麻疹(はしか)の症状や予防法、治療法も
麻疹は麻疹ウイルスによる急性の感染症で、はしかとも呼ばれています。麻疹は感染力が極めて強く、体育館のような広い場所でも麻疹患者1人と同じ空間にいるだけで多くの方が感染するほどです。そして麻疹に免疫がない場合ほぼ100%発病します。小児においては予防接種していない、あるいは1回のみである0〜2歳の子どもの患者が多い傾向です(図1)。
図1.日本における過去5年間の年齢別麻疹患者数
現在、日本における麻疹の患者数はワクチン2回接種の普及により激減しました。近年では2019年に大流行したのち、さらに患者数は減少しています。しかし世界的にみると麻疹患者の数は2021年以降増え続けています(図2)。コロナ禍を過ぎて復活した海外旅行や、訪日外国人観光客の増加によって麻疹ウイルスに感染するリスクは高まっており油断はできません。
図2.世界の麻疹患者数
麻疹の症状
麻疹ウイルスに感染すると、潜伏期間を経て発熱や発疹が出現します。初期の症状はかぜや風疹などと似ており区別がつかない場合もあるため、注意深く症状をチェックしていきましょう。
潜伏期間
10〜12日
前駆(カタル)期
麻疹ウイルスに感染後、10〜12日の潜伏期間を経て発症します。詳しい症状は以下のとおりです。
- 38℃前後の発熱
- かぜ症状(せき、鼻水、のどの痛み、体のだるさ)
- 目の症状(充血、目やに)
- 乳幼児(不機嫌、下痢、腹痛)
3〜4日発熱が持続したあとに熱が下がり
- 口の中(頬の内側)に1mmほどの白い斑点(コプリック斑)
発疹期
前駆期の発熱が下がったあと、半日くらいで再び発熱します。今度は39.5℃以上の高熱です。そして発疹が2日間で全身に広がり、3〜4日続きます。
発疹の出る順番
- 耳のうしろ、くび、おでこ
- 顔面、胴体、上腕
- 手足の先まで
発疹は赤くて平らなものからだんだんと隆起してつながり、暗赤色になります。乳幼児にはつらい時期で、脱水症状を起こしやすいため注意が必要です。
回復期
高熱が下がって体のきつさが改善され、機嫌もよくなってきます。発疹は色が薄くなるものの色素沈着が残ります。
合併症
麻疹にかかると30%の確率で合併症を起こします。
下記が主な合併症として有名です。
合併症 | 出現頻度 |
---|---|
中耳炎 | 7% |
肺炎 | 6% |
脳炎 | 1,000人に0.5〜1人 |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE) | 1,300〜3,300人に1人 |
肺炎と脳炎は麻疹における二大死因で、特に乳児の死亡例のうち60%は肺炎がきっかけです。
そして重篤な合併症である亜急性硬化性全脳炎は、麻疹にかかってから4〜8年後に発症するものです。2歳未満で麻疹にかかった場合に発症するリスクが高くなります。知能障害や運動障害が少しずつ進行して、最終的には死に至ります。
麻疹の感染経路
麻疹ウイルスがヒトに感染する経路は3つです。
- 空気感染
- 飛沫感染
- 接触感染
前駆期〜発疹期において、鼻水やつばに触れてしまっても感染します。しかしさらに恐ろしいのは同じ室内、バス・電車・飛行機の中などにいるだけで感染する空気感染です。
麻疹の予防・予防接種
麻疹の感染を予防するもの、発病を予防するものに分けて説明します。
感染の予防
麻疹は空気感染するため、マスクや手洗いよりも予防接種が非常に有用です。
定期予防接種(無料)のスケジュール
- 1回目:1歳
- 2回目:5〜6歳 かつ 小学校入学前の1年間
風疹と混合のMRワクチンを注射します。1回目の接種で93〜95%、2回目も接種すれば97〜99%以上の人が免疫を得られるため、小学校入学前に必ず2回目の予防接種を受けるようにしましょう。
「1歳未満の赤ちゃんが麻疹にかかったら…」と不安になる方もいるでしょう。
赤ちゃんにはお母さんからもらった免疫があるので、麻疹ワクチンを注射してもウイルスが増えにくいため十分な効果を得られません。お母さんからの免疫が少なくなる6か月以降であれば、海外旅行前や保育園に入る前などに有料で予防接種できます。しかしこれは予防接種回数にカウントしないため、定期の予防接種2回は必ず受けてください。
発病の予防
麻疹の患者と接触した場合に発病を予防する方法がありますが、確実に予防できるものではありません。
- 接触後3日(72時間)以内:緊急措置として麻疹含有ワクチンを注射
- 接触後4〜5日:免疫グロブリン(血液から作られた製剤)を注射
麻疹の治療
麻疹に有効な治療はないため、症状および合併症に対する治療をおこないます。
状態 | 対応 |
---|---|
発熱し食事や水分が摂れない | 解熱剤の使用 点滴で水分や電解質を投与 |
せき | せき止めの使用 |
中耳炎 肺炎 |
抗生剤の使用 |
合併症が出ていないか経過もみていきます。
子どもが麻疹にかかったら
お子さんが麻疹にかかった可能性がある場合の、2つの対応について説明します。
病院受診時の注意点
麻疹かもしれない症状がある場合は、まず医療機関に電話をしましょう。受診した方がいいのか、受診に際し注意する点があるのかなど医療機関からの指示に従ってください。
麻疹は空気感染するため、受診する場合は公共の交通機関は使用しないようにして、周囲への感染拡大を防いでください。マスクができる年齢であれば使用した方がいいでしょう。
家庭での対応
発熱やせきなどで機嫌の悪い状態が続くので、少しでも子どものきつい状態が軽くなるように対応します。
状態 | 対応 |
---|---|
発熱 | ・医師が指示した体温以上であり機嫌が悪く眠れない、水分が摂れないなどの場合には解熱剤を使う ・氷枕や冷却ジェルシートなどを使う |
下痢 食欲がない |
・消化がいいもの、口当たりがいいものを与える ・食事が摂れなくても、水分はしっかり与える |
登園・登校基準は?
解熱して3日経てば登園・登校は可能です。
ちなみに解熱した日は0日目、その翌日が1日目と数えてください。
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カテゴリー:特殊な子供の病気 投稿日:2024-06-22
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