2型糖尿病の発症リスクと対策をガイドラインに沿って解説

2型糖尿病

糖尿病の患者さんの90〜95%は2型糖尿病です。
この記事では、2型糖尿病とはどのような病気か、発症リスクと対策、発症予防に有効な薬について解説します。
これを読めば、2型糖尿病の対策が分かります。
糖尿病の治療の際に役立ててみてください。

1. 2型糖尿病とは

2型糖尿病とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されにくくなったり、効きにくくなったりすることで血糖値が高くなる病気です。
食後のインスリン分泌が低下しますが、インスリンが枯渇することはまれです。
2型糖尿病は、中年以降に発症することが多いですが、最近では小児・若年者の発症が増加しています。
2型糖尿病は、複数の遺伝的要因に生活習慣などの環境要因が加わって発症します。
遺伝的要因として、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を引き起こす複数の遺伝子が同定されています。
環境要因として、高脂肪食を中心とした過食、運動不足などの生活習慣、その結果としての肥満などが考えられます。

2. 2型糖尿病の発症リスクと対策

2型糖尿病発症の10年前から空腹時の血糖値が100〜125mg/dLおよびHbA1Cが5.7〜6.4%である人は、2型糖尿病の発症リスクが通常の約30倍となります。
発症リスクとして、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病の家族歴、高血圧、脂質異常症、座っている時間が長いこと、妊娠糖尿病の既往などがみられます。

2-1. 肥満

BMIが23以上であれば血糖値のスクリーニング検査を受けるほうがよいでしょう。
小児期から成人早期の過体重は、将来において2型糖尿病の発症リスクを上昇させます。
そして生活習慣の改善により2kg減量できれば、2型糖尿病の発症リスクを減らすことができます。

2-2. 身体活動量の低下

1日の総身体活動量、たとえば1日の歩数、速歩の割合、勤務中の活動量が少ないと発症リスクが高まります。
対策として、徒歩や自転車で通勤すると発症リスクが低下します。
座っている時間が長いと発症リスクが増加するため、定期的に立ち上がり、ストレッチなどで体を動かしましょう。
また余暇における有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチは発症リスクを減らします。

2-3. エネルギー摂取量・栄養素摂取比率

総エネルギー摂取量を適正化すれば2型糖尿病の発症を予防できます。
また栄養素の摂取比率も重要です。
総エネルギー摂取量における炭水化物の割合が45〜65%のとき、発症リスクが最も低くなります。
動物性脂肪は発症リスクを増やし、植物性脂肪は発症リスクを減らします
動物性タンパク質の摂取エネルギー量が5%増加するごとに、発症リスクが12%増加します。
植物性タンパク質の摂取エネルギー量が総エネルギー摂取量の約6%を占める場合、発症リスクが最も低くなります。

2-4. 2型糖尿病の発症リスクを上げる食材

  • 多量の白米
  • じゃがいも:とりわけフライドポテトの摂取は発症リスクを増やす
  • スナック菓子・インスタント食品
  • 豚肉・牛肉・加工肉

2-5. 2型糖尿病の発症リスクを下げる食材

  • ナッツ
  • オリーブ油
  • 魚介類
  • 未精製穀類・玄米:食物繊維、食事性マグネシウムが豊富
  • 乳製品:特にヨーグルト
  • 果物・野菜:ポリフェノール類が豊富

2-6. 2型糖尿病の予防に役立つ食事

  • 中国の健康食:野菜、果物、乳製品、魚介類、ナッツを豊富に含み、肉や加工品を少なくした食事
  • 地中海食:オリーブ油、野菜、果物、ナッツ、豆、魚、鶏肉が豊富な食事

2-7. 食習慣

早食い、朝食をとらない食生活の習慣は発症リスクを増やすため、注意してください。
1日の食事回数が増えるほど発症リスクが減るため、1日3食が最適です。
長期間の飢餓を経験すると発症リスクが増えるため、過度のダイエットはやめましょう。
欧米では適量の飲酒は2型糖尿病の発症リスクを減らすといわれますが、日本では議論があり、リスク軽減のための飲酒は勧められません
甘味糖類ならびに人工甘味料を添加したジュースは発症リスクを増やすため、やめましょう。
コーヒー、ココア、茶類の習慣的な摂取は2型糖尿病の予防に有効です。

2-8. その他の要因

受動喫煙を含めた喫煙は、2型糖尿病の危険因子です。
禁煙は体重増加を伴いやすいため、2型糖尿病の発症リスクを一時的に増やしますが、長期的にはリスクを減らします。
7時間睡眠は最も発症リスクを減らし、短時間睡眠と長時間睡眠はリスクを増やします。
また20〜23時に就寝すると発症リスクが下がります。
不眠症や睡眠時無呼吸症候群は、発症リスクを増やすため、適切な治療が必要です。
うつ状態や精神的ストレスは発症リスクを増やします。
劣悪な労働環境や社会環境は2型糖尿病の危険因子となる可能性があります。
それぞれに対策を練ってください。

3. 2型糖尿病の発症予防に有効な薬

血糖降下薬であるビグアナイド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬、基礎インスリン、GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の発症を予防する効果があります。
ただし糖尿病の発症予防に対する保険適応はありません
降圧薬のアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬はⅡ型糖尿病の発症リスクを低下させます。
スタチンは2型糖尿病の発症リスクを上昇させますが、心血管イベントを抑制する効果のメリットの方が大きいため、脂質異常症に適応があります。

4. まとめ

2型糖尿病とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されにくくなったり、効きにくくなったりすることで血糖値が高くなる病気です。
発症リスクとして、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病の家族歴、高血圧、脂質異常症、座っている時間が長いこと、妊娠糖尿病の既往などがあげられます。
食事療法、運動療法などで生活習慣を改善すれば、2型糖尿病の発症リスクを減らせます。
また2型糖尿病の発症を予防する薬として、ビグアナイド薬などの血糖降下薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などの降圧薬がありますが、発症予防に対する保険適応はありません。
2型糖尿病の発症リスクの対策は、生活習慣の改善が最適です。

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カテゴリー:糖尿病  投稿日:2025-08-20

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