子どもの黄疸
眼球の白目や皮膚が黄色くなる黄疸。
この記事では子供の黄疸に関して、症状や、原因、黄疸が現れる疾患、治療法などについて解説します。
黄疸とは(症状)
黄疸とは、皮膚や白目が黄色くなる状態で、血液中のビリルビンという黄色い色素が増加することで起こります。
ビリルビンは、体内で古くなった赤血球が分解されるときに血液中に放出され、肝臓で処理されると胆汁と混ざって腸管に排出されます。
何らかの理由でビリルビンが体内に過剰に溜まると、黄疸として現れます。
子供で現れる黄疸の約90%が1歳未満に現れるとされているのですが、その理由は赤ちゃんの肝臓がまだ未熟なため、一時的にビリルビンの処理が十分にできないことが挙げられます。
黄疸の症状
黄疸が現れると、以下のような変化が見られます。
- 皮膚や白目の黄染:黄疸の最も典型的な症状。最初に白目・顔に現れ、その後体や手足に広がる
- 眠気:ビリルビンの増加により赤ちゃんが過剰に眠気を感じやすくなる
- 食欲不振:眠気のために授乳への関心が低下し、食欲が減少する
- 尿の色の変化:尿が濃い黄色や茶色になることがある
- 便の色の変化:胆汁の排出が妨げられると便の色が薄く白っぽくなることがある
このような黄疸の影響によって、体重増加の遅延や脱水症状などが起こります。
また、高濃度のビリルビンが蓄積することによって脳がダメージを受ける場合もあります。
ビリルビンの値が非常に高くなると、ビリルビンが血流によって脳に沈着します。
これを核黄疸(ケルニクテラス)と呼ぶのですが、核黄疸は脳の特定の領域にダメージを与え、重篤な脳へのダメージを与える可能性があります。
具体的には永久的な神経学的障害(運動障害、聴覚障害、視覚障害、知的障害)や発達遅延などです。
黄疸の観察方法
- 自然光の下で観察しましょう
- 白目の色を観察する
- 圧迫試験
- 便や尿の色を観察する
- 赤ちゃんの行動を観察する
黄疸の判断は人工照明の下では難しい場合があります。
自然光の下で、まずは眼球や顔、体や手足の順に黄色みが広がってないかを観察しましょう。
眼球の白目の黄染は黄疸の初期兆候の一つで、体の黄染よりも早く現れます。
体の黄染がわかりにくい場合は、皮膚を軽く圧迫して色の変化を観察する“圧迫試験”を試すとわかりやすいかもしれません。
圧迫試験は、指で赤ちゃんの皮膚を軽く押してから離し、押した部分の色が黄色いかどうかを確認します。
通常は一時的に白くなりますが、黄疸がある場合は黄色く見えます。
額、鼻、胸などの部位で試してみてください。
ビリルビンの排出が妨げられている場合、便の色が淡黄色や白色に近い色に、尿が通常よりも濃い黄色や茶色に変化します。
新生児の場合は、母子手帳のスケールと照らし合わせながら判断しましょう。
子どもに黄疸が現れる疾患
黄疸が現れる具体的な疾患の解説の前に、なぜ新生児に黄疸が生じやすいのかを解説したいと思います。
新生児期に黄疸が現れやすい理由(新生児期の黄疸の成り立ち)
黄疸は、血液中のビリルビンという黄色い色素が増加することで起こると解説しました。
子供に現れる黄疸の大部分は新生児期に起こることが多いのですが、その理由はお腹の中にいるときに胎盤を経由して様々な物質のやり取りをしていたことが関係しています。
ビリルビンは、酸素を運ぶ役割の赤血球に含まれています。
赤血球は約120日の寿命を迎えると脾臓で壊されるのですが、この時に赤血球内からビリルビンが生成され血液中に放出されます。
胎児の時は胎盤を通じて母親にビリルビンの処理をしてもらっていましたが、出産後はこのビリルビンの処理を自身で行わなければならなくなります。
しかしながら、新生児では肝機能が未熟なため、処理が追いつかず血液中のビリルビン値が高くなると黄疸として現れるのです。
このような黄疸が現れる仕組みを前提として、病的な黄疸が現れる原因が以下のように大別できます。
- 大量の赤血球が異常に早く破壊される→ビリルビンが過剰に生産され蓄積される=溶血性黄疸
