肥満症の診断と新しい治療

肥満症とは?

肥満症とは、以下の①と②または③を併せた状態のことを言います。

  1. 脂肪が過剰に蓄積した状態(BMIが25以上)
  2. 肥満関連健康障害を合併する、または合併が予測される状態にある
  3. 内臓脂肪蓄積がある場合(腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上)

日本肥満学会は、体重が重い状態である「肥満」と、健康障害を有し医学的に減量を必要とする「肥満症」を区別することを提唱しています。

肥満は体脂肪の分布から、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満に分類できます。

全ての肥満が問題になるわけではなく、糖尿病・脂質異常症・高血圧といった生活習慣病の要因になり、動脈硬化性疾患を発症させることが多い内臓脂肪型肥満が治療を必要とします。

肥満症は単に体重が重いから疾患とされるのではなく、肥満によって健康障害を合併しているために疾患として扱われています。

肥満症は医療機関で治療を受けることができるので、気になる方は早めに内科などを受診しましょう。

肥満症の診断と分類

それでは肥満症の診断と分類について、詳しく見ていきましょう。

肥満症の診断

肥満症は①と②または③のどちらかの状態にある場合に、肥満症と診断されます。

  1. 脂肪が過剰に蓄積した状態(BMIが25以上)
  2. 肥満関連健康障害を合併する、または合併が予測される状態にある
  3. 内臓脂肪蓄積がある場合(腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上)

BMIの求め方

BMI(Body Mass Index)とは、身長に対する体重の比率を表したもので、肥満の程度を判定することができます。

BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

BMIが25以上で肥満となります。

肥満症の分類について、内科専門医が詳しく解説します。

肥満症の診断に必要な肥満関連健康障害

  • 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
  • 脂質異常症
  • 高血圧
  • 高尿酸血症・痛風
  • 冠動脈疾患
  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患
  • 月経異常・女性不妊
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
  • 運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
  • 肥満関連腎臓病
  • 内臓脂肪型肥満の診断

ウエスト周囲長を測定し、男性85cm以上、女性90cm以上で、内臓脂肪蓄積を疑われます。

腹部CT検査などを行い、内臓脂肪面積≧100㎠が測定されれば、内臓脂肪型肥満と診断されます。

メタボリックシンドローム

近年注目されているメタボリックシンドロームについて付け加えて説明します。

メタボリックシンドロームは、ウエスト周囲長を基準に(男性85cm以上、女性90cm以上)、次の3項目のうち2項目以上に該当する場合に診断されます。

  1. 脂質異常:中性脂肪150㎎/dL以上、かつ(または)、HDLコレステロール40㎎/dL未満
  2. 血圧高値:130/85mmHg以上
  3. 高血糖:空腹時血糖値110㎎/dL以上

肥満症の分類

肥満症の分類は診断フローチャートに基づいて行われます。

 

肥満症診断のフローチャートを内科専門医が解説します。

肥満症の治療法

肥満症は、「肥満が原因となって健康障害を発症している、または、発症することが予測される病態」と定義されています。

つまり、体重(BMI)が大きい肥満という理由で疾患とされるのではなく、肥満であることによって健康障害が合併していることから疾患と扱われます。

したがって、体重を大きく減らすことが治療の目的ではなく、減量によって健康障害を改善・予防することが目的であり、具体的な体重の減量が目標とされています。

肥満症には5つの治療方法があり、日本肥満症学会の治療指針に沿って治療を行います。

  1. 食事療法
  2. 運動療法
  3. 行動療法
  4. 薬物療法
  5. 外科療法

肥満症の治療方針を、ガイドラインをもとに内科専門医がご紹介します。

減量治療は食事・運動・行動療法を中心としたライフスタイルの改善が基本とされ、薬物療法や外科療法を行う際にもライフスタイルの改善は必須となります。

しかし、食事療法や運動療法は続けることが難しく、動機付けや生活の中に無理なく取り入れられる方法を考えることが重要となります。

食事療法とは?

食事療法は肥満、肥満症治療の基本療法となります。

減量の目標として、3~6ヶ月間で現体重の3%以上減量できれば健康障害が改善され、臨床上意義のある減量と考えられています。

(高度肥満症の場合は、合併する健康障害によって減量目標は異なりますが、現体重の5~10%減量を目標とします。)

食事療法の具体的な方法には、以下のようなものがあります

目標体重を設定し、それに基づき摂取エネルギー量を算定する

  • 炭水化物・糖質・脂質の各摂取栄養素バランスを見直し、糖質制限をする
  • 食物繊維の摂取量を増やす
  • 人工甘味料の摂取を控える

運動療法とは?

