コロナ後遺症とは?
新型コロナウイルス感染症が拡大して、もう2年が経ちました。
私たちの生活も一変し、感染対策が日常になる一方、「高齢者や基礎疾患のある人以外は、感染を恐れすぎる必要はないのではないか」といった意見も聞かれます。
しかし、コロナ感染当初の症状(急性期症状)は軽症で済んだとしても、回復直後、あるいは数週間から数か月の期間が経った後に新たな症状を発症する、いわゆる『コロナ後遺症』を発症するケースが相当数あることが分かってきています。
症状は、倦怠感、頭痛、ブレインフォグ、息苦しさ、しびれ、微熱、抑うつなど多岐に渡ります。
急性期の重症度と後遺症の重症度に必ずしも関係がないという指摘があり、急性期は軽症で済んだのに、後遺症で1年以上も元の生活が送れなくなってしまっている方もおられます。
一度回復しても、しばらくしてから再発することも見られており、油断できない病態です。ここでは、コロナ後遺症について詳しくお伝えしていきます。
コロナ後遺症の発症率
コロナ後遺症の症状の発症率について、厚労省発行の『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第4.2版』では、各国で調査されたデータを、以下のように報告しています。
調査国 | 調査対象 | コロナ罹患後の経過期間 | 発症率 | 症状・状態 |
米国 | 270人 | 2~3週間後 | 35% | 「普段の健康状態に戻っていない」 |
フランス | 120人 | 110日後 | 30% | 記憶障害、睡眠障害、集中力低下などの症状 |
イタリア | 143人 | 2か月後 | 87% | 倦怠感、呼吸困難、関節痛、胸痛、頭痛、めまいなどの症状 |
日本 | 63人 | 60日後 | 右記 | 嗅覚障害19%、呼吸困難17%、倦怠感15%、咳7%、脱毛24% |
出典:厚労省『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第4.2版』
どういった症状が出現するのか?
コロナ後遺症の症状は非常に多岐に及んでおり、
- 倦怠感
- 抑うつ気分
- 思考力の低下
- 頭痛
- 呼吸困難
- 記憶障害
- 睡眠障害
- 関節痛
- 起立時の動悸、めまい
- 発熱・微熱
- 嗅覚障害・味覚障害
- 脱毛
といった症状が見られます。
特に注意すべき症状「倦怠感」
コロナ後遺症の症状はどれも厄介な症状ですが、特に注意すべき症状は倦怠感です。
病気になる前なら問題なかった活動の後に強い倦怠感が生じる、労作後倦怠感(Post-exertional malaise, PEM)と呼ばれる現象があります。
コロナ後遺症では、身体的・精神的負荷の後、倦怠感のみでなく、様々な症状が悪化することがあります。
さらに、このPEMを繰り返すことで、悪化した症状が半年以上持続する、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome, ME/CFS)の状態に移行するとみられています。
ME/CFSに移行すると、倦怠感でほとんど日常生活も送れないようになり、多くの日数を横になって過ごさなければならない状態になります。
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)については、慢性疲労症候群のページにて詳しくご紹介します。
慢性疲労症候群との関連
ME/CFSの診断基準を踏まえると、コロナ後遺症の症状の大部分はME/CFSの症状と重なっていることがわかります。
コロナ後遺症とME/CFSがまったく同じ病態ではないと思われますが、療養方法や治療を考えていくには大きな参考になります。
コロナ感染後、かなりの割合でME/CFSの諸症状が出現し、安静にしていることで症状が改善したり消失することもあるものの、身体的・精神的負荷を繰り返すことで悪化したり、新たに発生したり、症状が遷延し、ME/CFSに移行してしまうことがあります。
胃食道逆流症
コロナ感染の後、胃酸逆流が起きやすいことが知られています。
コロナ感染後の胃酸逆流は、通常の胃食道逆流症と違った特徴があります。
通常の胃食道逆流症では、胸やけや呑酸(酸っぱい感じ)がおもな症状ですが、コロナ感染後の胃酸逆流ではこれらの症状は比較的少なく、代わりに喉の渇きを伴う中途覚醒、息切れや動悸といった症状が多いといわれています。
さらに、胃酸逆流を繰り返すことによって、倦怠感や頭痛といったME/CFSの症状の悪化も見られます。
亜鉛や鉄不足
コロナ感染の後、血中亜鉛濃度や血中貯蔵鉄(フェリチン)濃度の低下が見られます。
亜鉛の欠乏は、嗅覚障害、味覚障害、脱毛などとの関連性が指摘されています。
コロナ後遺症疑いの場合の検査や問診
2020年からはじまったコロナ感染症ですから、コロナ後遺症に対する知見も十分ではありません。
本来医学とは、間違いのないエビデンスの積み重ねで治療を行っていくべきですが、今まさに困っている患者さんが目の前にいらっしゃる以上、できることを追求していくより他ありません。
当院では、まずは経緯やお困りの症状をお伺いし、
