慢性疲労症候群とは?
「慢性疲労症候群(CFS)」は、ある日突然原因不明の強い疲労感が始まり、生活に支障をきたしてしまう病気です。
名前から「ただの慢性疲労」「誰にでもあるような疲労感を強く訴える病気」のように誤解されてしまいがちですが、その背景には身体・脳の様々な機能障害が生じていることが分かってきています。うつ病や不安障害などに合併しておこることもあります。
その疲労感は、「何となくダルイなぁ」「最近疲れやすくて」のような日常的な疲労とは違い、風邪をひいて熱が出たときのように明確なしんどさです。筋肉痛、頭痛、微熱、のどの痛み、リンパの腫れなどが認められることも多く、十分に休息しても回復しません。
原因は諸説ありますが、主にストレスからくる免疫異常で体内のウイルスが活性化し、脳や身体に慢性的なダメージを与えてしまうと考えられています。
治療は、心身のバランスを整える漢方薬やビタミン剤や安定剤、ストレス軽減のための生活環境調整・精神療法などを組み合わせて行います。
「慢性疲労」の基準とは?
慢性疲労症候群の「慢性疲労」は日常的な疲れとは違います。具体的にどのような症状があれば病的な「慢性疲労」となるのでしょうか?
厚生労働省の研究班が2012年に発表したガイドラインによると、以下のうち、5つ以上の症状があることが基準になっています。
- 十分に休んでも24時間とれない疲労
- 筋肉痛
- 多発する関節痛(腫れはない)
- 頭痛
- のどの痛み
- 睡眠障害(不眠・過眠・リズム障害)
- 思考力・集中力の低下
- 微熱が続く
- 首のリンパ節の腫れ
- 筋力の低下
慢性疲労症候群の症状と診断
上の症状が5つ以上あれば病的な「慢性疲労状態」と考えられますが、「慢性疲労症候群」と診断されるには、症状の期間や経過もポイントになります。
- 発症時期がはっきりしている
- 月に数日以上は学校や仕事を休むほど疲れがひどい
- 十分な休息をとっても疲れが回復しない
発症時期がはっきりしている
「最近疲れやすくなった」と感じる方は多いと思うのですが、慢性疲労症候群の疲労感は健康だったときとの境目がはっきりしています。
風邪をひいたときは普段とは違う明らかなしんどさを感じるように、ある日突然強い疲労感が始まります。
月に数日以上は学校や仕事を休むほど疲れがひどい
疲労度や倦怠感の程度を評価するスケールとしてPS(performance status)というものがあります。
PS3以上(休日以外にも月に数日以上は自宅での休養が必要)が、慢性症候群の基準です。
十分な休息をとっても疲れが回復しない
疲れは過労によるものではありません。十分に休息をとっても疲労感が持続してしまいます。
【参考】疲労度を表すPS基準とは?
疲れの感じ方には個人差があるので、病気を診断するためには客観的な基準が必要です。慢性疲労症候群の診断では、「PS(performance status)」という基準が使われています。
以下のうち、PS3以上が慢性疲労症候群の基準です。
- PS 0:問題なくフルタイムで働ける
- PS 1:フルタイムで働けるが、しばしば疲労を感じる
- PS 2:フルタイムで働けるが、全身倦怠感でしばしば休息が必要
- PS 3:全身倦怠感があり、月に数日は仕事や学校を休み自宅での休養が必要
- PS 4:全身倦怠感があり、週に数日は仕事や学校を休み自宅での休養が必要
- PS 5:フルタイム勤務はできない。数時間程度・週3~4日の軽労働は可能
- PS 6:調子の良い日は数時間程度の軽労働が可能だが、週2~3日が限度
- PS 7:自宅で身の回りのことはできるが、仕事・社会活動はできない。
- PS 8:1日の半分以上を横になって過ごし、家でもしばしば介助が必要
- PS 9:寝たきりで常に介助が必要
慢性疲労症候群は何科を受診すればいい?
