はじめに
健康診断で「脂質異常症」と診断されても、「最近食べすぎちゃったかな」くらいで、そこまで危機感を持つ方も多くはありません。ですがいわゆる生活習慣病といわれている
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 高血圧
- 肥満
は、死の四重奏と呼ばれることがあります。これらの病気を放置して過ごすと、「動脈硬化」を引き起こします。動脈硬化が進行することで、
- 心筋梗塞などの虚血性心疾患
- 脳梗塞・脳出血などの脳血管障害
の病気が引き起こされるリスクが高まります。これらの病気は、発症したら急激に進行し、命を一瞬のうちに落としかねない病気です。さらに命は助かったとしても、後遺症などが残ることが多々あります。
しかしこれらの病気は直接症状が起きないため、軽視されがちです。ですから健康診断で指摘されても、放置してしまう方が少なくありません。
ここでは、脂質異常症の治療意義を知っていただくために、脂質異常症で起きる動脈硬化についてお伝えしていきたいと思います。
脂質異常症でおこる動脈硬化とは?
脂質異常症をなぜ治療しなければいけないかというと、動脈硬化が進行するからです。そのため、まずは動脈硬化について説明しましょう。
人間の血管は、
- 動脈・・・心臓から勢いよく送り出された血液が通る血管。酸素や栄養分を色々な組織に運んでいる。
- 静脈・・・心臓にゆっくりと戻ってくる血液が通る血管。二酸化炭素などが心臓に運ばれ、肺で換気して外に出される
といった2種類の血管があります。
心臓→動脈→手足・頭・臓器などの各々の組織→静脈→心臓
といった循環を、私たちの体の中では24時間、常に行われています。
動脈は心臓から勢いよく血が流れ出るため、本来はゴムのように伸び縮みしやすいしなやかな血管です。しかし脂質異常症や糖尿病など血液がドロドロになると、その影響で血管のしなやかさが失われ固くなります。
この血管が固くなるのが動脈硬化です。では動脈が固くなると何が問題なのでしょうか?勢いよく心臓から出てきた血液の勢いを、ダイレクトに血管が受け続けることが大問題なのです。
今までは伸び縮みすることで勢いが殺されていましたが、固くなり勢いを全て受けきることで色々な問題が生じます。具体的には、
- 血管が血液の勢いで傷ついてしまう。
- 心臓から送り出された血液がスムーズにいきづらいため、心臓に負担がかかる
- 血管が狭くなる
などの問題が生じます。特に一番問題なのが、血管が狭くなることです。なぜ起きるのか、簡単にメカニズムをみてみましょう。
- 動脈硬化で血管が固くなる
- 動脈が勢いある血液の流れの衝撃で壁が傷つく
- 血管の壁に傷に悪玉コレステロール(LDL)が入り込む
- 血管の壁が厚くなりコブのようになる。
- コブが血液の流で傷つき破裂する
- コブに血小板がくっつきかさぶたになる
- かさぶたが完成すると血管がさらに狭くなる
- かさぶたが剥がれるとまた血小板がくっつきさらに狭くなる
ここで大切なのは、③になります。悪玉コレステロールは、血管を狭くするための主役なのです。コブはプラークといいますが、このプラークの主成分は、かさぶたの成分と悪玉コレステロールでできています。
つまり高LDL血症では、血管を狭くなる成分がたくさんあるため、急激に動脈硬化や血管の狭小が進むのです。
動脈の血管が狭くなると栄養が行かなくなり、色々な組織にダメージが出ます。また、プラークが破れて血栓となり、細い血管に直接つまることも多いです。特に問題になるのが、心臓と脳です。具体的な病気としては、
- 心筋梗塞などの虚血性心疾患
- 脳梗塞・脳出血などの脳血管障害
です。心臓と脳は一度致命的なダメージを受けると急激に病態が進み、回復ができなくなってしまいます。
心筋梗塞や脳血管障害はどれくらい危険なの?
