アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

  • アトピー性皮膚炎は、「乾燥した皮膚」「激しいかゆみ」「炎症」を特徴する皮膚疾患で、良くなったり悪くなったりを周期的繰り返しながら、症状の寛解に長い時間を要する疾患です。
  • 幼少期に発症したアトピー性皮膚炎は、成長とともに改善されることが一般的ですが、成人になっても続く場合があります。
  • アトピー性皮膚炎の発症は遺伝的要因と環境要因の両方があります。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、一般的によく知られている疾患です。
しかし、情報や治療に関する様々な情報がたくさんあるにも関わらず、原因が一つではなく様々な要因が絡んでいることや、慢性的に症状が続く管理の難しさから、なかなか治癒が難しいと感じられる疾患でもあると言えます。

子どもがアトピー性皮膚炎になると、痒くてたまらない・無意識に掻いてしまう子供と、「掻かないで」と止めなければならない大人。
また、子どもはベタベタする保湿剤やステロイド剤を嫌がったり、汗を拭いたりシャワーを浴びたり何度も着替えをさせられることを面倒臭がるなど、親子ともにストレスを感じながらも根気強く治療をする必要があります。

この記事では、アトピーを持っているお子さんの保護者の方が、子どもさんに関わる際の一助になればと思います。

アトピー性皮膚炎はどのようにして起こる?

アトピー性皮膚炎は、遺伝的にアレルギー体質の人や、IgEという抗体を産生しやすい人が、食物・ダニ・花粉などのアレルゲンに触れる事で体内の免疫システムが過剰に反応して、引き起こすと考えられていました。
最近ではこの考えに加え、皮膚が乾燥しやすい体質の人にも起こりやすいということが分かってきています。
皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、乾燥・些細な引っ掻き・発汗など被アレルギー的要因でも皮膚に炎症が起きやすいからです。

アトピー性皮膚炎の原因と悪化させる要因

アトピー性皮膚炎を引き起こす原因や悪化させる要因は、コレという1つの原因だけでなるのではなく、体質や体調、過ごす環境などが大きく影響しており、複数の要因が重なっています。

アトピー性皮膚炎の原因と悪化させる要因には

  • 皮膚への物理的刺激の乾燥や引っ掻き傷
  • いわゆるアレルゲンと呼ばれる、ダニやハウスダスト、カビ、
  • その他、化学物質、紫外線、汗

などの刺激があります。

また、季節の変化、疲れ、睡眠不足、体調不良、身体的・心理的ストレスも免疫を不安定にするため症状を悪化させます。

アトピー性皮膚炎の症状と予後

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎の症状には、

  • 乾燥
  • 赤み
  • 痒み
  • 湿疹(ジクジク、ガサガサ、プツプツなど)
  • ジュクジュクと汁が出る
  • 肌のざらつき・ごわつき・盛り上がり
  • 色素沈着

などがあります。

アトピーの初期は軽い炎症や痒みで、最初は軽度で狭い範囲ですが、掻き壊すことでどんどん広がり皮膚のバリア機能を壊していきます。
バリア機能が壊れた皮膚からはアレルゲンが入り込みやすく、それによって体の免疫反応が過剰に反応すると、更に炎症や痒みを増幅させ悪循環に陥ります。

このようなアトピーの症状ですが、年代によって現れる症状や部位が異なります。

年代別の症状の特徴

まず年代は大きく以下の3つの年代に分けられます。

  1. 2歳未満:乳児期
  2. 2〜13歳くらい:小児期
  3. 13歳以上:思春期以降

幼少期に発症したアトピー性皮膚炎は、成長とともに改善されることが一般的です。
しかし、成人になっても続く場合があります。

各年代での症状の特徴を解説します。

2歳未満:乳児期の症状の特徴

2歳未満の乳幼児期の年代では、通常、顔(特に頬や額)や頭の露出部分で始まり、乾燥や赤みを伴います。
初期段階でのかゆみは、皮膚の損傷や湿疹の形成を招き、次第に首、脇、ひじの裏、ひざの裏などの関節周辺にも拡がっていく傾向があります。
また、乾燥が進むとじゅくじゅくとした湿疹が発生し、かさぶたとなって顔全体に広がる傾向があります。
この状態は、胸やお腹、背中、手足にも現れることがあります。