まずは内科を受診するのが良いかと思います。
内科で検査をし、疲労感の原因となる病気が隠れていないかをチェックしてもらう必要があります。身体に原因がみつからなければ、心療内科や精神科を受診しましょう。
慢性疲労症候群には精神疾患が合併していることもあります。
一般的な内科・精神科では、「慢性疲労症候群」を想定しての診療はしていないことも多いです。当院でも特別な治療ができるわけではなく、まずは身体疾患の可能性を除外した後に、心身の両面から慢性疲労を緩和させるためのアプローチを考えていきます。
慢性疲労症候群の診断・検査
診断のためには、
- 身体の病気が原因ではないこと
- 精神疾患が原因ではないこと
を確かめる必要があります。
このため内科では、
- 血液検査
- 尿検査
- 便検査
- 心電図
- 胸部レントゲン
などを行うことで、
- COPD(肺気腫)
- 睡眠時無呼吸症候群
- 肝臓・腎臓・心臓の病気
- 慢性感染症(B型肝炎・C型肝炎・AIDSなど)
- 膠原病
- リウマチ
- 多発性硬化症などの神経疾患
- 糖尿病
- 甲状腺疾患
- 下垂体機能低下症
- 更年期障害
などの体の病気の可能性を除外していきます。
精神科では、他の精神疾患の可能性を除外していきます。
- 睡眠障害(概日リズム障害・睡眠時無呼吸症候群・ナルコレプシーなど)
- 気分障害(うつ病・双極性障害など)
- 不安障害(身体症状症・全般性不安障害など)
病的な疲労感・だるさが続く病気は数多くあります。慢性疲労症候群を診断するためには、このような病気ではないことを確認しなければなりません。
慢性疲労症候群と合併症
病的な疲労感の原因が他の病気ではないと確認されれば「慢性疲労症候群」と診断されますが、慢性疲労症候群に他の病気が合併していることはあります。
合併症の多くはストレスの関与が強いと考えられているもので、持続するストレスが慢性疲労症候群や、他のストレス性障害を引き起こすと推定されています。
身体の合併症としては、
- 過敏性腸症候群
- 機能性胃腸症
- 月経前症候群
- 片頭痛
- 顎関節症
- 線維筋痛症
などが挙げられます。精神の病気としては、
- うつ病
- 不安障害
などが挙げられます。
慢性疲労症候群の原因
昔はまったくの原因不明でしたが、近年少しずつ発症のメカニズムがわかってきています。
現在も諸説があり研究が進められている最中ですが、
- ストレス
- 過去のウイルス感染
の2つのかかわりは大きく、ここから免疫異常がひき起こされ、全身の機能低下に影響すると考えられています。
ストレスがかかり続けると体の抵抗力が落ちて免疫機能が低下し、過去の感染後体内に残っていたEBウイルスなどが再活性化します。これによってサイトカインという免疫物質が過剰に作られます。
このサイトカインはウイルスと戦うために必要な物質なのですが、過剰になると脳などにダメージをあたえます。脳の機能を低下させ、倦怠感や疲労感を引き起こす原因になってしまうのです。
慢性疲労症候群の治療方針~保険診療でできること~
慢性疲労症候群の治療は、漢方薬やビタミン剤、抗不安薬などで症状の緩和をしながら、環境調整や生活習慣、考え方などを整理し、心身のストレスを軽減していくことで疲労感の改善を期待していきます。
慢性疲労症候群の治療は、現時点では対症療法しかないのが現実です。原因は少しずつ解明されてきているものの、よくわかっていない部分も多いため、根本の治療法については未だ研究中の段階なのです。
ウイルスの関係はわかってきましたが、原因のウイルスは特殊なものではありません。問題はウイルスではなく、ウイルスと戦う免疫の異常なのですが、現在ではその免疫異常を治すことはできません。
しかしながら、免疫異常の主な引き金となる「ストレス」の緩和には様々な方法があります。
慢性疲労症候群の治療に対しては、独自の考え方で高額な治療やサプリメントが使われることもあるのですが、保険適用となっていないのはハッキリとした効果が実証できていないからに他なりません。保険診療の範囲で、できることから取り組んでいただくべきかと思います。
漢方薬による治療
漢方では、
- 身体に必要なエネルギー(気)
- 栄養(血)
の巡りが悪くなっている状態(気虚・血虚)=慢性疲労の原因と考えます。
また、
- エネルギーをつくる消化機能の低下(脾虚)
もその原因になります。