運動療法は食事療法と同様に、肥満症治療の基本療法となります。

筋力トレーニングのような負荷をかける運動(レジスタンス運動)より、エネルギー消費量を増やす有酸素運動を中心に行うことが推奨されています。

運動療法は、肥満症に関連する死亡や心血管疾患の発症・重症化リスクを低下させます。

ですが、減量を目的として運動療法を行うにはハードルが高く、150分/週以上の運動をしなければ体重減少を期待できないとされています。

また近年では「長時間の(静止状態の)立位と座位行動は健康を阻害する」という報告もあることから、座位行動を減らすことも運動療法の1つと捉えられています。

【運動療法のプログラムの原則】

  • 有酸素運動を中心に行う(レジスタンス運動の併用も望ましい)
  • 軽~中等度の運動から始め、慣れてきたら少しずつ強度を上げることも考慮する
  • 1日30分以上(短時間の積み重ねでもよい)、毎日あるいは週150分以上
  • 座位行動を減らす
  • 細切れでもよいので今より1日10(1000歩)歩行を増やす

薬物療法とは?

薬物療法は、非薬物療法(食事療法・運動療法・行動療法)で有効な効果が得られなかった場合や、合併症の程度によって急速な減量が必要な場合に、医師によって検討されます。

薬物療法を始める前には必ず非薬物療法を実施する必要があり、薬物療法を併用する場合でも非薬物療法を継続する必要があります。

使われるお薬は、糖尿病関連のお薬とそれ以外に分けることができますが、正式に肥満症として適応が認められているお薬は、以下になります。

  • サノレックス(一般名:マジンドール)

だけでした。2023年にはいり、以下のお薬が認可されました。

  • ウゴービ(一般名:セマグルチド)
  • アライ(一般名:オリルスタット)※OTC

それ以外にも、糖尿病で使われるお薬を中心に、様々な食欲抑制作用のあるお薬が使われています。(詳細は後述)

外科療法とは?

一般的に、減量・代謝改善手術と呼ばれています。

具体的な手術の種類としては、

  • 胃バンディング術
  • スリーブ状胃切除術
  • 胃バイパス術
  • スリーブ状胃切除術+十二指腸空腸バイパス術

があります。

高度肥満症では、食事療法・運動療法・行動療法・薬物療法などでは効果が得られないことが多く、肥満関連の健康障害が改善しません。

そのような高度肥満症に対しては、内科的な治療に加えて、外科療法の選択が推奨されています。

美容医療などで行われる減量治療とは異なります。

【外科療法の適応基準】

  • 18~65歳の原発性肥満
  • 6ヶ月以上の内科療法で有意な体重減少や肥満関連健康障害の改善が得られない高度肥満症
  • 体重減少が主目的の場合、BMI≧35
  • 肥満関連健康障害の治療が主目的場合、糖尿病、または糖尿病以外に2つ以上の健康障害を合併したBMI≧32の肥満症

肥満症治療の薬 5種類と漢方

肥満症治療の適応として正式に認められているお薬として

  • サノレックス(一般名:マジンドール)

がありますが、こちらはBMI35以上の高度肥満の方に限定された適応となっています。

覚せい剤(アンフェタミン)に近い特性があり、依存性もあるため、実際の治療現場では処方することのないお薬でした。

そのような中で肥満症治療は、自由診療領域を中心に取り扱われてきました。

上記のサノレックスも含めて、ともすれば非倫理的な治療がなされてきた実情があります。

そして近年では、糖尿病治療薬を転用する形で肥満症治療に自由診療で広告されるようになり、オンライン診療などでも過剰な適応外広告がなされるに至り、日本糖尿病学会が警告する状況となりました。

そのような背景のなか、2023年になり、肥満症治療では新たな以下のお薬が認可されました。

  • ウゴービ(一般名:セマグルチド)
  • アライ(一般名:オリルスタット)※OTC

ここでは肥満症治療に使われている代表的な5種類のお薬と漢方薬を、ご紹介していきます。

GLP-1受容体阻害薬

【作用】

  • インスリンの分泌促進、グルカゴンの分泌抑制作用にて、血糖値の上昇を抑える
  • 中枢神経に作用し、食欲を抑制する
  • 消化管運動を抑制し胃内の食物停滞時間が長くなることで、満腹感の持続、空腹感を感じにくくなる

【薬】

  • リベルサス(一般名:セマグルチド):リベルサス):経口薬
  • トリルシティ(一般名:デュラグルチド):週1回注射剤
  • オゼンピック(一般名:セマグルチド):週1回経口薬
  • マンジャロ:(一般名:チルゼパチド)・週1回注射剤
  • ウゴービ(一般名:セマグルチド):週1回注射剤 ※承認決定
  • ビクトーザ(一般名:リラグルチド):毎日注射剤

糖尿病のお薬になりますが、経口薬のリベルサスが発売されたことで、急激に自由診療で高値で取引されるようになりました。

必要とする患者さんにも薬が届かない状況となり、日本糖尿病学会からも警告がだされました。(この時点で自由診療で手を出しているところは、倫理的でない診療をしている可能性が高い)