動脈硬化が進行し、心臓や脳の血管が詰まることで心筋梗塞や脳梗塞、脳出血が引き起こされます。心臓や脳にダメージが加わると危ないのは、誰しもが想像ができるかと思います。
実際に平成22年まで死因のトップ3は、
- 癌
- 心疾患
- 脳血管障害
でした。心疾患と脳血管障害が全体の約3割を占めています。そして癌は、
- 肺癌
- 胃癌
- 腎癌
- 膀胱癌
- 乳癌
などすべての臓器で発生した癌をひっくるめて1位です。このことも踏まえて、どの臓器が原因で亡くなる方が多いのかをみてみると、
- 心臓
- 脳
が非常に多いです。平成23年以降では、死因の3位が入れ替わりました。
- 癌
- 心疾患
- 肺炎
- 脳血管障害
と、脳血管障害と肺炎が入れ替わりました。脳血管障害が怖い病気ではなくなったわけではなく、高齢社会でご飯をむせこんだりして起こる誤嚥性肺炎による死亡が非常に多いため、このように逆転されたのです。さらに臨床の現場では、この逆転にはもう少し裏があることを実感します。
実は脳梗塞は、血の塊を急速に溶かすt-PA(血栓溶解療法)が発達したため、早期発見であれば命を助けられる疾患も増えてきました。一方で脳は非常に繊細な臓器で、脳梗塞による後遺症、また血栓融解療法で逆に脳出血再発などで、ダメージがもとに戻らないことも多いです。
脳梗塞後の人はこの後遺症に苦しみますが、その一つに嚥下機能の低下があります。飲み込む力が落ちる人が大半で、多くの方は誤嚥性肺炎を繰り返し引き起こします。脳梗塞後の人は、誤嚥性肺炎との闘いともいえます。そのため脳梗塞後の人の多くは、最終的には誤嚥性肺炎で命を落とします。この場合、死亡診断書は「肺炎」と記載されるため、肺炎での死因は順位を上げることになります。
しかし実際の原因は、脳梗塞の後遺症です。つまり現在のように脳梗塞の治療が発達しても、後遺症で多くの人々の命を脅かす恐ろしい病気です。実際に心疾患と脳血管障害だけで、全体の3割から4割を占めると言います。
心筋梗塞と脳血管障害がどれだけ怖い病気か、
- 発症したときの症状
- 治療後の後遺症
などを中心にそれぞれの病気の怖さについてみていきましょう。
心筋梗塞の怖さについて
心筋梗塞は、プラークなどで徐々に閉塞したり、プラークの一部が千切れて血の塊(血栓)として飛んでいき心臓の細い血管に詰まって、心臓に血液が行かなくことで心臓が壊死する病気です。
心臓は壊死してしまうと二度ともとには戻らないため、発症後は迅速な対応が必要になります。症状と後遺症についてみていきましょう。
心筋梗塞の症状とは?
