糖尿病改善|早めの朝食の重要性ー血糖値を下げる3つの理由ー

糖尿病と朝食の関係

「朝はバタバタするから食べる時間が遅くなる」
「食欲がないから、食べていない」
「食べてない方が血糖値も上がらないんじゃないの!?」

朝食を食べていない、または、食べる時間がつい遅くなることはありませんか?
もしくは、食べない方が血糖値が上がらなくてむしろ良いと考えてはいませんか?

この記事では、早めの朝食が糖尿病を改善させる3つの理由を医学的根拠に基づいて説明します。

食事の内容を適切にすることはとても大変ですが、食事の時間を整えることはそれに比べるとハードルは低くないですか?
まずは、朝食をきちんととるところから始めてみましょう。
きっと、少しずつ血糖コントロールができるようになるはずです。

結論:早めの朝食で血糖値の上昇は抑えられる

では、具体的に何時に食事をとれば良いのかというと、「朝食は8時より早めに」ということになります。

最近の研究では「朝食を抜くことで、血糖コントロールが不良になる」や「糖尿病治療においては、食事の内容と同じくらい食事をする時間も重要である」という趣旨の研究結果が多く報告されています。

その中のいくつかの研究では、2型糖尿病患者における朝食欠食血糖コントロール不良との間に有意な関連性があることが示されていました。

以下に糖尿病患者の食事の時間と血糖コントロールに関する医学論文を2つ示します。
論文の内容としては、朝食や朝食の時間に関連する箇所を簡単に解説したものになります。
興味のある方は読んでみてください。

最初の論文はフランスで行われた研究になりますが、同じような属性の10万人以上の参加者を約7年間追跡調査したものです。

この研究において、期間中に新しく2型糖尿病を発症した人が963人いました。
研究によると、朝食を朝9時以降に定期的に食べる人は、朝8時以前に食べる人と比べて、2型糖尿病になるリスクが顕著に高かったことがわかりました。

There were 963 new cases of type 2 diabetes during the study.
The risk of developing the disease was significantly higher in the group of people who regularly ate breakfast after 9 am, compared to those who ate breakfast before 8 am.
--(中略)--
“Our results suggest that a first meal before 8 am and a last meal before 7 pm may help reduce the incidence of type 2 diabetes,” concludes Manolis Kogevinas, ISGlobal researcher and co-author of the study.

(和訳)研究期間中に新たに2型糖尿病に罹患した患者は963人であった。 この病気の発症リスクは、朝8時以前に朝食を食べた人に比べて、朝9時以降に定期的に朝食を食べた人のグループで有意に高かった。
--(中略)--
「我々の結果は、 午前8時前の最初の食事と午後7時前の最後の食事が、2型糖尿病の発症を減少させることを示唆しています 」と、ISGlobalの研究者であり、この研究の共著者であるManolis Kogevinas氏は結論付けている。

早めの朝食は2型糖尿病の発症リスクを軽減する可能性がある

2つ目は、糖尿病と食事の時間に関する論文になります。

この論文では、以下のことが述べられていました。

食事の時間は2型糖尿病に大きく影響します。
そのため、食事の栄養価だけでなく、いつ食べるかというタイミングも重要です。
糖尿病患者には、特に一日の早い時間に食事をすることのメリットを伝え、推奨することが大切である。

Key messages

  • Meal timing has a major effect on type 2 diabetes.
  • It is therefore important to consider the timing of meal consumption rather than focus on the nutritional value of a meal alone.
  • Eating a carbohydrate-rich meal at night results in increased postprandial glycaemia compared with an identical meal in the morning.
  • Therefore, modifying the macronutrient composition of meals, by increasing protein and fat content, can be a simple strategy to improve glycaemia for meals consumed at that night.
  • The benefits of consuming meals early in the day should be encouraged in diabetics.
  • Eating low GI foods in the morning improves glycaemic response to a greater effect than at night.
  • Timing of fat and protein (including amino acids) consumption with carbohydrate foods, such as bread and rice, can reduce the glycaemic response.
  • The order of food presentation considerably influences the glycaemic response.
  • For a rice-based meal, following the sequence of consuming vegetables first, followed by meat and then lastly rice, has great potential of reducing the postprandial blood glucose.

