…」
子どもがこのように訴えると、保護者としてはとても心配になりますよね。
腹痛には、症状の軽いものから、緊急性の高いものまで様々あります。
症状が軽そうだからと様子を見ているけれど、本当にこのまま病院に連れて行かなくても大丈夫かな?と不安になることもあるのではないでしょうか。
実際に急性腹症と言われる、急な腹痛では、治療の開始が遅くなると命に関わるリスクがあります。
そのため、緊急性が高く早急に治療を開始するべき腹痛なのかどうかを見分けることはとても重要です。
この記事では、子どもがよく起こす腹痛を主症状とする疾患の中から、頻度の多い疾患、緊急性の高い疾患を中心に解説していきます。
急性腹症
各疾患の解説をする前に、見逃してはいけない急性腹症という腹部症状について解説します。
急性腹症とは、突然お腹が痛くなり、すぐに観察や治療が必要な状態の腹痛です。
子どもが腹痛を訴えた際に、急性腹症かそうでないかがわかるだけでも、安心できるかもしれません。
- 突然の強い腹痛:急にお腹が痛くなります。痛みが一時的に和らぐこともありますが、また強くなることがあります。
- 他の症状を伴う:吐き気、嘔吐、発熱、食欲がない、下痢や便秘などの症状が一緒に現れることが多いです。
- お腹の痛みの特徴:
・お腹を軽く押すと強い痛みを感じる。
・手を離したときに、さらに痛みが増す場合があります。このようなときは特に注意が必要です。 - お腹が硬く感じる:お腹を触ると張っていて硬い感じがすることがあります。
【急性腹症の特徴】
急性腹症で生じる痛みは、お腹の中で何か重大な異常が起きているサインです。
お腹の内側の膜が炎症を起こしたり(腹膜炎)、感染が全身に広がったり(敗血症)、腸の一部が機能しなくなったり(腸がダメになる)といった、命に関わる状態になるリスクがあります。
放置すると危険ですので、強い腹痛や嘔吐、発熱などの症状が出たら、すぐに病院で診察を受けましょう。
ちなみに、急性腹症の原因となる疾患には以下のようなものがあります。
- 急性虫垂炎
- 腸閉塞
- 腸重積
- 胆嚢炎や胆石症
【急性腹症を考える代表的な病気】
腹痛を主症状とする疾患
ウイルス性胃腸炎
【症状】腹痛、下痢、吐き気、発熱
腹痛の原因としてよく見られるのがウイルス性胃腸炎です。
ロタウイルスやノロウイルスなどが原因となり、お腹の中にウイルスが入り込んで腹痛が起こります。
多くの場合、特別な治療をしなくても数日で良くなりますが、症状を和らげる薬を使いながら様子を見ることがあります。
便秘
【症状】腹部の膨満感、腹痛、排便困難
生活習慣や食事の偏りによって、便秘が腹痛の原因となることも多くあります。
また、便秘は、徐々に進行し、嘔吐を伴わず、腹痛も比較的軽度であることが多いです。
子どもの便秘の多くは、特別な病気が原因ではなく、生活習慣によるものです。
例えば、トイレを我慢する習慣があったり、食事の内容で便が硬くなって出にくくなったりすることで起こります。
水分摂取を促し、食物繊維を含んだ食事の摂取や規則正しい生活習慣になっているかを見直しましょう。
また、適度な運動や決まった時間(例えば、朝食後など)にトイレに行って排便しようとしてみるといった排便習慣をつけることは有効な方法とされています。
機能性腹痛(過敏性腸症候群など)
【症状】慢性的な腹痛、特にストレスや不安が伴う、下痢または便秘
検査をしても特に原因となる病気が見つからない場合、「機能性腹痛」と呼ばれることがあります。
これは、ストレスや生活習慣などが関係してお腹が痛くなる状態です。
まずはストレスや不安を取り除くことが重要となります。
リラックスできる環境を整えてあげましょう。
そのためには、規則正しい生活や十分な睡眠時間の確保が重要です。
また、適度な運動もストレス解消に役立ちます。
子どもが不安になると、腹痛の再燃や悪化の可能性があるので、優しくサポートしながら、症状が落ち着くまで見守りましょう。
急性虫垂炎
【症状】腹痛、吐き気・嘔吐、発熱、便秘や下痢、腹部の圧痛
急性虫垂炎(盲腸炎)とは、虫垂(ちゅうすい)という腸の一部に炎症が起こる病気です。
虫垂炎の主な原因は2つあります。
- 詰まりによる炎症:虫垂の中に便や食べ物のカスが詰まり、細菌が増えて炎症が起こります。
- 細菌感染による炎症:詰まりがなくても、細菌が直接虫垂に感染して炎症を引き起こすことがあります。
幅広い年齢に生じますが、10〜20歳代に好発し、小児の急性腹症の原因として最も多い疾患となります。
右下部の激しい痛みが特徴で、みぞおちから右下腹部に痛みが移動している場合には特に注意が必要です。
放っておくと、虫垂が破れて細菌がお腹の中に広がることがあります。
そうなると、お腹の内側の膜が炎症を起こしたり(腹膜炎)、腸が詰まったり(腸閉塞)するリスクが高まり、手術が必要になります。
腹痛(特に、移動する腹痛)と同時に嘔吐や発熱などがある場合は、すみやかに医療機関を受診しましょう。
炎症の程度によっては、絶食と抗生剤投与で保存的に様子を見ることもありますが、腹膜にまで炎症が及んでいたり、虫垂が破れていたりする場合は緊急手術となります。