- 肝臓機能低下によってビリルビンの処理能力が低下→ビリルビンの処理が遅れることで蓄積される=肝細胞性黄疸
- 肝臓から腸内に排出される経路が何らかの原因で閉ざされる→ビリルビンが排出されずに蓄積する=閉塞性黄疸
- 新生児の肝機能の未熟さや、母乳によるビリルビン代謝の妨げなど→一時的なビリルビンの蓄積=その他(生理的黄疸・母乳黄疸)
発生頻度としては、多い順に以下になります。
- 生理的黄疸
- 母乳黄疸
- 新生児溶血性黄疸(血液型不適合)
- 新生児肝炎
- 胆道閉鎖症
①②は生理的な黄疸と言えますが、③④⑤は病的黄疸と分類されます。
生理的黄疸
生理的黄疸は生後2〜3日目に発症し、通常は生後1〜2週間で自然に改善します。
ほぼすべての新生児に多かれ少なかれ認められる一般的な現象です。
この生理的黄疸は先に解説した新生児期に黄疸が現れる特有の理由によって生じる現象で、1歳未満、特に生後数週間以内に限定して発症します。
母乳黄疸
母乳黄疸は、母乳に含まれる特定の成分がビリルビンの代謝を一時的に妨げることがあり、それによってビリルビンが体内に蓄積します。
母乳黄疸も生理的黄疸と同様に、病的な状態ではなく、一時的な現象です。
母乳黄疸は生後1週間から2週間後に発症することが多く、通常は生後3〜4週間でピークに達し、生後数週間から数ヶ月間続くことがあります。
多くの赤ちゃんは特別な治療を必要とせず、肝機能が成熟することでビリルビンの処理能力が向上し、通常は生後3〜4ヶ月頃までに改善されます。
母乳に起因する母乳黄疸ですが、黄疸が発生しても母乳を継続することが推奨されています。
その理由は、母乳黄疸は一時的な現象であり、母乳のメリット(栄養価・免疫力の向上・母子の絆)の方が大きいからです。
適切なモニタリングと必要に応じて光線療法などの治療を行うことで、母乳の利点を受けながら黄疸を管理することが可能です。
新生児溶血性黄疸(血液型不適合)
母子の血液型が異なることで発症する新生児溶血性黄疸は、病的黄疸です。
母親の血液型がO型、赤ちゃんがAないしB型の場合に発症します。
妊娠の約10%で発生し、そのうち1〜2%の新生児に臨床的に顕著な溶血性黄疸が発生するとされています。
血液型不適合による新生児溶血性黄疸は、母親の免疫系が胎児の赤血球を攻撃することで起こります。
胎児と母親の血液循環は密接に関係していますが、胎盤を介しているので直接的に混ざり合うことはありません。
しかし、母親の抗体の一部が胎盤を通過することで胎児の赤血球を攻撃し破壊してしまうのです(※赤血球が破壊されることを、溶血と言います)
胎内にいる時から溶血が起こっているとされますが、ビリルビンは胎盤を通じて母親に処理されるために問題になりにくいと考えられています。
出産後は、母親から移行した抗体の影響によって溶血が続くにもかかわらず、新生児の肝臓が未熟なためにビリルビンが処理できず、黄疸として現れます。
溶血性黄疸では黄疸の症状の他にも、赤血球が壊されることで、貧血の症状と肝脾腫に関連する症状が現れます。
具体的には、
- 貧血による、皮膚の蒼白、元気がない(活動量低下)、食欲不振、頻繁な呼吸(速い呼吸、息切れ)
- 肝脾腫による、腹部の膨らみ、不機嫌
黄疸がある場合はその影響で食欲不振や皮膚の蒼白、活動低下などの症状が見分けにくいことがあります。
そのため、呼吸状態や腹部の観察が重要な判断材料になります。
血液型不適合による新生児黄疸は出生前にリスクを評価することができます。
具体的には、母親がO型で、父親がA型またはB型の場合です。
両親がこれに当てはまり、赤ちゃんに黄疸が現れている場合は、溶血性黄疸も考慮しながら、観察してくことが重要でしょう。
新生児溶血性黄疸の治療は、多くのケースで光線療法が行われます。
また、免疫グロブリンが赤ちゃんに投与されることもあります。
免疫グロブリンは、簡単に言うと抗体の集まりのようなものです。