(和訳)

  • 食事のタイミングは 2 型糖尿病に大きな影響を与えます。したがって、食事だけの栄養価に注目するのではなく、食事を摂取するタイミングを考慮することが重要です。
  • 夜に炭水化物の豊富な食事を食べると、朝の同じ内容の食事と比べて食後血糖値が増加します。したがって、タンパク質と脂肪の含有量を増やすことによって食事の主要栄養素の組成を変更することは、その夜に消費される食事の血糖を改善するための簡単な戦略となりえます。
  • 糖尿病患者には、一日の早い時間に食事を摂取することの利点を奨励する必要があります。
  • 朝に低GI食品を食べると、夜よりも血糖反応が改善され、より大きな効果が得られます。
  • パンや米などの炭水化物食品と脂肪およびタンパク質(アミノ酸を含む)を摂取するタイミングによって、血糖反応を軽減することができます。
  • 食べ物を与える順序は血糖反応に大きく影響します。米ベースの食事の場合、最初に野菜、次に肉、そして最後に米という順序で食べると、食後血糖値を下げる可能性が非常に高くなります。

糖尿病管理における時間栄養学

早めの朝食が血糖値の上昇を抑える3つの理由

前項では、数多くの研究によって「朝食は食べた方がいい」「なるべく早い時間に食べた方がいい」ということがわかっていることを解説しました。
このように言われている理由は、 朝食をとることで一日を通しての血糖コントロールが良好になり、血糖値の高い状態をつくりにくくするか らです。
では、なぜそうなのか?という3つの理由が以下になります。

  1. インスリンの追加分泌を促す
  2. 体内時計-活動スイッチが入る-
  3. セカンドミール効果

理由①インスリンの追加分泌を促す

まずこの理由の結論から言うと、朝食をとることでインスリンの追加分泌を促し、血糖値を上昇させにくくするからです。
血中のグルコース濃度(血糖値)は、約70~100mg/dLの範囲で一定に維持されるように、2種類のホルモンによってコントロールされています。
インスリンとインスリン拮抗ホルモン(グルカゴン、カテコラミン、コルチゾー、成長ホルモンルなど)です。
これらのホルモンは、「基礎分泌」と「追加分泌」を行うことで血糖調整を行っています。

「基礎分泌」は、人の身体に備わっている体内時計の影響を受けて、一日の時間帯によってその量が調整されています。

「追加分泌」は、血糖値の高低に反応して都度分泌されます。
血糖値が高ければ(概ね90mg/dL以上になれば)インスリンが、低ければ(概ね70mg/dL以下になれば)インスリン拮抗ホルモンが分泌されます。

2つのホルモンは、朝の目覚めとともに体内時計によって自然に分泌されるようになっています。
インスリンもインスリン拮抗ホルモンも、睡眠中の深夜~早朝までの時間帯は一日の中で最も基礎分泌量が少なく、明け方から徐々に分泌量が増えていきます。
これからの活動に備えて身体が準備し始めるという感じです。

しかし糖尿病患者の場合、2つのホルモンが同じように分泌されようとしても、インスリンの分泌不足やインスリン抵抗性によって、インスリンの作用は拮抗ホルモンに相対的に負けてしまいます。
このメカニズムによって、糖尿病患者の場合は糖尿病でない人と比較すると朝に血糖値が高くなりやすくなるのです。

体内でこのような状況がある中、ここで朝食を食べるとインスリンの追加分泌が起こります。
すると血糖値が下がるので、高くなりすぎることを防げるのです。

ここでポイントなのが、朝食をとる時間が早めであるということです。
糖尿病患者の場合はインスリンが効きにくいので、インスリン拮抗ホルモンの基礎分泌によって血糖値が高くなるのをなるべく早く止めるためにも、早めの食事が良いということになります。

理由②体内時計がリセット-体の活動スイッチが入る-

先ほどの理由①でも簡単に解説しましたが、私たちの身体には体内時計が存在します。

【体内時計(概日リズム)とは】

私たちの身体には、1日を24時間の周期に合わせる「体内時計」が備わっています。
このリズムは、睡眠と覚醒のサイクル、ホルモン分泌、体温調節、代謝活動などに影響を及ぼします。

体内時計には主時計と副時計があり、一般的によく言われているのは主時計のことを言います。
「朝太陽の光を浴びると、身体が目を覚まし活動のスイッチが入る」といったようなことは聞いたことがあるかもしれません。
これは、目から入る光の刺激によって脳の視床下部にある主時計が、身体を活動モードにするという話になります。

副時計は、肝臓、心臓、肺、消化管などの末梢組織に存在します。
これらの時計は、食事、運動、温度など、光以外の環境因子によって調節されることが多いとされています。

朝食は消化管にある副時計への刺激になり、朝食をとることが夜間の絶食時間の終わりを示すスイッチとなります。
身体は夜間の省エネモードから、代謝を活発にしてもいいんだという活動のモードに切り替わるのです。
筋肉などでのエネルギー消費が促され、代謝が促進されることで血糖値が下がりやすくなるのです。

朝食を早めにとることは、身体の活動モードの時間を長くすることに繋がります。
一日を通して代謝やエネルギー消費が促進される時間が長く確保できるということは、その分血糖値を上昇させにくくさせます。

下記の論文では、体内時計とインスリン抵抗性の関係性について述べています。
興味のある方はぜひ読んでみてください。

The circadian timing system consists of a central brain clock in the hypothalamic suprachiasmatic nucleus and various peripheral tissue clocks.
The circadian timing system is responsible for the coordination of many daily processes, including the daily rhythm in human glucose metabolism.
The central clock regulates food intake, energy expenditure and whole-body insulin sensitivity, and these actions are further fine-tuned by local peripheral clocks.
For instance, the peripheral clock in the gut regulates glucose absorption, peripheral clocks in muscle, adipose tissue and liver regulate local insulin sensitivity, and the peripheral clock in the pancreas regulates insulin secretion.