腸重積
【症状】突然の腹痛、嘔吐、血便(イチゴゼリー状の血便)
腸重積は特に生後6ヶ月〜2歳くらいの年代に多く見られ、腸重積で起こる激しい腹痛は急性腹症に該当します。
緊急の治療が必要な代表的な疾患です。
腸重積の好発年齢的に、痛みを直接訴えることができない場合は、現れている症状から保護者が症状を見逃さず判断することが重要になります。
- 嘔吐:何度も吐くことがあります。初めは食べたものを吐くだけですが、症状が進むと緑色や黄色の液体(胆汁)が混じったものを吐くことがあります。
- 間欠的な腹痛による啼泣や不機嫌:子どもが突然激しく泣き、不機嫌や啼泣を繰り返す場合、特に数分ごとに痛みが強くなったり、痛みが和らいでまた泣き出したりという発作的なパターンが見られる場合は要注意です。
- イチゴゼリー状の血便:血液と粘液が混じった便が出た場合は、腸重積の可能性が高い緊急症です。血便が確認できた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
腸重積は、腸の一部が他の腸管に入ってしまうことで発症します。
入り込んでしまった腸は、通り道が塞がれて食べ物やガスが通れなくなったり、血液の流れが悪くなったりします。
その結果、腸の一部がダメになってしまう(腸管壊死)リスクがあります。
腸管壊死が進行すると、さらに感染や腹膜炎を引き起こす可能性があり、これが腸重積の緊急度が非常に高い理由です。
発症から経過が短い場合は、「高圧浣腸」と呼ばれる治療が行われます。高圧浣腸で腸重積が解除できない場合や、腸が壊死している可能性がある場合は、外科手術が必要になります。
腸重積は治療後に再発することがあるため、治療後もしばらくの間は子どもの状態を注意深く観察しましょう。
再発の兆候が見られた場合は、再び医療機関を受診してください。
腸閉塞(イレウス)
【症状】腹痛、嘔吐、腹部の膨満、便やガスが出なくなる
腸閉塞は、腸のどこかが詰まったり、ねじれたりして、食べ物や消化液、ガスが通れなくなる状態のことです。
子どもの腸閉塞の多くは、腸が何かで詰まってしまうことが原因です。
腸重積や、生まれつき腸がうまくつながっていない(先天性の腸閉鎖)などが主な原因です。
ちなみに、腸重積は腸管が重なり合う特殊な腸閉塞の一種です。
しかし、腸管壊死やそれに伴う重篤な合併症のリスクがあるため、緊急度・重症度は高く、迅速な治療が必要です。
保護者としては症状を見逃さず、早めに医療機関に受診させることが重要になります。
急な腹痛、胆汁(緑色)の混ざった嘔吐、腹部の膨満感(お腹の張りや硬さ)が認められた場合には、すみやかに医療機関を受診しましょう。
気をつけてほしい点として、医療機関を受診するまでの間に食べ物や飲み物は与えないようにしてください。
嘔吐を繰り返していることから、脱水や、少しでも食べられるものをと心配される場合もあるかもしれませんが、食べ物が腸内に入ると症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。
腸閉塞の治療は、状況によって3つの治療が検討されます。
①保存的治療(手術を必要としない治療)、②高圧浣腸治療、③外科手術です。
①保存的治療
軽度の腸閉塞の場合は保存的治療が選択されます。
- 絶食:腸を休ませるため、食べ物や飲み物の摂取を中止します。
- 点滴:絶食中は点滴で水分や栄養を補給します。
- 鼻から胃へのチューブ(胃管)挿入:腸に溜まったガスや液体を排出して、腸内の圧力を減らし、症状を軽減させます。これによって腸の動きが回復する場合もあります。
②高圧浣腸治療
特に腸重積に対しては、高圧浣腸という治療が行われることがあります。
肛門から高圧の液体や空気を入れ、腸内の圧力を上げて腸重積を解除する方法です。
これで症状が改善しない場合は手術が検討されます。
③外科手術
腸が物理的に詰まったり、ねじれたりしている場合や、腸の壊死が疑われる場合は、外科手術が必要です。
便秘と腸閉塞(イレウス)の違い
便秘と腸閉塞は、便が出にくくなるという点では便秘と共通する部分はあります。
たとえば、ひどい便秘を放置すると、便が大量に溜まって腸の働きを妨げることがあります。
これは腸閉塞に似た症状を引き起こしますが、便秘が直接腸閉塞の原因になることはあまりありません。
腸閉塞では、突然の激しい腹痛や嘔吐が特徴で、症状の進行が急速です。
便秘の腹痛は、鈍い痛みや、便を出したいけれど出ないという不快な感じが多いです。
一方、腸閉塞の腹痛は、急に強い痛みが波のように繰り返し襲ってくるのが特徴です。
そして、便秘では通常嘔吐はありませんが、腸閉塞では食べたものや胆汁などを吐くことがよくあります。
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カテゴリー:よくある子供の症状 投稿日:2024-11-07
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