2〜13歳くらいの小児期の症状の特徴

幼児期から学童期の年代では、顔の湿疹が減少し、体の関節部分に症状が集中する傾向があります。
具体的には、首、脇の下、肘の内側、ひざの裏側、手首、足首に湿疹が現れることが多いです。
この年代の重症例では、腹部や背中にも症状が広がり、顔や手足を頻繁に掻くことにより皮膚がゴワゴワと厚く硬くなり、繰り返しの掻痒によって皮膚が慢性的に悪化することがあります。
また、皮膚が小さく盛り上がる鳥肌のようなプツプツとした皮膚の盛り上がった状態も見られることがあります。
ダニやハウスダストに対するアレルギーが主体になると言われています

13歳以上:思春期以降

思春期以降の年代では、顔、首、胸、背部など上半身の皮膚症状が目立つようになる傾向があります。
この時期には皮膚症状に個人差が大きく現れ、顔や首が特に重症化するケースや、胸部、腹部、背部、腕、脚にかゆみを伴う結節型の症状が多発することがあります。
また、全身の皮膚が赤くなるタイプの症状を示す患者もいます。
重症化する例は少なくなく、各患者の症状に合わせた治療が必要です。

アトピー性皮膚炎の予後

子供から大人になるにつれて症状が改善することもありますが、生活習慣や環境が症状に影響を与えるため、症状が再発する可能性が完全にはないとは言えません。
「完全に治癒する」と言うよりは、アレルゲンの回避やストレス管理を行い、症状をコントロールすることが重要になります。
早期から適切な治療を受け続けることで、症状の重症化や治療の長期化を避け、長期間にわたる寛解(症状が現れない状態)に入ることがあります。
また、早期治療は他のアレルギー疾患を発症するリスクも下がるとされているので、なるべく早めにかかりつけの医療機関に相談しましょう。

アトピー性皮膚炎の診断と分類

アトピー性皮膚炎の診断

アトピー性皮膚炎ガイドラインによると、以下の3つを満たすことで確定診断となります。

  1. 痒み
  2. 特徴的な皮疹の分布
  3. 慢性または反復性の経過

つまり、痒みを伴う特徴的な皮疹(年代に応じた皮疹の分布)が左右体側的にあり、かつその症状が慢性的(長期)に繰り返し発症していることとなります。

アトピー性皮膚炎の分類

アトピー性皮膚炎の重症度を分ける明確な基準が公表されているわけではありませんが、以下の血液データはアトピー性皮膚炎のかつどや重症度を評価するために用いられることがあります。

  • 血清IgE値:通常、非常に高いIgE値はアトピー性皮膚炎の重症度が高いことを示す可能性があります。
  • 末梢血好酸球数:この数値が高いほど、アレルギー反応が活発であることを示しています。
  • 血清LDH値:皮膚の広範囲にわたる損傷や炎症の程度を反映することがあります。
  • 血清TARC値:TARCは炎症を媒介する化学物質で、特にアトピー性皮膚炎において高値が見られることがあります。

これらの数値に、現れている症状や皮膚の損傷程度などから総合的に判断します。

アトピー性皮膚炎の治療法

アトピー性皮膚炎の治療は、以下の治療を3つの柱として行われます。

  1. スキンケア:バリア機能が低下した肌を乾燥から守り保湿していく
  2. アレルゲンの除去:アレルギーを引き起こす原因物質を除去し、環境を整える
  3. 薬物療法:薬剤を使用し肌の炎症を抑える

この3つの治療は、それぞれを同時に行っていくことで治療効果が発揮されます。
例えば、スキンケアを怠って薬を塗るだけで良くしようとしても、治療の効果は十分に得られないかもしれません。

アトピー性皮膚炎の治療法|①スキンケア

肌のバリア機能が低下しているため、肌を乾燥から保護することが重要になります。
肌の乾燥を防ぐためには、保湿剤の使用や、熱い温度の入浴は避ける、室内湿度の調整などをすると良いでしょう。
また、肌への刺激はできるだけ避けたほうが良いので、入浴の際にはナイロンタオル、スポンジ、ボディブラシは避け、手か柔らかい木綿のタオルかガーゼで洗いましょう。

アトピー性皮膚炎の治療法|②アレルゲンの除去

アトピー性皮膚炎の痒みや炎症を誘発するアレルゲンや要因は以下のようなものがあります。

  • 花粉
  • ハウスダスト:ダニの死骸、ペットの毛・フケ、カビ、ほこりなど
  • 食物アレルゲン:牛乳、卵、ナッツ類など
  • 化学物質や香料:一部の洗剤、化粧品、香水など
  • 環境因子:気温の変化や汗など