慢性疲労症候群の治療では、それぞれの体質や状態に応じ、適していると思われる漢方薬を選んで使っていきます。
【気を補う】
- 補中益気湯(陰・虚)
【血を補う】
- 四物湯(陰・虚)
- 加味帰脾湯(陰・虚)
【気・血を補う】
- 十全大補湯(陰・虚)
- 人参養栄湯(陰・虚)
ビタミン剤・食事による治療
食事はエネルギーの源ですから、ビタミン・ミネラルの多い野菜やタンパク質などをバランスよく食べることが大切です。
とくにビタミンB群とビタミンCの不足は慢性疲労の原因となることもあります。
ビタミンB1やB2は、脂質や糖のエネルギー代謝にかかわります。ビタミンCは、抗ストレスホルモンのコルチゾール産生に必要といわれています。
胃腸障害がなくバランスの良い食事が摂れているなら、特別にビタミン剤やサプリは必要ありませんが、食事が十分摂れていないときにはビタミン剤を補給すると効果が期待できる場合があります。いわゆる「にんにく注射」といわれているものは、アリナミンFというビタミンB群の注射になります。
筋肉疲労がたまっているときは、クエン酸や酢酸を補給します。これらは筋肉疲労の原因の乳酸の分解を助けます、梅干し、レモン、米酢、かんきつ類など酸っぱいものに多く含まれます。
その他には、鶏むね肉を1日100g程度摂取すると疲労軽減に効果があるといわれています。渡り鳥の胸肉や、回遊魚の尾の肉に多く含まれるイミダゾールペプチドという物質には疲れやすさを改善するという報告もあります。
抗不安薬や抗うつ剤による治療
慢性疲労症候群には、精神症状がみられることもあります。抑うつ状態や不安などに慢性の疲労感が合併していることもあります。
その状態ではストレスがさらに強くなってしまいますから、
- 不安や緊張が強い、自律神経症状がある→抗不安薬
- 抑うつ・意欲低下が生じている→抗うつ剤
を使うことがあります。
慢性疲労によって学校や仕事に行けないと、不安や焦りから身体が緊張状態になり、不眠や頭痛やめまいや吐き気など、自律神経症状が認められることがあります。
そのようなときは抗不安薬で効果が認められることがあります。抗不安薬は脳の働きを落ち着けるGABAの働きを強め、不安や緊張を和らげてくれます。
抗不安薬ついて詳しく知りたい方は、抗不安薬(精神安定剤)のページをお読みください。
抑うつ・意欲や興味の低下などのエネルギーの低下があるときは、抗うつ剤を使っていくこともあります。
抗うつ剤について詳しく知りたい方は、抗うつ剤のページをお読みください。
生活習慣による治療
強い疲労感や精神症状がお薬である程度落ち着いてきたら、少しずつ生活習慣を整えていきましょう。規則正しい生活は心身の状態を改善させ、ストレスへの抵抗力を高めます。生活習慣を整えるだけで疲労感が軽減したという方もいらっしゃいます。
習慣を変えていくのはなかなか難しいですので、具体的な目標をたててみましょう。
- 毎朝〇時に起きる
- 3食を規則正しくとる
- 間食はしない
- 毎日〇分の散歩をする
- 〇時までには就寝する
などの目標をたてたら、できるだけそれを目指してみます。モチベーションを維持するためには、簡単な生活日記を毎日つけることをお勧めします。よろしければ活用してみてください。
慢性疲労症候群への誤解
「慢性疲労症候群(CFS)」の名は、1988年にCDC(米国疾病予防管理センター)が名付けたものです。日本もその病名を主に採用していますが、「重症度が伝わらない」「単なる慢性疲労と混合されてしまう」などの患者さんの声があります。
「慢性疲労」と聞けば「仕事をしていれば誰だって疲れるさ」のように扱われてしまい、誤解や偏見が生まれやすいです。
慢性疲労症候群の方の「疲労」は、どれだけやる気があっても動けないしんどさです。体内でウイルス感染がずっと続いているような状態で、休んでも回復できないと聞けば、そのしんどさが少しは伝わるかと思います。
仕事や学校へのやる気や意欲はあるのに、どうしようもなくダルく、あちこちが痛んで動くことができない。こういった疲労が続くのが、慢性疲労症候群になります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:慢性疲労症候群 投稿日:2019-08-28
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