2023年よりウゴービが適応となり、こちらはオゼンピックと同様の成分で、週1回の注射製剤となります。

BMI27以上(170㎝で78㎏強・160㎝で69㎏強)で、肥満関連健康障害を2つ以上ある場合が適応となります。

食欲抑制薬

【作用】

  • 視床下部に作用し、接触調節中枢に作用して食欲を抑制する
  • 神経終末でのモノアミンを介して、接触抑制をする

【薬】

  • サノレックス(一般名:マジンドール)

こちらの薬は、覚せい剤(アンフェタミン)に類似した特性があるため、依存性に注意が必要です。

BM35以上の高度肥満の場合で、食事や運動でも改善が認められなかった方が対象です。

投与期間はできるだけ短期間として、どんなに長くとも3か月が限度とされています。

1か月で効果を認めない場合は中止することとなっています。

こちらもかつて、美容領域の自由診療で、不適切な使われ方をした歴史があります。

SGLT-2阻害薬

【作用】

  • 尿細管でのブドウ糖の再吸収を阻害することで、尿中にブドウ糖を排出させ血糖値を下げる

【薬】

  • スーグラ(一般名:イプラグリフロジンL-プロリン)
  • ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)
  • カナグル(一般名:カナグリフロジン)
  • フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)
  • デベルザ/アプルウェイ(一般名:トホグリフロジン)
  • ルセフィ(一般名:ルセオグリフロジン)

こちらも糖尿病のお薬で、糖は本来は貴重な栄養ですので、尿には漏れ出さない仕組みがあります。

その仕組みを邪魔して、「糖尿」として出してしまいます。

消化管リパーゼ阻害薬

【作用】

  • 消化管での脂肪の分解を阻害し、脂肪の吸収を抑制する

【薬】

  • オブリーン:(一般名:セチリスタット)
  • アライ:(一般名:オルリスタット)※OTC承認
  • ゼニカル:(一般名:オリルスタット)

このうちオブリーンは、2013年に一度は承認されたものの、発売前に有効性や必要性が問われてしまい、薬価が付くことなく、日本では未発売となりました。

すい臓の消化酵素のリパーゼを邪魔することで、脂肪吸収をさせずに便で排出するお薬になります。

10年後の2023年、市販薬のOTCとして同じメカニズムのアライ(一般名:オリルスタット)が発売承認されました。

抗てんかん薬

【作用】

  • 過食性障害に対して使われ、食欲を抑制します

【薬】

  • トピナ(一般名:トピナマート)

難治性てんかんの治療薬であるトピナ(一般名:トピナマート)は、副作用として食欲減少があります。

てんかんのお薬ですので気分安定作用や衝動統制の作用も期待できるため、過食症の時に使われることがあります。

他のてんかんのお薬でも効果がない場合に限られるため、

  • デパケン(一般名:バルプロ酸)
  • リボトリール(一般名:クロナゼパム)

などを少量あわせてつかわれます。

漢方

肥満に対する漢方薬としては、以下の2つが使われることが多いです。

漢方薬は経験則に基づく生薬の配合で、効果を期待していきます。

防風通聖散は固太り、防己黄耆湯は水太りに効果があるといわれています。

固太りとは、体力があって食欲もあり、いわゆるメタボリックな状態のことです。

水太りとは、虚弱で冷えなどがあり、むくみや消化不良を起こしているような状態のことです。

防風通聖散は、発汗や利尿、便通の改善によって老廃物をだす効果が期待できます。

防己黄耆湯は、より利尿作用に重点が置かれています。

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。

クリニック一覧

医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。

(医)こころみ採用HP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:肥満症  投稿日:2023-02-18

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

人気記事

【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用

喘息の長期管理薬とは? 喘息は、気道に慢性炎症が起きて狭くなっている状態です。それが引き金となって気道が過敏になり、ちょっとしたきっかけで咳や息苦しさをくり返します。 喘息の治療は、 炎症を抑え、喘息の悪化や発作を予防す… 続きを読む 【医師が解説】喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)の効果と副作用

カテゴリー:喘息の長期管理薬(吸入ステロイド)  投稿日:

SGLT2阻害薬の効果と副作用

SGLT2阻害薬とは? SGLT2(エスジーエルティー・ツー)阻害薬は糖尿病の治療ガイドラインで定められている治療薬のひとつで、膵臓ではなく腎臓に作用することで血糖値を改善する働きがあります。 SGLT2は腎臓に存在する… 続きを読む SGLT2阻害薬の効果と副作用

カテゴリー:糖尿病治療薬  投稿日:

ノイロトロピン注射の効果と副作用

ノイロトロピン注射とヒスタグロビン注射 花粉症の注射で調べると、敷居が高いステロイドや効果が出るのに時間がかかる減感作療法が並ぶと思います。即効性がありながらも安全性の高い注射を探されている方にお勧めなのがノイロトロピン… 続きを読む ノイロトロピン注射の効果と副作用

カテゴリー:アレルギーの注射剤  投稿日: