2型糖尿病の食事療法をガイドラインに沿って解説|メニュー例も紹介
2型糖尿病の治療において、食事療法が大切なのはいうまでもありません。
それでは食事療法はどのように行うのでしょうか?
本記事では、糖尿病の食事療法の目的・効果、食事療法の方法、メニュー例について解説します。
これを読めば2型糖尿病の食事療法の概略が分かります。
糖尿病の治療をする際に役立ててみてください。
2型糖尿病の食事療法の目的・効果
2型糖尿病の原因は、インスリン分泌の低下と内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性です。
したがって糖尿病の食事療法の主な目的は、肥満の改善です。
総エネルギー量を適正化することで体重を減少させると、糖尿病の発症リスクが減少します。
また肥満のない場合でも、総エネルギー量を適正化して、インスリン作用における需要と供給のバランスを整えます。
高血糖、糖尿病の病態を改善するとともに、HbA1c・LDLコレステロール・中性脂肪・血圧を低下させ、心血管疾患のリスク因子を改善します。
最新の糖尿病の食事療法
食事療法における基本的な方針を解説します。
総エネルギー摂取量
まず良好な代謝状態を維持するための総エネルギー摂取量を決めます。
エネルギー摂取量は目標体重とエネルギー係数から算出します。
目標体重の目安
- 65歳未満:[身長(m)]²×22(kg)
- 65歳以上:[身長(m)]²×22~25(kg)
エネルギー係数
- 軽い労作(ほとんど運動しない):25~30(kcal/kg)
- 普通の労作(座位中心で通勤・家事・軽い運動をする):30~35
- 重い労作(力仕事・活発な運動):35~
係数に幅がありますが、肥満の減量のためには小さめの係数を設定します。
一方、高齢者のフレイル予防には大きめの係数を設定します。
総エネルギー摂取量
-
総エネルギー摂取量 = 目標体重(kg) × エネルギー係
数(kcal/kg) - 例えば50歳、165cmで普通労作の人の事例を示します。
-
目標体重:[1.65(m)]²×22 =60kg
エネルギー係数は軽めの30とします。 - 総エネルギー摂取量:60kg×30kcal/kg=1800kcal
栄養素摂取比率
糖尿病の治療に特異的な栄養素摂取比率はなく、健康な人の平均摂取量に準じます。
- 炭水化物:50~60%エネルギー
- タンパク質:20%エネルギー未満
- 残りを脂質によるエネルギー:ただし飽和脂肪酸(肉類・乳製品・油脂類・お菓子などに含まれる)は7%以下とします。
炭水化物の摂取量
炭水化物の制限が糖尿病に有効とする説がみられます。
しかし、炭水化物の摂取量と糖尿病の発症率には明らかな相関関係はみられません。
また低炭水化物食による糖尿病の食事療法が有用という根拠もありません。
純粋果糖(果物)は、一定量までは糖尿病に影響を与えないため、糖尿病の管理に有効です。
ただし1日100g以内が必要条件です。
ショ糖を含む甘味・ジュースは、血糖コントロールを悪化させる可能性があり、おすすめできません。
タンパク質の摂取量
タンパク質は、筋肉・臓器などの成分を構成するために必要です。
とりわけ高齢者では、フレイルの予防のため、適正体重(kg)あたり1g以上のタンパク質摂取が望ましいです。
しかしタンパク質の摂取量が20%エネルギーを超えると、動脈硬化性疾患による死亡率が増える可能性があります。
したがって20%エネルギー未満の摂取量が適切です。
脂質の摂取量
総脂質摂取量と糖尿病発症リスクの関係は明らかではありません。
ただし飽和脂肪酸の摂取は糖尿病発症リスクです。
したがって飽和脂肪酸の摂取量は、7%エネルギー以下とすることが必要です。
食物繊維の摂取量
食物繊維は20g/日以上の摂取が望まれます。
とりわけ穀物の食物繊維が糖尿病発症リスクを下げます。
食物繊維が多いほどHbA1cが低くなります。
ビタミン・ミネラルの摂取量
ビタミン・ミネラルが糖尿病管理に与える影響は明らかではなく、日本人の食事摂取基準に準じます。
食塩の摂取量
男性7.5g/日、女性6.5g/日未満が目標値です。
さらに高血圧合併例では6.0g/日未満が望まれます。
減塩は高血圧・心血管疾患の予防に効果的です。
アルコールの摂取量
24g/日以下のアルコール摂取は、糖尿病発症リスクを低下させます。
心血管疾患、最小血管症が少なくなるという報告がみられます。
ただしインスリン治療中は、アルコールの急性効果で低血糖を起こすことがある点に注意してください。
糖尿病食事療法のメニュー例
食事療法の事例として、食材別のエネルギー摂取量を示します。
食材 | 栄養素含有量 | エネルギー産生量 | エネルギー摂取量 |
---|---|---|---|
米1合 | 炭水化物150g/1合 | 4kcal/g | 600kcal |
輸入牛肉ロース100g | タンパク質17g/100g 脂質17g/100g |
4kcal/g 9kcal/g |
68kcal 153kcal |
若鶏肉・もも 100g | タンパク質28g/100g 脂質13g/100g |
4kcal/g 9kcal/g |
112kcal 117kcal |
魚肉(ぶり)100g | タンパク質18g/100g 脂質20g/100g |
4kcal/g 9kcal/g |
72kcal 180kcal |
このデータをもとに、総エネルギー摂取量1800kcal、炭水化物によるエネルギー1000kcal、タンパク質によるエネルギー300kcal、脂質によるエネルギー500kcal、飽和脂肪酸7%エネルギー以下(126kcal以下)の食事メニューを立ててみます。
- 米1.7合 1020kcal
- 若鶏肉・もも 100g:タンパク質によるエネルギー112kcal、飽和脂肪酸によるエネルギー117kcal
- ぶり200g:タンパク質によるエネルギー144kcal、不飽和脂肪酸によるエネルギー360kcal
合計すると炭水化物によるエネルギー1020kcal、タンパク質によるエネルギー256kcal、脂質によるエネルギー477kcal 総エネルギー摂取量1753kcalです。
これ以外に野菜の付け合わせも必要です。
また調味料などのエネルギー量も加算されます。
この結果、1日3食のうち1食につき米0.6合弱、1食は鶏肉100g、2食はぶりなどの魚100gをおかずにした食事メニューを立てればよいことが分かります。
すごく少なくて驚きますね。
まとめ
糖尿病の食事療法によって、高血糖や糖尿病の病態を改善するとともに、HbA1c・LDLコレステロール・中性脂肪・血圧を低下させ、心血管疾患のリスク因子を改善します。
総エネルギー摂取量 = 目標体重(kg) × エネルギー係数(kcal/kg)を基本にして、栄養素摂取比率を、炭水化物50~60%エネルギー、タンパク質20%エネルギー以下、残りを脂質、ただし飽和脂肪酸の摂取量は7%エネルギー以下とします。
本記事ではメニュー例をご紹介しました。
糖尿病の治療をする際に役立ててみてください。
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カテゴリー:糖尿病 投稿日:2025-05-28
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