心筋梗塞の症状としては、
- 胸痛
- 動悸
- 冷や汗
- 吐き気・嘔吐
- めまい
- 倦怠感・疲労感
などがあります。特に急に発症した強い激痛の場合、心筋梗塞を考慮する必要があります。胸の強い痛みを表現すると、
- 鉄の杭を胸に打ち続けられた痛み
- 心臓を直接槍で貫きられるような痛み
- 鉄球で胸を圧迫し続けるような痛み
などと表現されます。場面を想像すると、非常に強い痛みだと容易に想像できます。一方で、
- 歯や肩まで広がるような放散痛
- 胸のドキドキ感を伴う息苦しさ
- 胸やお腹のむかつき
などの激しい激痛を伴なわない場合もあります。特に高齢者や糖尿病などの人は神経の感覚が鈍くなってるため、痛みを感じづらくなることがあります。これを無痛性心筋梗塞と言います。
心筋梗塞は命に関わる危険な病気ですが、「心筋梗塞などの病気=そのままポックリと亡くなる」というわけではありません。むしろ後遺症で苦しむことのほうが多い病気です。
心臓は、3つの枝に分かれて栄養が配給されます。
- 左回旋枝
- 左前下行枝
- 右冠動脈
の3つです。このうち一つでもつまれば、その枝が栄養している心臓部分が壊死し心筋梗塞となります。2枝以上つまったら、多枝病変となります。
一方で3つ同時に詰まらずに1枝でも生き残っていれば、その残った心臓機能で一生懸命生きようと頑張ります。そのため、激しい激痛が続くことが多いです。さらに厄介なのは、診断の部分です。
心筋梗塞は、すぐには気づかれないこともあります。心筋梗塞は特徴的な検査結果が出ると診断しやすいのですが、それまでには2~3時間たたないと検査結果が陽性にならないことがあります。この点が、心筋梗塞を診断するのに非常に厄介になります。
心筋梗塞と診断するのに一番良いのは、胸に超音波を当ててみるエコー検査です。痛みも伴わずかつ心臓の動きを直接みれるため、診断が非常にしやすいです。ただし超音波検査は非常に難しい検査で、熟練度が必要になります。
心臓の病気を多く診る循環器内科や救急の医師以外では、ほとんどの医師が完璧にやるのは難しい検査です。そのため、エコー検査以外で心筋梗塞かどうかをあたりを付ける必要があります。心臓の病気を疑った時に行われる検査としては、
- 心電図・・・心臓の動きがおかしくないか?
- 採血・・・心筋梗塞の時に上昇する検査値に異常がないか?
- レントゲン写真・・・心拡大や胸水貯留などがないか?
これらになります。しかしこれらの所見は、
- 心電図・・・心電図異常のST上昇や異常Q波は発生直後に認めることがありますが、2~3時間たってから認めることも多いです。
- 採血・・・心臓が壊死した時の壊死物質(逸脱酵素)が上昇したか確認します。しかし白血球やミオグロビン、ASTなどは、他の病気でも上昇します。また心臓に特異的で速いといわれているトロポニンTが4時間後、CKMBも4~6時間後と時間がかかります。
- 胸部レントゲン写真・・・心筋梗塞発症してから心不全を引き起こしレントゲン写真に異常が発生するのは、数時間以上かかります。
このように、心筋梗塞が発症した直後に確信できる検査が、エコー以外にありません。ではどうするかというと、数時間たってから再度検査して比較することが推奨されています。
激しい胸痛だと疑いが強いため、数時間待ってから再検査することも多いですが、痛みが弱い場合は他の疾患の可能性を考慮してしまうこと多いのです。
心筋梗塞は非常に怖い病気であると同時に、診断が非常に難しい病気ということをご理解ください。
心筋梗塞の治療
心筋梗塞と診断された場合は、基本的には
- カテーテル検査
- 心臓手術
の2つで治療することがほとんどです。手足の血管からガイドワイヤーを通して、血管が詰まってる部位にバルーンやステンドで広げる治療がカテーテルです。
一方で病変が多かったりした場合は、カテーテルではなく手術で直接治療することがあります。バイパス術といって、他の血管を詰まってる部位を開通させるのではなく、つまった部位を迂回する新しい道を作る治療です。
心筋梗塞後の後遺症とは?