- 本当にコロナ後遺症による症状なのか
- 他の疾患が隠れていないか
- どういった種類の症状があり、それぞれ程度の重症度なのか
- どんな疾患が合併しているか
を確認していきます。
また症状の原因となりうる他の病態として、甲状腺機能などの問題がないか確認していきます。
コロナ感染による合併症として、心筋炎、血液凝固能の亢進(血液が固まりやすくなる)、腎不全、亜鉛や鉄の不足などがないか、心電図検査や血液検査を行っていきます。
コロナ感染によって循環器や呼吸器の問題が発生していることがありますが、当院では必要に応じて院内の内科専門医と連携して診ていくことができます。
また、CT検査が必要な際には、近隣の久保田クリニックにて当日中に検査を受けて頂くことも可能ですし、更に専門性の高い検査や治療が必要な場合には関東労災病院や連携大学病院にご紹介させていただくことも可能です。
コロナ後遺症に対する治療法
コロナ後遺症はまだメカニズムや有効な治療法が完全には解明されていませんが、臨床的に有効そうな対処法がいくつか確認されています。
- 生活療法(生活上の注意点)
- 薬物療法
- 慢性上咽頭炎治療(Bスポット療法)
- 東洋医学(漢方・鍼灸)
- rTMS療法(反復経頭蓋磁気刺激療法)
ご紹介していきます。
生活療法(生活上の注意点)
生活上、いくつかのことに留意することで、症状の悪化や進行を避けることができると考えられています。
いくつかありますが、まずはゆっくりと休養を取ることが重要です。そして本当に無理のない範囲から、少しずつ負荷をかけていく形になります。
どの程度の負荷であれば大丈夫なのかは非常に難しいところです。
急性期をすぎると、心理的な面では本当に無意識に、症状がストレスから身を守ってしまうようなこともあります。
本人は症状で苦しんでいるのに、ストレスから逃れるために症状が本当に表れることは、心療内科の領域ではよくあります。
ですからPEMを避けるのは前提として、無理のない範囲でできることは行っていくことも、時期によっては必要になります。
当院では心身をトータルでバランスを見ながら、療養方法を相談していきます。
薬物療法
お薬による治療については、症状に合わせて行っていきます。
対症療法となりがちですが、ビタミンや栄養素の補充なども必要に応じて行っていきます。
またメンタル不調が認められ、うつ症状や不安症状が認められる場合は、心のお薬が使われることもあります。
抗うつ剤のフルボキサミン(商品名:ルボックス・デプロメール)は、抗炎症作用が報告されており、コロナの重症化を低下させるといった報告があり、コロナ後遺症で処方されることも増えています。
慢性上咽頭炎治療
コロナ後遺症のメカニズムはまだ完全に解明されておらず、様々な病態が背景にあるとみられます。
ただし、慢性上咽頭炎という耳鼻科領域の疾患を併発していることが多く、この場合はいくつかの耳鼻科で行われている上咽頭擦過療法によって症状が改善することがあります。
この慢性上咽頭炎に対して、以前から一部の耳鼻咽喉科で行われている治療法が上咽頭擦過療法(Bスポット療法、EAT)です。
当法人では、非常に豊富な症例のある川崎市高津区にある「もぎたて耳鼻咽喉科」と提携して治療を行うことが可能です。
東洋医学
コロナ後遺症は未だ病態のメカニズムも解明されておらず、西洋医学的な治療は確立されていません。
西洋医学は、病気を引き起こしている部分に対してピンポイントに治療していくものなので、病態が明確に分かっていないと治療法も定まりません。
一方で東洋医学は、病気の人の全身の状態を確認して、そのゆがみを直していく手法をとるので、正確な病気のメカニズムにかかわらず治療していくことができます。
- 漢方薬
体の状態や症状にあった漢方薬を使用することで、全身のバランスを調整し、からだ本来の治癒力を引き出して症状を軽減、解消していきます。
当院にて処方可能です。
- 鍼灸
漢方と同様に東洋医学の一分野として中国に起源をもつ、日本の伝統的医療です。
体の状態に適したツボに金属の細い針を刺したり、お灸を置いたりして刺激を加えることでからだ本来の治癒力を高めます。
rTMS療法
TMS治療がコロナ後遺症自体に効果があるかどうかは、現時点ではわかっていません。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症が脳構造の変化に関係するという論文も出ているので、何らかのアプローチで改善する可能性があります。当院では国際医療福祉大学の野田先生の指導の下、効果の期待できるTMS治療を模索するプロジェクトをたちあげています。
コロナ後遺症の症状により、うつ状態に至ってしまう方も少なくありません。少なくともうつ状態に対しては、TMS治療は効果が期待できる治療法になります。
詳しくは、『新型コロナ後遺症とは?TMS治療の可能性』のページで解説しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:コロナ後遺症 投稿日:2022-05-07
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