症状を発症している赤ちゃんに投与することで、過剰な免疫反応を抑える効果があります。
ごく稀な重症例には交換輸血が行われます。
新生児肝炎
新生児肝炎では、肝臓の炎症によって肝機能が低下することから、ビリルビンを処理できなくなり黄疸が現れます。
新生児肝炎は胆汁うっ滞・肝炎を引き起こしているにもかかわらず、胆管疾患・感染症・先天性代謝異常などの疾患が除外された、原因不明の場合に新生児肝炎と診断します。
新生児肝炎では、多くの場合が最初に黄疸が現れますが、黄疸によって引き起こされる症状や影響以外にも、肝機能低下によって生じる症状があります。
具体的には、
- 肝脾腫による、腹部の膨らみなど
- 肝機能低下による、出血傾向、栄養素の吸収障害
新生児肝炎は予後が良好なので、保存的治療を行いながら経過観察をすることが多く、1歳ごろまでには軽快するとされています。
保存的治療の内容としては、
- 脂溶性ビタミンの補充(ビタミンA・D・E・K)
- 脂肪乳剤の投与
- 胆汁排泄を促進するための、ウルソデオキシコール酸の投与
- 光線療法
胆道閉鎖症
胆道閉鎖症は、胆汁の通り道(=胆道)が何らかの原因で閉ざされ、胆汁が排出されないことによって黄疸が現れる、閉塞性黄疸に分類されます。
先天的に胆道が閉鎖している場合や、原因不明に何らかの炎症によって胆道が閉鎖する場合があり、1万人に1人の頻度で発症するとされています。
胆道閉鎖症では、胆汁うっ滞によって肝臓そのものや、肝内胆管の障害が日々進行すると肝硬変に至るため、できるだけ早期に手術が必要とされています(生後60日以内に施行する、30日以内が望ましい)
新生児期〜乳幼児期早期に、黄疸・便色異常・濃褐色尿・肝腫大のいずれか1つでも認められると、胆道閉鎖症を疑い精査を行います。
早期の診断と治療が鍵となります。
治療法は葛西手術という、閉じている胆道をバイパスし、胆汁が肝臓から直接小腸に流れるようにする手術が行われます。
胆道閉鎖症では直接ビリルビンが上昇するので、光線療法は用いられません。
早期に手術が行われると、胆汁の流れが正常に戻り肝機能は改善します。
しかし、一部の患者では肝臓の損傷が進行し肝移植が必要となることがあります。
また、肝機能の低下からビタミンKの吸収障害をきたすと、出血しやすくなることから、脳出血などを合併する場合もあります。
黄疸の治療法
光線療法
光線療法とは新生児黄疸の治療法で、体に負担をかけない非侵襲的な治療法です。
治療のための青色の光を照射することで、ビリルビンを分解し体外に排出しやすくします。
正常なビリルビンの代謝の流れとしては、赤血球から分離されたビリルビンは正式には”間接ビリルビン”と言い、肝臓での処理を受けると”直接ビリルビン”に変化します。
そして、直接ビリルビンは胆汁の主成分となって、腸内に排出されます。
光線療法では、光のエネルギーを使って間接ビリルビン→直接ビリルビンに変化させるので、閉塞性黄疸などで増加した直接ビリルビンには効果を発揮しません。
光線療法の具体的な方法としては、黄疸のある新生児を保育器の中に寝かせ全身に光を照射するというものになります。
照射する光に網膜毒性と性腺毒性があるため、目の保護とオムツを着用しながら行われます。
交換輸血
重度の新生児溶血性黄疸の場合には、交換輸血が行われます。
交換輸血とは、透析のように血液を抜きながら輸血をすることで、体内の血液を入れ替えます。
交換輸血をすることで、以下の効果が得られます。
- 血液型不適合における溶血の原因となる母親の抗体を除去することで、貧血の改善
- ビリルビンを除去することで、核黄疸(ビリルビン脳症)の予防
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カテゴリー:よくある子供の症状 投稿日:2024-11-07
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