咽頭癌

咽頭癌とは?注意すべき症状についても医師が解説

咽頭癌とは

咽頭癌(いんとうがん)は、咽頭(いんとう:のどのことで、空気と食物の通り道のこと)の粘膜やその周辺の組織に発生する悪性腫瘍のことです。

咽頭は食道と気管の入口の間に位置し、声を出す声帯や耳ともつながっています。咽頭癌は、その発生部位により、上咽頭癌(じょういんとうがん)、中咽頭癌(ちゅういんとうがん)、下咽頭癌(かいんとうがん)に分類されます。

咽頭癌は、頭頸部(とうけいぶ)がんという目や耳、のどの癌の一種です。頭頸部がんは日本人の癌患者さん全体のうち約3%と比較的まれな癌ですが、その患者数は毎年増えています。

そして、咽頭がんも徐々に患者数が増加しています。そこで、今回の記事では、咽頭癌について、それぞれについて解説していきます。

上咽頭癌(鼻咽腔癌)

上咽頭は鼻腔(びくう)の後ろに位置し、鼻と喉をつなぐ部分です。この領域で発生する癌を上咽頭癌と呼びます。

上咽頭癌は、中国や東南アジアなど特定の地域で多く見られます。

上咽頭癌の発生には、 EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)の感染が関連しているとされます。

上咽頭は耳や鼻と繋がる部位なので、上咽頭癌による症状としては、鼻詰まり、鼻血、耳の不快感があります。また、上咽頭の周りにはリンパ節が豊富にあるため、頚部リンパ節の腫れで発見されることもあります。さらに、上咽頭は脳に近い部位でもあるため、脳神経症状として目が見えにくくなる、二重に見えることがあるということもあります。

上咽頭癌は、その場所から手術することが困難な場合が多いため、治療として放射線療法や化学療法、それらを組み合わせた化学放射線治療が主な治療法となります。

上咽頭癌の場合、初期症状が軽いことが多いため、頚部リンパ節の腫れや持続的な鼻詰まりに注意が必要です。

中咽頭癌(口蓋咽頭癌)

中咽頭は口蓋の裏側から喉頭上部までの範囲を指します。軟口蓋(なんこうがい)という口の上部の奥にある柔らかい部分や、口の奥の突き当たりの壁、口蓋扁桃、舌根(ぜっこん:舌の付け根の部分)が含まれます。中咽頭癌は、この領域で発生する癌です。

中咽頭癌の発症には、喫煙、アルコールの過剰摂取、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染などが関連しています。HPVに関連した中咽頭癌は、予後が良いということが知られています。

中咽頭癌の症状は、 嚥下困難、喉の痛み、耳痛、声のかすれなどがあります。

治療法には放射線療法、化学療法、手術などがあります。病期や腫瘍の大きさに応じて治療法が選択されます。

嚥下時の不快感や持続的な喉の痛みがあれば、中咽頭癌の可能性を考慮する必要があります。

下咽頭癌(喉頭咽頭癌)

下咽頭は喉頭の上部から食道の入り口までの範囲を指し、この領域で発生する癌です。

咽頭癌の中では比較的まれです。

下咽頭癌のリスク因子としては、喫煙、アルコールの過剰摂取があります。

下咽頭癌の症状には、嚥下痛(えんげつう:飲み込む際の喉の痛み)、声のかすれ、喉の違和感、耳痛などがあります。

下咽頭癌は、早期の場合には喉を残す(温存:おんぞんといいます)ために、放射線治療や喉頭温存手術を行うことになります。
下咽頭癌が進行している場合には、手術によって喉を摘出せざるをえないことも多くなります。しかし、QOLを保つために、喉頭温存手術や化学放射線治療を行う場合もあります。

中咽頭癌と同様に、嚥下痛や持続的な喉の違和感があれば、下咽頭癌を疑う必要があります。

咽頭癌の診断と治療は、早期発見が重要です。上記の症状がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。

検査方法

咽頭癌の診断には、以下のような検査が用いられます。

  • 内視鏡検査:咽頭や声帯の状態を直接観察します。
  • 生検:疑わしい部位から組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。
  • 画像診断:CTスキャンやMRI、PETスキャンなどを用いて、がんの広がりや転移の有無を評価します。

治療法

これまで述べてきたように、咽頭癌の治療は、がんの進行度や患者の全体的な健康状態に基づいて決定されます。

ここで、それぞれについて少し詳しく説明しましょう。

  • 手術:がんを取り除くために行われます。進行度によっては、咽頭や声帯の一部を切除する必要がある場合もあります。
  • 放射線療法:がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を使用します。
  • 化学療法:がん細胞の成長を抑える薬剤を使用します。放射線療法と併用されることが多いです。
  • 免疫療法:がん細胞を攻撃するために、患者の免疫システムを活性化させる治療法です。

見逃せない症状

咽頭癌は初期の段階では症状が軽微であることが多く、見逃されることがあります。以下の症状が持続する場合は、医師に相談することが重要です。

  • 喉の違和感や痛みが続く
  • 声のかすれや声の変化が続く
  • 嚥下困難が続く
  • 首のしこりが見られる
  • 鼻血が続く
  • 物が二重に見える

これらの症状が見られた場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。

まとめ

咽頭癌は日本人のがん全体としてはまれなものですが、徐々に患者数が増えており決して関係のないものではありません。

今回の記事でご紹介したような症状があれば、まずは耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。

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カテゴリー:喉の病気  投稿日:2024-05-31

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