日本では、心筋梗塞と診断されて治療した場合の成功率は非常に高く、9割以上ともいわれています。成功率=命が救えた率にはなりますが、成功したから全てが元通りとはなかなかいきません。
心筋梗塞後の方は、大なり小なり心臓にダメージを背負ってしまっています。そのため、心臓の動きが悪くなることがほとんどです。
- 不整脈・・・心臓が壊死した部位が上手く動かず心臓のリズムが悪くなります。
- 心不全・・・心臓の機能全体が低下して、心臓からうまく血液を送れなかったり、受け取れなかったります。
などがあります。不整脈は心臓のリズムがおかしくなり、
- 動悸
- 息切れ
- めまい
などの原因になります。またリズムがおかしい心臓内で血栓が作られてしまい、第2・第3の心筋梗塞の原因になったり、脳梗塞や肺梗塞など新しい臓器の血管を詰まらせる原因になります。
重度の場合は、ペースメーカーや除細動器などを挿入することも考慮します。また、心臓内で血栓が作られないように、血をさらさらにする抗凝固薬を内服することがほとんどです。一方で血をさらさらにする薬を投与すると、
- 脳出血
- 肺出血
- 転んだ時などの大出血
など出血のリスクが高まります。そのため、「血管が詰まる怖さ」と「出血する怖さ」の両方におびえることになります。
心不全も非常に難しい病気です。症状としては、
- むくみ
- 息苦しさ
- 動悸
などがあります。特に、むくみを前兆にすることが多いです。これは心臓の受け取る機能が低下して静脈の血管が大渋滞を引き起こし、血管の外に漏れ出てしまうため起こります。
問題なのは、心臓は24時間働き続けなければいけない臓器のため休むことができないということです。そのため心不全の場合は、
- 利尿剤などでおしっこを沢山出し血管の負担を減らす
- 心臓に一時的にムチをうち、動きを頑張らせる
などの治療がありますが、そもそもへばりだした心臓を元気する治療はありません。そのため、心不全が起こると心臓はへばっていき、悪化すると
- 横になるだけでも息苦しい(起坐呼吸)
- 体に水が溜まって、体全体が重くだるくなる
- 肺に水があふれだしおぼれたような息苦しさがでる(肺水腫)
など重篤な状態まで悪化します。不整脈や心不全は心筋梗塞の後遺症の身体的な病態です。それだけでなく、心筋梗塞が再発するのでは?という恐怖心という精神的な負担も大きい病気です。
心筋梗塞を発症した人は、残念ながら高確率で再発します。発症後6年以内に男性は18%、女性は35%再発するといわれています。さらに心筋梗塞の激しい痛みが脳裏に常によぎるため、また心筋梗塞が発症したらどうしようという恐怖感にさらされます。
この恐怖感がストレスとなり、精神的に胸痛を発することがあります。幻の痛みと書き、幻痛ともいいます。この幻痛は、多くの場合は精神的なことが引き金になることが多いです。悲しいことがあったり不安なことがあると、
- 胸が張り裂けそうな思いだ
- 胸がつまる思いだ
などいいます。このように精神的なストレスがあると、胸痛として認めることが非常に多いです。そのため心筋梗塞後の人は、恐怖心やストレスなどから頻回に胸痛を訴えて、病院に運ばれてくることも多いです。
このように心筋梗塞は、カテーテルや手術で治った方も多くの後遺症に悩まされる病気です。
脳血管障害の怖さについて
脳梗塞は心筋梗塞と同様、脳の血管がつまったり、プラークなどの血栓がつまって引き起こされます。一方で脳出血は、動脈硬化で固くなった血管が破裂したり、脳梗塞でつまった部位に血流が渋滞してパンクすることで出血して発症します。
脳梗塞・脳出血合わせて、脳血管障害といいます。発生頻度としては、
- 脳梗塞75%
- 脳出血18%
- クモ膜下出血7%
といわれています。それぞれの症状の怖さ・後遺症の怖さをみてみましょう。
脳梗塞の症状とは?