アトピー性皮膚炎の治療では、いかに日常生活の中でアトピーを悪化させている要因を見つけて、回避できるかが重要になります。

アレルゲンの除去する方法としては、定期的な掃除や寝具の防ダニ対策(防ダニカバーの使用や定期的に高温で洗濯するなど)などになります。
また、空気洗浄機で空気中のアレルゲンの除去や、空調で湿度管理を行いカビが増えないように調整すると良いでしょう。

アレルゲンではありませんが、唾液や汗、髪の毛、衣服の摩擦、シャンプー・リンスやボディーソープの洗い残しなどもアトピー性皮膚炎の誘発要因になります。
体温が上がると痒みが誘発されやすいので、着脱がし易く肌に優しい素材の衣服を選んだり、唾液や汗は放置せずすぐに拭き取ったりして、清潔な肌の状態を保てるようにしましょう。

アトピー性皮膚炎の治療法|③薬物療法

アトピー性皮膚炎の治療に用いられる薬剤は様々な種類の薬剤があります。
患部に直接塗布する保湿剤やステロイド外用薬などの塗り薬、炎症を抑える抗ヒスタミン・抗アレルギー薬の飲み薬があります。
また近年は分子標的薬など新薬が登場し、重症患者さんの治療に期待されています。

薬剤の種類と効果は以下のようになります。

薬剤 概要・効果
ステロイド剤 ・最も広く使用されている治療薬
様々な強度があり、炎症を迅速に抑え、免疫反応を抑制する
免疫抑制剤 ・ステロイド外用薬の代替として用いられることが多く、特に顔や首に適している
炎症を引き起こす細胞の活動を抑制する
・タクロリムス水和物軟膏
分子標的薬 生物学的製剤 特定の炎症性サイトカインが細胞に付着するのを直接的に抑え、炎症反応を特異的に抑制する ・ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(皮下注射)
・ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体(皮下注射)
JAK阻害薬 炎症性サイトカインのシグナル伝達に必要なJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素の働きを抑え、炎症反応を抑える ・JAK阻害薬(外用)(内服)
PDE4標的薬 炎症性サイトカインの産生を抑えるcAMPという物質を分解してしまうPDE4という酵素の働きを抑えることで、炎症を引き起こすサイトカインの生成を抑制する ・ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬(外用)

ステロイド剤一覧

外用薬の一覧写真

強さ 主な外用部位
とても強い
(Ⅱ群:very strong)
体・手足・ひどい時
強い
(Ⅲ群:strong)
体・手足
中位
(Ⅳ群:medium)
顔・首

外用薬を塗る際は、薬剤の吸収率を考慮して薬を使い分ける必要があります。

  • 顔と頭部
  • 首の後ろと耳の後ろ
  • 肘の内側とひざの裏

これらの部位は、子供のアトピー湿疹が出やすい場所で、ステロイドの吸収率の高い部位になります。
部位によってステロイドの効果の強さが違う薬を使い分けることが大切です。

新薬の分子標的薬の仕組みについても簡単に解説します。

冒頭にも説明しましたが、アトピー性皮膚炎の炎症症状はアレルゲンという敵を体が排除しようとする、過剰な免疫反応で起こります。
免疫反応とは、体内に敵が侵入してきたことを体中に伝達する反応や、敵と戦う反応を言い、これらの反応が炎症として現れます。
伝達に関しては、伝達に特化した細胞やサイトカインや酵素など(=免疫関連分子)があり、それらが総動員してバケツリレーのように連鎖しながら体中に伝えていきます。
分子標的薬は、この伝達に特化した免疫関連分子の中の、鍵となる特定の分子を標的に作用する薬です。
バケツリレーのように広がる炎症の連鎖が途中で遮断されることで、炎症反応が抑えられるという仕組みになります。

これまでアトピー性皮膚炎の治療は、その複雑な免疫反応と多様な発症メカニズムから根本的な治療は難しく、症状緩和のための一時的な対症療法が主流でした。
しかし、特定の免疫反応を標的とする分子標的薬の登場により、アトピー性皮膚炎の症状を効果的に抑制できるとして、中等症から重症の患者さんの症状管理に大きく期待されています。

ステロイド剤の強さ

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カテゴリー:通年の子供の病気  投稿日:2024-09-21

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