(和訳)概日タイミング システムは、視床下部の視交叉上核にある中央脳時計とさまざまな末梢組織時計から構成されています。
概日タイミング システムは、人間のグルコース代謝における毎日のリズムを含む、多くの日常プロセスの調整を担当します。
中枢時計は食物摂取、エネルギー消費、全身のインスリン感受性を調節し、これらの動作は局所の末梢時計によってさらに微調整されます。
たとえば、 腸の末梢時計はグルコース吸収を調節し、筋肉、脂肪組織、肝臓の末梢時計は局所的なインスリン感受性を調節し、膵臓の末梢時計はインスリン分泌を調節します。

概日時計とインスリン抵抗性

理由③セカンドミール効果

セカンドミール効果とは、一回目の食事が次の食事における血糖値の上昇を抑制するという現象です。

セカンドミール効果には、大きく2つの根拠があります。

  1. 低グリセミック指数(GI)食品による昼食後の血糖値上昇の緩和
  2. 食欲コントロール

2つの根拠について詳しく解説します。

1.低グリセミック指数(GI)食品による昼食後の血糖値上昇の緩和

もう少し具体的に言うと、朝に低グリセミック指数(GIが低い、血糖値を急激に上げない食品)の食事を摂ることで、昼食後の血糖値の上昇を緩やかにすることができるという現象です。

【GIとは】
GIとはGlycemic Index(グリセミック・インデックス)の略で、食後血糖値の上昇度を示す指標です。食品に含まれる糖質の吸収度合いを示します。

【低GI食品とは】
低GI食品とは、糖質の吸収が穏やかな食品で、GI値55以下が低GI食品として分類されています。
具体的には以下のようなものがあります。

  • 全粒粉製品(全粒粉パン、全粒粉パスタ)
  • 玄米
  • 豆類(レンズ豆、黒豆など)
  • ほとんどの果物(リンゴ、オレンジ、ベリー類)
  • 野菜(ブロッコリー、カリフラワー、ほうれん草)

しかし逆に言うと、セカンドミール効果は、特に低GIの食品を含む食事によって最も顕著に引き起こされるため、朝食が低GI食品でない場合、この効果は得られにくいと言うこともできます。

日本の朝食でよく食べられる食品の中には、高GIの食品もあります。
そのような場合は低GI食品も同時に取り入れる、食物繊維やタンパク質、健康的な脂質を含む他の食品と組み合わせることで、セカンドミール効果を享受できると考えられています。

【高GI食品の一例】
白米、食パン、コーンフレーク、ジャムやフルーツスプレッド、インスタントのお粥、砂糖入りの飲み物

セカンドミール効果に関しては、具体的なメカニズムや影響の大きさについてなど、まだ解明されていない部分も多くあります。
一方で、朝食後の効果に関しては明らかになっている部分もあり、糖尿病患者の低GI食品とセカンドミール効果について述べられている論文は多くあります。

糖尿病患者がlow-GIの朝食を摂ることで朝食後の血糖上昇が優位に低くなったもののその影響は昼食後まで持続せず、昼食後の血糖値には顕著な差が見られなかったということを述べている研究があります。

具体的には、低GIの朝食が朝食後の血糖応答を効果的に抑制する一方で、昼食後の血糖応答には同じ効果が見られないことを意味しています。
これは、セカンドミール効果が一時的であり、食事ごとにその影響が異なる可能性があることを示唆しています。

2.食欲のコントロール

朝食を摂ると血糖値が安定し、昼食時の過剰な食事を防ぐことができます。
これにより、糖尿病患者は一日を通じて血糖値をより効果的に管理できるようになります。

まとめ

今回の記事では、糖尿病改善における早めの朝食の重要性について、3つの主要な理由を医学論文を用いながら解説しました。

血糖コントロールは複雑なメカニズムによって行われており、時間栄養学の観点から見ると、朝食以外にも遅い夕食や間食の管理も重要です。
今回は早めの朝食が糖尿病改善にどのように役立つかに焦点を当てましたが、さらに多くの知識や戦略については、また別の機会に解説できればと思います。

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カテゴリー:糖尿病  投稿日:2025-07-04

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