脳梗塞は脳の血管が詰まることで、脳に栄養が行かなくなりダメージが出ることで起きます。脳は非常に複雑な臓器で、部位によって全く働きが違います。つまり、梗塞が起きた部位で症状が全く違うのです。
一般的にいわれているのが、
- 顔に歪みが出る・口角が下がる(片側顔面まひ)
- 片方の手足に力が入らない(片まひ)
- ろれつが回らなくなる・言葉が出なくなる(失語症)
- 視野が狭くなる・目の焦点が合わなくなる・物が二重になって見える(視力障害)
- 人の言うことがうまく理解できない・意識がなくなった(意識障害)
などです。言葉をつかさどる脳がやられたら失語症、手足を動きを制御する部位がやられたら片麻痺と、ダメージを受けた部位で障害が出ます。
脳も心臓と同じく、一度低酸素脳症などでダメージを受けると元に戻ることはありません。そのため、急速に症状が進行します。
心筋梗塞と同じく、発症直後の脳梗塞は診断するのは非常に難しいです。CTという検査で脳の中を調べるのですが、CTでは早期は異常所見を認めないことも多いです。そのためMRIという磁気を使った特殊な装置が必要になりますが、MRIがすぐ撮影できる施設は非常に限られます。
治療法としては、現時点では血栓融解療法(t-PA療法)が、発症から4.5時間以内であれば適応されます。そのため上記の症状が急に出たら、すぐに病院に行く必要があります。
ただし血栓融解療法は急速に血をさらさらにするため、リスクも非常に高い治療です。一番可能性が高いのは、脳梗塞後出血です。血栓融解療法は点滴で血をさらさらにするお薬を入れるため、全身が出血しやすくなります。そのため、治療の副作用で出血が起こりえます。
特に血栓を溶かした部位は脳がダメージを受けた直後のため、非常にもろいです。また、血栓を急激に溶かすため、今まで渋滞していた血液が一気に土石流のように流れるため、動脈を破いてしまう可能性が高くなります。
そのため血栓融解療法中は、少しでも神経症状や頭痛が無いか細かく見る必要があります。非常に専門的な治療なので、神経内科や脳外科など専門医師がいる病院でないと対応できません。
また、上記のように非常に危険な治療なため、血栓融解療法は全身状態や年齢など細かな基準をクリアーしないと治療できないので注意が必要です。
脳出血の症状とは?
脳血管障害のもう一つの疾患が、脳出血です。特徴的な症状としては、
- 激しい頭痛
- 激しい嘔吐
- ふわふわ浮いたようなめまい
です。特に頭痛は、今まで感じたことがないような激しい痛みが急激に出現することが多いです。
脳梗塞は一般的には頭痛は認めないため、頭痛がある場合は出血を強く疑います。どれくらい激しい頭痛かというと
- 斧で頭を殴られたような痛み
- 釘をハンマーで打ち続けられるような鋭い痛み
- 車のタイヤで頭をひかれたような痛み
など激しいです。心筋梗塞と違うのは、軽度の頭痛とでは脳出血は少ないです。また出血した部位によっては、脳梗塞と同じように言語障害や麻痺が出ることもあります。
脳出血の場合は、基本は手術です。出血した部位を止めなければ血は出続けてしまいます。一方で、
- 出血部位
- 出血範囲
- 全身状態
などでは手術自体が不可能なことも多いです。こうなると、もう手立てはありません。基本的には様子をみることしかできないことがほとんどです。
脳梗塞や脳出血の後遺症とは?
脳は、体の中で最も繊細な臓器です。心臓と同じで一度ダメージを受けたら、元に戻ることがありません。しかし心臓と違うのは、脳は役割が多すぎることです。心臓の役割は、
- 心臓から血液を送る
- 血液を心臓から受け入れる
の2点です。そのため壊死した部位が少なければ、周りでフォローしてくれます。しかし脳は、部位によって細かく多くの仕事があります。
- 手足動かす
- 言葉を話す
- アイスをなめたら甘いと感じる
- 音楽を聴く
- 昨日あった出来事を思い出す
我々の動作や5感(味覚・聴覚・視覚・触覚・嗅覚)、さらに記憶や言語など、あらゆるすべてのことが脳が受け取り、脳が指令を出します。役割をあげたらきりがありません。
さらにこれらの役割は脳の部位によって細かく分かれており、情報伝達を細かい神経が行き来することでやりとりしています。そのため心臓と違ってダメージが軽度でも、重要部位がやられたら大きな損害につながります。
そのため脳梗塞や脳出血は、状態が安定したらすぐにリハビリに入ることが推奨されています。脳の神経細胞が新たに経路を作ったり、やられた脳細を他の細胞が担おうとする働きが、私たちの脳に備わっていることがわかってきているためです。
この能力を可塑性といい、能力を最大限に生かすために早期にリハビリテーションは行われます。しかし、完全にもとに戻ることは残念ながら少ないです。
多くの方は早期にリハビリして一部の症状は改善しますが、その後は維持期といって能力維持のためのリハビリになります。そのため、
- 片麻痺(手足が動きづらい)
- 言語障害(言葉が理解できない、うまく話せない)
- 認知障害(忘れっぽい、怒りやすくなる)
- 嚥下障害(食べるとむせこむ、うまく食べれない)
などなど様々な症状が残ります。これらの症状によって、
- トイレに自分では行けずおむつ生活
- 動けないのでテレビを見るしか楽しみがない
- 伝えたいことが伝わらずイライラする
- 食事をむせこむ都度、誤嚥性肺炎が起きる
などなど様々な弊害が出現します。特にリハビリは早期は効果がありますが、その後の維持期の段階では症状の改善が少なく、それにより意欲が失われ寝たきり状態になってしまう方も少なくありません。
効果が少ないですが、リハビリを怠ると負のスパイラルに陥り、あっという間に悪くなるのが脳血管障害の厄介なところです。脳梗塞の状態が悪いと、寝たきり状態で「生きてる」というより、「生かされている」と感覚に陥り、自暴自棄になってしまう方もいらっしゃいます。
さらに自分だけではなく、家族の方も非常に負担がかかります。
- トイレに行けないのでトイレの世話をする
- 頻回に誤嚥性肺炎を起こして病院につきそう
- 認知症がすすんで、介護していても怒鳴られる
脳血管障害は、本人だけではなく介護する家族も根気と努力が必要になる病気です。人によっては、リハビリ病院や老人病院への医療施設で生活を余儀なくされることもあります。
一方で、お金がなくて病院に入院できない方は、脳血管障害の方と長い闘病生活が始まります。
- 24時間世話をしなければいけないから外にいけない
- 一生懸命世話をしていても、認知症があって怒鳴られてばかりでストレスがかかる
- リハビリをしていても、高齢に伴い状態もどんどん悪くなる
こういった負のスパイラルに陥って家族も心身ともに疲弊されることが多い、とても恐ろしい病気です。
脂質異常症と診断された方へ
ここまで動脈硬化によって、
- 心筋梗塞
- 脳血管障害
の怖さについてまとめていきました。大切なのは、
- 心筋梗塞・脳血管障害は予兆もなくいきなり起こることが多い
- 心臓・脳は命を落とす危険性が高い
- 心臓・脳は一度ダメージを受けると元には戻らない
ところです。特に、一度ダメージを受けるともとには戻らないことが非常に重要になります。通常は、
- 症状が出る→病気を診断する→病気を治す
という流れが普通です。しかし脂質異常症や高血圧、糖尿病は最初の症状がないため、診断されても病気を治そうとする意欲がわかないことが多いです。しかし一度病気になってしまうと、二度ともとには戻りません。むしろ病気が起きるくらい動脈硬化が進んだ場合、2回目、3回目と起きる可能性が高くなります。
その時に脂質異常症をもっとまじめに治せばよかったと後悔しても、時すでに遅しです。そのため、このような怖い疾患にかからないように予防することが大切です。
脂質異常症と言われた人は、何となく「脂肪が多いんだなぁ」で終わらせずに、「心筋梗塞や脳血管障害が起きないように頑張って治療しなきゃ」と意欲を持っていただけたらと思います。
まとめ
- 脂質異常症は動脈硬化を引き起こします。
- 動脈硬化が進行すると心筋梗塞や脳梗塞・脳出血のリスクが高まります。
- 心筋梗塞や脳梗塞は一度発症すると命の危険がある病気です。
- 心筋梗塞はカテーテルや手術後も、不整脈、心不全、幻痛に苦しむ病気です。
- 脳梗塞や脳出血後、麻痺などが残った場合は長期のリハビリが必要になります。
- 心筋梗塞や脳血管障害になる前に、脂質異常症を改善することが大切です。
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【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
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医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:脂質異常症(高脂血症) 投稿日:2020-10-11
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